指揮者 沼尻竜典 インタビュー<後編>(2023.11.18 京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクト Vol.4『ニーベルングの指環』より(ハイライト・沼尻編))

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京都コンサートホール

京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.4 ワーグナー生誕210年×没後140年『ニーベルングの指環』(ハイライト・沼尻編)(11/18)の開催に先がけ、指揮者の沼尻竜典氏とびわ湖ホール総括プロデューサーの村島美也子氏にお話を伺いました。後編では、今回共演されるお二人の歌手や京都市交響楽団についてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください!

――今回コンサートにご出演いただくステファニー・ミュターさんは、びわ湖ホールの『ニーベルングの指環』で見事なブリュンヒルデ役をこなされましたが、彼女との出会いを教えてください。

ステファニー・ミュターさん

沼尻:エアフルトの劇場で働いている旧知のピアニストから「まだ無名だが、今後とても伸びそうな歌手がいるので一度声を聴いてほしい」と紹介され、当時私が音楽総監督を務めていたリューベックの劇場まで来てもらいました。ワーグナーは歌手に声量がないといけないんですが、彼女はしっかりした声が素晴らしく飛ぶ。その場でミュターさんにブリュンヒルデ役をお願いしました。今ではバイロイト祝祭劇場に出るほどの歌手になりました。

村島:彼女は、実力はもちろんのこと、お人柄も本当に素晴らしいです。

沼尻:ドイツの劇場の世界には、小さな劇場でキャリアを開始した歌手にも、世界の頂点に立つ劇場へとつながる階段が用意されています。しかし日本の歌手は、地域ごとにあるオペラ団体の所属の方が多いので、なかなか世界とつながる機会がありません。世界どころか、地方在住の優秀な歌手が東京の舞台に立つことさえ難しい。そういえば、私のいたリューベックの劇場も決して大きくはありませんが、そこで《さまよえるオランダ人》にゼンタ役で出演した歌手が今年、バイロイトでゼンタを歌いました。ベルリン·ドイツオペラにも出演するようです。

――『リング』でヴォータン役を務めた青山貴さんも、びわ湖ホールオペラシリーズの常連ですよね。

沼尻:彼はとんでもなく声が良いのです。

村島:圧倒的な美声ですよね。沼尻さんは青山さんをずっと逸材だと言い続けてらっしゃいますし。当時、びわ湖ホールのオペラでは大抜擢とも言える配役でしたからね。

沼尻彼は、準備をきっちりしてきます。最初の稽古から、長いオペラの歌詞を完璧に覚えてきます。

――青山さんはもともとワーグナー歌いだったのですか?

沼尻:いえ、そもそも真の意味で「ワーグナー歌い」と呼べる歌手は日本にいません(笑)。ワーグナー作品の公演がほとんどないのですから。

――ちなみに、初めてヴォータン役に抜擢された時の、青山さんの反応はどうでしたか?

青山貴さん

村島:ご本人はすごく悩んだと後日仰っていました。なにせ、ヴォータンは神々の長ですからね(笑)。青山さんは、普段は腰が低くて優しい人なのです。でも、ステージに立つと本当に堂々としていて、そのギャップも魅力のひとつです。

沼尻:日本のオペラ団体が制作する公演では声楽の先生が配役するわけですが、海外のオペラハウスや、日本でも劇場制作のプロダクションでは、芸術監督、プロデューサー、演出家が歌手を選びます。劇場制作のオペラ公演がもっと増えて世界標準のやり方で配役していけば、日本人歌手の可能性がさらに引き出され、世界と戦えるようになると思っています。その代わり、配役する劇場側も歌手のことを勉強しなければなりません。

村島:マエストロは、本当に色んなところに歌手を観に行かれますよね。これだけ公演を観に行く指揮者はいないと思いますよ。歌手を見つけてきては、「あの子良いと思うのだけど」と話せる。素晴らしいと思います。ミュターさんや青山さんも、そういうところから見つけてこられましたしね。

――ミュターさんと青山さんについて、貴重なお話をいただきありがとうございました。さて、マエストロは京都市交響楽団とも長年共演されていますが、沼尻さんから見て、京都市交響楽団のワーグナー演奏はどこが魅力的でしょうか?

沼尻:京響のメンバーはびわ湖ホールのワーグナーを毎年楽しみにしてて、実によく個人勉強、個人練習をされていました。もうワーグナーの毒が皆さんの体じゅうに回っているのでは(笑)。実際、毒に当てられてないとワーグナーはうまく演奏できないんです。9演目ワーグナー作品に一緒に取り組んできた蓄積を、11月18日のコンサートで凝縮してお見せできるのではないかと思います。

――今回プログラム前半で演奏する《トリスタンとイゾルデ》は、実は京都市交響楽団との共演は初めてなのですよね。

沼尻:はい、ワーグナーの主要オペラ10作品のうち、《トリスタン》だけ京響と演奏していないのです。私に体力があるうちに、いつかぜひ京都市交響楽団さんと一緒に全曲演奏したいと勝手に考えています。
今回演奏する『ニーベルングの指環』(ハイライト·沼尻編)は、もともと2001年に東京フィルハーモニー交響楽団と新星日本交響楽団が合併した時記念演奏会で初披露しました。その後、名古屋フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会でも演奏しましたが、どちらも歌が入らない版でした。今回は特別に声楽入りの版を作りました。

――すべて繋げて演奏されるのですよね。

沼尻:はい、すべて繋げてひとつの曲のようにしています。今までにいくつものリングの演奏会用の抜粋版が作られていますが、「沼尻編」は完全なオリジナルです。音楽的に特に魅力的な名場面を繋いだ感じですね。全曲で16時間のうち、美味しいところをまとめて1時間にしていますので、ワーグナーを初めて聴く方でもお楽しみいただけると思います。ワーグナーの音楽にハマるきっかけになれば嬉しいです。

――びわ湖ホールでワーグナー作品を全部制覇したお客様でも楽しめますでしょうか。

沼尻:もちろん楽しめます。舞台の情景を思い出しながら聴いていただけたら。

村島:びわ湖ホールで熱演をしたステファニー・ミュターさんもドイツから再びお呼びいただき、素敵な企画だと思います。バイロイト歌手の実演に触れる機会は、日本では滅多にないですし。

沼尻:ワーグナーの音楽は、ドイツの管弦楽法、和声法の成熟の極地だと思います。ワーグナーの後に活躍したリヒャルト·シュトラウスがさらにそれらをもう一歩、彼なりの方向に進めましたが、以降の発展はもうほとんど無いのです。むしろ現代音楽の作曲家たちによって既存の音楽を破壊する方へ向かいますから。

――本当に楽しみです。

沼尻:私と京響のワーグナーをこのまま終わらせてはもったいないと、今回の企画を提案してくださった京都コンサートホールには心から感謝しています。楽譜の編集にあたった京響の楽譜係はとても大変だったと思うので、この場をお借りしてお礼を申し上げたいです。京響ファンにもオペラファンにも楽しんでいただける内容ですから、迷っていらっしゃる方にはぜひ今すぐポチッとしていただきたいです(笑)。

――沼尻さんと京都市交響楽団の『リング』再演、いまから心待ちにしています。本日はお忙しいなか、お時間をいただきありがとうございました。

★指揮者 沼尻竜典 インタビュー<前編>はこちら

★公演情報「京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.4
ワーグナー生誕210年×没後140年『ニーベルングの指環』(ハイライト・沼尻編)」