指揮者 沼尻竜典 インタビュー<前編>(2023.11.18 京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクト Vol.4『ニーベルングの指環』より(ハイライト・沼尻編))

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京都コンサートホール

1118日に、京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.4として、ワーグナー生誕210×没後140年『ニーベルングの指環』(ハイライト·沼尻編)を開催します。公演に先立ち、今年の3月にびわ湖ホール第2代芸術監督を退任された指揮者の沼尻竜典氏と、長年オペラ制作に携わってこられたびわ湖ホール総括プロデューサーの村島美也子氏にお話を伺いました。前編では、びわ湖ホールでのオペラについて、後編では今回のコンサートについてお話いただいております。ぜひ最後までご覧ください!


――このたびは、インタビューの機会をいただき、ありがとうございます。びわ湖ホールでのオペラ制作の秘話や、今回のコンサートについてお話をお伺いできればと思います。
沼尻さんは、これまでびわ湖ホールで長年オペラに携わってこられましたね。

沼尻竜典氏(以下敬称略):びわ湖ホールでは、開館前から色々な事業に携わってきました。開館してからは、青少年向けのオペラを日本語で上演する機会を毎年2回ずついただくようになりました。「原語でやるべきだ」という意見もありましたが、入門者には母国語でリアルタイムに内容が理解できることが大切なんです。オペラは長い練習期間が必要なので大津滞在が多くなり、地元との関わりを深めていきました。

――びわ湖ホールの第2代芸術監督に就任された際、初めからワーグナー作品に取り組もうと思ってらっしゃったのですか?

沼尻:いえ、それは全く考えていませんでした。初代芸術監督の若杉弘さんはヴェルディの日本初演作品など比較的珍しいプログラムを上演してこられたので、びわ湖ホールに来場されるお客さまはオペラをたくさん聴き込んだ方が多かったのです。そこで、オペラ通の方だけでなく、もっと幅広い層のお客さまに来ていただきたいと思い、メジャーな演目も選ぶようになりました。

村島美也子氏(以下敬称略):あまりメジャーな作品はなかったですけれどね(笑)。2007年に始まった「沼尻竜典オペラセクション」の初回は、いきなりツェムリンスキーの歌劇《こびと》から始まりましたから。

沼尻:年に2本大規模なオペラを上演し、1本はポピュラー路線、もう1本はマニアック路線というラインを作りました。ポピュラー路線では、プッチーニ《ラ·ボエーム》·《トゥーランドット》やヴェルディ《椿姫》、マニアック路線では《こびと》やベルク《ルル》、R.シュトラウス《サロメ》を上演しました。

沼尻竜典マエストロと村島美也子プロデューサー

――その後、ワーグナー作品に取り組まれますが、何かきっかけがあったのでしょうか?

沼尻:まずは、マニアック路線の方で2010年に《トリスタンとイゾルデ》をやってみようという話になりました。上演してみると、お客さまの反応がとても良かったのです。案外多くの方がワーグナーを好きなのだと思いましたね。それで2012年にポピュラー路線のほうで《タンホイザー》をやることにしました。これがまた好評で、2016年には《さまよえるオランダ人》、2017年からは4年間かけて『ニーベルングの指環』(通称:リング)に取り組むことになりました。

――プロダクション選びは、沼尻さんとびわ湖ホールのスタッフの方が一緒にされるのですか?

沼尻:そうですね。私の提案に対して「(経費が)高い!」と村島さんによく言われました(笑)。『リング』の前までは、海外を旅して色んなオペラを観て、良さそうなプロダクションを見つけたら公演後にそのまま舞台裏に行き、舞台セットを買い付けるようなことも自分でしていました。

――マエストロが直々に舞台セットの買い付けもされるのですね。

沼尻:まずはコンテナ何個分に収まるかという話です。2個程度までなら輸入するのにそこまでお金はかかりませんが、「すごく良いな」と感激したあるプロダクションの舞台が「コンテナ6個分です」と言われ、さすがに見送ったこともあります。
当初は神奈川県民ホールと共同制作をしていましたが、両館の舞台機構の違いから演出上の制約も多かった。協議を重ねて『リング』以降はびわ湖ホール単独で制作することになりました。舞台セットをはじめ、何から何まですべてびわ湖ホールが製作したのです。

村島:『リング』は4年間続くことが分かっていたので、一度作った舞台装置は壊さずに劇場に置いていました。バックステージに大きい岩などがずっと置いてありましたね(笑)。

沼尻:『リング』はせっかく作ったのだから、4作品まとめて再演したかったのですけどね。お客さまや評論家からも「リングは4作品を短期間に続けて上演してこそ意味がある」とよく言われました。しかし実際は稽古も長くなるので、オーケストラと歌い手のスケジュールを確保するのが難しいですね

――ちなみに、沼尻さんが初めてワーグナー作品を手掛けられたのは何の作品だったのでしょうか?

沼尻:名古屋で《さまよえるオランダ人》を振ったのが初めてですね。その次に取り組んだのが、びわ湖ホールでの《トリスタンとイゾルデ》でした。これは上演時間が長いので体力勝負でしたね。オーケストラはトイレの心配をしていました(笑)。

――そうですよね(笑)。もともとワーグナーはお好きだったのですか?

沼尻:新婚旅行がバイロイトだったくらい好きです(笑)。ただ、『リング』を日本で上演するのは大変だと思っていました。二期会が『リング』を全曲上演するのに20年近くかかりましたから。その間に全曲日本初演は、ベルリン·ドイツ·オペラがやってしまいました。びわ湖ホールの芸術監督に就任した当時、『リング』やりましょうと言ったら、館長も含めてスタッフはみんな死んだふりをしていました(笑)。

村島:ちゃんと聞いていましたよ!でも即答はできないですよね。とてつもないお金がかかりますから。

沼尻:《神々の黄昏》が特にお金がかかるのです。空前絶後に長い上、大合唱も必要なので。コロナ前だったから上演を決断できたのかもしれないですね。今だったらとても無理でしょう。

――日本で『リング』全曲を聴ける機会として、音楽ファンにとっても貴重な4年間だったと思います。
今回は、びわ湖ホールさんのオペラについて、お話をお伺いしました。次回は、今年1118日のコンサートにご出演いただく歌手の方々や京都市交響楽団について、お聞かせください!★後編へつづく★


★公演情報「京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.4
ワーグナー生誕210年×没後140年『ニーベルングの指環』(ハイライト・沼尻編)」