3月2日に京都コンサートホール第2期登録アーティストの卒業リサイタルを行うフルーティストの鎌田邦裕さん。
2年間のアウトリーチ活動や、卒業リサイタルに向けてのインタビューを行いました。是非最後までお読みください!
――2年間のアウトリーチ活動を積み重ねて、演奏家としてご自身に変化はありましたか。
私はこの2年間のアウトリーチで、同じ曲を何度も繰り返し披露する機会をいただきました。そんな中、毎回同じ曲を演奏していても、心の底から「今、演奏しているこの音楽が好きで、その気持ちを伝えたい」と感じることが改めて大切だと思いましたし、実際にそのように感じながら活動できた2年間だったかなと思っています。
――アウトリーチを通して、ご自身が伝えたい思いや気持ちが相手に伝わったという手応えを感じられたということですね。
そうですね。演奏している最中に聴き手の顔を見ていると、素の表情で聴いてくれていることが多いのですが、演奏が終わった後に笑顔でこちらに来てくれたり、子どもたちが書いてくれた手紙を読んでいると、自分が思っていた以上に音楽を感じてくれたのだなと思いました。嬉しい驚きでしたし、新たな発見でしたね。
――印象に残っているアウトリーチはありますか。
夜間部のある中学校でのアウトリーチは新鮮でした。「鶴の巣ごもり」という曲を演奏した時の、外国人の生徒さんたちの反応が印象に残っています。この曲を演奏すると、日本の方々はたいてい喜んでくださるのですが、以前、スロバキアで演奏したとき、現地の方々は、まるで現代音楽を聴いているかのような反応でした。しかし、その生徒さんたちは、日本に住んでいることもあってなのか、とても自然な姿勢で聴いてくださっていたように感じました。
また、山科にある京都市立の小学校でのアウトリーチも印象に残っています。自然や山に囲まれた環境で育っているためか、感受性が豊かで、私の予想を超えた素晴らしい発想で発表してくれた子どもたちが多かったです。
――2年間のアウトリーチを通し、鎌田さんが一番伝えたかったことを教えてください。
音楽は自由に聴いて良いんだよ、ということですね。自分が出したい音や伝えたい気持ちはたくさんあるのですが、聴き手も私と同じことを感じるとは必ずしも言えないし、私が良いと思ったものを相手も100%良いとは思ってくれないかもしれない。でも、それで良いんです。音楽を聴いて自由に想像を膨らませたり、周囲に迷惑さえかけなければ、体を動かしてリズムをとったり、好きに音楽を楽しんでいただいて良いと思います。
――2年間のアウトリーチを終えて、その集大成として3月2日にリサイタルを開催されます。どのようなテーマでプログラムを組みましたか。
今回のテーマは「神話」です。私は昔から、ギリシャ神話や星座にまつわるお話が好きでした。ギリシャ神話の中には笛にまつわるお話もあるので、今回は神話や祈りをモチーフにした作品を選びました。
――幅広い時代の作品を選んでくださっています。バッハもありますし、ユレルの「エオリア」という現代作品も選んでくださっていますね。
現代曲は難しいというイメージがあるかもしれませんが、昔、大学でお世話になった先生から「私たちと同じ時代に生きている人が作った曲なのだから、バッハやモーツァルトよりも私たちに通じるものはたくさんあるはずだ」と言われたことがあり、今ではその言葉の意味がよくわかるようになりました。バッハから現代曲まで、大きな歴史的な流れを感じていただければと思います。
――鎌田さんは毎年、東京や京都、故郷の山形でもリサイタルをなさっていますね。
20歳の頃から山形で毎年リサイタルをしているのですが、今年で11年目を迎えます。お客さまにあまり馴染みのない曲を演奏することもあるのですが、毎回トークを交えながら様々な工夫を凝らしてやってみると、知らない曲でも「面白かった!」という反応をいただけます。
――今回の京都での公演でプログラミングをされる際、工夫をなさったことはありますか。
アウトリーチで出会った方々を思い浮かべながら、小さなお子さんや普段クラシック音楽を聴かないような方々にも聴きやすい作品をなるべく選曲するようにしました。たくさんの方に聴いていただきたいです。
――京都コンサートホールの登録アーティストを卒業された後、これからの鎌田さんの活動の目標を教えてください。
ずっと変わらず夢であり将来の目標として持ち続けているのは、大学などの教育機関でフルートを学ぶ人々の指導がしたいということです。そこからフルートを通じて音楽の喜びや楽しさを感じる人が増えてほしいと思います。
また、昨年10月から京都フィルハーモニー室内合奏団に在籍していますが、ソロだけではなくオーケストラやアンサンブルについても学びたいと思っています。オーケストラでは、これまでに出会えなかったような作曲家の作品を演奏することができ、とても勉強になりますし、幸せなことだなと感じています。
そして、これは山形でリサイタルを続けている理由のひとつでもあるのですが、私が山形にいた高校生の頃を思い返すと、身近に専門的にフルートを学べるところはありませんでした。ですので、地方で専門的に音楽を学びたいと思っている人たちに学びの場を提供できる環境を構築していきたいです。
――山形で10年以上、リサイタルを続けてこられた理由をあらためて知ることができました。とても素敵な目標ですね。
これまで続けてきた中で、私の背中を追ってフルートの道を選ばれた方もいました。それはやはり、続けてきたことのひとつの成果だと感じています。アウトリーチでも同じことが言えると思うのですが、継続するということはとても大切なことです。全国的に、このようなアウトリーチのプログラムを誰もが受けられるようになっていったら良いと思います。
――それでは最後に、お客さまに向けてメッセージをお願いします。
まずは是非、コンサートにご来場いただきたいです。コンサートにお越しいただければ、それまで知らなかった世界や心が開かれたり、感じたりすることが絶対にあると思います。コンサートに来たからといって、何か物がもらえるわけでもなく、お腹がいっぱいになるわけでもありません。しかし、新たな音楽的な体験ができますし、非日常の時間を過ごしていただく中で、そのコンサートでしか得られない経験や感情が必ずあると思います。今回のテーマは「神話」ということで、日常から離れた2時間ほどのひとときを皆さまと一緒に過ごすことができれば幸せです。
――ありがとうございます。たくさんの方にご来場いただけるといいですね。
そうですね。まだ私のことをご存知ではない方もたくさんおられるかと思いますが、とにかく「一度コンサートに来てみてください!」と強く思います。これまで見知らぬ人たちが、コンサートでたった2時間とはいえ一緒の時間を過ごすなんて、すごい巡り合わせだと思うんです。コンサートをきっかけに、「この音楽、好きだな」と思っていただければ幸せですし、演奏を通して私という人柄も見ていただき、何か親しみを感じていただければ嬉しいなと思います。
――今日は色々なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。3月2日のリサイタルを楽しみにしています!
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