【NDRエルプフィル特別連載④】NDRエルプフィル日本人メンバー・インタビュー(石川素美、第一ヴァイオリン奏者)

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京都コンサートホール

11月1日(木)に15年ぶりに京都公演を行う「NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(旧ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)」。

アーティストの魅力をお伝えしている「特別連載」の最終回として、NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団の日本人メンバー、第一ヴァイオリン奏者の石川素美さんにメール・インタビューを行いました。

NDRエルプフィルや指揮者アラン・ギルバートの魅力はもちろん、コンサートの秘話など、メンバーならではの貴重なお話をたくさん聞かせていただきました。


NDRエルプフィルとの出会いと魅力


--この度は、お忙しい中インタビューを引き受けてくださりありがとうございます。では早速ですが最初に、石川さんがNDRエルプフィル(以下NDR)に入団されたきっかけを教えていただけますでしょうか。

石川さん:私は10歳のときからジュニアフィルハーモニックオーケストラ(東京)に所属し、それまでに間近で見たことのなかった様々な楽器や、大勢でひとつの音楽を作り上げる喜びや達成感、素晴らしいオーケストラの楽曲に魅了されました。そして世界中の色々なオーケストラの録音を聴いた中でも、ドイツのオーケストラの深みのある音や、ぐいぐいくる低音などに心をつかまれ、いつかはドイツのオーケストラに入りたいと中学生の頃から思っていました。
桐朋のソリストディプロマコース在籍中にドイツ中を旅して、先生探しをしました。そして、当時まだハンブルクで教えていた元ベルリンフィル・コンサートマスターのコリア・ブラッハー氏の下で学びました。そうしたある日、日本での音楽祭に参加したいと彼に言ったところ、「その期間はレッスンするから」と反対され、代わりにNDR(当時ハンブルク北ドイツ放送交響楽団)で研修することを提案されました。そしてオーディションを受けて研修生となり、団員の人たちから「正団員に空きがあるのでぜひオーディションを受けるように」と言われ合格し、今に至ります。
わたしが生まれて初めて聴いたオーケストラの録音がNDRで、ギュンター・ヴァント指揮の「田園」(ベートーヴェン)でした。当時はどこにNDRがあるかも知らずハンブルクに留学したので、入団したことには運命を感じています!

石川素美さん

“アランとのコンサートでは、わたしたちの間に化学反応が起こり、なんとも言えぬ一体感を感じました。そしてわたしたちは、そこに明るい未来をひしひしと感じたのです”

――NDRは石川さんにとってオーケストラの原点であり、また自然と巡り合ったオーケストラなのですね。
入団してからこれまでの間で、思い出深い演奏会やツアー、指揮者、ソリストについて教えていただけますか。

石川さん:まず思い浮かぶのは、自分にとって初めての日本ツアーです。研修生として参加しましたが、入団試験の直後だったこともあり、大勢の団員と仲良くなることが出来た思い出深いツアーとなりました。因みにそのツアーの指揮者は、当時第一客演指揮者だったアラン(アラン・ギルバート)でした!

去年、ブロムシュテットの90歳のお誕生日を祝う公演がありました。彼は年々若返っていくように感じます。お誕生日翌日からリハーサルが始まりまして、NDRからサプライズでケーキと、ソロトロンボーン奏者のシモーネがアレンジしたスウェーデン民謡(?)の演奏をプレゼントしました。ブロムシュテットが子ども時代、夏休み前に歌っていた曲だったそうで、演奏を聴いて涙を流す様子に、わたしたちもジーンときました。
コンサートでは、演奏が始まる前にスタンディングオベーションが起こり、ギュンター・ヴァント最後の来日公演の時のようにブラヴォーまで出ました。奏者もお客様も気持ちがブロムシュテットに寄り添った、特別な体験でした。

また今年4月には、新しい本拠地エルプフィルハーモニーでは初となるアランとのコンサート(マーラー作曲の交響曲第3番)がありました。その時、わたしたちの間に化学反応が起こり、なんとも言えぬ一体感を感じました。そしてわたしたちは、そこに明るい未来をひしひしと感じたのです(※YouTubeにて少し演奏をご覧いただけます)。

そして今シーズンの始めにスペインツアーがあり、最終地がバスク地方にあるサン・セバスチャンでした。アンコールで、バスク人にとって想いのある曲を、トロンボーン奏者のシモーネがアレンジして演奏しました。演奏が始まるとお客様全員が一斉に立ち上がって聴き入ってくれたのに感動し、大勢の団員がステージで涙を流しました。

また、人間としても奏者としても尊敬できるソリストは、先シーズンのレジデンス・アーティストであったヴァイオリン奏者のフランク・ペーター・ツィンマーマンです。わたしが入団してから一番共演数が多いのですが、何度同じ曲をやってもその都度進化し、新しい発見があります。彼はわたしたちオーケストラにとって特別なソリストです!

スペインツアーにて、第一ヴァイオリンのメンバーたちと

――素敵なエピソードですね!ブロムシュテット氏は京都コンサートホールでも一昨年バンベルク交響楽団との公演(2016/11/5)に出演し、大変な人気を博しました。
NDRはドイツそして地元ハンブルクにおいて、どのような存在だと思いますか?

石川さん:ドイツのオーケストラ文化にとって重要な存在だと思います。ドイツのオーケストラは楽団によって音色が異なります。たくさんある歴史的録音を聴いていただければわかると思いますが、NDRも他のオーケストラとは違った特徴のある音色を持っています。
しかしながら世代交代があったり、新しいホールが建設されたりするなど、時代や環境の変化とともにその音色も変化しています。わたしにとっては新しい団員や指揮者の存在は常に刺激的ですし、退団した人たちや長く演奏している団員から学んだ伝統的な素晴らしい部分も大切にしていきたいと考えています。

ハンブルクでは、NDRの演奏は毎日ラジオで流れています。今やNDRは、ホットな観光スポットとなったエルプフィルハーモニー(ホール)の顔です。皆さまにとって親しみのある存在になっていると思います。

エルプフィルハーモニーのバックステージには、休憩中に楽器を置くスペースがあります

――ハンブルク市民は毎日NDRの演奏を聴くことができるのですね!とても羨ましいです。
お話にも出てきましたが、2017年1月に、本拠地をライスハレから新しいホールのエルプフィルハーモニーに移されましたね。新しい本拠地であるエルプフィルハーモニーはいかがですか?

石川さん:エルベ川沿いの素晴らしいロケーション!コンサート前に楽屋口から夕日が沈むのをみると穏やかな気持ちでステージに立てます。
わたしの好きな建築家であるヘルツォーク・ド・ムーロンと音響設計士の豊田泰久さん(㈱永田音響設計)という夢のようなコンビで設計されており、ワインヤード型(舞台を取り巻くように客席を配置した形)のホール内部も本当に美しいです。待ちに待ってやっと出来上がったのでうれしいです。
現在NDRでは、新しい本拠地での音作りに全員が真剣に考えながら取り組んでいます。ホールと共に進化していくNDRの音を、ぜひ一度エルプフィルハーモニーで皆さまに聴いていただきたいです!
観光スポットなので常にチケットが完売状態なのですが、クラシックを聴いたことがないお客様もたくさん見受けられるので、そういった人たちの心を掴んで再びコンサートに足を運んでもらえることが出来たらいいなと思っています!

エルプフィルハーモニーから見たエルベ川
エルベ川対岸から見たエルプフィルハーモニー(撮影:NDRメンバー)
エルプフィルハーモニーの内部の様子(撮影:石川素美さん)

アラン・ギルバートと京都公演について


――エルプフィルハーモニーは、京都コンサートホールと同様に、永田音響さんの音響設計で建設されたのですね。しかもパイプオルガンのメーカーも京都と同様にクライス社ということで親近感を感じています。
今回の日本ツアーでは、次期首席指揮者のアラン・ギルバートが指揮を務めますね。

石川さん:そうなんです。アランとNDRの付き合いは本当に長いです。良いところも悪いところも知り尽くし、それを受け入れ共に歩んでいく夫婦のような存在とでも言えるでしょうか。
とても人間味があるし、強い意志も持っている人で、そういうところが彼の音楽にあらわれていると思います。

アラン・ギルバートと石川素美さん

“私たちの伝統的サウンドとアランの解釈が融合してきっと魅力的な音楽になると思います!”

――今回の京都で披露してくださるのは、ワーグナー、ベートーヴェン、ブラームスという、オール・ジャーマン・プログラムですね。各曲の聴きどころを教えていただけますか?

石川さん:全曲ドイツ人作曲家によるプログラムで、我々はザ・ドイツのオーケストラなので、これ以上ドイツっぽい響きは生まれないでしょう!
中にはバイロイト音楽祭で毎年演奏している団員もたくさんいるので、歌劇《ローエングリン》第1幕への前奏曲ではワーグナーの真髄に迫ることができるかもしれません…!
ベートーヴェンの《ピアノ協奏曲第4番》では、ベートーヴェンのスペシャリストとして名高いブッフビンダーさんとNDRの掛け合いにご期待ください。
ブラームスの《交響曲第4番》はNDRの十八番で日本でも演奏したことはありますが、私たちの伝統的サウンドとアランの解釈が融合してきっと魅力的な音楽になると思います!

――同じドイツ音楽でもそれぞれの曲で違うNDRの伝統的サウンドに期待しております!それでは最後に、日本ツアー初日の京都公演に向けてメッセージをいただけますか。

石川さん:叔父が京都近郊に住んでいることもあり、個人的に親しみを感じている街なので、初めて演奏できることを楽しみにしています!
NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団を一言で例えるならば、「銀閣寺」!煌びやかな金閣寺とは違い、渋く味のある音色を楽しんでいただければと思います!

――お忙しい中ありがとうございました。
来月の公演が楽しみでなりません!11月お待ちしております。

(9月25日 京都コンサートホール事業企画課メールインタビュー)


石川素美(ヴァイオリン)

4歳よりヴァイオリンを始める。10歳からジュニア・フィルハーモニック・オーケストラ(東京)入団。桐朋女子高等学校音楽科(共学)を首席で卒業。桐朋学園大学ソリスト・ディプロマコース修了。ハンブルク音楽演劇大学卒業。在学中より、小澤征爾音楽塾、サイトウキネン若い人のための勉強会、宮崎国際音楽祭、アスペン音楽祭、サイトウキネンフェスティバル等に参加。アイザック・スターン、ドロシー・ディレイ、東京カルテット、ジュリアードカルテット等のマスタークラスを受ける。これまでに水野佐知香、原田幸一郎、コリア・ブラッハーの各氏に師事。第一回いしかわミュージックアカデミー奨励賞、キジアーナ音楽院ディプロマ賞、ハンブルク文化賞など受賞。2006年ハンブルク北ドイツ放送交響楽団(現、NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団)に入団。
趣味は、絵本・レコード・直筆譜・楽器収集と弓術。


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★特別連載

【第2回】アラン・ギルバート「スター指揮者のポートレート(山田治生、音楽評論家)」

【第3回】「北ドイツの雄、NDRエルプフィル」(中村真人、ジャーナリスト/ベルリン在住)