【Join us(ジョイナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/6)】第1期登録アーティスト*田中咲絵(ピアノ)インタビュー

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京都コンサートホール

2019年度からスタートした「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
京都コンサートホールの第1期登録アーティストが、これまで市内の小学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。聴き手の心に寄り添うお話とプログラムを披露してきたピアニストの田中咲絵さん。これまでのアウトリーチ活動で感じたこと、また最終年度リサイタルへの意気込みを伺いました。ぜひ最後までご覧ください!


――この度はインタビューの機会をいただきありがとうございます。
まずはご自身についてお伺いしたいのですが、ピアノを始めたきっかけは何だったのですか?
5歳ごろから習いごとの一つとして始めました。とにかくピアノを弾くことが大好きで、これまで辞めたいと思ったことは一度もないですね。小さいころからピアニストになりたいと思っていたわけではなく、弾くのが楽しくて続けていたら現在に至るという感じです。

――田中さんは京都堀川音楽高校出身ですが、中学生のころには将来音楽の道に進みたいと決めていたのですか?
周りの友達は小さいころから音楽高校を受ける準備をしていたのですが、私はそんなことはなく…。中学3年生の時に、京都堀川音楽高校のスクールガイダンスのポスターをたまたま見かけたので参加したら、すごく楽しくて!ピアニストになりたいというよりは、音楽の勉強が楽しそうだったから受験しました。それだけで受かるようなものではないのですけれど、当時師事していた先生がソルフェージュなど試験に必要なことを教えてくれていたおかげで、無事合格しました。

――高校卒業後は、京都市立芸術大学に進学されたのですよね。
芸大に進学した時もソロでバリバリ弾きたい!とは考えていませんでした。ピアノを弾きながら音楽を教えたりするような仕事に就きたいと思っていたので、ちょうど今やっている活動に繋がっていますね。

2022年1月 京都コンサートホールにて

――次はアウトリーチについてお聞きしたいのですが、そもそも「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」のことはどのように知られたのですか?
ホームページで見かけ、気になっていました。その時、京都コンサートホールの方からもこのお話を聞いて、まずは説明会に参加してみました。

――これまで小学校にアウトリーチ活動などに行った経験はあったのですか?
全くありませんでした。病院などは伴奏として訪問したことはありますが、小学校は初めてだったので、本当に未知の世界でした。また、アンサンブルやデュオではなく、ピアノひとりでやっている現場は見たことがなかったので、私にとっては冒険でした。

――ピアニストはひとりで現場を仕切らなければならないですもんね。
アウトリーチはホールでの演奏会と違って、音楽が好きな人だけが集まっているわけではないので、聴き手の心をもみほぐして音楽の楽しみをひも解いていけるようなプログラミングがとても大切ですよね。田中さんはどのようにプログラムを組み立てたのですか?
めちゃくちゃ大変でした…!まず研修会があったのですが、はじめは自分が何を伝えたいのか、またどのように組み立てていけばよいかも分からずで、スタッフの皆さんの助けがあって、ゼロの状態からなんとか創り上げることができました。出てきた曲の中からこういう道筋が立てられるのではないか、という進め方をしたと思います。
最初は視覚的にピアノの楽器自体に興味を持たせて、次は耳を使って音の特徴を最後まで聴いてもらう。五感を使って音に触れてもらった後、入ってきた音から風景を描いて想像を膨らませ、最後は作曲家の気持ちに寄り添って曲を聴いてもらう――色々な感じ方をしてほしいなと思って、プログラムを組み立てました。同じように聴いているけれど、人によって感じ方が違うということがアウトリーチで一番伝えたかったことです。

――田中さんのプログラムは、とても練り上げられた内容だなといつも思っています。アウトリーチではトークも大切ですが、いままでお客さんの前で話す機会などはあったのですか?
演奏会で曲の説明を簡単にすることはありましたが、話の道筋を意識してトークをすることは初めてでした。聴き手の人たちとコミュニケーションを取って、こう返答がきたらそれを生かしてこういう声かけをしようとか意識をする必要がこれまでなかったので、初めは苦労しました。言葉選びも難しく、私の一言で聴き手が傷ついたりしないかな、など気を遣いましたね。

――2019年度と2021年度の2年間(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響により活動休止)で合計20か所、アウトリーチ活動で学校や福祉施設を訪問しましたが、そのなかで一番印象に残っているシーンを教えてください。
最初に訪問させていただいた京都女子大学附属小学校ですね。ピアノの周りに集まって内部を覗いてもらうコーナーで、弾き終わった後にバアッと拍手が沸き上がったのが印象に残っています。私も、人が弾いているピアノの中を覗き込むことってないですし、アウトリーチならではの経験をしてもらえたかなと思います。
また、私のプログラムには、いわゆる「名曲」を入れていないので、みんなが知っているような曲は少ないと思うのですが、それでも自然と体を動かして聴いてくれることに驚きました。小学校へアウトリーチに行くので、聴き馴染みのある《子犬のワルツ》とか《キラキラ星》などを入れた方がよいのかなと思っていましたが、内容と道筋さえきちんと考えていれば、どんな曲でも楽しんでもらえるのだな、という発見がありました。この経験がなければ、今後小学校などに訪問するような機会があっても、名曲づくしのプログラムにしていたかもしれません。

2019年 京都女子大学附属小学校にて

――小学校で演奏されているプログラムのなかで一番反応が印象的だった曲は何ですか?
ドビュッシーの《花火》ですね。曲を聴く前と聴いた後、それぞれが思い描いた花火のイメージをみんなに質問するのですが、打ち上げ花火!と思っていたのが全然違うイメージの花火だったなど、子どもたちに意外性があるみたいです。あのような曲調でも集中して聴いて、曲から連想するイメージを一生懸命考えてくれるのは嬉しかったです。
あと小学生からいただくお手紙で、隠れファンが多いのがベートーヴェン。私が小学校で演奏しているピアノソナタ第18番では、ベートーヴェンの耳が聴こえなくなり始めた時期に作られた曲なのに、とても明るく前向きな曲になっているというトークをいつもしています。その内容をお手紙に書いてくれる子どもたちが多く、よく覚えていてくれているなあとびっくりでした。

――たしかに、子どもたちからのお手紙を読んでいたら、こんなに鮮明に内容を覚えてくれているのだと驚きますよね。
この2年間、登録アーティストの活動を振り返っていかがでしたか。田中さんは今後も京都を拠点に活動されていく予定ですか?
そうですね、関西圏で活動を続けていきたいです。もし登録アーティストに採用されていなかったら、京都で活動できていなかったと思います。自分でプロデュースして企画しないとなかなか演奏会はできないですし、そういう意味で演奏できる場所を提供してもらったというのはありがたかったですね。また、普段は関西圏でピアノを教える活動もしているので、午前中はアウトリーチに行って、午後は自分の方の活動も平行できるのも魅力でした。京都に根付いたアウトリーチ活動ならではだと思います。この経験を糧に、今後も自分の活動を継続しつつ、ピアノを弾き続けていきたいと思います。

 

――では最後に、最終年度リサイタルについてお伺いします。
今回披露される4曲は、これまで田中さんの心の栄養となった曲を選ばれたと聞きました。それぞれの曲への想いを教えてください。
はじめにベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」をお届けします。実はこの曲、昔はあまり弾きたいと思ったことがなかったのですが、ちょうどコロナが一旦収まった時期に出かけた演奏会で聴き、こんな良い曲だったのかとあらためて気が付いて急に弾きたい!!と思うようになったのです。私自身久しぶりに演奏を聴いて感じ方が変わったのか、そのインスピレーションを大切にしたいなと思って選びました。自分なりに解釈をもっと深めて、リサイタルに向けて準備を進めたいと思います。

――そしてドビュッシーの《版画》、ショパンのポロネーズ第6番「英雄」と時代の違う作品が続きますよね。
ドビュッシーは子どものころからずっと好きで、折にふれて演奏してきた作曲家です。なぜこの《版画》かというと、最近、曲のはじまりの音色使いに惹かれることが多く、「テンペスト」からいい感じに繋がるかなと思って選びました。昔から弾きたいと思っていたのでどうしても入れたかったというのもあります。ショパンの「英雄ポロネーズ」はもちろん大好きな曲なのですが、前半のアンコール要素として選曲しました。全体的にしっとりした曲が続くので、アクセントとして聴いてほしいです。

――そして最後はリストのピアノソナタという大曲で締めくくりですね。
この曲は昔から憧れの1曲です。リストは、「超絶技巧!華やか!聴いている人が失神した!」など伝説的なエピソードがありますが、晩年は聖職者となり、宗教的な道に進んでいきます。なにか一つを信仰するというのは人間的だなと思うのですが、このソナタは、一見華やかなリストとは異なる、生身の彼自身が垣間見える気がしました。それを自分なりに挑戦して表現したいと思います。中高生のころまでは、作曲家って歴史上の人物のように感じていたのですが、最近なぜか身近に感じられるようになってきました。それぞれの人たちがどういう風に過ごして、どういう想いで曲を書いたかということに寄り添いながら自分も演奏できたらいいなと思います。

――リサイタルには、アウトリーチで訪問した小学生たちも来てくださると思います。どのようにコンサートを聴いてほしいですか?
まずベートーヴェンはアウトリーチで届けた曲(第18番)と同じ時期に作られた曲です。耳が聴こえなくなる時期でも、こんなに曲調が違うのだということも感じ取ってもらえたらなと思いますね。ドビュッシーは、小学校では1曲しか弾いていませんが、今回のリサイタルでは3曲続く曲なので、それぞれ題名をみて想像を膨らませてほしいなと思います。ショパンは単純にカッコ良さを感じてほしいです!最後のリストは難しいかもしれませんが、長編映画を観るような気持ちで見てもらえたら嬉しいです。

――では最後に、来てくださるお客さまに向けてメッセージをお願いします。
いま私が最もお客様に聴いていただきたい作品が並んだプログラムになりました。前半後半でそれぞれのカラーを楽しみつつ、私の想いを聴き手の皆さんと共有できる演奏会にしたいと思います。

――お忙しいなか、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。登録アーティストの活動もあと1カ月となりました。最終年度リサイタルを楽しみにしています!

 

2022年1月、京都コンサートホール事業企画課インタビュー
アウトリーチ担当:陶器


★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us ジョイ ナス !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

2022年3月6日開催『最終年度リサイタル』Vol.2「田中咲絵 ピアノリサイタル」の詳細はこちら