2019年度からスタートした「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
オーディションで選ばれた、京都にゆかりのある若手新進音楽家たち3組が、「第1期京都コンサートホール 登録アーティスト」として、これまで市内の小学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。
アーティストたちは、2022年3月で、2年間(2019年度・2021年度※2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響で活動中止)の登録アーティストとしての活動を終えます。
ヴァイオリニストの石上真由子さんは、アウトリーチで「音楽を感じること」を大事にして、演奏や音楽の魅力を届けるとともに、子どもたちや福祉施設の入居者の皆さんと対話を繰り広げてきました。
2年間のアウトリーチ活動で感じたこと、また活動のしめくくりである「最終年度リサイタル」について、石上さんにお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください!
――今日は東総合支援学校での演奏、お疲れ様でした。
さて、今年3月で、京都コンサートホールの「登録アーティスト」としてのアウトリーチ活動を終えることとなりますが、この2年間を振り返っていかがでしたか。アウトリーチが普段の演奏活動に与えた影響はありますか。
いま京都コンサートホールのほかに、地域創造のおんかつアーティストとしてもアウトリーチ活動をしています。行く学校によって、音楽の授業の進め方も違うので、同じ小学生という目線だけでプログラム内容を決めるのは難しいなと感じました。
また普段行っている自主企画のコンサート(Ensemble Amoibeなど)では、もちろん「聴いて楽しんでいただこう」という目線もあるのですが、やはり自分がやりたい曲を中心にプログラムを考えてしまいます。
でもアウトリーチは、通常のコンサートとは選曲の仕方が全然違いますので、聴く相手のことを考えてプログラムを構成することがいかに大切かをこの2年間で学びました。
――たしかに訪問する小学校によって反応も様々でしたよね。ほかにアウトリーチ活動を通して石上さんの中で変わったことはありましたか?
そうですね…あとは、演奏の間にお話をすることに対しての恐怖感や抵抗が少し減った気がします。曲などについて伝えるにしても、演奏だけではなくて、話すからこそ伝えられることがあるなと思いました。
そして言葉というツールを使うことに対してプラス思考になった気がします。
――実際にアウトリーチプログラムの半分くらいはお話でしたが、通常のコンサートでは、演奏の間にMCをするくらいですものね。
そうですね。普段のコンサートでは、割と年齢が上の方に向けて話すことが多く、小学生に向かって話すのとでは全然違いますので、いろいろ経験ができたと思います。
――今回、アウトリーチ先としては小学校が多かったですが、子どもたちの反応で印象的なことはありますか?
毎回アウトリーチが終わった後に、感想を書いたお手紙をもらっていまして、その中に質問を入れてくれる子もいます。そういうところに注目していたのかとか、興味を持ってくれると思っていたところと違う部分に興味持ってくれたりとか・・・(笑)
自分が大人になったからこそ見えなくなってしまったものがあるんだなと思いました。自分が子どもの頃は、大人になっても子供の心を保ち続けられると思っていたんですけど、やっぱりそうではないと改めて知る機会になりました。
またアウトリーチ1年目は、自作の「ハッピーバースデー変奏曲」を使って、演奏を聞いて感じたことを絵に描いてもらっていました。私は結構妄想族なんですが、こちらの妄想できる範疇を超えてくる子もいて、こんなに想像力があるんだなと嬉しく思ったこともたくさんありました。
――最初にアウトリーチ・プログラムについて話し合っていた時も、ただ聴いてもらうだけじゃなくて、子どもたちのアウトプットにも重きを置いていると話していましたよね。
アウトプットよりも「考える前に感じること」を忘れないでほしいと思っています。
私が小学生だった時、感じたことを言うよりも、すごく考えて答えを出していたことが多かったですし、そのことを求められているなと思ったことがとても多かったんです。
「大人はこういうことを言ったら喜ぶだろう」と考えるのではなく、素直に「こう感じました」と回路が直結してくれたらいいなと思って、アウトリーチではどう感じたか演奏の後に尋ねてみたり、絵を描いてもらったりしました。
――お絵描きを実際にしてもらって、その手応えはありましたか?
他の人がどんなことを書いているか見る隙を与えずにやったので、子どもたちはあんな短い時間でもやるしかないという感じでしたし、とりあえず感じたことや思いついたことをわーっと書いてくれました。なので、お絵描きは良い方法だったのではないかと思っています(笑)
――みんな結構戸惑いながらも頑張ってくれていましたよね。
必死でやってくれていましたし、最終的にアウトプットするところまで時間が足りなかった子たちも、やろうと思っただけでも変化があったのではないかと思うんですよね。アウトプットできなくても全然いいんです。そのプロセスを大事にしてほしいです。
――2年目は小学校以外に福祉施設にもアウトリーチに行きましたが、印象的だったことはありますか?
私はずっとヴァイオリンを弾いてきたこともあり、音を出すという行為に一番抵抗がなかったのがヴァイオリンで、歌を歌うのはあまり得意ではなかったんです。でも例えば、今日の総合支援学校でも老人ホームへ行った時もそうだったんですが、皆さんやっぱり歌を歌うのがすごく好きなんだなと思いました。特にコロナになって、歌うことが一番できなくなってしまったので、「一緒に歌いましょう」と言ったら、とても楽しそうに歌っていらっしゃたのが印象的でした。
――たしかに、活動2年目の1ヶ所目が老人福祉施設だったので、すごく印象的でしたよね。
やっぱり歌って、楽器が弾けなくてもみんなができることなので、これだけ人の心が繋がるんだなと、アウトリーチで目の当たりにしてすごく感じたことです。
――皆さんマスクをされていましたけども、なかなか口を開けて歌うことは難しかったので、ハミングで歌ってくださっていたのがとても印象に残っています。
では少し話が変わります、もう少しで第1期3組の活動が終わって、次期登録アーティストの募集が始まります。応募される人へ向けてメッセージをお願いします。
そうですね…京都コンサートホールでは、アウトリーチに行く前に研修などがあるのですが、ここまで手厚く面倒を見てもらえるところはないかと思います。それで逆にキュッと緊張してしまうところはあるんですが、1回経験すると、内容をガチガチに固めなくても、プログラムの道筋をちゃんと立てられると思います。また自分の中で作った「一つの型」について、考えたプロセスやアドバイスしてもらった経験などは、時間や回を重ねる毎に活きてくることがあるんじゃないかと思います。
演奏環境としては過酷ですけどね、寒いところで弾いたりとか・・・(笑)。あと、普通のリサイタルと違って、演奏に全集中できないときもありますし、次に話すことや時間が気になったり・・・でも、そういったことを経験してこそ見つかるものがある気がします。最終的にアウトリーチがライフワークになるかどうかは人によって違いますし、そればかりはやってみないと分からないです。ただ結果がどうであれ、やったことがあるか無いかでは全然違うと思いますし、やってみてよかったなと思う瞬間はきっとあると思います。
なので、少しでも気になっている人がいれば、経験してみてはどうかなと私は思います。
――ありがとうございます。では最後に、3月5日の「最終年度リサイタル」の聴きどころやプログラムの意図を教えていただけますか?
予想外のコロナで、2020年度の一年間、アウトリーチも含めて全く何もなくなった時に思いついたのがこのプログラムです。
漠然と、抗えない力みたいな自然の力や、天からの神様みたいな存在をすごく感じたんですよね。別に宗教にのめりこんでいるとかではなく、それらを表現できるプログラムにしたいと思って、「人と自然」や「人と天」などをテーマに曲を選びました。混沌とした感じとか最終的にコロナを経て人間がどこへ向かっていきたいのか、どこへ向かっていくのか——そういうのを欲望のままに(笑)詰め込んでみました。
――ありがとうございました。最終年度リサイタルを楽しみにしております!
2022年1月、京都コンサートホール事業企画課インタビュー
アウトリーチ担当:中田
★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ
★2022年3月5日開催『最終年度リサイタル』Vol.1「石上真由子 ヴァイオリン・リサイタル」の詳細はこちら。