京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンを堪能できる人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。記念すべき70回目は、フランスを代表するオルガニスト、ミシェル・ブヴァール氏を迎えます。
待望の京都初公演に向けて、メールインタビューを行いました。
今回ご披露いただくセザール・フランクを中心とした特別プログラムやオルガンとの出会いなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。
——この度はお忙しい中インタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まずブヴァールさんとオルガンとの出会いについて、教えていただけますか。
ミシェル・ブヴァール氏(以下「ブヴァール氏」):私は5歳からピアノを始め、11歳のときにオルガンを弾き始めました。私の祖父ジャン・ブヴァール(1905-1996)はルイ・ヴィエルヌの弟子で、作曲家でした。私は彼からごく自然な形で、音楽やオルガンに対する情熱を学びました。父は医者だったのですが、彼もアマチュアのオルガン弾きでした。自宅にオルガンがありませんでしたので、父はピアノでバッハの「前奏曲とフーガ」を弾き、私にオルガンのペダル部分を弾くように言いました。
後に、祖父は父に、2つの鍵盤とペダルがついた、イタリア・バイカウント社製の電子オルガンをプレゼントしました。私もその楽器を使って、バッハやヴィエルヌ、そして祖父ジャンの作品を弾き始めました。そして、祖父と一緒に教会に行った時、初めて本物のパイプオルガンと出会ったのです。その出会いは雷に打たれたかのようでした。その時、とても冷たい音がする電子オルガンと自然な音がする本物のパイプオルガンの音の違いを知ることができました。
オルガンも好きでしたが、ピアノも同じくらい好きでしたので、プロのオルガニストとして活動しようと決断する前、20歳くらいまではピアノとオルガンの両方を勉強し続けました。
——そうだったのですね。ブヴァールさんにとって、オルガンに魅せられた点はどういったところでしょうか。
ブヴァール氏:パイプオルガンで最も気に入ってる点は、この楽器が持つマルチで素晴らしい能力です。バッハの作品に見られるようなポリフォニーや対位法を完璧に表現できますし、またクープランの作品が持つフランス的な詩情や音色も表現できます。さらには、交響曲のようなオーケストラの音を模倣することだってできるんです。
あとは、天才的なオルガン製作者による優れたオルガンにも魅力を感じます。たとえば、バッハの時代に活躍したドイツのジルバーマンであったり、フランクの時代に活躍したフランスのカヴァイエ=コルであったり・・・。ヴァイオリンの世界で言えばストラディヴァリウスなどが挙げられますが、オルガンも同様で、非常に名高く、魅惑的な音を持つ楽器が存在するのです。
——パリ国立高等音楽院とトゥールーズ地方国立音楽院の教授を定年退職なさったとお聞きしましたが、最近の演奏活動について教えていただけますか。
ブヴァール氏:2022年度は特別に忙しい1年です。
今年の3月以降、私はリサイタルの他に、ロッテルダム(オランダ)、ブリュッセル(ベルギー)、ハノーファー、ベルリン、ポツダム、ハンブルク(ドイツ)、トゥールーズ、ディエップ、ルション(フランス)、サンセバスチャン(スペイン)、スタヴァンゲル(ノルウェー)、チューリッヒ(スイス)などで、マスタークラス(特に今年生誕200年を迎えるセザール・フランクに関するもの)を行いました。
また、アルクマール(オランダ)やシュランベルク(ドイツ)で行われた国際コンクールの審査員も務めました。また10月にはオランダで、ハーレム・セザール・フランク・コンクールの審査も務めます。
ちなみに今回の11月の日本ツアーの後は、11月30日にソウルでも演奏会をする予定です。
——本当に世界を飛び回っていらっしゃるのですね。これまでの演奏活動で印象に残っていることはありますか。
ブヴァール氏:これまで、たくさんのコンサートを行い、素晴らしい楽器にも出会いました。例えば、ドレスデンやフライブルクのジルバーマン製オルガンや、フランスの偉大なカヴァイエ=コル製オルガン、ポワチエのクリコ製オルガン、サン・マクシマンのイスナール製オルガン、ロチェスターのキャスパリーニ製オルガンなどです。そして、パリのノートルダム大聖堂やアムステルダム、ヴェニス、ロンドンのウェストミンスター寺院、リオ・デ・ジャネイロなど、素晴らしい場所でも演奏会をしました。
また2016年、ヒューストン教会で開催された、AGO(アメリカ・オルガニスト協会)の記念公演のように、特別な状況で開催されたコンサートも印象に残っています。このコンサートでは、アメリカの1,000人以上のオルガン奏者の前で演奏したのですよ。とっても緊張しました。
——さて話を今回の京都公演に移します。今回の公演では、生誕200周年を迎えるセザール・フランクの作品を中心に演奏いただきます。フランクのオルガン作品の魅力はどういったところにあると思いますでしょうか。
ブヴァール氏:セザール・フランクのオルガン作品、特に《3つのコラール》は、ベートーヴェンのピアノソナタに匹敵するほどの非常に素晴らしい形式美を備えており、音楽的な深みと内面性を持つ作品です。
この作品特有の詩情や力強さは、全ての人々に感動を与えることができると思っています。
——《3つのコラール》は〈第3番〉を本公演でも演奏くださるということで、楽しみです。今回はフランクの作品だけでなく、古今の作曲家たちの作品をプログラミングしてくださいましたが、その意図を教えていただけますか。
ブヴァール氏:今年はフランクの生誕200年ではありますが、私はフランクだけを取り上げるつもりはありませんでした。フランクの代表的な作品と共に、フランク以前・以降のフランスとドイツで作られた作品を取り上げる方が、京都のお客さまにとって興味深いのではないかと考えたのです。
実際のところフランクは、作曲家としてはドイツ風、オルガニストとしてはフランス風という2つの側面を持っていますし、フランク自身、彼の後継者たちに影響を及ぼしましたので。
——今回のコンサートで弾いていただくフランクの3作品についてご紹介いただけますか。
ブヴァール氏:フランクのオルガン作品として、彼の3つの創作期からそれぞれ1曲ずつ選曲しました。
まず1865年に創作された、有名な〈前奏曲、フーガと変奏曲〉。次に、1878年、トロカデロのコンサートホールに設置されたカヴァイエ=コルのオルガンのこけら落としのために書かれた《3つの作品》から〈英雄的作品〉を演奏します。そして最後に、彼が亡くなる数週間前、1890年9月に作曲された《3つのコラール》より、第3番を演奏します。
——ありがとうございます。フランク以外の作品についてもご紹介いただけますか。
ブヴァール氏:ルイ14世時代の荘重なフランス形式で書かれた、ルイ・マルシャンによる《グラン・ディアローグ》でコンサートを始めることも楽しみですし、私の師であるアンドレ・イゾワールが見事に編曲したバッハの《4台のチェンバロと管弦楽による協奏曲》を演奏することも楽しみです。また、メシアンの傑作〈神は我らのうちに〉でコンサートの幕を閉じることも幸せに感じています。
ほかにも、私の祖父ジャンの作品や彼の友人であったモーリス・デュリュフレの作品も演奏する予定です。
——私たちもとても楽しみにしております。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします。
ブヴァール氏:京都コンサートホールの大ホールでリサイタルをさせていただけることを幸せに思います。京都は私の妻である康子が生まれ育った、特別な街であり、40年以上前に初めて京都を訪れて以来、日本の家族に会うために定期的に訪れていますから。
また今回、セザール・フランクに関する、特別なプログラムを準備しました。京都の音楽愛好家の皆様にはぜひともご来場いただき、一緒に音楽を共有したいです。
私は日本を心から愛しています。皆様のために演奏できることは私の大きな誇りであり、大きな喜びです。
——ありがとうございました。11月に京都でお待ちしております。
(2022年8月 事業企画課メール・インタビュー)
★公演詳細《オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.70「世界のオルガニスト“ミシェル・ブヴァール”」》(11月3日)はこちら
★「オルガニストが語るミシェル・ブヴァールの魅力——川越聡子さん インタビュー」はこちら
★ブヴァール氏の演奏&メッセージ動画