フォーレに捧ぐ特別インタビュー③ 田原綾子さんインタビュー(前編)

投稿日:
アンサンブルホールムラタ

いま旬の若き日本のトップ・プレイヤーたちが一堂に会し、京都でフォーレの名曲ピアノ五重奏に挑むコンサート(2019年11月10日(日)京都コンサートホールアンサンブルホールムラタ)。

本ブログで、北村さんとエール弦楽四重奏団(以降、エールQ)の山根さんへのインタビューをお届けしましたが、今回はエールQのヴィオラ奏者、田原綾子さんにお話を伺うことが出来ました。

前回のインタビューで山根さんと北村さんが「田原さんはフレンドリーで、温かさなどを感じる人」とお話されていましたが、お会いしてみるとその言葉通り、本当に気さくでとてもチャーミングな方でした!


――こんにちは!お忙しい中、京都コンサートホールまでお越しいただき、ありがとうございます。さて、関西では過去に何度か演奏されていますが、京都での演奏は初めてですか?

田原さん(以下敬称略)実は京都コンサートホールは初めてで、来たのも今回が初めてです。同じ京都にあるバロックザールとアルティでは演奏したことがあるんですけどね。私の祖父母が京都在住なので、京都にはよく来ます。

――そうなんですね!京都のどちらですか?

田原:宇治です。また、毎年3月に京都で開催される「京都フランス音楽アカデミー」に参加していたのですが、祖父母の家から通っていましたので、年に1回は京都に来るという感じでした。

――ということは、いま師事されているブルーノ・パスキエ先生とは、京都フランス音楽アカデミーがきっかけで出会われたのですね。

田原:そうです。パスキエ先生に師事したくてパリのエコール・ノルマル音楽院へ行きました(※現在も在学中)。


ヴィオラとの出会い、ヴィオラの魅力


――よく尋ねられることだとは思いますが、改めてヴィオラとの出会いについて、そして田原さんが感じるヴィオラの魅力を教えてくださいますか。

田原:もともとヴァイオリンを5歳から弾いていて、「桐朋学園大学音楽学部附属 子供のための音楽教室」の鎌倉教室に小学校の時からずっと在籍していました。
高校では桐朋女子高等学校のヴァイオリン科に入りまして、ヴァイオリンを一生懸命弾いていたんですが、ちょっと息苦しいところがあったりしまして…。
もちろんヴァイオリンが好きで、音楽が好きで桐朋の高校に入ったんですけどね。

音楽教室に在籍していた頃からずっと、室内楽で色々な人と一緒に演奏するのが楽しくて、桐朋の高校に入ったら室内楽をやりたいと思っていましたので、高校2年生の時に、カルテットを組むことにしました。それが、いまのエールQです。
エールQを組むときに初めてヴィオラを触りました。それまではヴィオラとは縁がなかったのです。でもなんとなくヴィオラという楽器に
興味はあったのです。
「ヴィオラを弾いてみたいなぁ」と思っていたので、その時に「山根くんと毛利さんはヴァイオリンで、私はヴィオラ弾く!」って言いました。
「ヴィオラとの出会い」はこの時ですね。

――カルテットを始めた時に、ヴィオラへ転向したのですね。

田原:はい、カルテットを始めると同時にヴィオラを始めました。
当時は独学だったので、メンバーの足を引っ張ってしまっていたと思います。
思うように演奏出来なかったことがあまりに悔しかったので、当時師事していた藤原浜雄先生(※国際的に活躍する名ヴァイオリニスト)に「ヴィオラをしっかり習いたい」と相談しまして、岡田伸夫先生(※ヴィオリスト、著名な海外オーケストラのヴィオラ奏者を歴任)を紹介してもらい、高校3年生の時にヴィオラを習うようになりました。なので、実質的にヴィオラをちゃんと始めたのは高校
3年生、18歳の時です。

――エールQで始めた時は自己流だったということに驚きました。

田原:最初は見よう見まねでやっていたのですが、やっぱりヴィオラ弾きが出すヴィオラの音と、自分の弾いている「大きなヴァイオリンを弾いている」音とは全然違いました。どうしたらいいんだろうと思い、色々な方々からアドバイスをいただいたり、演奏会を聴きに行ったりしたのですが、どうしてもわからなかったんです。
岡田先生の下では、本当に基礎から始めました。最初は楽器の
構え方や解放弦だけ弾いていまして、「あぁ、こういう風にヴィオラの音を出していくんだな」と学び始めました。

――そういう時間を積み重ねていくうちに、ヴィオラという楽器にどんどん魅入られていかれたのでしょうね。

田原:ヴィオラの魅力は、ヴァイオリンとは違って、何より音色が暖かくて、深みがあるんです。
ヴァイオリンの華やかな音色とか、チェロの包容力のある音の響きなどももちろん大好きで素晴らしいんですけど、ヴィオラは旋律を演奏した時に、ヴィオラにしか出せない、心に響くような独特の音の力を持っているのではないかなと私は思っています。

カルテットなどでしたら、第二ヴァイオリンと一緒に内声を作ることが多い役割を持つのがヴィオラです。
「内声」っていうのは、「内なる声」と書くように、作曲者の内なる声がすべて凝縮されているように思います。
かつて今井信子先生(※日本を代表するヴィオラ奏者)が、カルテットをワインに例えて、「ラベルが第1ヴァイオリンで、ボトルがチェロで、ワインそのものが内声ね」と仰ったことがあります。
それくらい内声は大事な声部なんです。結局ラベルがよくないと手には取ってもらえないですし、ボトルが脆いと中身が漏れてしまいますが、最後は内声が大事なんですよ、と。

私自身、ヴァイオリンは歌って欲しいし、チェロは綺麗にしっかり心強く支えていてほしいです。でも「最後は内声が大切になってくるんだ」というように、強く意識して弾くようにしています。
今回演奏するフォーレもそうですけど、その曲を実際に演奏してみると「ヴィオラが持っている音色を意識して、とても大事に思って曲を書いてくれたな」と思うことが多いです。
ヴィオラ・ソロももちろん素敵なのですが、室内楽では必要不可欠な存在であるということが、ヴィオラの一番の魅力であると感じています。

――たしかに室内楽を聞いていると、ヴィオラが和声の要になっているなと感じることがたびたびあります。

田原:あまりヴィオラがしゃしゃり出てしまうと、それはそれで中身が溢れかえっちゃうような印象を与えてしまいますので、それには気をつけています。
ヴィオラにはヴァイオリンとチェロを上手くつなげる役割を持ってい
ますし、リハーサルをしていても、ヴィオラの人は「今日このメンバーの調子が悪いな」とか「あ、今日は調子がいいな」など、よく考えていると思います。

――今回のフォーレの楽譜を見ていると、ヴィオラの重要さが際立っていますよね。2番は、ほぼ全ての楽章がヴィオラからスタートしているし、1番はほかの室内楽と比べてちょっとヴィオラの役割が違うのかなと思いました。

田原:2曲共に、とてつもない大曲です。私自身、2番は演奏したことがあるのですが、今回はとてもやりがいのあるプログラムを組んでいただいて「頑張らないといけないね」ってメンバーで話しています。


フォーレ作品の魅力、特にピアノ五重奏曲について


――田原さんがフォーレを演奏している時、どういったところに魅力を感じられますか?

田原:フォーレは室内楽や歌曲をたくさん残していますが、和声の進行や、そこから作り出される響きが、本当に精巧に作られているんです。
ラヴェルやドビュッシーは、「いかにもラヴェル!」「いかにもドビュッシー!」っていう感じがしませんか?
でもフォーレは、最初にパッと聴いても、ラヴェルやドビュッシーほどは分かりやすいものではないと思います。宗教的な色が濃い、と言ったら良いのかな。
でもその分、聴けば聴くほど、フォーレの奥深さや味わいが伝わってくるのではないかなと思っています。
個人的に、フォーレの音楽を聴いていると背筋が自然と伸びるような、そんな印象を持っています。
だから今回のプログラムは本当に大変なんですよね(笑)。

――フォーレのピアノ五重奏曲第二番を演奏されたと仰っていましたが、どのような作品でしたか?

田原:4楽章構成なのですが、なによりも第3楽章がこの世のものとは思えないくらい美しくて、演奏していると心が洗われていくような気持ちになります。
それゆえに難しいんですけどね。
1, 2, 4楽章もそれぞれに素晴らしいのですが、3楽章だけ音楽の次元が少し違うような印象を持ちました。皆さんにもこの3楽章を是非聴いていただきたいです。
ただ、演奏される機会があまりないんですよね。

――そうですよね。なぜでしょうね。

田原:ピアノ五重奏曲と言えば、やはりブラームスだったりドヴォルザーク、シューマンなど、そういった作曲家の作品をイメージされる方が多いですよね。
フォーレは内容からみても演奏技術からみても、難しい曲かもしれません。
フォーレのピアノ五重奏曲は、メンバー5人全員が同じ方向性を持って「こういう音楽をこのような表現で、このような音にしたい」という気持ちを持って演奏しないと、フォーレ作品の深さまで到達することは出来ないだろうと思います。
たくさんの深い内容を持つ作品なので、色々なアイディアがメンバー間で生まれますし、皆でディスカッションして納得して、まとめていくことが大切だと思っています。

――そうなってくると大切なものがリハーサルですね。

田原:そうですね。でもリハーサルをする以前に、どういう風に作りたいか、それぞれのヴィジョンがしっかりしていないといけませんね。もちろん全員で過ごす時間も大事だし、一人で曲と向き合う時間も大事なんじゃないかなと思ったりします。

――以前、北村さんと山根さんにインタビューをした際、北村さんが「リハーサルをしっかり出来ないなら、この曲(フォーレのピアノ五重奏曲)は引き受けられない」というようなことを仰っていたのが印象的でした。

田原:この前少し考えていたのですが、リハーサルってお化粧に例えられるなと思ったんです。お化粧をする時、化粧水で肌を整えたり、下地を塗ったりしますよね。それと一緒で、例えば時間がなくて丁寧なリハーサルが出来なかったら、どれだけ本番で濃い演奏をしたとしても、綺麗には見えないんだなと思いました。
リハーサルとゲネプロと本番って考えた時に、本番に向けて、どれだけ良い肌の状態にもっていけるかみたいな(笑)
ゲネプロっていうのは最後の仕上げ。どこまで見栄えが変わったりするか、そういった場がゲネプロです。本番は、もう出来上がったものを最後にどうなるか、例えば誰かと会っている時に表情が華やかだと一層美しく見えるみたいな、そういうふうに考えていたことがありました。

だからこそ、リハーサルはすごく大事で、やっぱり時間をかけないといけない。ゲネプロ、本番に持って行くまでに出来るだけ良い状態に仕上げていかないといけません。

――お化粧に例えられたのはとても面白いと思いました。まさにそのとおりです。肌を整えないと、どれだけメイクしても厚化粧になったり、逆に肌が汚く見えたりしますからね。
それでは次はいよいよ、エール弦楽四重奏団のメンバーについてお聞きしたいと思います。

後編につづく・・・

(2019年4月アンサンブルホールムラタにて)


★公演情報はこちら

特別インタビュー①「北村朋幹さん×山根一仁さん(前編)」

特別インタビュー②「北村朋幹さん×山根一仁さん(後編)」

 

【京響スーパーコンサート特別連載②】スウェーデン放送合唱団 前音楽監督ダイクストラ氏に聞く

投稿日:
インタビュー

京都市交響楽団が世界トップクラスの合唱団「スウェーデン放送合唱団」と初共演する、京響スーパーコンサート「スウェーデン放送合唱団×京都市交響楽団」(11/23開催)。

公演の魅力をより知っていただくための連載を本ブログにて行っております。連載の第2回は、8月25日に開催された京都市交響楽団 第637回定期演奏会で指揮を務めた、スウェーデン放送合唱団 前音楽監督のペーター・ダイクストラ氏にお話を伺いました。

スウェーデン放送合唱団と京響の両方を知るダイクストラ氏から、合唱団の魅力と両者が共演する本公演について語っていただきました。


――去る京都市交響楽団の定期演奏会では、素晴らしい演奏会を届けて、くださりありがとうございました。
さて、今年11月23日(土・祝)に京都コンサートホールで、ダイクストラさんが音楽監督を務めていた「スウェーデン放送合唱団」と京響が共演します。両団の共演でどのような化学反応が起こると思われますか?

(C)Astrid Ackermann

京都市交響楽団とスウェーデン放送合唱団との出逢いは、きっとわくわくするものになるでしょう。

スウェーデン放送合唱団のメンバーは優れた歌唱技術を持ち、声のコントロールも極めて優れていますので、多彩な表現が可能です。

この度、私は京都市交響楽団とハイドンの「天地創造」を共演する機会をいただき、皆さんと非常に充実した時間を過ごすことができました。京都市交響楽団は本当に素晴らしいオーケストラです。柔軟性があり、クラシック音楽を演奏することへの情熱を持っています。

京都市交響楽団とスウェーデン放送合唱団、この二つのアンサンブルのコンビネーションは、幸福に満ちたものとなることを確信しています。

ダイクストラ氏とスウェーデン放送合唱団

――両団の共演から生まれる音楽を聴くのがとても楽しみです。ダイクストラさんは、スウェーデン放送合唱団の音楽監督を2007〜2018年の11年間務められたということなのですが、その間に心掛けられたことや大事にされたことは何でしょうか?

スウェーデン放送合唱団の首席指揮者、そして音楽監督を務めることができたことを、心から光栄に思っています。

首席指揮者に就任したのはたしか28歳の時だったと思いますが、そのような若手の指揮者が長い伝統を持つこの合唱団の一員になるということは、本当に名誉あることなのです。私なりにではありましたが、この素晴らしい合唱団の伝統に少しでも貢献できればと、様々な興味深いレパートリーに取り組みました。そして更なる高みを目指し、彼らの持つ壮健な声、そして声の持つ柔軟さに気付いてもらうように努めました。

その道のりはとても充実したもので、彼らと共に音楽を創ることができたことをとても幸せに思います。

スウェーデン放送合唱団とダイクストラ氏(C)Arne Hyckenberg

――現在のスウェーデン放送合唱団が持つ魅力はどういったところにあると思いますか。

スウェーデン放送合唱団の持つ数々の特別な点の中で、私が直に感じたことの一つは、録音を聴いている時にいったい誰が歌っているのかわからないことなのです。この素晴らしい合唱団は鮮明さと同時に、密度の濃いサウンドを創り出しています。舞台には32人のメンバーが見えると思いますが、そのサウンドはたった32人とは思えないほど大きなパワーを持っています。彼らと共に音楽を創り上げていく過程は活き活きとした喜びに満ち溢れています。聴衆の皆さんにも同じように感じて頂けると信じています。

――スウェーデン放送合唱団と京響の共演が今からとても楽しみです!
お忙しい中、インタビューにお答えいただきありがとうございました。

(2019年8月28日事業企画課メール・インタビュー)


★公演情報はこちら

★特別連載①「スウェーデン放送合唱団の魅力~人間の声の可能性は無限大~」

フォーレに捧ぐ特別インタビュー② 北村朋幹さん×山根一仁さん(後編)

投稿日:
京都コンサートホール

11月10日開催の「フォーレに捧ぐ――北村朋幹×エール弦楽四重奏団」(京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ)

いま旬の若き日本のトップ・プレイヤーたちが一堂に会し、京都でフォーレの名曲ピアノ五重奏に挑むコンサート(2019年11月10日(日)京都コンサートホールアンサンブルホールムラタ)。
本公演の開催に向けて、出演者の北村朋幹さん(ピアノ)と山根一仁さん(エール弦楽四重奏団/ヴァイオリン)にインタビューを行い、思い思いに語っていただきました。前編に続き、今回は後編をお送りします。

北村朋幹(ピアノ)©TAKUMI JUN
ガブリエル・フォーレ
エール弦楽四重奏団

――京都公演でプログラミングしているフォーレとシェーンベルクのピアノ五重奏曲3作品はいずれも大曲ですが、このメンバーだからこそ挑戦したいと仰ってくださいました。過去にこの5人で演奏されたご経験はおありですか?

北村朋幹さん(以下敬称略):一度あります。確か、ブラームスを演奏した時だったかな・・・?

――わたしたちとしては、本番はもちろんなのですが、練習やリハーサルがどのように展開されていったのか、そういったところにも興味があります。

北村:実はあの時、5人の予定が合わず本当に時間がなかったんです。じゅうぶんにリハーサル時間を取ることが出来なかったので、僕は個人的に納得出来るような本番ではありませんでした。でも一つ、強く感じたことがあります。それは「エール弦楽四重奏団のみんなは本番に強いな」ということです。みなさんがそれぞれにポテンシャルが高いですからね。

――5人で演奏する時は、どなたがリーダー役を担うのですか?

山根一仁さん(以下敬称略):誰がリーダーなのかといったものは作るべきではないのですが、結局のところ誰がメンバーを一番引っ張っているかというと、音楽に関する知識であったり勉強量とかになりますから、北村君でしょうね。常に僕たちを助けてくれます。とは言っても、エール弦楽四重奏団のメンバーも、思ったことをどんどん発言していきます。

――北村さんから見て、エール弦楽四重奏団はどのようなカルテットですか?

北村:僕は本当にバランスの取れたカルテットだと思います。
人間的にもそうですが、なによりもまず男性2人がまだ子供でしょう?(笑)
でもそれは重要なことなんです。
僕は客観的にみて、あの4人のなかで音楽を動かしているのは、山根君だと思うんです。違ってたら悪いんだけど、彼は猪突猛進というか、彼の音楽からは「間違っていても自分はこう思うんだから、それを分かってくれ」というメッセージを感じます。
上野通明君(チェロ)はすごくマイペースなんです。人の意見を聞いているのだけど、実際はそれに左右されることなく揺らがない。こういう「石」みたいな人は重要です。
一方、女性2人はとっても大人です。毛利文香さん(ヴァイオリン)はとても客観的に物事を見ている人。冷たいわけではないんだけど、全員の意見を聞いて、必要なことを常に理解している感じ。
僕にとって田原綾子さん(ヴィオラ)は、フレンドリーさや温かさなどを感じる人です。田原さんの力でこの3人がつながっていると思っています。

―――非常に面白い関係性ですね。こういった関係性がきっと音楽にも現れるのでしょう。練習を重ねていく上で、意見の相違などは生じますか。

山根:根本的なことを言うようですが、室内楽だけでなく音楽に対して「理想を追い求め続けていること」と、「理想を叶えるためにあらゆる手を尽くすこと」は非常に大切だと思っています。
それは、自分の理想を突き通すだけでなく、室内楽においては相手の意見を理解しようとする、歩み寄ろうとすることだと思います。意見がぶつかったとしても、それは互いが向かい合っているということですから、非常に良いことだと思いますし、僕はぶつかり合いがないほうが不自然だと思っています。
室内楽をする上でぶつかり合いがないと、気を使われている・妥協していると感じてしまう。それが嫌なのですね。
そういったことが自然にできる相手が北村君だったり、エール弦楽四重奏団のメンバーであったりします。
そう感じられる人は決してたくさんはいないですし、そういう場所があるということはとても幸せなことだと思います。贅沢だなぁと思っています。

北村:室内楽の理想は、誰が何を弾いているのか分からないくらい全部が一体化して、休符を演奏している人も音楽を弾いているようであり、音符を演奏している人も休符であるような演奏をすることです。
僕はピアノという楽器に疑いを持っているんですよね。大好きなんだけど、好きじゃないんです。矛盾しているようですが、ピアノはあまりにデジタルな音がする。そこからまず脱却するということが、室内楽をやる上での僕の一番の理想なのです。
ピアノからピアノじゃない音をするっていうのが、僕にとってとても重要です。

山根:北村君のように「脱却する」という考えに至る人ってなかなかいないんです。例えば、大きな音をだ出す、難しいことを完璧に弾く、そういうことを理想とする人ばかりなので、北村くんは稀有なピアニストです。

北村:僕は例えば、カルテットと演奏する時は、自分もカルテットのような音を出したいと思うし、逆にカルテットに対してピアノみたいな音を出して欲しいと思う時もある。そのように、音を融合させていきたいと思っています。

――お二人のお話をお伺いしていると、5人のハーモニーが今にも聴こえてくるような気がします。本当に楽しみです。それでは最後に、京都公演にお越しくださるお客様に一言ずつメッセージを頂戴できますでしょうか。

山根:この3曲を1つの公演で聴けることは滅多にありません。世界中を探してみてもなかなか見つけることは出来ないでしょう。
僕たちがベストを尽くせば絶対にいいコンサートになると思うので、色々な先入観を取り払っていただいて、ぜひご来場いただきたいです。僕たちにとってもお客様にとっても印象的なコンサートにしたいと思っています。

北村:こんなこと絶対言っちゃいけないでしょうけど、本当は50人くらいの小さなサロンで演奏したいと思うようなプログラムですよね(笑)。
山根君がいったような先入観は本当に必要ではなく、音楽って弾く方も聞く方も「自分はこの曲が好きだ」という個人的な関係だと思うんです。
この「好き」は他の人には伝わらないことが多い。だから、来てくださった結果「これがシェーンベルクの音楽」「これがフォーレの音楽」とは簡単に分からないかもしれませんが、「あぁ、いまの曲すごく好きだったな」となり得る3曲です。
こういったことは人生において尊い体験だと思いませんか。
なのに、作曲家の一つの側面だけを見て「シェーンベルクって難しそうだから聴くのをやめよう」となると、その人は一つ損をしていると言いたくなります。だから、とてもシンプルに楽しんでいただきたいなと思っています。

――ありがとうございます。お二人のお話のおかげで、演奏会だけではなく、5人のイメージも膨らませることが出来ました。
この演奏会の企画者としては、濃密なプログラムをこんなに素晴らしいメンバーに演奏していただくことに対して幸せを感じています。
この幸せを一人でも多くのお客様と一緒に共有したいと思っています。当日の演奏を今から楽しみにしています!

(2019年2月28日京都コンサートホール事業企画課インタビュー@京都市内のカフェ「CLOVER」にて)

▶コンサート情報はコチラ!