フォーレに捧ぐ特別インタビュー④ 田原綾子さんインタビュー(後編)

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アンサンブルホールムラタ

11月10日(日)開催「フォーレに捧ぐ――北村朋幹×エール弦楽四重奏団」では、国内外で活躍する若手トップ奏者たちが、フォーレの傑作を披露します。

公演に向けて、エール弦楽四重奏団(以下「エールQ」)のヴィオラ奏者である田原綾子さんへのインタビューを敢行。前編では、田原さんとヴィオラの出会い、そしてフォーレについてお話いただきました。後編では、共演するエールQと北村さんについて伺いました。

――これまで、田原さんご自身のこと、そして今回演奏していただくフォーレについてお話伺いましたが、今度はエールQについてお聞きします。

エールQのメンバーは、皆それぞれソリストとして活躍し、住んでいる場所も違うため、集まる機会は少ないと思います。メンバー3人についてご紹介いただけますか?

田原:えー、なんだか改めてだと恥ずかしいですねー(笑)

まず山根君は、たしか、私が小学校6年生の時、河口湖でのセミナーで初めて出会いました。やんちゃで、憎めない感じの男の子だったのですが、当時から天才肌で、私とは全然違うところにいる人だなぁと思っていました。すごく華があって、「こういう人いるんだなあ」って出会った瞬間に思っちゃいました。私は本当に不器用な人間なので(笑)。

昔からとても恵まれた環境にいさせてもらっていたのですけど、ぱっと弾ける方ではなく、ちゃんと練習しないと弾けないタイプでしたので、山根君は本当に凄いなと思っていました。何より山根君の持っている、音楽に対する愛情や想いなどは、彼にしかない強さや鋭さだと思います。私たちにとって、山根君は大切なヴァイオリニストです。

――同じ弦楽器奏者でもいろんなタイプの方がいますね。毛利さんはどうでしょうか。

田原:毛利さんは通っていた音楽教室が同じで、弦楽アンサンブルで同じクラスになって以来ずっと一緒で、本当に大事な友人です。彼女とはよく一緒に弾いていて、なんと言いますか、もうカルテットのメンバーは全員そうなんですけど、家族みたいな感覚です。演奏していても普通に一緒にいても、考えていることがなんとなく分かります。まぁ向こうがどう思っているか分からないですけどね(笑)。

多分彼女には、私の思っていることは全部バレていると思います。よく「分かりやすい」って言われていますし。一緒にいて本当に居心地が良いです。実家も割と近くにあるのですが、そういったところも含めて、何でも話せる仲だと思っています。毛利さんはすごく大人で、常に上を目指している人なので、彼女がいてくれていたからこそ、私は今まで頑張ってこれたんだと思います。

――何でも話せる存在って大事ですし、そういうところは演奏にも出ますよね。

田原:チェロの上野君は、エールQで初めて出会いました。彼は昔から有名な存在で、名前はもちろん知っていたので、まさか一緒に弾くことになるとは思いもしませんでした。私は彼のファンでもあるので、一緒に弾くだけで嬉しいですし、音の受け渡しをしただけでちょっと嬉しくなっちゃいます(笑)。
そういう話を山根君にすると「なんで上野には甘いんだ、僕には全然優しくしてくれない」って言われちゃうんですけど、しょうがないですよね、そういうものなんです(笑)。

上野君はもともと無口なタイプなんです。例えば4人で弾いていて「ここの部分はどう弾く?」ってなった時は、だいたい山根君が「こう思うんだけど、どうかな?」と言ってやってみます。だた、みんなで行き詰まった時に上野君が「ここはこうしてみようか」とパッと提案すると、すんなりまとまることがあるんです。女性同士もそうなのですが、山根君と上野君も非常に信頼し合っているのがよく分かります。

本当にかけがいのない、良い仲間に出会えたと思っています。彼らがいなかったら、私はヴィオラを弾いていなかったでしょうから。

――聞いているだけでも楽しそうですね。田原さんにとってエールQはヴィオラの原点でもありますよね。

田原:そうなんです。なのでメンバーには頭が上がらないですね。

(C)Hideki Shiozawa

――以前、エールQの公開リハーサルを見学したことがあったのですが、本当に楽しんで演奏している様子が伝わってきました。今度演奏されるフォーレのピアノ五重奏曲は、それぞれに高度な技術が求められますが、それ以上にお互いの音楽性や方向性といったものを合わせる必要がありますよね。ですので、田原さんがメンバーについてお話される内容を伺って、今回のプログラムはエールQにぴったりだなとあらためて思いました。

田原:本当にそう思います。いま、みんなで集まる機会ってなかなかなくて、久しぶりにメンバーに会うとそれぞれの変化が手に取るように分かります。
ただ、不思議なのですが、そうやって久しぶりに会って一緒に演奏しても、「あぁ、この感触・・・!」ってなるんですよね。
こんなふうに思える人たちがいるっていうのはありがたいことだと思います。カルテットの活動を続けるのって本当に難しいのですよ。よくメンバーチェンジもしますしね。

前に毛利さんと「私たちはカルテットという名前だけど、多分『カルテット』じゃなくて『ファミリー』なんじゃないかな」という話をしたことがありました。すぐに恥ずかしくなって「自分たちでなに言っちゃってるんだろうね」ってなったんですけど(笑)。
「カルテットを組んでいるから」と言って、無理に集まるのも「少し違うね」という話もしていました。目の前のことだけではなく、ずっと繋がっていられるように長い目で見るというか。それに、私たちはたとえ半年ぶりでも昨日も会った感じで、自然に集まることが出来るので。

今回、エールQとして弾かせていただくのは、なかなか久しぶりな感じがするのですが、メンバーみんながベストコンディションで集まることが出来たら良いなと思っています。

――エールQは、「組んでいないから解散のない」カルテットだと耳にしたことがあります。

田原:はい。「組みましょう」と言って組んだカルテットではなく、「気が付いたら集まっていた」カルテットです(笑)。メンバー全員が、エールQで室内楽を始めました。私たちの原点ですよね。友達と一緒に音楽を作るのも初めてでしたし、長いリハーサルもこなして、そのあとはみんなでご飯を食べに行って・・・。いわゆる「青春の1ページ」と言っても良いと思います。高校生の時の話です。
いまは少し年を重ねてきて、それぞれが色々なことに取り組み始めてきたので、「仕事」というものがどのようなものか分かってきた気がします。だからこそ、エールQは本当に純粋に音楽でつながっている仲だということをあらためて感じるんです。
こういう仲間は欲しくても出来るものではないし、巡り合わせですよね。本当に運が良かったんだなと思います。

――たしかに、最初に室内楽をやろうと言ったメンバーでずっと一緒にできるって幸せですよね。なかなか珍しいですよね。

田原:そうですね、本当に「ご縁」だと思います。あと、多分どのカルテットもそうなんじゃないかなと思うんですけど、メンバーそれぞれが大事にしている本質的なものが非常に近いというか、そこも良かったんだろうなと思っています。

カルテットって面白くって、例えば、4人いるうちの3人が同じメンバーだったとしても、たった一人が入れ替わっただけで全く別のグループの音になってしまいます。それくらい、カルテットは繊細で面白いもので、奥深い世界だと思います。そこにピアニストが入ると、4人だけで出来上がっている世界を広げてくれる。きっと北村くんなら、さらに広げてくれるような気がするので今から本番がすごく楽しみです。


共演する北村朋幹さんについて


――今回共演するピアニストの北村朋幹さんとは以前からお知り合いでしたか?

田原:北村君と私は以前、それこそフォーレの《ピアノ五重奏曲第2番》を一緒に弾いたことがあります。さらに、エールQと北村君の組み合わせでは、ブラームスの《ピアノ五重奏曲》を演奏したことがあります。北村君の演奏を聞かせてもらったり、一緒に弾いていると、あんなに命を削って音楽に向き合っている人はいないだろうと思います。すごく自分に厳しい人なので、『(自分の甘さに反省しつつ)ごめんね、いつもありがとう』と思いながらいつも弾くんですけど(笑)。
北村君はとてもリハーサルを大切にしているのですが、私もその考え方には共感しているので、一緒に演奏出来ることがとても嬉しいです。

――一緒に演奏していて、やはり刺激を受けますか?

田原:そうですね。自分一人で演奏していると、自分の中で完結してしまう。例えば、感じ方であったり音楽の捉え方であったり、自身で経験したこと以上のものは広がらないのですが、他の人と一緒に演奏すると「あぁ、こういう考え方もあるのか」と刺激を受けます。
特に私は、エールQを組んだ当初は、ヴィオラも初心者でしたし、何もかもが初めてだったので、刺激を受けてばかりでした。ヴィオラに転向した後は、様々な人と出会い、これまでよりも一層色んな刺激を受けています。自分以外の人から新しいことを知ることになるので、視野が広がるような感じです。

――演奏する時の「相性」も関係しますか?

田原:相性はありますね。不思議なもので、演奏の相性は本当に人間関係と一緒だと思います。
少し喋ると「この人とはちょっと話しにくいな」、「噛み合いにくいな」って思ってしまうことがありますよね。人それぞれタイプや性格が違うから当然のことなのですが、演奏する時にもきっとそれがあると思うんです。
ヴィオラって相手とシンクロさせることが多い楽器なので、一緒に演奏しているとその人の本質を感じやすい気がします。もちろん大変なことはあるのですが、それゆえに室内楽ってすごいなぁ、音楽って素晴らしいなぁと思います。演奏している最中に「楽しいな」と思える出会いがあると幸せですし、本番で良いものが生まれると「音楽をやっていて良かった」と心底思います。

ピアニストの北村君の場合で言うと、彼がメロディーを弾いている上で私が演奏する時、あるいは同じ旋律やハーモニーを彼のピアノに重ねた時に、とっても幸せな気持ちになります。またそういう気持ちを味わうことが出来るんだと思うととても楽しみです。


今回の演奏会に向けて


――今回の演奏会に向けての抱負をお聞かせください。

田原:個人的にはエールQ&北村君と一緒にこのホールで演奏させていただける、それだけで何よりも嬉しいというのが正直な気持ちです。大切で特別なメンバーたちと長い時間、この素敵なホールで弾けるというのは本当に幸せなことですし、みんなの背中を追いかけて頑張ってきて本当に良かったなと思いますね。

――最後に聴衆の皆さまへメッセージをお願いします。

田原:普段なかなか耳にできないプログラムを私たち5人の演奏で聴いていただき、「芸術の秋」・「音楽の秋」の日曜のひと時を過ごしていただけたらいいなと思います。そしてたくさんの方に聞きに来ていただけましたら嬉しいです。

(2019年4月アンサンブルホールムラタにて)


★公演情報はこちら

特別インタビュー①「北村朋幹さん×山根一仁さん(前編)」

特別インタビュー②「北村朋幹さん×山根一仁さん(後編)」

特別インタビュー③「田原綾子さんインタビュー(前編)」

10月5日開催!京都コンサートホール✕ニュイ・ブランシュKYOTO2019

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インタビュー

“ニュイ・ブランシュ(白夜祭)”とは、パリ市が毎秋行う一夜限りの現代アートの祭典。
今年も市内各所で、“ニュイ・ブランシュKYOTO”が盛大に開催されます。
毎年設定されるテーマに沿って現代アートが繰り広げられるのですが、今年のテーマは「Dialogue」。フランス語で「対話」を意味します。
京都コンサートホールでは、今となっては貴重な存在となった「ミニ・ピアノ」2台を使って、様々な「ディアローグ」を表現します。

9月某日、出演者のお二人、ピアニストの砂原悟さん・田中咲絵さんによるリハーサルが京都市立芸術大学で実施されると聞き、練習風景を覗きに行きました。

初めて目にするミニ・ピアノは想像以上に小さく、どこか懐かしい音色を持つ楽器でした。例えるなら、むかし幼い頃に訪れた異国で聴いたことがあるような、ないような――ミニ・ピアノの音はそんな不思議な魅力を放っていました。

ミニ・ピアノ

「ミニ・ピアノ」とは、現代ピアノよりも小さなサイズのアップライト・ピアノのことで、戦後の物資が揃わなかった時代に、当時の河合楽器が楽器製作への情熱を注ぎ込んで出来上がった楽器です。
現在「ミニ・ピアノ」を見かける機会は滅多にありませんが、そのような激動の時代に生み出され、生き抜いた楽器であると知り、小さい楽器ながらその存在感に圧倒されてしまいました。

ニュイ・ブランシュ当日に演奏されるプログラムには、さまざまな国・時代・スタイルの作品が並びます。

ラヴェル:《クープランの墓》より第2番〈フーガ〉
ドビュッシー:《6つの古代のエピグラフ》より第1, 4, 5, 6番
マショー:《ノートルダム・ミサ》より〈キリエ〉
リュリ:オペラ《アルミード》より〈パッサカーユ〉
ライヒ:《ピアノ・フェイズ》
藤枝守:《植物文様クラヴィーア曲集》第13集より D, B  第28集よりD

この日のリハーサルでは、マショーの《ノートルダム・ミサ》より〈キリエ〉や、リュリの《アルミード》より〈パッサカーユ〉、ライヒの《ピアノ・フェイズ》などが演奏されました。

マショーとミニ・ピアノ

いずれの曲もまるでミニ・ピアノのために書かれた作品かのように美しく響き、思わずその世界観に引き込まれてしまいました。そこで砂原さんに、今回のプログラムはどのように選曲されたのか、尋ねてみました。

「ミニ・ピアノが2台並ぶ機会なんて、そうそうないですよね。
だから、2台で演奏したときに綺麗に響く曲、響きがぴったり合う曲を選びたかったんです。そこでぱっと思いついたのが、ドビュッシーの《エピグラフ》。
弾いてみたらやっぱり良かった。いい感じで響いてくれました。

藤枝さんの《植物文様クラヴィーア曲集》(※植物研究家でありメディアアーティストの銅金裕司が考案した「プラントロン」という装置との出会いから生まれた曲集。装置から採取された植物の葉表面の電位変化のデータに内包された音楽的な価値に着目しながら、コンピュータ・プログラムによって、この電位変化のデータをメロディックなパターンに読みかえるという手法が一貫して行われ、作曲されている)はいつも僕はソロで弾いているんですけど、最近になって台湾のお茶のデータで作られた曲集が出版されました。その曲集に収録されている作品は、これまで出版された作品よりも音の数が多いのです。もちろん1台でも演奏出来るんですけど、同じ音が重複している箇所がある。
例えばソプラノもアルトも同じ音で演奏する箇所がありますが、それを1台で演奏すると、ただの1音になってしまう。ただ、2台で弾くとその同じ音がちゃんと2声になるのです。
そういうところが2台のピアノで演奏すると良いんじゃないかなって思いました。

あとはやっぱり、音域かな。現代のピアノよりも狭いので、そういう音域のものをプログラムに並べてみました。

藤枝守:植物文様クラヴィーア曲集第28集より Dパターン

ライヒの《ピアノ・フェイズ》に関しては、最初に2台のミニ・ピアノが12音の音列を演奏しますが、少しずつこの音列がずれていきます。色合いが少しずつ変化していくような音やリズムの移り変わりに注目して聴いていただきたいです」。

ライヒ《ピアノ・フェイズ》から 基本となる12音の音列

また、共演者の田中さんは、この演奏会の反響の大きさを教えてくださいました。

「チラシや情報を見た人から“見たよ!すごく面白そう”とたくさん反響をいただいています。このコンサートに対しての皆さんの興味の示し方が、いつも私たちが出演しているようなピアノの演奏会に対しての反応とは全く違うんですよね。“ミニ・ピアノっていう楽器があるんだ~!どんな音が鳴るの?”って、楽器自体に興味を持ってくださっている方が多いみたいです。
ピアノ以外の楽器の人たちや、音楽以外の分野が専門の方からも“見てみたい”という声をたくさん頂いたことも印象的でした。興味を持ってくださった方たちに、良い演奏をお届けできたら良いなと思います」。

砂原さんも次のように語ってくださいました。

「ミニ・ピアノみたいなものって、たぶんご存知ない人が多いでしょう。ミニ・ピアノの音を聞いてみて、新しい体験をしていただけると思う。
今まで聞いたことのない音を聞かれると思いますので、どういう反応がかえってくるのかこちらは楽しみですね」。

京都コンサートホール✕ニュイ・ブランシュKYOTO2019「ディアローグ――ミニ・ピアノが投影する“対話”」は、10月5日(土)20時開演、入場無料です。
京都コンサートホールにとっても貴重なコンサートになると思われるミニ・ピアノによる公演をどうぞお見逃しなく。
Nuit Blanche Kyoto 2019 公式ページ

(2019年9月12日、京都コンサートホール事業企画課インタビュー@京都市立芸術大学)