2019年度からスタートした「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
オーディションで選ばれた、京都にゆかりのある若手音楽家3組が、「京都コンサートホール 第1期登録アーティスト」として、2019年度と2021年度の2年にわたり、市内の小中学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。
さて、京都コンサートホール 第1期登録アーティストとしての活動もいよいよ終盤に入りました。
ヴァイオリン(上敷領藍子)とヴィオラ(朴梨恵)のデュオ DUO・GRANDE(デュオ・グランデ)は、3月21日に最終年度リサイタルを開催します。
2年間の集大成を皆さまにご披露するべく、リサイタルに向けていつも以上に気合が入る2人。
そんなDUO・GRANDEから、京都コンサートホール登録アーティストとして活動した日々や今後の夢など、様々なお話を聞いてみました。
ぜひご覧ください!
――上敷領さん、朴さん、こんにちは。今日はDUO・GRANDEにまつわる、色々なお話をお二人からお伺いできればと思います。それではまず、DUO・GRANDEがどのように結成されたか、教えていただけますか。
上敷領藍子さん(以下、敬称略):私たちは幼い頃から、京都にお住まいのヴァイオリニストである田渕洋子先生にご指導いただいていました。
私は小学校低学年の頃から、(朴)梨恵ちゃんは中学生の頃からだったかな?
その頃は一緒に演奏したり、特別な交流があったわけではなかったし、高校も大学も留学先も一度も同じになることはありませんでした。でも、ずっと連絡は取りあっていたのです。
2016年に私が留学先のオランダから帰国した時、梨恵ちゃんもちょうど同じ頃に留学していたドイツから帰国したんですよね。その2年後、梨恵ちゃんから「京都コンサートホールでアウトリーチ事業が始まるみたい」と連絡をもらい、「子どもたちに音楽を届ける活動に挑戦してみたいね」と話をする中で、2人で京都コンサートホールの「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」に応募させていただくことになりました。
――お二人は同学年ですか?
上敷領:はい、同学年です。
――幼馴染ではあるけれど、上敷領さんは高校時から上京したり、留学先が異なったりして、お二人は決して近いとはいえない関係でしたよね。どうして「この人とデュオを組もう」と思ったのですか?
朴梨恵さん(以下敬称略):私たちが大学生の頃、イタリアの音楽セミナーで偶然一緒になり、1, 2週間の間、同室で共に生活をした経験があるのです。それをきっかけに一層仲良くなり、お互いの記憶の中で印象的だったのだと思います。
私も藍子ちゃんも、初めてのイタリアだったんですよね。
余談ですが、イタリアのトイレには「ビデ」という洗浄器が便器と並んで設置してあるんですよ。私はそれとは知らずに、その丸い白い陶器の上でいつも洗濯をして、なんと時折つけ置き洗いもしていました……。言い訳ですが、綺麗なホテルだったから、ビデもピカピカだったんです。
藍子ちゃんもその役割を知らなくて、私と一緒に「これはなんだろうね」って言っていました。
講習会半ばも過ぎた頃、仲間が部屋に来てその洗濯物見て大笑い!私たちも事情を知って、笑い転げた記憶があります。藍子ちゃんとは、とにかくずっと笑っていましたね。
上敷領:ご縁があって本当に良かった。
――「DUO・GRANDE」の名付け親はどちらですか?
朴:(上敷領)藍子ちゃんですね。
上敷領:そうだ、私がつけたんだった。その時、私は何かに名前をつけるのがすごく好きだったんですよ。「DUO・GRANDE」という名前には、「2人の活動がこれからも広がっていきますように」という願いがこめられています。
「DUO・GRANDEはどう?」と梨恵ちゃんに聞いたところ「皆さんに覚えてもらいやすい名前だからいいね」と言ってもらえました。
――なるほど。確かに覚えやすくて、発音しやすいですよね。
先ほど「子どもたちに音楽を届ける活動をしたい」と仰っていましたが、どうしてそのように考えるようになったのですか?
朴:私は、コンサートにご来場くださるお客様の年齢層をもっと幅広いものにしたいと思っていました。ドイツでの音楽活動をする中で、大いに共鳴したことの一つです。新しい世代をホールに呼び込む試みや努力をたくさんしていて。それを目の当たりにして、「日本でも絶対に必要なことだな」と思ったのです。
そういうことを考えていた矢先に、京都コンサートホールの「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」の企画が目に止まりました。
上敷領:私は子ども向けのコンサートを開催した経験はあまりないのですが、小さな子どもにヴァイオリンを教える仕事をちょうど始めた頃でした。レッスンを通して子どもと触れ合ううち、自分が思っていたよりも自然に子どもたちと親しくなれることに気付いたので、“音楽を介して子どもとの距離をもっと縮めたいな”とぼんやり思っていましたが、具体的にどうしたら良いか、アイディアがありませんでした。
そういう時期に、梨恵ちゃんがアウトリーチ事業について声をかけてくれたので、すごくタイムリーでしたね。
――2019年度と2021年度の2年間で、およそ20のアウトリーチ公演を実施してきたお二人ですが、実際に京都の子どもたちと触れ合って、どのようなことを感じられたり、気づかれたりしましたか?
朴:私自身、京都で生まれ育った、根っからの京都人です。幼い頃から京都で音楽を学んできました。京都市内の小学生って、授業の一環として、必ず一度は京都コンサートホールに行って、音楽鑑賞をするんですよね。京都市交響楽団の演奏であったり、パイプオルガンコンサートであったり、そうやって、京都でクラシック音楽の恩恵をたくさん受けて育ってきたという感覚はなんとなく持っていました。
しかし今回、実際に自分が京都コンサートホールの事業に携わり、様々な人々にクラシック音楽を届ける中で、京都市が市民に対して文化芸術をいかに浸透させようと努力しているかという、いわば「裏側」を見た気がしました。
そのおかげで私たちは、子どもの頃から質の高い音楽を吸収することができていたんだなと、あらためて思いました。
上敷領:この2年間、色々な学校を回りましたが、自分たちの音楽が子どもたちにどのような影響を与えているかということを、本当に間近で、肌で感じることができました。このような活動は、DUO・GRANDEの2人の力だけでは決して実行できなかったと思います。京都コンサートホールが動いてくださり、私たちと学校をつなげてくださったことに、本当に感謝しています。
――自分たちの音楽が、京都の子どもたちにダイレクトに届いているという実感はありましたか?
上敷領:ありました!自信を持ってそう言えます。伝えたいことが伝わったかどうかということはさておき、自分たちの音楽を子どもたちが身体全体で受け止めてくれていることはすごく感じました。
――お二人が音楽を通して子どもたちに伝えたかったことって、どんなことでしたか?
上敷領:ヴァイオリンとヴィオラのデュオ作品って、ほとんどの人が「聴いたことのない曲」なんですよね。1度も聴いたことのない曲を45分間も聴くって、なかなか難しいことだと思います。それを楽しいと感じるためには、どのような観点で鑑賞すれば良いか、子どもたちに考えるきっかけを伝えたかった。それを第一に考えながらプログラミングをしてきました。
朴:プログラミングは本当に難しかったです。“捻り出した”と言っても良いくらい、産みの苦しみを味わいました。巷ではよく「クラシック音楽は難しい」と言われますが、子どもたちにはそう思ってほしくなかったんですよね。クラシック音楽に限らず、何でもそうだと思うのですが、興味を持つことができれば、その難しさは面白さに変わっていくでしょう。
上敷領:私たちのプログラムには、ジョン・ウィリアムズの《デュオ・コンチェルタンテ》の第3楽章を最後に入れているのですが、正直言って、私たちも最初にこの作品を聴いた時「なんだ、この不思議な曲は」と思うほどの現代作品なんですよ。
でも、クラシック音楽に対してまっさらな状態の子どもたちが、この曲をどのように受け止めるか、非常に興味がありましたので、思い切ってプログラミングしてみました。
実際に子どもたちの前でこの曲を演奏したのですが、アウトリーチ公演が終わった直後に、私たちのもとに駆け寄ってきて「面白い曲やった!」と言ってくれたのです。子どもたちはこちらが思っている以上に、純粋に音楽を聴いてくれるのだなぁと思った瞬間でした。
――お二人が2年にわたりアウトリーチをされた中で、今でも印象に残っている場面がありましたら教えてください。
朴:それぞれの学校で色々な反応をしていただくのですが、特に私たちが「魂柱(円柱状の小さなパーツ。弦~駒~表板~裏板へと音の振動を伝える重要な役割を果たしており、表板と裏板の間に挟まれるような状態で取り付けられている)」が楽器の中にあるよ!という話をする時が一番楽しかったですね。
実際に、ヴァイオリンやヴィオラの中を見せて、小さな魂柱を見つけた時の子どもたちの「わぁ!」みたいな表情は、いつ見ても楽しいです(笑)。
上敷領:子どもたちのリアクションって本当に素直で表情豊かなんですよね。
――確かに、そういった子どもたちの反応を近距離で見ることができるっていうのは、アウトリーチの醍醐味でもありますよね。
朴・上敷領:本当にそう思います。
――DUO・GRANDEとしての今後の活動については、どうお考えですか?
朴:この3年間、藍子ちゃんとDUO・GRANDEを通して、とても濃い時間を一緒に過ごすことができました。普段、私は室内楽を積極的に行っていますが、1人の奏者とこれだけ密に会話をしたのは初めてかもしれません。
音楽活動だけではなく、これからの人生を考えてみた時、藍子ちゃんは私にとって重要な人になるんだろうなと思います。
今回のリサイタル(3月21日)のプログラムを藍子ちゃんと一緒に考えた時、「これからもDUO・GRANDEとして活動していくことができるね」というくらいに、ヴァイオリンとヴィオラのデュオ作品に出会うことができました。
ですので、今後も彼女と一緒に演奏する機会を作っていくことができれば、と考えています。
上敷領:DUO・GRANDEとして活動する中で感じたことなのですが、そもそも、ヴァイオリンとヴィオラという組み合わせで演奏活動をしているデュオってなかなかいないんですよね。
おそらく、がっつりとこの編成で活動しようと思うと、ある意味、とことんお互いの関係性を掘り下げていかないと難しいでしょう。そうでなければ、演奏のクオリティを上げていくことも難しくなっていきますから。
また、たった2本の楽器で演奏しなくてはいけませんから、当然、一人ひとりの技術や音楽性が重要になってきます。
そういった意味で、一筋縄ではいかない組み合わせのデュオです。
ですので、私たちはこの組み合わせのデュオの“パイオニア”になれると良いなぁと思っています(「ちょっと大きなことを言い過ぎたかな」、と一同笑い)。
――子どもたちに対する活動も続けていかれるのですよね?
上敷領:はい、アウトリーチ活動を経験したことで、コンサートを企画する際にいつも「子どもたち」のことを考えるようになりました。
朴:音楽を知らない人たちに音楽を知ってもらう、ということが私たちの使命だと思っています。
――それでは最後に、3月21日のコンサートにお越しくださるお客様に向けて、メッセージを頂戴できますか。
朴:「なんか面白かったな」「こんな演奏会、聴いたことがない!」と思っていただけるようなプログラムになっています。
お客様を異空間に誘う、そんな特別な時間になると思いますので、楽しんでいただけましたら嬉しいです。
上敷領:素晴らしい音響を持つアンサンブルホールムラタで、ヴァイオリンとヴィオラのデュオを生でお聴きいただく機会はなかなかないと思います。
今回はヴァイオリンとヴィオラのために書かれた、オリジナルのデュオ作品だけをプログラミングしています。
DUO・GRANDEの2人でこだわり抜いたプログラムですので、私たちの演奏を聴きに京都コンサートホールにお越しください!
――とても貴重な演奏会になりそうですね。私たち、京都コンサートホールのスタッフとしても、お二人が登録アーティストとして活動してくださった2年間の締めくくりが素晴らしい時間になるよう、全力でお手伝いさせていただきます。
今日は色々なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。演奏会当日を楽しみにしています。
(聞き手:高野裕子 京都コンサートホール プロデューサー)
★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ
★2022年3月21日開催『最終年度リサイタル』Vol.3「DUO・GRANDE」の詳細はこちら。