オルガニスト 大平健介&長田真実 インタビュー<後編>(2022.2.26オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69)

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京都コンサートホール

国内最大級のパイプオルガンを気軽に楽しんでいただくシリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。Vol.69では、いま注目のオルガニストである、大平健介と長田真実を迎え、それぞれのソロからオルガン・デュオまで、2人のこだわりが詰まったプログラムをお届けします。

公演へ向けてお二人にインタビューを行い、本ブログにて2回に分けてお届けしております。後編では、パイプオルガンの魅力と今回のコンサートについてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

オンライン取材の様子

◆パイプオルガンの魅力

――前編では、お二人のオルガンとの出会いや、ドイツでのオルガン事情についてお話いただきました。次は、お二人が思うオルガンの魅力についてお伺いできますでしょうか。

大平:パイプオルガンは一つとして同じ楽器がなく、個性を非常に感じます。新しい楽器と出会うたび、対話をしながら音色を作って演奏をするのですが、楽器によってキャラクターが全然違いますので、それぞれに名前をつけたくなるほどです。その場所にあるオルガンと出会ってどう対話を繰り広げるか――そんな一期一会の出会いをお客さまにもぜひ楽しんでいただきたいと思います。

長田:日本のオルガンのほとんどはコンサートホールに入っていて、その大きさゆえに建物や空間の一部として色んな装飾がなされていることが多いです。ですので、建物と空間、そして音が一体となって、視覚的にも聴覚的にも楽しめる楽器だと思うんです。オペラやバレエのように「総合芸術」といいますか、見て楽しんで、聴いて楽しんで、そして空間全体から自分に降り注いでくる音に包まれて・・・普段そんな大きな音にずっと包まれるという時間はなかなかないと思います。耳を澄まさないと聞こえないくらい小さい音もあるんですが、スケールの大きな音を非日常的な空間で体感できるというのは、コンサートホールという大きな空間で聴くオルガンの魅力だと思います。

あとオルガンは、何十年もずっとその場所に佇んで、ホールの歴史を見ています。私はオルガンが設置されている会場に入ると、そういった歴史を感じると共に、それまで企画されてきたコンサートや演奏されてきたアーティストなどによく思いを馳せています。同じ空間に来てくださったお客さまも、そこにしかない楽器が今まで大切に愛されてきた歴史を一緒に感じながら、音楽を聴いていただければと思います。

――私たちの「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」は、京都コンサートホールが開館した翌年から始まったシリーズで、市民の方をはじめ、いろんな方の支えがあって、今年度で25年を迎えることができました。楽器や歴史を大事に考えてくださっているお二人にこのシリーズにご出演いただけることをとても嬉しく思います。

 

◆今回のコンサートについて

――さて次は、今回の演奏会についてお伺いしたいと思います。まずコンサート前半はそれぞれ長田さんと大平さんのソロを、休憩後は連弾と再びお二人のソロを演奏していただきますが、今回のコンサートの聴きどころをお話いただけますでしょうか。

大平:今回のコンサートでは、オルガンの新しい魅力を伝えたいと思っています。
例えばメンデルスゾーンのオルガン作品といえば、「オルガン・ソナタ」や「前奏曲とフーガ」がよく知られていますが、彼自身がオルガニストだったこともあり、オルガン以外の作品でもオルガンに合うんです。実際に僕の先生でもあるクリストフ・ボッサートさんが、メンデルスゾーンのピアノ曲を全曲オルガンに編曲されたのですが、聴いていてとても自然で素晴らしい編曲なので、是非とも紹介したいと思い、今回プログラムに入れました(前奏曲とフーガ 作品35-6)。
同じような考え方で、今回演奏するメンデルスゾーンの《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の楽譜を見ると、オーケストラ作品なのにまるでオルガン曲のようで、レジストレーション(オルガンの音の組み合わせ)がすぐに浮かんでくるんですよね。今回は、私自身の編曲でお届けします。

また今回のプログラムは、他の楽器のために書かれた曲からの編曲が多いので、オルガンファン以外の方にも楽しんでいただけると思っています。例えばサン=サーンスの《動物の謝肉祭》や《死の舞踏》など、親しみのある曲だけでなく、ピアノファンやオーケストラファンの皆さまにはお馴染みの曲など、スパイスをちょっと加えています。
もちろんオルガンファンの方々にも楽しんでいただけるように、サン=サーンスやレーガーなどによるオルガンのオリジナル作品もプログラミングしています。

いずれもオルガンがよく鳴るような曲をチョイスしていることが今回のポイントです。


大平さん編曲による《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の演奏動画

――ちなみに今おっしゃったメンデルスゾーンの「宗教改革」について、音色を組まれる時(レジストレーション)はオーケストラの原曲のイメージに近づけるようにされますか?それとも、編曲された楽譜からオルガンのオリジナル作品と考えて音色を作られますか?

大平:両方ですね。例えば曲の冒頭はフルートソロから始まって、段々と管楽器が増えて、チェロやコントラバスが入ってきますので、それぞれの楽器のイメージで音を足していこうと思っています。もしかしたら原曲のイメージで音を作れるのは、90もの多くの音色を持つ京都コンサートホールのオルガンだからこそできるのかもしれません。また、京都コンサートホールにしかない邦楽器の音色を使うのもいいかもしれませんし、弾くオルガンによって音色を変えます。
ただこの曲の中間部では、オルガンをしっかりと鳴らしたいので、原曲のオーケストレーションも大事なのですが、実際に弾くオルガンが一番のびのびと歌えることを大事にしたいと思っています。
なので、原曲と弾くオルガンの個性を見て、それぞれから良いところを取りながら音を作っていこうと思います。

京都コンサートホールのパイプオルガン(ドイツのヨハネス・クライス社製)

――ありがとうございます。今回のプログラムを見ていると、前半はドイツ音楽で、後半はサン=サーンスの作品が並んでいますね。

長田:京都コンサートホールのような大きな空間で演奏するので、色んな音をオルガンから引き出してホール全体を鳴らしたいと思い、私たちが好きなバロック音楽からロマン派の作品をプログラミングしました。

 

――冒頭に演奏していただく作品ですが、バッハのオルガンのためのオリジナル作品ではなく、敢えて《平均律クラヴィーア曲集》の編曲を選ばれたのは、オルガンの新しい魅力を知ってもらいたいということでしょうか。

大平:そうですね。今回冒頭に演奏する《平均律クラヴィーア曲集第2集》より〈前奏曲 ニ長調〉は、同曲集の中でもオルガンで弾いたらとてもカッコいい作品の一つです。そもそも「クラヴィーア」というのは、鍵盤楽器全般を指しているので、チェンバロでなくてもいいですし、オルガンで弾くとオーケストラで弾いているようにも聴こえるんです。そういうオーソドックスに見えて、実は面白い作品を僕たちはご紹介していきたいと思っています。

 

――前半には、ヴァメスというあまり耳にしない作曲家の作品もありますね。

大平:はい、そうなんです。先ほどお話したように、僕たちはどの演奏会でも、少しでも新しいオルガンの魅力を伝えたいという思いがベースにあります。
例えば、日本では、バッハのオルガン作品全曲演奏会や《トッカータとフーガ ニ短調》、〈主よ、人の望みの喜びよ〉が好まれ、よく演奏されますよね。本格的に大きなパイプオルガンが設置され始めた1970年代くらいから、そういった状況はあまり変わっていません。でも世界に目を向けると、実に様々な作品が演奏されています。それは、オルガンのための新しい作品が今も絶えず誕生しているからです
今回は1曲だけですが、オランダのアド・ヴァメスさんが1989年に作曲した《鏡》という、鏡に写る光の反射の美しさを描いたような作品を入れました。

長田:あとは、私たちのオルガンに対する理想の響きを、今回のプログラムで実現したいと思っています。いろんなところを回って弾いて聴いてきた私たちが、今やりたい曲を詰めこんだプログラムとなっています。

 

――私たちもこのプログラムを頂いた時、今まで見たことのないプログラムだと思いましたし、お話を聞いて納得しました。ピアノやオーケストラのための作品をオルガンで聴いていただいて、お客さまにオルガンの新しい魅力を知っていただけるチャンスになればいいなと思います。
プログラム後半でご
披露いただくオルガンの連弾は、あまり聴く機会がないので新鮮で楽しみです。

長田:オルガンには音色を使い分けるためにたくさん鍵盤があります。一人では3段以上を一度に弾くことができませんが、二人いることで色んなパートを弾けますので、演奏の幅が広がります。

大平:最近では、パリ・ノートルダム大聖堂のオルガニスト オリヴィエ・ラトリーさんや、パリ国立高等音楽院で教授を務めていたミシェル・ブヴァールさんなどが、奥さまと一緒に連弾をされています。夫婦くらいの近い関係でないと、連弾は難しいのかもしれません。
また、連弾をする際は、楽器も重要になってきます。二人でパイプオルガンを演奏する時は、一人で演奏する時よりもオルガンに送る風量が必要になるのですが、そういった風量を補える楽器で演奏すると、連弾の可能性がぐっと拡がります。その上で、お互いの音楽的な感覚が一致すると、さらにその可能性は拡がっていきます。今後、連弾の面白さをどんどん開拓していきたいと思っています。お客さまには連弾の可能性を楽しんでいただけましたら嬉しいです。

長田:あとはエンターテインメント的な要素を感じますね。二人で弾いていると、一人で演奏している時よりも楽しめていると感じます。お客さまからしても、二人で弾いている様子は、見ていても楽しいのではないかなと思います。

オンライン配信もされた公演での連弾の様子(2021年12月、サントリーホールにて)

――たしかに以前お二人の連弾の様子がオンライン配信されているのを拝見して、すごく楽しそうだなと思いました。
色々とお話してくださってありがとうございました。コンサートを楽しみにしております!

 2021年12月事業企画課インタビュー(Zoomにて)


★インタビュー記事の前編はこちら

★オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール“大平健介&長田真実」(2/26)の公演情報はこちら