オルガニスト 大平健介&長田真実 インタビュー<後編>(2022.2.26オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69)

投稿日:
京都コンサートホール

国内最大級のパイプオルガンを気軽に楽しんでいただくシリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。Vol.69では、いま注目のオルガニストである、大平健介と長田真実を迎え、それぞれのソロからオルガン・デュオまで、2人のこだわりが詰まったプログラムをお届けします。

公演へ向けてお二人にインタビューを行い、本ブログにて2回に分けてお届けしております。後編では、パイプオルガンの魅力と今回のコンサートについてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

オンライン取材の様子

◆パイプオルガンの魅力

――前編では、お二人のオルガンとの出会いや、ドイツでのオルガン事情についてお話いただきました。次は、お二人が思うオルガンの魅力についてお伺いできますでしょうか。

大平:パイプオルガンは一つとして同じ楽器がなく、個性を非常に感じます。新しい楽器と出会うたび、対話をしながら音色を作って演奏をするのですが、楽器によってキャラクターが全然違いますので、それぞれに名前をつけたくなるほどです。その場所にあるオルガンと出会ってどう対話を繰り広げるか――そんな一期一会の出会いをお客さまにもぜひ楽しんでいただきたいと思います。

長田:日本のオルガンのほとんどはコンサートホールに入っていて、その大きさゆえに建物や空間の一部として色んな装飾がなされていることが多いです。ですので、建物と空間、そして音が一体となって、視覚的にも聴覚的にも楽しめる楽器だと思うんです。オペラやバレエのように「総合芸術」といいますか、見て楽しんで、聴いて楽しんで、そして空間全体から自分に降り注いでくる音に包まれて・・・普段そんな大きな音にずっと包まれるという時間はなかなかないと思います。耳を澄まさないと聞こえないくらい小さい音もあるんですが、スケールの大きな音を非日常的な空間で体感できるというのは、コンサートホールという大きな空間で聴くオルガンの魅力だと思います。

あとオルガンは、何十年もずっとその場所に佇んで、ホールの歴史を見ています。私はオルガンが設置されている会場に入ると、そういった歴史を感じると共に、それまで企画されてきたコンサートや演奏されてきたアーティストなどによく思いを馳せています。同じ空間に来てくださったお客さまも、そこにしかない楽器が今まで大切に愛されてきた歴史を一緒に感じながら、音楽を聴いていただければと思います。

――私たちの「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」は、京都コンサートホールが開館した翌年から始まったシリーズで、市民の方をはじめ、いろんな方の支えがあって、今年度で25年を迎えることができました。楽器や歴史を大事に考えてくださっているお二人にこのシリーズにご出演いただけることをとても嬉しく思います。

 

◆今回のコンサートについて

――さて次は、今回の演奏会についてお伺いしたいと思います。まずコンサート前半はそれぞれ長田さんと大平さんのソロを、休憩後は連弾と再びお二人のソロを演奏していただきますが、今回のコンサートの聴きどころをお話いただけますでしょうか。

大平:今回のコンサートでは、オルガンの新しい魅力を伝えたいと思っています。
例えばメンデルスゾーンのオルガン作品といえば、「オルガン・ソナタ」や「前奏曲とフーガ」がよく知られていますが、彼自身がオルガニストだったこともあり、オルガン以外の作品でもオルガンに合うんです。実際に僕の先生でもあるクリストフ・ボッサートさんが、メンデルスゾーンのピアノ曲を全曲オルガンに編曲されたのですが、聴いていてとても自然で素晴らしい編曲なので、是非とも紹介したいと思い、今回プログラムに入れました(前奏曲とフーガ 作品35-6)。
同じような考え方で、今回演奏するメンデルスゾーンの《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の楽譜を見ると、オーケストラ作品なのにまるでオルガン曲のようで、レジストレーション(オルガンの音の組み合わせ)がすぐに浮かんでくるんですよね。今回は、私自身の編曲でお届けします。

また今回のプログラムは、他の楽器のために書かれた曲からの編曲が多いので、オルガンファン以外の方にも楽しんでいただけると思っています。例えばサン=サーンスの《動物の謝肉祭》や《死の舞踏》など、親しみのある曲だけでなく、ピアノファンやオーケストラファンの皆さまにはお馴染みの曲など、スパイスをちょっと加えています。
もちろんオルガンファンの方々にも楽しんでいただけるように、サン=サーンスやレーガーなどによるオルガンのオリジナル作品もプログラミングしています。

いずれもオルガンがよく鳴るような曲をチョイスしていることが今回のポイントです。


大平さん編曲による《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の演奏動画

――ちなみに今おっしゃったメンデルスゾーンの「宗教改革」について、音色を組まれる時(レジストレーション)はオーケストラの原曲のイメージに近づけるようにされますか?それとも、編曲された楽譜からオルガンのオリジナル作品と考えて音色を作られますか?

大平:両方ですね。例えば曲の冒頭はフルートソロから始まって、段々と管楽器が増えて、チェロやコントラバスが入ってきますので、それぞれの楽器のイメージで音を足していこうと思っています。もしかしたら原曲のイメージで音を作れるのは、90もの多くの音色を持つ京都コンサートホールのオルガンだからこそできるのかもしれません。また、京都コンサートホールにしかない邦楽器の音色を使うのもいいかもしれませんし、弾くオルガンによって音色を変えます。
ただこの曲の中間部では、オルガンをしっかりと鳴らしたいので、原曲のオーケストレーションも大事なのですが、実際に弾くオルガンが一番のびのびと歌えることを大事にしたいと思っています。
なので、原曲と弾くオルガンの個性を見て、それぞれから良いところを取りながら音を作っていこうと思います。

京都コンサートホールのパイプオルガン(ドイツのヨハネス・クライス社製)

――ありがとうございます。今回のプログラムを見ていると、前半はドイツ音楽で、後半はサン=サーンスの作品が並んでいますね。

長田:京都コンサートホールのような大きな空間で演奏するので、色んな音をオルガンから引き出してホール全体を鳴らしたいと思い、私たちが好きなバロック音楽からロマン派の作品をプログラミングしました。

 

――冒頭に演奏していただく作品ですが、バッハのオルガンのためのオリジナル作品ではなく、敢えて《平均律クラヴィーア曲集》の編曲を選ばれたのは、オルガンの新しい魅力を知ってもらいたいということでしょうか。

大平:そうですね。今回冒頭に演奏する《平均律クラヴィーア曲集第2集》より〈前奏曲 ニ長調〉は、同曲集の中でもオルガンで弾いたらとてもカッコいい作品の一つです。そもそも「クラヴィーア」というのは、鍵盤楽器全般を指しているので、チェンバロでなくてもいいですし、オルガンで弾くとオーケストラで弾いているようにも聴こえるんです。そういうオーソドックスに見えて、実は面白い作品を僕たちはご紹介していきたいと思っています。

 

――前半には、ヴァメスというあまり耳にしない作曲家の作品もありますね。

大平:はい、そうなんです。先ほどお話したように、僕たちはどの演奏会でも、少しでも新しいオルガンの魅力を伝えたいという思いがベースにあります。
例えば、日本では、バッハのオルガン作品全曲演奏会や《トッカータとフーガ ニ短調》、〈主よ、人の望みの喜びよ〉が好まれ、よく演奏されますよね。本格的に大きなパイプオルガンが設置され始めた1970年代くらいから、そういった状況はあまり変わっていません。でも世界に目を向けると、実に様々な作品が演奏されています。それは、オルガンのための新しい作品が今も絶えず誕生しているからです
今回は1曲だけですが、オランダのアド・ヴァメスさんが1989年に作曲した《鏡》という、鏡に写る光の反射の美しさを描いたような作品を入れました。

長田:あとは、私たちのオルガンに対する理想の響きを、今回のプログラムで実現したいと思っています。いろんなところを回って弾いて聴いてきた私たちが、今やりたい曲を詰めこんだプログラムとなっています。

 

――私たちもこのプログラムを頂いた時、今まで見たことのないプログラムだと思いましたし、お話を聞いて納得しました。ピアノやオーケストラのための作品をオルガンで聴いていただいて、お客さまにオルガンの新しい魅力を知っていただけるチャンスになればいいなと思います。
プログラム後半でご
披露いただくオルガンの連弾は、あまり聴く機会がないので新鮮で楽しみです。

長田:オルガンには音色を使い分けるためにたくさん鍵盤があります。一人では3段以上を一度に弾くことができませんが、二人いることで色んなパートを弾けますので、演奏の幅が広がります。

大平:最近では、パリ・ノートルダム大聖堂のオルガニスト オリヴィエ・ラトリーさんや、パリ国立高等音楽院で教授を務めていたミシェル・ブヴァールさんなどが、奥さまと一緒に連弾をされています。夫婦くらいの近い関係でないと、連弾は難しいのかもしれません。
また、連弾をする際は、楽器も重要になってきます。二人でパイプオルガンを演奏する時は、一人で演奏する時よりもオルガンに送る風量が必要になるのですが、そういった風量を補える楽器で演奏すると、連弾の可能性がぐっと拡がります。その上で、お互いの音楽的な感覚が一致すると、さらにその可能性は拡がっていきます。今後、連弾の面白さをどんどん開拓していきたいと思っています。お客さまには連弾の可能性を楽しんでいただけましたら嬉しいです。

長田:あとはエンターテインメント的な要素を感じますね。二人で弾いていると、一人で演奏している時よりも楽しめていると感じます。お客さまからしても、二人で弾いている様子は、見ていても楽しいのではないかなと思います。

オンライン配信もされた公演での連弾の様子(2021年12月、サントリーホールにて)

――たしかに以前お二人の連弾の様子がオンライン配信されているのを拝見して、すごく楽しそうだなと思いました。
色々とお話してくださってありがとうございました。コンサートを楽しみにしております!

 2021年12月事業企画課インタビュー(Zoomにて)


★インタビュー記事の前編はこちら

★オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール“大平健介&長田真実」(2/26)の公演情報はこちら

【Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/5)】第1期登録アーティスト*石上真由子(ヴァイオリン)インタビュー

投稿日:
インタビュー

2019年度からスタートした「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
オーディションで選ばれた、京都にゆかりのある若手新進音楽家たち3組が、「第1期京都コンサートホール 登録アーティスト」として、これまで市内の小学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。

アーティストたちは、2022年3月で、2年間(2019年度・2021年度※2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で活動中止)の登録アーティストとしての活動を終えます。

ヴァイオリニストの石上真由子さんは、アウトリーチで「音楽を感じること」を大事にして、演奏や音楽の魅力を届けるとともに、子どもたちや福祉施設の入居者の皆さんと対話を繰り広げてきました。

2年間のアウトリーチ活動で感じたこと、また活動のしめくくりである「最終年度リサイタル」について、石上さんにお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください!

(C)Shuzo Ogushi

――今日は東総合支援学校での演奏、お疲れ様でした。
さて
、今年3月で、京都コンサートホールの「登録アーティスト」としてのアウトリーチ活動を終えることとなりますが、この2年間を振り返っていかがでしたか。アウトリーチが普段の演奏活動に与えた影響はありますか。

いま京都コンサートホールのほかに、地域創造のおんかつアーティストとしてもアウトリーチ活動をしています。行く学校によって、音楽の授業の進め方も違うので、同じ小学生という目線だけでプログラム内容を決めるのは難しいなと感じました。

また普段行っている自主企画のコンサート(Ensemble Amoibeなど)では、もちろん「聴いて楽しんでいただこう」という目線もあるのですが、やはり自分がやりたい曲を中心にプログラムを考えてしまいます。
でもアウトリーチは、通常のコンサートとは選曲の仕方が全然違いますので、聴く相手のことを考えてプログラムを構成することがいかに大切かをこの2年間で学びました。

同志社小学校にて

――たしかに訪問する小学校によって反応も様々でしたよね。ほかにアウトリーチ活動を通して石上さんの中で変わったことはありましたか?

そうですね…あとは、演奏の間にお話をすることに対しての恐怖感や抵抗が少し減った気がします。曲などについて伝えるにしても、演奏だけではなくて、話すからこそ伝えられることがあるなと思いました。
そして言葉というツールを使うことに対してプラス思考になった気がします。

 

――実際にアウトリーチプログラムの半分くらいはお話でしたが、通常のコンサートでは、演奏の間にMCをするくらいですものね。

そうですね。普段のコンサートでは、割と年齢が上の方に向けて話すことが多く、小学生に向かって話すのとでは全然違いますので、いろいろ経験ができたと思います。

一燈園小学校にて

――今回、アウトリーチ先としては小学校が多かったですが、子どもたちの反応で印象的なことはありますか?

毎回アウトリーチが終わった後に、感想を書いたお手紙をもらっていまして、その中に質問を入れてくれる子もいます。そういうところに注目していたのかとか、興味を持ってくれると思っていたところと違う部分に興味持ってくれたりとか・・・(笑)
自分が大人になったからこそ見えなくなってしまったものがあるんだなと思いました。自分が子どもの頃は、大人になっても子供の心を保ち続けられると思っていたんですけど、やっぱりそうではないと改めて知る機会になりました。

またアウトリーチ1年目は、自作の「ハッピーバースデー変奏曲」を使って、演奏を聞いて感じたことを絵に描いてもらっていました。私は結構妄想族なんですが、こちらの妄想できる範疇を超えてくる子もいて、こんなに想像力があるんだなと嬉しく思ったこともたくさんありました。

 

――最初にアウトリーチ・プログラムについて話し合っていた時も、ただ聴いてもらうだけじゃなくて、子どもたちのアウトプットにも重きを置いていると話していましたよね。

アウトプットよりも「考える前に感じること」を忘れないでほしいと思っています。
私が小学生だった時、感じたことを言うよりも、すごく考えて答えを出していたことが多かったですし、そのことを求められているなと思ったことがとても多かったんです。
「大人はこういうことを言ったら喜ぶだろう」と考えるのではなく、素直に「こう感じました」と回路が直結してくれたらいいなと思って、アウトリーチではどう感じたか演奏の後に尋ねてみたり、絵を描いてもらったりしました。

 

――お絵描きを実際にしてもらって、その手応えはありましたか?

他の人がどんなことを書いているか見る隙を与えずにやったので、子どもたちはあんな短い時間でもやるしかないという感じでしたし、とりあえず感じたことや思いついたことをわーっと書いてくれました。なので、お絵描きは良い方法だったのではないかと思っています(笑)

 

――みんな結構戸惑いながらも頑張ってくれていましたよね。

必死でやってくれていましたし、最終的にアウトプットするところまで時間が足りなかった子たちも、やろうと思っただけでも変化があったのではないかと思うんですよね。アウトプットできなくても全然いいんです。そのプロセスを大事にしてほしいです。

光華小学校にて

――2年目は小学校以外に福祉施設にもアウトリーチに行きましたが、印象的だったことはありますか?

私はずっとヴァイオリンを弾いてきたこともあり、音を出すという行為に一番抵抗がなかったのがヴァイオリンで、歌を歌うのはあまり得意ではなかったんです。でも例えば、今日の総合支援学校でも老人ホームへ行った時もそうだったんですが、皆さんやっぱり歌を歌うのがすごく好きなんだなと思いました。特にコロナになって、歌うことが一番できなくなってしまったので、「一緒に歌いましょう」と言ったら、とても楽しそうに歌っていらっしゃたのが印象的でした。

 

――たしかに、活動2年目の1ヶ所目が老人福祉施設だったので、すごく印象的でしたよね。

やっぱり歌って、楽器が弾けなくてもみんなができることなので、これだけ人の心が繋がるんだなと、アウトリーチで目の当たりにしてすごく感じたことです。

ウェルエイジみぶにて

――皆さんマスクをされていましたけども、なかなか口を開けて歌うことは難しかったので、ハミングで歌ってくださっていたのがとても印象に残っています。
では少し話が変わります、もう少しで第1期3組の活動が終わって、次期登録アーティストの募集が始まります。応募される人へ向けてメッセージをお願いします。

そうですね…京都コンサートホールでは、アウトリーチに行く前に研修などがあるのですが、ここまで手厚く面倒を見てもらえるところはないかと思います。それで逆にキュッと緊張してしまうところはあるんですが、1回経験すると、内容をガチガチに固めなくても、プログラムの道筋をちゃんと立てられると思います。また自分の中で作った「一つの型」について、考えたプロセスやアドバイスしてもらった経験などは、時間や回を重ねる毎に活きてくることがあるんじゃないかと思います。

演奏環境としては過酷ですけどね、寒いところで弾いたりとか・・・(笑)。あと、普通のリサイタルと違って、演奏に全集中できないときもありますし、次に話すことや時間が気になったり・・・でも、そういったことを経験してこそ見つかるものがある気がします。最終的にアウトリーチがライフワークになるかどうかは人によって違いますし、そればかりはやってみないと分からないです。ただ結果がどうであれ、やったことがあるか無いかでは全然違うと思いますし、やってみてよかったなと思う瞬間はきっとあると思います。

なので、少しでも気になっている人がいれば、経験してみてはどうかなと私は思います。

2年間共にアウトリーチで演奏してくださった、ピアニストの船橋茉莉子さんと

――ありがとうございます。では最後に、3月5日の「最終年度リサイタル」の聴きどころやプログラムの意図を教えていただけますか?

予想外のコロナで、2020年度の一年間、アウトリーチも含めて全く何もなくなった時に思いついたのがこのプログラムです。
漠然と、抗えない力みたいな自然の力や、天からの神様みたいな存在をすごく感じたんですよね。別に宗教にのめりこんでいるとかではなく、それらを表現できるプログラムにしたいと思って、「人と自然」や「人と天」などをテーマに曲を選びました。混沌とした感じとか最終的にコロナを経て人間がどこへ向かっていきたいのか、どこへ向かっていくのか——そういうのを欲望のままに(笑)詰め込んでみました。

――ありがとうございました。最終年度リサイタルを楽しみにしております!

東総合支援学校にて

2022年1月、京都コンサートホール事業企画課インタビュー
アウトリーチ担当:中田


★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us ジョイ ナス !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

2022年3月5日開催『最終年度リサイタル』Vol.1「石上真由子 ヴァイオリン・リサイタル」の詳細はこちら

 

オルガニスト 大平健介&長田真実 インタビュー<前編>(2022.2.26オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69)

投稿日:
京都コンサートホール

「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」は、国内最大級のパイプオルガンを気軽に楽しんでいただくシリーズとして1997年にスタートし、今年度で開催から25年を迎えました。

69回目は「オルガニスト・エトワール」と題し、いま注目のオルガニストの二人、大平健介と長田真実をゲストに迎えます。

ドイツでの演奏活動を経て、帰国してからも様々な演奏活動を行うお二人に、公演に向けてお話を伺いました。2回に分けて、インタビュー記事をお届けします。
前編ではお二人のオルガンとの出会い、そしてドイツのオルガン事情についてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。


◆オルガンとの出会い

――本日はお忙しいなかインタビューのお時間をいただきありがとうございます。
まずお二人のことについてお聞きします。オルガンとの出会いや、オルガンをご専門とされたきっかけを教えていただけますか。

長田真実さん(以下敬称略):元々幼稚園の時からエレクトーンを習っていまして、小学生に入ってから毎年一曲、オーケストラ作品を編曲して弾いていました。オーケストラを一人で演奏できることが嬉しくて、いつも楽しんでやっていたのを覚えています。その中で小学3年生の時に、ヘンデルの《オルガン協奏曲「カッコウとナイチンゲール」》という曲に出会いました。かわいい鳥のさえずりをオルガンで表現する様子が印象的で、その曲を弾いて以来、ずっとオルガンに憧れを抱いていました。
中学生になってから、姫路市の姉妹都市があるフランスやベルギーに市からの派遣生として訪れた際、初めて大聖堂の空間やそこにそびえたつオルガン、そしてその響きに触れて、圧倒されたのを今でも覚えています。そして高校生になって、ようやくパルナソスホールのオルガン講座を受講し始めることになったんです。
なので、オルガンを始めたのは遅い方だと思うのですが、始めるまでずっと長い間憧れを持っていました。

 

――高校生でオルガン始めるのって遅い方なのですね。小さい頃からオルガンに触る機会はなかなか無いと思うので、皆さん高校生くらいからなのかなと思っていました。

長田:中高がミッション系の学校であれば、多分学校の教会にオルガンがあって、触れる機会があると思うんですけど、私は普通の公立の学校でしたので、なかなか機会がありませんでした。

大平健介さん(以下敬称略):僕の場合はとてもラッキーで、日本全国数あるミッション系の中学校の中でも珍しい「オルガンクラブ」で、部活動の一環として自由にオルガンを学べたのです。そしてミッション系の学校出身の方がよくおっしゃるのですが、僕の行っていたところも毎日礼拝があって、中学生の頃からオルガンの前奏や後奏、賛美歌の前奏が楽しみでしょうがなかったのです。そのうち奏楽者のレパートリーまで把握してしまって、後奏でどの部分を弾いているのかもわかっていました(笑)。

当時のオルガンクラブには電子オルガンしかなかったので、初めてパイプオルガンを弾くことができたのは、たしか中学2,3年生の頃、夏休みに大学の礼拝堂へ皆で行った時だったと思います。その時バッハの《幻想曲 ト長調 BWV572》を弾いて、上から降り注いでくる音や、楽器が礼拝堂全体に鳴り響いている様子に衝撃を受けました。あれは本当に漫画で描くような「ビビビッ!」と、天からの命を受けたような感じでした。

当時の僕は思春期で、自分は将来どこを目指したらいいんだろうかと悩みを抱えていました。自分の中で行先は音楽だということはわかっていたのですが、あれでもないこれでもない…と迷っている時にオルガンと巡り会い、絶対にオルガニストになりたいと思うようになったのです。

そういう明確な出会いがあって嬉しかったですね。東京藝術大学に入ってから、オルガン科の先輩や後輩、同学年の人の話を聞いてみても、やっぱりみんな同じようにオルガンとの出会いで衝撃を受けたと聞きました。バックグラウンドは皆それぞれで、例えばミッション系の学校から来た人や礼拝の先生に個人的に習っていた人、大学でオルガンと出会った人、他の楽器専攻で卒業してからオルガン科に来た人、プライベートで習ってきた人などがいました。

長田:私も東京藝術大学オルガン科の出身で、いろんなバックグラウンドを持った方と会いましたが、その中で感じたこととして、東京と関西とでは、オルガンを取り巻く環境は全然違うんですよね。私はずっと姫路にいたので、東京の先生を知らなかったですし、東京藝術大学に出入りしたこともないという状況で大学を受験しました。東京ではオルガンがある会場もたくさんありますし、オルガンの演奏会もすごく多いです。それに比べると地元ではオルガンのある場所は限られていて、演奏会も年に数回しかなかったので、私はオルガンに触れる機会が少ない状態で大学に入りました。

大平:たしかに遠くから県をまたいで、オルガンと出会ってレッスンを受けている人の話も聞くので、地域によって環境は全然違うなと思います。

学生時代に行ったアルンシュタットのバッハ教会での演奏会の様子

――関西や地方ではパイプオルガンの演奏会はたしかに多くないように思います。その影響もあってか、ありがたいことに、私たちのオルガンコンサートでも、関西だけでなく全国から聴きに来てくださっています。

大平:お客さまが県をまたいで聴きに来てくださるのは理想的だなと思います。
同じプログラムで演奏家が国内を回るコンサートツアーというのはよくありますよね。でもオルガニストの場合は、それは基本的には起こりえないんですよね。なぜなら会場が変わると楽器も違うので、プログラムが変わってしまうことが多いからです。例えば京都コンサートホールのオルガンは、この京都コンサートホールにしかない楽器なのです。「あのオルガニストの演奏は前にあの会場で聴いたよ」ということはあっても、その会場の楽器に合ったプログラムが組まれるので、そこでしか聴けない響きや音色になるのです。

ありがたいことに、最近僕たちが出演するコンサートでも複数の会場に来てくださったり、遠方から姫路まで来てくださったりするお客様がいらっしゃいます。珍しいことのように思われるかもしれませんが、ヨーロッパではよくあります。と言いますのも、単純に「オルガンの演奏会を聴きに行く」というよりは、そのオルガンを聴きに行くことと、その場所の風景や文化を見に行くことがセットになっているからなんです。
日本でもオルガンを聴きに行く時にそう思ってくださる方が増えたらいいなと思っています。

――私も以前、同じオルガニストの演奏会で、追っかけのように複数の会場を回って聴き比べをしたことがあります。楽器が変われば違う音、そして同じ奏者でも色んなプログラムを聴けるのは、オルガンを聴く醍醐味だなと感じました。

 

◆ドイツのオルガン事情について

――先ほどドイツでのお話が出ましたが、お二人ともドイツで勉強されていらっしゃいましたよね。大平さんは2021年までドイツの教会でオルガニストとしてご活躍されていたかと思います。ヨーロッパでは、小さな町や村など地域の方々でもオルガンを聴きに行かれる方が多いイメージがあるのですが、やはり日本とはオルガンとの関わり方が違うのでしょうか。

大平:そうですね…そのことについて2点お話したいと思います。
まずドイツでは、教会(オルガン)と文化、ビジネスがとても上手く綺麗につながっているように思います。
オルガンの演奏会のおよそ9割は教会で行われています。と言いますのも、教会の方が良い楽器が入っていて、響きも良いからです。また面白いことに、教会には「コンサートホール」としての役割もあるんです。ホールのように事務所が教会に入っていて、例えば僕がオルガニストを務めていたシュティフツ教会では、10人くらいのスタッフが事務所にいました。総監督みたいな人とプログラムを作る人、あとは経理や助成金担当の人などがいました。大きな教会や大聖堂くらいの規模になると、毎週の演奏会のプログラムやポスター作り、そして演奏家とのやりとりのための専属スタッフがいて、本当にホールと同じようなことをやっています。もちろん規模はホールとは全然違いますけどね。
お客さんはというと、イースターやクリスマスなどの教会暦に沿ったプログラムをすごく楽しみにされています。教会としてもクリスマスマーケットなどを目当てに来た人をコンサートに呼び込もうという感じで、コンサートの内容をクリスマスなどとリンクさせたりしています。

シュティフツ教会で礼拝奏楽をしていた時の様子

そしてもう1点は、僕がいつか日本で作りたいと思っていることなのですが、フランス、スイス、ドイツではそれぞれ夏のオルガンフェスティバルがあります。日本の夏休みはとても暑くて向いてないかもしれませんが、ヨーロッパだと7月から9月末まで休暇を取る人が多いので、その間に音楽家たちがヨーロッパ中で演奏旅行を行うんです。プログラムにはドイツやイギリス、日本、韓国、ロシアなど、いろんな国の演奏者が並んでいて、「インターナショナルなオルガン・フェスティバル」とでもいう感じです。ちなみに私たちは、「日本から来た、いま旬のオルガニスト」というような紹介をされましたね。

スイスのヴィンタートゥアーでのコンサートのポスター

僕たちもヨーロッパでの夏休みというと色んな思い出があります。
電車で現地へ向かって、ホテルに着いた後すぐにリハーサルと本番で3日間…そして休む間もなくすぐ電車に乗って次の町へ行って…バンベルク、ハンブルク、パリと行って、帰ってきて次はロンドンへ…。そういうのがヨーロッパのオルガニストの夏休みの過ごし方として当たり前になっていて、夏は大変な稼ぎ時でもあるんですよ。

このようにドイツにいた時は、教会内のイベントを行う教会オルガニストと、国際的なソリストという2つの顔を持って活動している感覚がありました。日本でもそれぞれの顔で活動していきたいと思っています。

サン=サーンスがオルガニストを務めていたパリのマドレーヌ寺院にて

――ドイツでは教会がホールの役目も担っているのですね。とても貴重なお話をありがとうございます!長田さんはドイツで留学された後、2018年春からパルナソスホールのオルガニストとして、リサイタルだけでなく色々なオルガンの企画をご担当されていると思いますが、ドイツと日本のオルガンを取り巻く環境に違いを感じることはありますか。

長田:私は2017年まで6年間ドイツにいましたが、ドイツの演奏会ではドキドキするような貴重な体験が多かったです。
すごく小さな村を周っていた時がありまして、電車で駅を降りた後にバスで45分、林や森の中を進んで・・・一体私はどこに連れて行かれるんだろうかと思うような旅が多かったですね。自転車を借りて、菜の花畑をバーッと走って教会に着いたということもありました。あとは行き方を検索すると、目的地のバス停が「Schule(シューレ:学校)」という名前だったんです。私たち外国人からすると「学校」というバス停で降りるのもドキドキしました。実際に降りてみると、人があまりいない小さな村に教会がポツンとあって、そこに本当に歴史的な楽器があったりするんですよね。

そういったドキドキハラハラな一人旅が多かったですが、地元の人々がすごく暖かかったんです。お家に泊めてもらって、村の生活にどっぷり浸りながら演奏会に向けて準備をしたりして、地域の人の気質や文化、伝統を感じながら、演奏会を周っていたなと思い出します。そういう生活をしてみて、地方って良いなとドイツで初めて思いました。

東京はあらゆるものが全国から集中しているので、レベルが高くて情報もすごく多いです。でもふと地方の暖かい人々の中で育まれてきた芸術や文化に触れた時にいいなと思いますし、日本でも地元のものを大切にしながら演奏会が出来たらいいなと思っています。
元々姫路に帰る予定はなかったのですが、たまたま自分の生まれた町にオルガンがあって、戻ってくることができたというのは、なんという偶然で幸せなことなんだろうと思っています。
そこで自分ができることを考えるのも楽しいですし、地元の人たちとオルガンを囲みながら文化を作っていくようなことを、少しずつですが出来たらいいなと思っています。
これはドイツにいたからこそ思えるようになったことだと思います。

オーストリア・ザルツブルクの大聖堂にて(2枚とも)

――素敵なお話ですね。そういう地方の小さな教会でも他の国のオルガニストを呼んで演奏会をするのはすごいですよね。とても貴重なお話が聴けました。ありがとうございます。
後編では、お二人が思うオルガンの魅力や今回のコンサートのプログラムについて伺います。

 2021年12月事業企画課インタビュー(Zoomにて)

** 後編に続く **


★オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール“大平健介&長田真実」(2/26)の公演情報はこちら

【Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/21)】第1期登録アーティスト*DUO・GRANDEインタビュー

投稿日:
京都コンサートホール

2019年度からスタートした「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
オーディションで選ばれた、京都にゆかりのある若手音楽家3組が、「京都コンサートホール 第1期登録アーティスト」として、2019年度と2021年度の2年にわたり、市内の小中学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。

さて、京都コンサートホール 第1期登録アーティストとしての活動もいよいよ終盤に入りました。
ヴァイオリン(上敷領藍子)とヴィオラ(朴梨恵)のデュオ DUO・GRANDE(デュオ・グランデ)は、3月21日に最終年度リサイタルを開催します。
2年間の集大成を皆さまにご披露するべく、リサイタルに向けていつも以上に気合が入る2人。

そんなDUO・GRANDEから、京都コンサートホール登録アーティストとして活動した日々や今後の夢など、様々なお話を聞いてみました。
ぜひご覧ください!

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【Join us(ジョイナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/6)】第1期登録アーティスト*田中咲絵(ピアノ)インタビュー

投稿日:
京都コンサートホール

2019年度からスタートした「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
京都コンサートホールの第1期登録アーティストが、これまで市内の小学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。聴き手の心に寄り添うお話とプログラムを披露してきたピアニストの田中咲絵さん。これまでのアウトリーチ活動で感じたこと、また最終年度リサイタルへの意気込みを伺いました。ぜひ最後までご覧ください!


――この度はインタビューの機会をいただきありがとうございます。
まずはご自身についてお伺いしたいのですが、ピアノを始めたきっかけは何だったのですか?
5歳ごろから習いごとの一つとして始めました。とにかくピアノを弾くことが大好きで、これまで辞めたいと思ったことは一度もないですね。小さいころからピアニストになりたいと思っていたわけではなく、弾くのが楽しくて続けていたら現在に至るという感じです。

――田中さんは京都堀川音楽高校出身ですが、中学生のころには将来音楽の道に進みたいと決めていたのですか?
周りの友達は小さいころから音楽高校を受ける準備をしていたのですが、私はそんなことはなく…。中学3年生の時に、京都堀川音楽高校のスクールガイダンスのポスターをたまたま見かけたので参加したら、すごく楽しくて!ピアニストになりたいというよりは、音楽の勉強が楽しそうだったから受験しました。それだけで受かるようなものではないのですけれど、当時師事していた先生がソルフェージュなど試験に必要なことを教えてくれていたおかげで、無事合格しました。

――高校卒業後は、京都市立芸術大学に進学されたのですよね。
芸大に進学した時もソロでバリバリ弾きたい!とは考えていませんでした。ピアノを弾きながら音楽を教えたりするような仕事に就きたいと思っていたので、ちょうど今やっている活動に繋がっていますね。

2022年1月 京都コンサートホールにて

――次はアウトリーチについてお聞きしたいのですが、そもそも「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」のことはどのように知られたのですか?
ホームページで見かけ、気になっていました。その時、京都コンサートホールの方からもこのお話を聞いて、まずは説明会に参加してみました。

――これまで小学校にアウトリーチ活動などに行った経験はあったのですか?
全くありませんでした。病院などは伴奏として訪問したことはありますが、小学校は初めてだったので、本当に未知の世界でした。また、アンサンブルやデュオではなく、ピアノひとりでやっている現場は見たことがなかったので、私にとっては冒険でした。

――ピアニストはひとりで現場を仕切らなければならないですもんね。
アウトリーチはホールでの演奏会と違って、音楽が好きな人だけが集まっているわけではないので、聴き手の心をもみほぐして音楽の楽しみをひも解いていけるようなプログラミングがとても大切ですよね。田中さんはどのようにプログラムを組み立てたのですか?
めちゃくちゃ大変でした…!まず研修会があったのですが、はじめは自分が何を伝えたいのか、またどのように組み立てていけばよいかも分からずで、スタッフの皆さんの助けがあって、ゼロの状態からなんとか創り上げることができました。出てきた曲の中からこういう道筋が立てられるのではないか、という進め方をしたと思います。
最初は視覚的にピアノの楽器自体に興味を持たせて、次は耳を使って音の特徴を最後まで聴いてもらう。五感を使って音に触れてもらった後、入ってきた音から風景を描いて想像を膨らませ、最後は作曲家の気持ちに寄り添って曲を聴いてもらう――色々な感じ方をしてほしいなと思って、プログラムを組み立てました。同じように聴いているけれど、人によって感じ方が違うということがアウトリーチで一番伝えたかったことです。

――田中さんのプログラムは、とても練り上げられた内容だなといつも思っています。アウトリーチではトークも大切ですが、いままでお客さんの前で話す機会などはあったのですか?
演奏会で曲の説明を簡単にすることはありましたが、話の道筋を意識してトークをすることは初めてでした。聴き手の人たちとコミュニケーションを取って、こう返答がきたらそれを生かしてこういう声かけをしようとか意識をする必要がこれまでなかったので、初めは苦労しました。言葉選びも難しく、私の一言で聴き手が傷ついたりしないかな、など気を遣いましたね。

――2019年度と2021年度の2年間(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響により活動休止)で合計20か所、アウトリーチ活動で学校や福祉施設を訪問しましたが、そのなかで一番印象に残っているシーンを教えてください。
最初に訪問させていただいた京都女子大学附属小学校ですね。ピアノの周りに集まって内部を覗いてもらうコーナーで、弾き終わった後にバアッと拍手が沸き上がったのが印象に残っています。私も、人が弾いているピアノの中を覗き込むことってないですし、アウトリーチならではの経験をしてもらえたかなと思います。
また、私のプログラムには、いわゆる「名曲」を入れていないので、みんなが知っているような曲は少ないと思うのですが、それでも自然と体を動かして聴いてくれることに驚きました。小学校へアウトリーチに行くので、聴き馴染みのある《子犬のワルツ》とか《キラキラ星》などを入れた方がよいのかなと思っていましたが、内容と道筋さえきちんと考えていれば、どんな曲でも楽しんでもらえるのだな、という発見がありました。この経験がなければ、今後小学校などに訪問するような機会があっても、名曲づくしのプログラムにしていたかもしれません。

2019年 京都女子大学附属小学校にて

――小学校で演奏されているプログラムのなかで一番反応が印象的だった曲は何ですか?
ドビュッシーの《花火》ですね。曲を聴く前と聴いた後、それぞれが思い描いた花火のイメージをみんなに質問するのですが、打ち上げ花火!と思っていたのが全然違うイメージの花火だったなど、子どもたちに意外性があるみたいです。あのような曲調でも集中して聴いて、曲から連想するイメージを一生懸命考えてくれるのは嬉しかったです。
あと小学生からいただくお手紙で、隠れファンが多いのがベートーヴェン。私が小学校で演奏しているピアノソナタ第18番では、ベートーヴェンの耳が聴こえなくなり始めた時期に作られた曲なのに、とても明るく前向きな曲になっているというトークをいつもしています。その内容をお手紙に書いてくれる子どもたちが多く、よく覚えていてくれているなあとびっくりでした。

――たしかに、子どもたちからのお手紙を読んでいたら、こんなに鮮明に内容を覚えてくれているのだと驚きますよね。
この2年間、登録アーティストの活動を振り返っていかがでしたか。田中さんは今後も京都を拠点に活動されていく予定ですか?
そうですね、関西圏で活動を続けていきたいです。もし登録アーティストに採用されていなかったら、京都で活動できていなかったと思います。自分でプロデュースして企画しないとなかなか演奏会はできないですし、そういう意味で演奏できる場所を提供してもらったというのはありがたかったですね。また、普段は関西圏でピアノを教える活動もしているので、午前中はアウトリーチに行って、午後は自分の方の活動も平行できるのも魅力でした。京都に根付いたアウトリーチ活動ならではだと思います。この経験を糧に、今後も自分の活動を継続しつつ、ピアノを弾き続けていきたいと思います。

 

――では最後に、最終年度リサイタルについてお伺いします。
今回披露される4曲は、これまで田中さんの心の栄養となった曲を選ばれたと聞きました。それぞれの曲への想いを教えてください。
はじめにベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」をお届けします。実はこの曲、昔はあまり弾きたいと思ったことがなかったのですが、ちょうどコロナが一旦収まった時期に出かけた演奏会で聴き、こんな良い曲だったのかとあらためて気が付いて急に弾きたい!!と思うようになったのです。私自身久しぶりに演奏を聴いて感じ方が変わったのか、そのインスピレーションを大切にしたいなと思って選びました。自分なりに解釈をもっと深めて、リサイタルに向けて準備を進めたいと思います。

――そしてドビュッシーの《版画》、ショパンのポロネーズ第6番「英雄」と時代の違う作品が続きますよね。
ドビュッシーは子どものころからずっと好きで、折にふれて演奏してきた作曲家です。なぜこの《版画》かというと、最近、曲のはじまりの音色使いに惹かれることが多く、「テンペスト」からいい感じに繋がるかなと思って選びました。昔から弾きたいと思っていたのでどうしても入れたかったというのもあります。ショパンの「英雄ポロネーズ」はもちろん大好きな曲なのですが、前半のアンコール要素として選曲しました。全体的にしっとりした曲が続くので、アクセントとして聴いてほしいです。

――そして最後はリストのピアノソナタという大曲で締めくくりですね。
この曲は昔から憧れの1曲です。リストは、「超絶技巧!華やか!聴いている人が失神した!」など伝説的なエピソードがありますが、晩年は聖職者となり、宗教的な道に進んでいきます。なにか一つを信仰するというのは人間的だなと思うのですが、このソナタは、一見華やかなリストとは異なる、生身の彼自身が垣間見える気がしました。それを自分なりに挑戦して表現したいと思います。中高生のころまでは、作曲家って歴史上の人物のように感じていたのですが、最近なぜか身近に感じられるようになってきました。それぞれの人たちがどういう風に過ごして、どういう想いで曲を書いたかということに寄り添いながら自分も演奏できたらいいなと思います。

――リサイタルには、アウトリーチで訪問した小学生たちも来てくださると思います。どのようにコンサートを聴いてほしいですか?
まずベートーヴェンはアウトリーチで届けた曲(第18番)と同じ時期に作られた曲です。耳が聴こえなくなる時期でも、こんなに曲調が違うのだということも感じ取ってもらえたらなと思いますね。ドビュッシーは、小学校では1曲しか弾いていませんが、今回のリサイタルでは3曲続く曲なので、それぞれ題名をみて想像を膨らませてほしいなと思います。ショパンは単純にカッコ良さを感じてほしいです!最後のリストは難しいかもしれませんが、長編映画を観るような気持ちで見てもらえたら嬉しいです。

――では最後に、来てくださるお客さまに向けてメッセージをお願いします。
いま私が最もお客様に聴いていただきたい作品が並んだプログラムになりました。前半後半でそれぞれのカラーを楽しみつつ、私の想いを聴き手の皆さんと共有できる演奏会にしたいと思います。

――お忙しいなか、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。登録アーティストの活動もあと1カ月となりました。最終年度リサイタルを楽しみにしています!

 

2022年1月、京都コンサートホール事業企画課インタビュー
アウトリーチ担当:陶器


★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us ジョイ ナス !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

2022年3月6日開催『最終年度リサイタル』Vol.2「田中咲絵 ピアノリサイタル」の詳細はこちら