福田彩乃(サクソフォーン)インタビュー(2024.3.3 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ 最終年度リサイタル Vol.2「福田彩乃 サクソフォーン・リサイタル」)

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京都コンサートホール

2022年度より、第2期登録アーティストとして活動するサクソフォーン奏者の福田彩乃さん。活動1年目は京都市内の小学校へ、2年目は小学校だけでなく、中学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。活動の締めくくりとして開催するリサイタルを前に、インタビューを行いました。

―――今年度のアウトリーチも残りわずか2公演となりました。これまでの活動を振り返っていかがでしょうか。

はじめはプログラムをこなすことに必死だったのですが、2年を通して聴き手の反応など、色んなことを考える余裕が生まれてきました。予想していた反応と実際に得られる反応が違うこともあり、「こんなこともやっていいんだ」とか「こう言ったらこういう反応をしてくれるんだ」と視野が広がりました。

1年目のアウトリーチ先は小学校だけでしたが、2年目は聴いてくださる方の年齢が幅広く、どのように接したら良いかがすごく不安でした。公演を重ねて得られたものが沢山あったので、聴き手の対象が広がったことはありがたかったです。

―――回を重ねるごとにプログラムがブラッシュアップされていくのを感じていました!あらためて、どのようなことを考えながらプログラム構成をされたか教えてください。

1年目は『作品の背景の大切さ』を伝えたいと思いプログラミングしました。単に音楽を聴いた時と、作品の背景を知ったうえで音楽を聴いた時の感じ方の違いを知っていただきたいなと思ったのです。

せっかく2年間あるので、2年目は別のことをしようとプログラムを一新しました。ただ、それまで1年間同じプログラムでやって来たので、自分の考えが凝り固まってしまい、なかなかそこから脱却することができず苦労しました。なので、新しいプログラムを初めて披露するときは結構ドキドキしました。

2年目も最初は『作品の背景』に重きを置いてお話していたのですが、公演を重ねていくうち、音楽に対する『自分自身の想い』をお話したほうが良いなと感じるようになりました。

―――なぜ『作品の背景』から『自分自身の想い』へと重きが変わったのでしょうか。

音楽に対する自分自身の想いを伝えるようにしたら、しっかりと聴いていただけた印象があったのです。『お客様が聴き入る』という体感を得られたので、言葉ひとつでこんなにも反応が変わるんだな、と学びました。

1年目は作品の背景について、しっかり説明してから演奏につなげていましたが、今では少ない言葉でも、ぐっと曲に集中してもらえるようになりました。「本当に伝えたいことをシンプルに伝えたほうが、伝わることもあるんだな」「こういう伝え方もあるんだな」と今は感じていますね。

2年間を通して「こうじゃなきゃダメ」という考え方がなくなり、頭が柔らかくなったように思います。

―――アウトリーチを通して、福田さん自身の「考え方」が変化していったのですね。

ホールで演奏するときは音楽好きのお客様が多いですが、アウトリーチで行く先々には音楽に興味のない方も多いので、自己満足になっていないか、「自分は音楽が好きでやっています!」と押しつけになっていないか、すごく不安に思っていました。

ただ実際のアウトリーチ公演で、集中して聴いてくださったり涙ながらに聴いてくださる方を目にした時は「自分がやっていることって無駄じゃないんだなあ」「自己満足ではなかったんだなあ」と思えて、自分の自信にもつながりましたね。ホールでのコンサートでは一方的になってしまうことも多いので、アウトリーチ活動を通してどのような伝わり方、受け取り方をされるかを考える癖がつき、すごく勉強になりました。

―――聴き手のことを考えて、アウトリーチでは譜面台の高さにも気を遣っていましたね!

距離が近いからこそ、演奏中に視線をどこに向けたら良いかが悩ましいところで、あまり聴き手の方をじろじろ見ると集中が切れちゃうかな、と思って譜面を見ながらチラ見したりしています。今までだったら楽譜や音楽にのみ集中していたのが、聴き手にも意識を向けられるようなったのは、すごく成長したなと思います(笑)。

―――アウトリーチ活動の中で、福田さんが伝えたいことは伝えられましたか。

そうですね、少しずつ伝わっている感覚が得られるようになってきました。最初から自分が伝えたいことを伝えられるように進めてきたつもりですが、はじめはなかなかうまくいっていない印象がありました。伝えたいことが伝わっていると、話している時の感覚が全然違って、すんなり受け入れてもらえているような不思議な雰囲気があります。特に子ども達は反応がとても正直なので(笑)。

―――アウトリーチ活動を通して、福田さんが得たものは何でしょうか。

アウトリーチ活動を始める前は、自分の想いや意思をはっきり持っていると思っていましたが、いざ伝えようとするとうまく言葉にできないことや、思ったように受け取ってもらえないことがあり、自分の頭の中で考えていることは、案外ぼんやりしたものだったんだな、と気付きました。「自分を強く持つということをしなくてはいけない」と思えたことは大きいです。

―――自分自身を見つめる時間でもあったということですね。

そうですね。プログラムを作る時、人の意見に流されて自分の中にかなりの迷いが生まれてしまうこともありました。今までの自分であれば全てを受け入れて彷徨っていたと思いますが、「それではいけない」と気付けたことは大きな収穫です。他人の意見を受け入れ過ぎると自分がなくなってしまうので、どこまで取り入れるかの取捨選択が大事だと、今は思えています。

今後意見を言っていただける機会は少なくなっていくと思うので、京都コンサートホールのスタッフの皆さんと一緒にプログラムを作れた経験は、大切で有難いなと感じています。

―――第2期登録アーティストとしての活動は、この3月で一旦ひと区切りとなりますが、今後はどのような活動をしていきたいですか。

いま決めていることとしては、自主リサイタルを年に1度、開催することです。

リサイタルは1年間の研究を突き詰めた成果を発表する場として考えており、これまで4回開催しました。博士課程まで修めたこともあり、演奏家でありながら、音楽や奏法について今後も研究していきたいという想いがあります。これからも毎年続けていきたいです。

また願望として、私自身が京都市立芸術大学のサクソフォーン専攻『第1期生』であったこともあり、京都という街で、サクソフォーンの発展に貢献していきたいと考えています。『サクソフォーン』と聞くとジャズを思い浮かべる方が多いですが、クラシックというジャンルにおいての知名度も上げるため、周知につながる活動をしていきたいです。視野を広く持ち色々な所へ飛び出し、活動の場を少しずつ広げていけたらいいなと思っています。

―――様々な所へ出かけて演奏するという点では、アウトリーチに近いものがありそうですね。2年間の活動の集大成となるリサイタルを3月3日に開催しますが、プログラムを紹介していただけますか。

私自身、サクソフォーンは多彩な音色を出せる楽器だと思っているので、その多彩さをみなさまに知っていただけるようなプログラムを組みました。

J.マッキーの《ソプラノサクソフォーン協奏曲》、R.モリネッリの《ニューヨークからの4つの絵》は、各楽章にタイトルが付いているので情景などをイメージしやすく、音色の違いをより感じ取っていただけるのではないかと思い、プログラムを決めるなかで早々に選曲しました。

楽章ごとに、作曲者が何を表現したかったのかを想像しながら、音の多彩さをみなさんに聴いていただきたいと思います。1作品の中に異なる雰囲気の曲があるということも、みなさんに知っていただきたいですね。

―――いつも一緒に演奏しているピアニストの曽我部さんと、その2曲は演奏したことがありますか。

マッキーは2回目ですが、モリネッリは初めてです!モリネッリは私自身もこれまで取り組んだことがなかったので、本当に初披露です。どちらもピアノが大変なのですが、曽我部さんと相談し、無事OKをもらえました(笑)。

―――普段アウトリーチで披露している作品も入っていますね。

真島俊夫の《シーガル》はこれからも大切にしたい作品で、特に入れたいなと思っていました。J.リュエフの《シャンソンとパスピエ》は私が楽器を始めたころに、初めてソロで演奏した作品です。曲調的に1曲目に持ってくるのはどうかな、とも思ったのですが、初心に返ろうと思い、演奏会の最初に演奏します。R.ヴィードーフの《サクス・オ・フン》は人の笑い声を表現した面白い作品なので、リラックスして聴いていただきたいです。聴きごたえのある作品の合間に、リラックスタイムもお届けします!

―――G.ガーシュインの《3つの前奏曲》とV.モロスコの《ブルー・カプリス》はいかがでしょうか。

ガーシュウィンは、過去にサックスアンサンブルで演奏した個人的に思い入れのある作品です。その時はサクソフォーン四重奏で第2曲を演奏しました。こちらも3曲に分かれているので聴きやすく、楽しんでいただけると思います。

モロスコは指が目まぐるしく動く無伴奏の作品で、ジャズをはじめ、色んなジャンルの音楽が散りばめられています。テクニカルでもあり、初めて聴く方にもお楽しみいただけると思います。最後にとあるサクソフォーンの名曲が少しだけ引用されているので、ぜひ最後まで注目して聴いていただきたいです。

また、ガーシュウィン、モロスコ、マッキーがアメリカの作曲家なので、「繋がりがある!」と決め手のひとつにもなりました。

「こんな風に演奏したら、お客様にこれが伝わるかな?」ということを1曲1曲考えながらプログラムを組みました。

―――お客様にとって、そして福田さんにとって、どのような演奏会にしたいですか。

リサイタルというと演奏者からお客様へ、一方的に演奏をお届けすることも多いのですが、聴いてくださる方がいるからこそ成り立つ演奏会です。アウトリーチで培ってきた経験を活かし、お客様の反応を見ながらお話を交えて進行していきたいです。せっかく同じ空間で同じ時間を過ごすので、堅苦しいものではなく、お互いが「やって良かった」「来てよかった」と思える演奏会にしたいです。

―――お客様と一緒に演奏会をつくるイメージですね。私たちもそのような演奏会になるよう精一杯サポートします!それでは、最後にお客様へのメッセージをお願いします。

登録アーティストとして、2年間活動してきた成果を発表する場でもあるので、活動で得たことをこの演奏会に織り交ぜたいです。お話の仕方、間の取り方等も工夫しながら、音楽が自然と耳に入ってくる時間を皆さまとつくりたいと思っています。

今回はアルトサクソフォーンだけでなく、ソプラノ、テナーも含めた3種類のサクソフォーンを使用するので、サクソフォーンの多彩さを一層感じていただけるのではないでしょうか。どうかお気軽に、京都コンサートホールまでお越しいただけたら嬉しいです。心からお待ちしております!

(2024年1月 事業企画課 インタビュー)

2年にわたるアウトリーチ活動の成果と、福田さんの渾身のプログラムを聴きに、ぜひ京都コンサートホールへお越しください!

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鎌田邦裕(フルート)インタビュー(2024.3.2 Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~ 最終年度リサイタル Vol.1「鎌田邦裕 フルート・リサイタル」)

投稿日:
京都コンサートホール

3月2日に京都コンサートホール第2期登録アーティストの卒業リサイタルを行うフルーティストの鎌田邦裕さん。
2年間のアウトリーチ活動や、卒業リサイタルに向けてのインタビューを行いました。是非最後までお読みください!

2023年アウトリーチ公演より

――2年間のアウトリーチ活動を積み重ねて、演奏家としてご自身に変化はありましたか。

私はこの2年間のアウトリーチで、同じ曲を何度も繰り返し披露する機会をいただきました。そんな中、毎回同じ曲を演奏していても、心の底から「今、演奏しているこの音楽が好きで、その気持ちを伝えたい」と感じることが改めて大切だと思いましたし、実際にそのように感じながら活動できた2年間だったかなと思っています。

――アウトリーチを通して、ご自身が伝えたい思いや気持ちが相手に伝わったという手応えを感じられたということですね。

そうですね。演奏している最中に聴き手の顔を見ていると、素の表情で聴いてくれていることが多いのですが、演奏が終わった後に笑顔でこちらに来てくれたり、子どもたちが書いてくれた手紙を読んでいると、自分が思っていた以上に音楽を感じてくれたのだなと思いました。嬉しい驚きでしたし、新たな発見でしたね。

――印象に残っているアウトリーチはありますか。

夜間部のある中学校でのアウトリーチは新鮮でした。「鶴の巣ごもり」という曲を演奏した時の、外国人の生徒さんたちの反応が印象に残っています。この曲を演奏すると、日本の方々はたいてい喜んでくださるのですが、以前、スロバキアで演奏したとき、現地の方々は、まるで現代音楽を聴いているかのような反応でした。しかし、その生徒さんたちは、日本に住んでいることもあってなのか、とても自然な姿勢で聴いてくださっていたように感じました。

また、山科にある京都市立の小学校でのアウトリーチも印象に残っています。自然や山に囲まれた環境で育っているためか、感受性が豊かで、私の予想を超えた素晴らしい発想で発表してくれた子どもたちが多かったです。

2022年アウトリーチ公演より

――2年間のアウトリーチを通し、鎌田さんが一番伝えたかったことを教えてください。

音楽は自由に聴いて良いんだよ、ということですね。自分が出したい音や伝えたい気持ちはたくさんあるのですが、聴き手も私と同じことを感じるとは必ずしも言えないし、私が良いと思ったものを相手も100%良いとは思ってくれないかもしれない。でも、それで良いんです。音楽を聴いて自由に想像を膨らませたり、周囲に迷惑さえかけなければ、体を動かしてリズムをとったり、好きに音楽を楽しんでいただいて良いと思います。

――2年間のアウトリーチを終えて、その集大成として3月2日にリサイタルを開催されます。どのようなテーマでプログラムを組みましたか。

今回のテーマは「神話」です。私は昔から、ギリシャ神話や星座にまつわるお話が好きでした。ギリシャ神話の中には笛にまつわるお話もあるので、今回は神話や祈りをモチーフにした作品を選びました。

2023年3月4日 ジョイントコンサートより

――幅広い時代の作品を選んでくださっています。バッハもありますし、ユレルの「エオリア」という現代作品も選んでくださっていますね。

現代曲は難しいというイメージがあるかもしれませんが、昔、大学でお世話になった先生から「私たちと同じ時代に生きている人が作った曲なのだから、バッハやモーツァルトよりも私たちに通じるものはたくさんあるはずだ」と言われたことがあり、今ではその言葉の意味がよくわかるようになりました。バッハから現代曲まで、大きな歴史的な流れを感じていただければと思います。

――鎌田さんは毎年、東京や京都、故郷の山形でもリサイタルをなさっていますね。

20歳の頃から山形で毎年リサイタルをしているのですが、今年で11年目を迎えます。お客さまにあまり馴染みのない曲を演奏することもあるのですが、毎回トークを交えながら様々な工夫を凝らしてやってみると、知らない曲でも「面白かった!」という反応をいただけます。

――今回の京都での公演でプログラミングをされる際、工夫をなさったことはありますか。

アウトリーチで出会った方々を思い浮かべながら、小さなお子さんや普段クラシック音楽を聴かないような方々にも聴きやすい作品をなるべく選曲するようにしました。たくさんの方に聴いていただきたいです。

――京都コンサートホールの登録アーティストを卒業された後、これからの鎌田さんの活動の目標を教えてください。

ずっと変わらず夢であり将来の目標として持ち続けているのは、大学などの教育機関でフルートを学ぶ人々の指導がしたいということです。そこからフルートを通じて音楽の喜びや楽しさを感じる人が増えてほしいと思います。

また、昨年10月から京都フィルハーモニー室内合奏団に在籍していますが、ソロだけではなくオーケストラやアンサンブルについても学びたいと思っています。オーケストラでは、これまでに出会えなかったような作曲家の作品を演奏することができ、とても勉強になりますし、幸せなことだなと感じています。

そして、これは山形でリサイタルを続けている理由のひとつでもあるのですが、私が山形にいた高校生の頃を思い返すと、身近に専門的にフルートを学べるところはありませんでした。ですので、地方で専門的に音楽を学びたいと思っている人たちに学びの場を提供できる環境を構築していきたいです。

2023年3月4日 ジョイントコンサートより

――山形で10年以上、リサイタルを続けてこられた理由をあらためて知ることができました。とても素敵な目標ですね。

これまで続けてきた中で、私の背中を追ってフルートの道を選ばれた方もいました。それはやはり、続けてきたことのひとつの成果だと感じています。アウトリーチでも同じことが言えると思うのですが、継続するということはとても大切なことです。全国的に、このようなアウトリーチのプログラムを誰もが受けられるようになっていったら良いと思います。

――それでは最後に、お客さまに向けてメッセージをお願いします。

まずは是非、コンサートにご来場いただきたいです。コンサートにお越しいただければ、それまで知らなかった世界や心が開かれたり、感じたりすることが絶対にあると思います。コンサートに来たからといって、何か物がもらえるわけでもなく、お腹がいっぱいになるわけでもありません。しかし、新たな音楽的な体験ができますし、非日常の時間を過ごしていただく中で、そのコンサートでしか得られない経験や感情が必ずあると思います。今回のテーマは「神話」ということで、日常から離れた2時間ほどのひとときを皆さまと一緒に過ごすことができれば幸せです。

――ありがとうございます。たくさんの方にご来場いただけるといいですね。

そうですね。まだ私のことをご存知ではない方もたくさんおられるかと思いますが、とにかく「一度コンサートに来てみてください!」と強く思います。これまで見知らぬ人たちが、コンサートでたった2時間とはいえ一緒の時間を過ごすなんて、すごい巡り合わせだと思うんです。コンサートをきっかけに、「この音楽、好きだな」と思っていただければ幸せですし、演奏を通して私という人柄も見ていただき、何か親しみを感じていただければ嬉しいなと思います。

――今日は色々なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。3月2日のリサイタルを楽しみにしています!

2023年3月4日 ジョイントコンサートより

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