オルガニスト ミシェル・ブヴァール 特別インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

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インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏を迎えます。

待望の京都初公演に向けて、メールインタビューを行いました。
今回ご披露いただくセザール・フランクを中心とした特別プログラムやオルガンとの出会いなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

——この度はお忙しい中インタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まずブヴァールさんとオルガンとの出会いについて、教えていただけますか。

ミシェル・ブヴァール氏(以下「ブヴァール氏」):私は5歳からピアノを始め、11歳のときにオルガンを弾き始めました。私の祖父ジャン・ブヴァール(1905-1996)はルイ・ヴィエルヌの弟子で、作曲家でした。私は彼からごく自然な形で、音楽やオルガンに対する情熱を学びました。父は医者だったのですが、彼もアマチュアのオルガン弾きでした。自宅にオルガンがありませんでしたので、父はピアノでバッハの「前奏曲とフーガ」を弾き、私にオルガンのペダル部分を弾くように言いました。
後に、祖父は父に、2つの鍵盤とペダルがついた、イタリア・バイカウント社製の電子オルガンをプレゼントしました。私もその楽器を使って、バッハやヴィエルヌ、そして祖父ジャンの作品を弾き始めました。そして、祖父と一緒に教会に行った時、初めて本物のパイプオルガンと出会ったのです。その出会いは雷に打たれたかのようでした。その時、とても冷たい音がする電子オルガンと自然な音がする本物のパイプオルガンの音の違いを知ることができました。
オルガンも好きでしたが、ピアノも同じくらい好きでしたので、プロのオルガニストとして活動しようと決断する前、20歳くらいまではピアノとオルガンの両方を勉強し続けました。

——そうだったのですね。ブヴァールさんにとって、オルガンに魅せられた点はどういったところでしょうか。

ブヴァール氏:パイプオルガンで最も気に入ってる点は、この楽器が持つマルチで素晴らしい能力です。バッハの作品に見られるようなポリフォニーや対位法を完璧に表現できますし、またクープランの作品が持つフランス的な詩情や音色も表現できます。さらには、交響曲のようなオーケストラの音を模倣することだってできるんです。
あとは、天才的なオルガン製作者による優れたオルガンにも魅力を感じます。たとえば、バッハの時代に活躍したドイツのジルバーマンであったり、フランクの時代に活躍したフランスのカヴァイエ=コルであったり・・・。ヴァイオリンの世界で言えばストラディヴァリウスなどが挙げられますが、オルガンも同様で、非常に名高く、魅惑的な音を持つ楽器が存在するのです。

——パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院の教授を定年退職なさったとお聞きしましたが、最近の演奏活動について教えていただけますか。

ブヴァール氏:2022年度は特別に忙しい1年です。
今年の3月以降、私はリサイタルの他に、ロッテルダム(オランダ)、ブリュッセル(ベルギー)、ハノーファー、ベルリン、ポツダム、ハンブルク(ドイツ)、トゥールーズ、ディエップ、ルション(フランス)、サンセバスチャン(スペイン)、スタヴァンゲル(ノルウェー)、チューリッヒ(スイス)などで、マスタークラス(特に今年生誕200年を迎えるセザール・フランクに関するもの)を行いました。
また、アルクマール(オランダ)やシュランベルク(ドイツ)で行われた国際コンクールの審査員も務めました。また10月にはオランダで、ハーレム・セザール・フランク・コンクールの審査も務めます。
ちなみに今回の11月の日本ツアーの後は、1130日にソウルでも演奏会をする予定です。

——本当に世界を飛び回っていらっしゃるのですね。これまでの演奏活動で印象に残っていることはありますか。

ブヴァール氏:これまで、たくさんのコンサートを行い、素晴らしい楽器にも出会いました。例えば、ドレスデンやフライブルクのジルバーマン製オルガンや、フランスの偉大なカヴァイエ=コル製オルガン、ポワチエのクリコ製オルガン、サン・マクシマンのイスナール製オルガン、ロチェスターのキャスパリーニ製オルガンなどです。そして、パリのノートルダム大聖堂やアムステルダム、ヴェニス、ロンドンのウェストミンスター寺院、リオ・デ・ジャネイロなど、素晴らしい場所でも演奏会をしました。
また2016年、ヒューストン教会で開催された、AGO(アメリカ・オルガニスト協会)の記念公演のように、特別な状況で開催されたコンサートも印象に残っています。このコンサートでは、アメリカの1,000人以上のオルガン奏者の前で演奏したのですよ。とっても緊張しました。

——さて話を今回の京都公演に移します。今回の公演では、生誕200周年を迎えるセザール・フランクの作品を中心に演奏いただきます。フランクのオルガン作品の魅力はどういったところにあると思いますでしょうか。

ブヴァール氏:セザール・フランクのオルガン作品、特に《3つのコラール》は、ベートーヴェンのピアノソナタに匹敵するほどの非常に素晴らしい形式美を備えており、音楽的な深みと内面性を持つ作品です。
この作品特有の詩情や力強さは、全ての人々に感動を与えることができると思っています。

——《3つのコラール》は〈第3番〉を本公演でも演奏くださるということで、楽しみです。今回はフランクの作品だけでなく、古今の作曲家たちの作品をプログラミングしてくださいましたが、その意図を教えていただけますか。

ブヴァール氏:今年はフランクの生誕200年ではありますが、私はフランクだけを取り上げるつもりはありませんでした。フランクの代表的な作品と共に、フランク以前・以降のフランスとドイツで作られた作品を取り上げる方が、京都のお客さまにとって興味深いのではないかと考えたのです。
実際のところフランクは、作曲家としてはドイツ風、オルガニストとしてはフランス風という2つの側面を持っていますし、フランク自身、彼の後継者たちに影響を及ぼしましたので。

——今回のコンサートで弾いていただくフランクの3作品についてご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:フランクのオルガン作品として、彼の3つの創作期からそれぞれ1曲ずつ選曲しました。
まず1865年に創作された、有名な〈前奏曲、フーガと変奏曲〉。次に、1878年、トロカデロのコンサートホールに設置されたカヴァイエ=コルのオルガンのこけら落としのために書かれた《3つの作品》から〈英雄的作品〉を演奏します。そして最後に、彼が亡くなる数週間前、18909月に作曲された《3つのコラール》より、第3番を演奏します。

——ありがとうございます。フランク以外の作品についてもご紹介いただけますか。

ブヴァール氏:ルイ14世時代の荘重なフランス形式で書かれた、ルイ・マルシャンによる《グラン・ディアローグ》でコンサートを始めることも楽しみですし、私の師であるアンドレ・イゾワールが見事に編曲したバッハの《4台のチェンバロと管弦楽による協奏曲》を演奏することも楽しみです。また、メシアンの傑作〈神は我らのうちに〉でコンサートの幕を閉じることも幸せに感じています。
ほかにも、私の祖父ジャンの作品や彼の友人であったモーリス・デュリュフレの作品も演奏する予定です。

——私たちもとても楽しみにしております。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします。

ブヴァール氏:京都コンサートホールの大ホールでリサイタルをさせていただけることを幸せに思います。京都は私の妻である康子が生まれ育った、特別な街であり、40年以上前に初めて京都を訪れて以来、日本の家族に会うために定期的に訪れていますから。
また今回、セザール・フランクに関する、特別なプログラムを準備しました。京都の音楽愛好家の皆様にはぜひともご来場いただき、一緒に音楽を共有したいです。
私は日本を心から愛しています。皆様のために演奏できることは私の大きな誇りであり、大きな喜びです。

——ありがとうございました。11月に京都でお待ちしております。

(2022年8月 事業企画課メール・インタビュー)


★公演詳細《オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70「世界のオルガニスト“ミシェル・ブヴァール”」》(11月3日)はこちら

★「オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー」はこちら

★ブヴァール氏の演奏&メッセージ動画

★京都コンサートホールのパイプオルガンについてはこちら

オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)

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インタビュー

京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏が京都コンサートホールに初登場します。

世界中で演奏活動を行うとともに、パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院で教授として後進の指導にも力を入れてきたブヴァール氏。彼の指導を受けたオルガニストたちは現在、世界中で活躍しています。その一人であり、東京芸術劇場の副オルガニストとしてご活躍中の川越聡子さんに、ブヴァール氏についてさまざまなお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください。 “オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー(2022.11.3オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70)” の続きを読む

ヴァイオリン奏者 弓 新さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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京都コンサートホール

19世紀に活躍したベルギー出身の音楽家セザール・フランク。
京都コンサートホールでは、フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催いたします(10月22日)。
本公演では、フランクがピアノと室内楽のために遺した傑作の数々をお届けします。

公演に向けて、《ヴァイオリン・ソナタ》でヴァイオリン独奏を、そして《ピアノ五重奏曲》で第一ヴァイオリンを担当する、弓新さんにメールインタビューを行いました。
弓さんは、現在ドイツを拠点に、世界中で活躍しているヴァイオリニストで、京都コンサートホールには2018年6月26日「田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪第26回」以来、二度目のご出演となります(その時のインタビュー記事はこちら)。
今回のインタビューでは、弓さんが思うフランク作品の魅力や共演メンバーなどについてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。
――ご無沙汰しております。京都コンサートホールには4年ぶりのご登場となりますが、前回(2018年)のコンサートの思い出やホールの印象を教えてください。
弓 新さん(以下「弓さん」)2018年に演奏した際のプログラムは、サン=サーンスからラヴェルまでの作品を扱った、20世紀初頭のフランスのサロン文化 “コンセール・プリヴェ”、というテーマに沿ったものだったと思います。今回演奏するフランクの作品も大体その少し前あたりの時代に書かれたので、前回のコンサートの続きの様な感覚がしています。
ホールについては、前回の演奏会の際に折角憧れの磯崎新建築の中に居ながらコンサートに集中していたので建物にあまり注意を払うことが出来ていなかったのですが、今回は前日からホールでのリハーサルがあり、建築としても鑑賞する時間も取れそうなので楽しみにしています。

「田隅靖子館長のおんがくア・ラ・カルト♪第26回」公演より(2018年6月26日)
――弓さんは現在ドイツを中心にご活動されていますが、現在の演奏活動について教えていただけますでしょうか。

弓さん:2020年3月から北西ドイツ・フィルハーモニー(Nordwestdeutsche Philharmonie)でコンサートマスターを務めています。オーケストラの他にソロやリサイタル、室内楽のコンサートをしています。

――次に今回の演奏会についてお聞きします。本演奏会では、今年生誕200周年を迎えるセザール・フランクを取り上げます。弓さんにとってフランクとはどのような作曲家でしょうか。

弓さん:フランクの作品は、子供の頃にソナタや一部のオルガン作品に出会い、非常に感銘を受けたのを覚えていますが、次第にこれといった飛び抜けた個性が感じられなくなり、遠ざかってしまっていました。これは恐らく当時の自分の耳にフランクの独創性を聴き分けて、楽しむだけの経験がなかったというのもありますが、フランクの決してやりすぎない、バランスの取れた音楽的な性格と形式美を重視する姿勢が退屈に感じられたとも言えると思います。

今回このコンサートで演奏する機会をいただいた事で、改めてフランクの生涯や作品をもう少し全体的に知りました。これまで目を向けてこなかったような作品、例えば管弦楽のための「プシケー」や後期のオルガンの為の「3つの小品」(1878年)など、フランクの後期作品にある、あくまでバランス感覚は保持されつつもフランクなりの、言ってみればエロスと言うか、精神の危機、心の揺れ動きのようなものに気がつく事ができました。

――本公演で演奏いただく《ヴァイオリン・ソナタ》と《ピアノ五重奏曲》については、どうでしょうか。作品の魅力や聴きどころを教えていただけますか。

弓さん:ヴァイオリン・ソナタ》に関してはもう語り尽くされていると言ってもよいほど、この作品はポピュラーですが、今回この作品と(弦楽四重奏ではなく)《ピアノ五重奏曲》が一回のコンサートで演奏されるのは、フランクの生涯を知った後ではとても興味深いです。
と言うのも、この二つの作品はどちらもフランクがワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」を聴いて以降の作品であり、また、まさに“トリスタン”におけるテーマである、愛と愛に関連するポジティヴな面とネガティヴな面、至福、苦しみ、障害、ドラマ、救済、喜び…という共通項がそれぞれの作品で対照的に表現されているように思えるからです。

《ヴァイオリン・ソナタ》はウジェーヌ・イザイの結婚祝いに書かれ、その目的に相応しく祝福するような、明るい性格が作品を通してみられるのに対して、《ピアノ五重奏曲》の方はその調性(へ短調)や、半音階や動機の扱い方から、暗く強迫観念的なものを感じます。
実はフランクがこの五重奏曲を書いた当時、歳の離れた弟子のオーギュスタ・オルメスという熱烈なワグネリアン、かつ歌手だった女性と恋仲になっていたらしいのですが、この女性は当時の様々な文化人男性から求愛されていたらしく、あのサン=サーンスも二回求婚して断られているそうです。この作品を献呈され初演もしたサン=サーンスが、演奏後舞台上に楽譜を置いていったというエピソードの理由は推して測るべし、という事ですね。もちろん敬虔なキリスト信者のフランクの事ですから、妻帯者である自身のモラルとワーグナー的な愛との間で葛藤を抱え、随分のたうち回ったのだろうかと、そんな考えをこの五重奏のうねるような半音階を聴き続けていると持ってしまいます。

今回のコンサートの副題は “神に愛された作曲家セザール・フランク”ですが、個人的には人間フランクのアンビバレントで複雑な内面性をこの二作品から感じ取っていただけるのではないか、と考えています。

――次に今回の共演者についてお伺いします。今回、フランスを代表するピアニスト エリック・ル・サージュさんと共演いただきますが、楽しみにされていることを教えてください。

弓さん:実はル・サージュさんとエベーヌ・カルテットのフォーレの《ピアノ五重奏曲》の録音がお気に入りなのです。ですので、今回このような形でフランクの最も素晴らしい室内楽作品を一緒に演奏できるのは大変嬉しいことです!

――《ピアノ五重奏曲》では、弓さんにとって旧知の弦楽器奏者の皆さんとの共演になりますが、共演される藤江さん・横島さん・上村さんについてそれぞれご紹介いただけますか。

弓さん:藤江さんは今回共演するカルテットメンバーの中で唯一、パリ国立高等音楽院で学ばれた方で、現在はトゥールーズ・キャピトル管でコンサートマスターを務めていらっしゃいます。ル・サージュさんもパリ音楽院の出身ですから、お二人からはフランスの側から見たフランクのスコアの読み方を教えていただけるのではないかと期待しています。
横島くんとはスズキ・メソッドから私が桐朋高校の音楽科を中退してチューリヒへ留学するまでの同期で、桐朋の音楽教室にいた頃から、作曲家であるお父上の分厚い作曲理論の本を読んだり、聴いたこともない曲について話しているような人で、尊敬している友人の一人です。彼とは、高校の時にモーツァルトのニ短調のカルテットを一緒に弾いているので(その時も彼はヴィオラを弾いていました)、13年振り(!)に共演することになります。
上村さんは桐朋時代の一学年上の先輩で、その後バーゼルに留学されました。私がチューリヒに留学していた頃とは時期が重なっていないのでスイスでお会いしたことは無いのですが、モダンチェロと古楽両方で充実した活動をしていらっしゃる方です。共演するのをとても楽しみにしています。

こうしてみると、ドイツ、フランス、スイス、日本と、異なる音楽的バックグラウンドを持った音楽家が京都に集まり、フランクというドイツ的なフランスのベルギー人音楽家の作品を演奏するというのは、なかなか素敵な偶然ですね!

――それでは最後に、お客様へのメッセージをお願いいたします。

弓さん:秋の京都で、皆様と一緒にフランクの室内楽の世界を探求できるのを心から楽しみにしています!是非コンサートでお会いしましょう!

――お忙しい中ご協力いただきまして、誠にありがとうございました!公演を大変楽しみにしております!

(2022年8月 事業企画課 メール・インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー
ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さん インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホールでは、セザール・フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を10月22日(土)に開催いたします。

プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回は当日ヴァイオリンを担当する、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の首席奏者 藤江扶紀さんにお話を伺うことができました。
フランスでのご活動についてや、フランク《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください。

◆藤江さんについて

――この度はインタビューのお時間をありがとうございます。藤江さんは大阪出身ということですが、過去に京都市交響楽団と共演されたことがあるそうですね。

藤江扶紀さん(以下敬称略):私の先生であった工藤千博さんが、京都市交響楽団のコンサートマスターをされていたこともあり、中学校1年生の時に、京都コンサートホールで演奏しました。人生で2回目のオーケストラとの共演で、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を弾いた覚えがあります(2003年10月19日「こどものためのコンサート」)。

――その後、京都に来られる機会はありましたか?

藤江:そうですね、演奏会を聴きに来たり、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として演奏しに来たりしていました。ただ、アンサンブルホールムラタで演奏するのは今回が初めてです。

――それは楽しみですね。大学(東京藝術大学)を卒業後は、すぐにパリに留学されたのですか?

藤江:卒業直前に、「京都フランス音楽アカデミー」でオリヴィエ・シャルリエ先生に出会ったんです。先生がいらっしゃるパリ国立高等音楽院を受けるために、半年間先生のお宅や私立の音楽院でレッスンを受けながら語学を勉強した後、パリ国立高等音楽院の大学院に入学しました。
そして大学院を卒業して約半年後、2018年1月に「トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団」へ入団しました。

ちなみにオーケストラに入団するまでは、毎年「宮崎国際音楽祭」に参加していて、そこで今回共演する横島くんや上村さんと何度か一緒に弾きました。二人と共演するのはその時以来で、約5年ぶりになります。

――そうだったのですね。トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団では、“co-soliste”という肩書でいらっしゃいますよね。日本では聞き慣れない名前ですが、具体的にはどういった役割なのでしょうか?

藤江:コンサートによってポジションが変わるのですが、日本で言う「コンサートマスター」「アシスタント・コンサートマスター」(コンサートマスターの隣の席)「第2ヴァイオリンの首席奏者」「第2ヴァイオリンの副首席奏者」(首席奏者の隣の席)のいずれかを担います。なので、ほぼすべてのコンサートに出演していて、なかなか日本に帰ってこられません(笑)。
今回の公演には何が何でも出演したかったので、早めに休みを取りました!

本拠地のホールの外壁にお写真掲載中!

 

** トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団のヴァイオリン奏者の肩書について教えていただきました **
・super soliste:特別コンサートマスター
・violon solo:第一コンサートマスター
・violon chef d’attaque:第二ヴァイオリン首席奏者
・violon co-soliste:上記3つの席いずれかを担うポスト

 

――そういうことだったのですね、ありがとうございます。
フランスでは、室内楽やソロを演奏することも結構ありますか?

藤江:オーケストラのメンバーで組んでいるカルテット(弦楽四重奏)で演奏したり、ソリストとしてメンバーが指揮を振る室内オーケストラや他のオーケストラに呼んでいただいたりしています。時間があればもっとやりたいなと思っています。

オーケストラメンバーによる弦楽四重奏「Quatuor Agôn」 オーケストラとの共演コンサートの大きな看板が街中に ソリストとして演奏中のお写真
(2021年7月)

 

◆今回のコンサートについて

――では話を10月の公演に移したいと思います。今回は弓さんとつながりのあるメンバーが揃いましたよね。

藤江:はい、公演がすごく楽しみです。特に弓くんは、自分が持っていないアイデアや知識を持っていて、彼と話していると面白い発見が多いです。また、音楽に対して求めていることが似ているように感じるときがあります。
私はフランクの曲の中でも《ピアノ五重奏曲》が特に好きで、数年前に弓くんにちらっと言ったことがあるんです。弓くんはそのことを覚えていてくれていて嬉しかったです。

――そうだったんですね!ちなみにフランクの《ピアノ五重奏曲》を演奏したことはありますか?

藤江:一度だけフランスの音楽祭で弾いたことがあって、今回は久しぶりの演奏になります。この曲は私がやりたいと言っても、難曲であるためか、ピアニストに断られることが多いんですよ(笑)。

――《ピアノ五重奏曲》のどのようなところがお好きですか?

藤江:煮え切らない感じがある曲ですよね。起伏があって、濃淡があって、感情的なところもたくさんあって、でも、フランスの色彩感やフォーレのようなパステル調の音も垣間見えて…そのバランスが本当に好きなんです。年を重ねてから好きになる人が多い曲だと思うのですが、私は初めて聞いた時から好きでした。
すっきりするわけではないけれど、気持ちに寄り添って、色んな感情を整理してくれるんです。フランクは真面目な性格で、外に出せない内に秘めた感情を表現したのではないかなと思います。
そして何と言いますか、救われない感じに救われます。ハマる人にはハマるという曲だと思うので、この沼に皆さんを引きずり込みたいです(笑)。

――今回共演されるメンバーについて、また公演の聴きどころを教えてください。

藤江:ル・サージュさんはお会いしたことはありませんが、パリで2回ほど演奏会に行ったことがあります。もともとル・サージュさんのフランクやフォーレの「ピアノ五重奏曲」をCDやYouTubeでよく聞いていて、まさか一緒に演奏できるとは思いもしませんでした。
そして弦楽器のメンバーは、この4人で一緒に弾くのは初めてですが、今までで知っている彼らのパーソナリティから想像すると、人間的にも、音楽の面でも絶対に楽しいものになると思います。それぞれの考え方を持ち寄ったときに、どういう音楽が生まれるのかをぜひ期待していただきたいです。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。また10月にお待ちにしております!

(2022年8月京都市内某所 事業企画課インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら