横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー(2022.10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

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アンサンブルホールムラタ
今年生誕200周年を迎える、ベルギー出身の音楽家セザール・フランク (1822-1890)。京都コンサートホールでは、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催し、フランクが遺した傑作をお届けいたします。
プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回、ヴィオラを演奏する横島礼理(よこしま・まさみち)さんとチェロ奏者の上村文乃(かみむら・あやの)さんにお話を伺うことができました。
フランクや《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

◆お二人について

――今日はインタビューの機会をありがとうございます。お二人はご面識があると伺いましたが、出身高校が一緒なのですか?

横島礼理さん(以下敬称略)はい、同じ桐朋高等学校でした。

――高校時代から一緒に演奏をされていたのですか?

上村文乃さん(以下敬称略):元々私が同じ学年のメンバーで組んだカルテット(弦楽四重奏)で、メンバーの小林美樹さん(ヴァイオリン)が留学する際、代わりを横島くんにお願いしたのが最初の共演でした。高校卒業後は一緒に弾く機会がなかなかなかったのですが、今年の5月にびわ湖ホールで行われた大阪フィルハーモニー交響楽団さんの演奏会にソリストとして出演した時に、客演で横島くんがいて、それが学生時代以来の共演でした。

――旧知の仲でいらっしゃるのですね!お二人は京都で演奏されたことはありますか?

上村:昨年5月に京都市交響楽団の「第656回定期演奏会」(2021年5月11日開催)にソリストとして出演した時に、京都コンサートホールへ初めて行きました。緊急事態宣言中でしたが、無観客ライブ配信での開催を決めてくださり、大変嬉しかったです。だた、京都のお客様にお会いできなかったのが心残りですね。

また、留学期間中に「ローム ミュージック ファンデーション」からの奨学金を受けていたので、その報告会のため京都に行くことはあったのですが、演奏会では訪れる機会がなかなかなかったんです。お客様と交流するのが一番の喜びなので、今回の公演で京都へ伺えるのを心待ちにしています。

横島:関西には、所属しているNHK交響楽団の演奏会や大阪フィルハーモニー交響楽団への客演で度々行くことがありますが、京都には今年8月にNHK交響楽団の演奏会(ロームシアター京都)で初めて伺います(※取材時は6月)。先日観光で京都を訪れ、金閣寺や清水寺に行ったり、鴨川沿いを散策したりもしましたよ。

――そうなんですね。現在、横島さんの活動のメインはヴァイオリンかと思いますが、10月の演奏会ではヴィオラを弾いていただきます。ヴィオラもよく演奏されますか?

横島:学生時代はよく弾いていましたが、卒業後は演奏機会が少なく、今回久しぶりにヴィオラを弾けるのがすごく楽しみです。

――お客様も「ヴィオラの横島さん」が聞けるのを楽しみにされていると思います。横島さんが思うヴィオラの魅力ってどのようなところにあると思いますか。

横島:和声の移り変わりを一番味わえるところではないかなと思います。ちなみにモーツァルトは、自身が作曲した弦楽四重奏曲を自ら初演する際、ヴィオラは内声であり、和声の移り変わりを一番味わえるという理由から、必ずヴィオラ・パートを選択して演奏していたそうです。

――上村さんはバロックチェロとモダンチェロの両方で演奏活動なさっていると思いますが、どのように弾き分けていらっしゃいますか?

上村:チェロの役割が時代によって変わるので、曲に合わせて弾き分けています。ロマン派初期までは「通奏低音」としての役割が主ですが、それ以降は一つのパートとして見なされることが多いです。

――そうなのですね。ちなみにバッハの「無伴奏チェロ組曲」は、モダンチェロでもよく弾かれると思いますが、上村さんはどちらの楽器で弾かれますか?

上村:どちらのチェロでも弾きたいと思っています。バロックチェロで弾くときは、弾き方やメソッドをバッハがいた時代のバックグラウンドにできるだけ合わせています。一方、モダンチェロには、大きなホールで弾いても隅々まで音が届いて、スピーチをするような力強さがあります。曲が偉大だからこそ、そういったモダンチェロの良さも発揮できると思います。同じ曲を弾いても、扱う楽器によって解釈が全く異なるので、アプローチ方法を切り替えるのが大変です。

 

◆今回の弦楽器メンバーについて

――次は今回の共演メンバーについてお伺いします。今回、第一ヴァイオリンを弓さんが担当されますが、お二人は弓さんといつからの付き合いですか?

横島:弓くんとは高校の同級生で、それ以前には、6~7歳の頃に埼玉で同じ先生に習っていたことがあります。学生時代にはカルテットで一緒に演奏をしていて、そのとき私はヴィオラを弾いていました。

同じ先生に習っていた幼少期のお写真(一番左が横島さん、右から2番目が弓さん)

上村:弓くんは高校の一年後輩で、お互いソリストとして同じ演奏会に出演したことはありますが、共演は今回が初めてとなります。
高校生の時から素晴らしいソリストであることはもちろん、眼光が鋭いイメージで私にとっては近寄り難い存在でした。いま考えると、10代の頃から自分に厳しく、ストイックに生きていたのかなと改めて尊敬します。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団「熱狂のチャイコフスキー3大協奏曲」(2018年6月30日)にて、上村さん(一番左)と弓さん(真ん中)

――藤江さんと共演されたことはありますか?

上村:藤江さんとは同い年で、学生時代に関わりはなかったのですが、「宮崎国際音楽祭」に出演した時、オーケストラの中で一緒に演奏したことがあります。その時に横島くんも一緒でしたね。

横島:はい、これまでそれぞれに面識はあったのですが、今回の4人で室内楽をやるのは初めてなので、とても楽しみです!

◆フランクという作曲家、今回演奏するピアノ五重奏曲について

――さて、今回の演奏会では、今年生誕200周年を迎えるセザール・フランクを取り上げます。お二人はフランクについて、どのようなイメージをお持ちですか?

横島:フランクはたくさんの有名な弟子を輩出していて、独自のスタイルを作り上げたフランスの作曲家というイメージがあります。初めてNHK交響楽団にエキストラで出演した際、演奏した曲がフランクの《交響曲 ニ短調》だったので、思い出に残っています。

――そうなのですね!今回の《ピアノ五重奏曲》は演奏されたことはありますか?

横島:いえ、今回初めて演奏します。《ピアノ五重奏曲》は冒頭が強烈で印象強く、とても好きな曲なので楽しみにしています。

――こちらこそ楽しみにしております!上村さんはいかがでしょうか。

上村:幼い頃は、フランクといえば「フランス音楽」で、オルガンも演奏することから宗教音楽に詳しい作曲家だと認識していました。ですが、初めて師事した先生の演奏会で《ピアノ五重奏曲》を聞いたときに、宗教的というより、訴えかけるようなフランクの内面が出ていると感じて、表面的に知っていたフランクとギャップがあるなと思いました。

――たしかに実際に聞いてみるとイメージが変わることがありますよね。

上村:今回の公演で初めて《ピアノ五重奏曲》を弾くにあたって、改めてフランクの生い立ちを調べてみました。出身はベルギーで、両親はドイツ系出身。本人はフランスで長らく暮らしていたけれど、当時の時代背景もあって、外国人としての壁を感じていたのではないかなと思いました。
宗教音楽については、オルガンの仕事を始めてから作曲するようになったもので、宗教的な要素を音楽でうまく表現できない葛藤があったみたいです。フランクは、それをなんと弟子に相談していたそうです。若い彼らと一緒にアイデアを練っていたと知って、フランクに人間的な温かみを覚え、「彼の曲から感じたものはこれなんだ」と思いました。

フランクを知れば知るほど演奏するのが楽しみになりました。

――そんなエピソードがあるのですね。生誕200周年を機に、そして今回のコンサートを通して、皆さまにフランクのことをもっと知っていただきたいですよね。それでは最後に、お客さまへのメッセージをお願いできますでしょうか。

上村:弦楽器には昔からつながりのあるメンバーが集まりました。また偶然にも、ル・サージュさんと同じフランスで活動している藤江さん、フランクが生まれ育ったドイツ語圏で活動中の弓くんと、メンバーのキャラクターが今回の公演に合っています。お互いの良さがぶつかり合うことによって生まれるものを、お客様に聞いていただきたいです。

横島:素晴らしいメンバーたちと共演できるのがとても楽しみです。フランクの《ヴァイオリン・ソナタ》・ピアノ曲・《ピアノ五重奏曲》を一挙に堪能できる、ほかでは聞けないプログラムをぜひお聴きください。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。10月に京都でまたお会いできることを心待ちにしております!

(2022年6月都内某所 事業企画課インタビュー)


★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

★ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビューはこちら

秋山和慶 特別インタビュー(2022.09.19 第11回 関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル) 

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京都コンサートホール

2011年にスタートした「関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール」。今年で11回目を迎えます。そのほとんどの公演で指揮いただいている秋山和慶さんにインタビューを行いました。

――秋山先生にはこれまで、本フェスティバルの11回開催のうち、第5回をのぞく計10回にご出演いただきました。特に印象に残っている演奏会(プログラム)はありますか。

(オンラインインタビューより)

秋山和慶さん(以下敬称略):これまで学生たちが真剣に取り組んでくれたので全て印象に残っています。特に大編成の曲は、普段それぞれの学校だけでは人数が足りず演奏ができなかったり、楽器によっては技術的に難しすぎるので、学生たちはみんなで演奏できたことを本当に喜んでくれました。演奏会が終わったときに、上手くいって涙している子どもたちを見ると、「やっていて良かったな」と毎回思います。

――やはりすべての公演がそれぞれ印象に残っていらっしゃるのですね。この公演では、関西の8つの大学から集まる合同オーケストラを束ねてくださっています。合同オーケストラならではの苦労した点をお聞かせいただけますか。

秋山:8つの大学が集まるとなると、それぞれ授業の時間が違ったり、集中講義があったりして、学生全員が練習になかなか揃わないのが一番ネックでした。また、台風などの天候が支障をきたしたこともありましたね。京都で練習と本番を行いますが、大阪・兵庫など遠くから参加している学生もいますから、学生がきちんと家まで帰れるか心配でした。

――そんな練習の苦労も乗り越え、この合同オーケストラでしか味わえない醍醐味もありますよね。

秋山:普段一緒に演奏することのない他大学のメンバー同士が、気持ちをそろえて一緒に演奏するためには、個人的な好き嫌い(気が合う合わないなど)を乗り越えて音楽に対峙しないといけません。今後、プロの世界に進む人や、多種多様な人たちと舞台を作っていくであろう彼らが、「一緒にひとつのものを作り上げる作業」を経験できるという意味で、とても意義のある公演だといつも感じています。

第10回公演より

――参加する学生達も、とても良い経験ができていると思います。
そんな中、2年前に起きたコロナのパンデミックにより、それまでとは本当にいろいろな事が変わってしまいました。秋山先生ご自身は、コロナの前後で、学生に対する教え方について変化はありましたか。

秋山:教え方に変化はありませんが、これまでほとんどなかった「オンラインで教える」機会が増えました。オンラインは確かに便利なのですが、機器を通して聴く音は実際の生の音とは違うため、指導の仕方が難しいですね。実際指導を受ける側の学生たちも同じように感じているようです。分奏もやってみましたが、電気的な時差が生じて、指揮者に合わせるのはほとんど不可能でした(苦笑)。

――これまでとは違ったご苦労もあるでしょうね。
さて、ちょうど2年前、ベートーヴェンの生誕250年と公演開催から10年を迎えたこともあり、ベートーヴェンの交響曲第九番を取り上げる予定でしたが、コロナによって、公演が中止になってしまいました。昨年は、まだ合唱曲を取り上げるのが難しかったため、第九ではなくオーケストラ曲2曲をプログラミングし、なんとか開催に至りました。実際に開催できた時のお気持ちをお聞かせいただけますでしょうか。

秋山:中止は仕方がありませんでしたが、大事な10回という記念の回に合唱が演奏できないばかりか、公演自体を中止せざるをえなかったというのは非常に残念でした。翌年は、合唱がなく、かつ大編成ではない曲の中から選曲し、感染症対策を講じながらの練習は大変でしたが、無事実施ができて本当によかったです。

第10回公演より

――今年のプログラムも、昨年に引き続きオーケストラのためのクラシック音楽の王道と言える名作2曲(ベートーヴェン:交響曲第5番、チャイコフスキー:交響曲第5番)を取り上げますが、演奏を通して、秋山先生が今音楽を学ぶ学生たちにあらためて伝えたい事を教えていただけますか。

(オンラインインタビューより)

秋山:学生たちに技術的な面できちんと勉強できるチャンスを作ってあげられたらという意図で、実行委員会の皆さんと一緒に選んだ2曲です。学生たちにとって聴き慣れた、馴染みのある曲でもあります。特に、ベートーヴェンの交響曲はオーケストラ奏者にとっては基本中の基本の曲です。一方のチャイコフスキーの交響曲は、思い切り活発に演奏できる曲ですし、ロマンティックなロシア流の表情のつけ方も学んでほしいですね。限られた練習時間で、周りのメンバーに合わせて演奏するという大切なところをこの機会に経験してほしいと思います。

――今から公演が楽しみです。コンサートにお越しになるお客様にメッセージをお願いします。

秋山:若々しいエネルギーをつぎ込んで、真剣に、音楽を大事にしっかりと表現しようとしている姿勢を見て、聴いていただきたいです。ベートーヴェンでは彼らしい力強さを感じられるでしょうし、チャイコフスキーでは、きれいなメロディーがたくさん出てくるので、音楽の流れに身を浸してリラックスして楽しんでください。

――それでは最後に参加する学生たちにもメッセージをお願いいたします。

秋山:音楽をやっていてよかったと思える瞬間がきっとあるはずです。音楽で辛いことや悲しいことを乗り越えられるかもしれないし、いい音楽をみんなと一緒に作れたときの喜びは何にも代えがたいものがあると思います。音楽そのものに奉仕する経験をしてみるのも大事かもしれませんね。

――お忙しい中、インタビューにお答えいただきありがとうございました。演奏会を楽しみにしております!

公演は2022年9月19日(月・祝)京都コンサートホール 大ホールで15時開演です。
公演情報