11月2日に京都コンサートホール 大ホールにて、「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ Vol.74 オルガニスト・エトワール”中田恵子”」を開催します。公演に先立ち、オルガニストの中田恵子さんにインタビューを実施しました。
後編では、現在のご活動や今回のプログラムについてお話しいただいております。
ぜひ最後までご覧ください!
▶前編はコチラ
ーーフランス留学の後、東京藝術大学での助手、雪ノ下教会のオルガニストを務める傍ら、2019年にはバッハ作品を収録した「Joy of Bach」をリリースされました。こちらはどのような経緯で制作されたのですか?
オランダで鈴木雅明先生がCDを収録される時、ちょうどパリにいた私にアシスタントとして声をかけてくださいました。その時の録音技師さんが私に「君もCDを収録してみたら」とお声がけくださったのがきっかけです。バッハの音楽は、リズミカルで和声も素敵で、何も分からなくても聴いていて純粋に楽しいものだと思います。実際、子供の頃に私もそこに惹かれたので、堅苦しく考えず、ポップスを聴くように多くの方にバッハを聴いてほしいと思いました。本当に良いものって、ジャンルの境界線はないと思うのです。宗教的な背景や、難しい理論は一旦おいて、ただ楽しんで聴いてもらいたい、というコンセプトで、「Joy of Bach」を作りました。理屈抜きで、まずは「私はバッハのこんなところが好きなんだよ!」という想いをぎゅっと詰め込みました。
ーーだから「Joy of Bach」なのですね!
そうなのです!小さい頃感じていたような、本能的に楽しいと思える気持ちでバッハを聴いてほしいという想いが詰まっています。有名な曲や聴きなじみのある曲もたくさん選んでいるので、ノリノリで聴いてもらえたら嬉しいです。あまり難しいことを考えずにただ聴いてほしいです。
ーー2作目のCD「Pray with Bach」は対照的に厳かな作品が並びますね。
そうですね。こちらは、私がオルガニストを務める鎌倉雪ノ下教会で収録したアルバムです。コロナ禍で、礼拝がYouTube配信になった期間、信者の方々から「生のオルガンの音が恋しい」という声が寄せられました。しかし、配信では音質がどうしても悪くなってしまいますし、いつも教会で弾いていたような曲をご自宅でも聴いていただけたらと思い、バッハの《オルガン小曲集》をメインに収録をしました。
―ーー《オルガン小曲集》は、今回のプログラムでもご披露いただきますよね。生で演奏をお聴きできるのを楽しみにしています!
さて、2021年には神奈川県民ホールのオルガン・アドバイザーに就任されました。リサイタルのほか、バロックアンサンブルやバレエとオルガンのコラボレーションなど、多彩な活動をしていらっしゃいますね。
コラボレーションの公演は、異ジャンルの方々と意見を出し合って創っていますが、大変であると同時に、とてもやりがいを感じています。次回は、俳優さんとのコラボレーションを考えています。このような公演に来てくださるお客さまの半分は、オルガンに馴染みのない方々だと思うので、これを機にオルガンを好きになってくれたら嬉しいですね。
ーー俳優さんとのコラボレーション、楽しみですね!今後、どのようなオルガニストになりたいですか?
目の前のことで精一杯で未来をあまり想像できないのですが、中田恵子の演奏を聴きたいと言ってもらえるような、唯一無二の演奏家になりたいと思っています。またオルガンは、ピアノやヴァイオリンに比べればまだまだ耳にする機会が少ないと思うので、普及させていきたいですね。
ーーさて、次は11月2日に開催する公演のプログラミングについてお伺いします。初めに演奏される《前奏曲とフーガ イ短調 BWV543》は2作目のCD「Pray with Bach」でも冒頭に収録されていたと思うのですが、この曲をなぜ初めに選ばれたのですか?
この曲の次に演奏する《オルガン小曲集》の1曲目が〈いざ来ませ、異邦人の救い主よBWV599〉なのですが、これは「待降節(アドヴェント)」のコラールです。待降節とは、救い主であるキリストの降誕を待ち望む期間です。それに先立つ曲は、まだ救い主が現れていない旧約聖書の世界、暗い中で何かを切望しているような雰囲気で始めたく、《前奏曲とフーガ イ短調》を選びました。救い主を待ち望んでいる場面からだんだんと光が見えてきて…という流れで、待降、降誕(クリスマス)に入っていけたらと。《オルガン小曲集》はキリストの生涯を示した教会暦に沿って書かれています。前半のプログラムは、《前奏曲とフーガ イ短調》に続き、キリストの生涯を辿るように「待降⇒降誕⇒受難⇒復活」を表現する5曲を選曲しました。
ーー前半の最後に演奏される《トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV564》は、修士論文のテーマにしていらっしゃいましたね。
この曲は、バッハのオルガン作品の中でも珍しく3つの形式で書かれていたり、他にも色々と特徴的な部分のある曲なので、もしかしてバッハが何かをイメージしてそれに沿って書いた曲かもしれない、と漠然と感じていました。《アダージョ》のペダル声部が、復活節のコラールのメロディーに似ていると思ったのがきっかけになり、「《トッカータ》がキリストの降誕、《アダージョ》が受難、《フーガ》が復活を表している」という仮説を立てました。修士論文では、歌詞のあるバッハのカンタータ作品や、《オルガン小曲集》の中で用いているバッハが歌詞を表すために象徴的に使った音型と、《トッカータ、アダージョとフーガ》にそれぞれ使われている音型とを比較して仮説を検証していきました。結果、修辞学的に仮説通りにはまるところが沢山でてきました。
ーー《オルガン小曲集》からキリストの「降誕・受難・復活」をテーマに選曲いただきましたが、その統括としてこの曲を選んでくださったのですね!
はい!そうなんです。またこの曲は、大学院の修了演奏会で弾いたのですが、修士論文は評価していただいた一方、当時の演奏は自分の中で反省が残るもので、それ以来ずっと弾いていませんでした。様々な経験を経た今、再び、この曲に向き合いたい!との想いもあり選びました。
ーープログラムの後半はどのような意図で組まれましたか?
《オルガン小曲集》は、コラールを基にした46の小作品が収められていて、曲集の前半はキリストの生涯を示した教会暦に沿ったもの、後半は信仰生活大切にしてをテーマにしたものとなっています。それに合わせ、プログラムの後半は信仰生活のコラールを選びました。それらのコラールを挟んで配置したのは、《トッカータとフーガ ニ短調》と《パッサカリア》です。《トッカータとフーガ ニ短調》は、誰もが知っている冒頭で始まる、有名曲ですね。《パッサカリア》は、同じバスの旋律が繰り返し紡がれ、過去も未来も全てが繋がっていくようなイメージがあり、最後に置きました。
ーー今からとても楽しみにしています!
それでは最後に、お客さまに向けてメッセージをお願いします。
バッハは私にとって特別な存在で、今回、オール・バッハのプログラムをご依頼いただけて、本当に嬉しかったです。理屈抜きに本能的に聴いていただくのも良し、修辞学的な内容を味わって聴いていただくのも良し、自由に楽しんでいただければと思います。また今回は、さまざまな形式の曲をプログラムに入れています。どの曲を弾いていても「バッハってすごいなぁ、よくこんな音楽を思いつくな」と驚かされます。バラエティ豊かに繰り広げられるバッハの宇宙を、ぜひご一緒に味わっていただけたらと思います。ご来場お待ちしております!
ーー中田恵子さん、お忙しいなかありがとうございました!中田恵子さんの想いが詰まったオール・バッハ・プログラムをご期待ください!