ウインドクインテット・ソノリテ 上野博昭(フルート)& 村中宏(ファゴット)インタビュー【前半】(2023.10.21 プーランク没後60年 パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ「プーランクの横顔」)

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京都コンサートホール

「軽妙洒脱でユーモラス、時々メランコリック」な音楽を書いた、フランスの作曲家 フランシス・プーランク。2023年は、そんなプーランクの没後60年の年にあたります。
京都コンサートホールでは、プーランクのピアノ曲や室内楽作品にフィーチャーしたコンサート「プーランクの横顔」を10月21日(土)に開催し、さまざまな角度から“プーランクの横顔”を投影することにより、作曲家の魅力を再発見します。出演者は、フランスの巨匠 パスカル・ロジェと、京都にゆかりのある木管五重奏団「ウインドクインテット・ソノリテ」です。
今回は、「ウインドクインテット・ソノリテ」のメンバーであり、京都市交響楽団の楽団員でもあるフルート奏者の上野博昭さんとファゴット奏者の村中宏さんにインタビューし、プーランクやソノリテのメンバーに関するお話を伺いました。【前半】と【後半】の2回にわたり、お届けします。

(聞き手:高野裕子/京都コンサートホールプロデューサー)


高野:今年はプーランク没後60年の年ということで、去年(2022年)から「2023年はプーランクの演奏会をするぞ!」と意気込んでいました。
プーランクって、同郷・同時代人のドビュッシーやラヴェルなどに比べると、日本ではあまり親しまれていない作曲家ですよね。

上野博昭氏(以下、敬称略):そうですね、オーケストラ作品をあまり書いていないからですかね。

村中宏氏(以下、敬称略):僕は京都市交響楽団に10年間在籍しているのですが、定期演奏会にプーランクの作品が出てきたという記憶は、あまりないのですよね。

高野:国内では鑑賞機会の少ないプーランクですが、実際に聴いてみると本当に魅力的な音楽なんですよね。今年はプーランクの記念の年ということで、これをきっかけに、たくさんの方々にプーランクの魅力をあらためて知っていただきたいなと考えています。
ところでお二人は、当ホールのSNSにアップロードしたパスカル・ロジェさんの動画はご覧になりましたか?

上野:はい、観ました。いやぁ、もう、ロジェさんの(プーランクとの出会いに関する)エピソードには敵いませんよね。だって、生まれる前、お母さんのお腹の中でプーランクの音楽を聴いていらっしゃったんですよね。

高野:そうそう、とても素敵なエピソードでした。
今日は、お二人のプーランクとの出会いについても教えてくださいますか。

上野:僕とプーランクの出会いは、中学生時代です。プーランクの《フルート・ソナタ》がきっかけでした。この作品は、購入するフルートのCDに必ずと言って良いほど入っている、名曲中の名曲ですからね。
フルート吹きにとってプーランクはけっこう身近な作曲家で、彼のフルート・ソナタはフルート吹きがまず最初に憧れる曲でもあります。

高野:ちなみに、初めてプーランクの《フルート・ソナタ》を演奏されたのは何歳ですか。

上野博昭氏

上野:実は、人前で初めて演奏したのはついこの間なんです(笑)。
演奏しようと思えばできるけれど、音楽の深いところに踏み込もうとすると、ちょっと勇気がいる。人前で軽々しく演奏できないんですよね。なぜなら、皆がそれぞれに考える「プーランク」があるから。
だから「俺はこう演奏する!」と思って演奏しても、それが受け入れてもらえるかどうか分からない難しさがあるのです。

高野:村中さんとプーランクの出会いはいつですか?

村中宏氏

村中:プーランクはファゴット独奏のために曲を書かなかったから、近い存在の作曲家ではなかったですね。
ただ、ファゴットが入っている作品は3つあります。クラリネットとファゴットのデュオやオーボエ・ファゴット・ピアノのトリオ、そして今回の演奏会でも演奏する、ピアノと木管五重奏のための六重奏曲です。
でもプーランクって、本当に難しい。例えば、クラリネットとファゴットのデュオは、クラリネットの友人と一緒に「よし、ちょっとやってみよう」と演奏したことがあるのですが、これがなかなか形にならないのです。
技術的にハイレベルなことを要求されるという難しさもありますが、ジャズっぽい要素が入っていて、ぱっと吹いてみてもサマにならない。クラシックだけではなく、色々な曲を知っていて、技術的にも上達した人が演奏してはじめて、かっこよく演奏できる曲なんだと思います。

高野:《六重奏曲》も難しい曲ですか?

村中:はい、難しいですね。コンサートのプログラムに初めて入れたのは大学生の頃でしたが、その頃から今にいたるまで、難しいなと思います。

高野:難しいというのは、技術的な難しさでしょうか?

村中:そうですね。プーランクは管楽器が好きだったそうで、楽器のことをよく熟知しているなぁと思います。それぞれの楽器が得意とする技術を使っているのですが、逆に、それぞれの楽器が苦手とすることもよく分かっているのです。楽器の短所をうまく音楽に取り入れている箇所が多々あって、それが音楽の幅の拡がりにも繋がっているなと思います。

高野:例えばファゴットで言うと、どのような難しいことを要求されますか。

村中:ファゴットって音が小さな楽器で、ピアノの左手パートの音を重ねることが多い。ファゴット=伴奏、と思われがちなのですが、プーランクは、その音が小さいという短所を逆手に、ファゴットのソロを入れるのです(笑)。《六重奏曲》でもそのような箇所がありますが、ファゴット以外の5人は音を出さず、ファゴット1人に吹かせるのです。そして、次の音楽に繋げていく。「プーランクは楽器のことをよく分かっているなぁ」と感心します。

高野:いま村中さんが、プーランクの楽器の扱いの巧妙さについてお話してくださいましたが、フルートに関しても同意見でいらっしゃいますか。

上野:プーランクの《フルート・ソナタ》は、1957年にストラスブールで初演を行ったフルート奏 者のジャン=ピエール・ランパル (1922-2000) と楽曲制作段階から密接な意見交換を交わしながら作られているので、フルート奏者にとって演奏しやすいように色々と変更されることは予測されます。ほぼ2人の共作だと思ってもいいのではないかとさえ思います。2人が出会わなければ世の中に残らなかったかもしれないのですし。
つまり、プーランクは、演奏家の意見を取り入れることを非常に大事にしていた作曲家なんじゃないかと思います。

高野:このようなお話って、演奏家ならではのお話ですよね。楽譜や書籍を眺めているだけでは分からない、貴重なお話です。
わたしはピアノでプーランクを演奏したことがありますが、楽譜を見ているだけではぜんぜん分かりませんが、実際に音にしてみると「これぞ、プーランク!」という響きになるのが不思議でした。

上野:《六重奏曲》にも、プーランクらしい箇所がたくさん出てきます。

高野:お二人は、「プーランクらしさ」ってどのようなものと考えていらっしゃいますか。

村中:演奏会のチラシに「軽妙洒脱でユーモラス、時々メランコリック」って書いてあるでしょう。まさにこの通りだと思うんです。真正面から「私、プーランクなんです」っていう音楽じゃなくて、ちょっと斜めから見ているようなニヒルな部分があったり、冗談っぽい部分があったり。それぞれの楽器で色々なことをやらされて、一人ひとりがとっても個性的なメロディを吹いているんですよね。それがもう、次から次へ、目まぐるしく現れるんです。
初めて聴く人は「面白い!」と思ってもらえると思いますが、「次、どうなるの?えっ、次は何が出てくるの!」って疲れちゃうかもしれません(笑)。
一般的な曲だったら、だいたい「次はこういう展開だろうな」と予想がつくじゃないですか。プーランクの《六重奏曲》は、予想がつかないです。まるでパズルのピースのように音楽が並んでいて、最終的に大きなひとつの作品になるようなイメージです。

上野:パズルのような音楽だから、一瞬なんですよね。ひとつ吹いたら、またすぐ次の音楽がやってくる。

高野:よくわかります。わたしがピアノでプーランクを弾いていた時、その切り替えが難しいなと思っていました。譜面上は難しい音の並びではないのですが、音にした途端にださくなっちゃう。

上野:そうなんですよ。何が難しいって、奏者一人ひとりがめちゃくちゃうまくないと、プーランクは音楽として成り立たないんですよ。名曲中の名曲なのですが、全員がうまくないと成り立たないので、なかなか敷居の高い作品でもあります。

村中:今回は大ピアニストのパスカル・ロジェさんとこの名曲を演奏できるので、フレンチなあの雰囲気、お洒落な感じ、そういうのを一緒に表現したいですね。
お客さまにはぜひ、6人が対等に音楽をやっている面白さというものを感じていただきたいです。

(【後半】に続く)


上野 博昭(うえの・ひろあき)

岐阜市出身。名古屋芸術大学音楽学部器楽科卒業。大阪交響楽団(旧大阪シンフォニカー交響楽団)フルート副首席奏者、大阪フィルハーモニー交響楽団フルートトップ奏者を経て、2017年2月より京都市交響楽団の首席フルート奏者として就任し現在に至る。神戸女学院大学、大阪芸術大学講師。中学・高校の吹奏楽指導、各地方面での講習会開催、コンクールの審査員などを務める。 レッシュプロジェクトマスター級トレーナーの資格を取得。

村中 宏(むらなか・ひろし)

東京藝術大学をアカンサス音楽賞、同声会賞を受賞し卒業。ソリストとしてヨルマ・パヌラ指揮、藝大フィルハーモニア管弦楽団と共演。宝塚ベガ音楽コンクール第1位、兵庫県知事賞受賞。大阪国際音楽コンクール最高位。日本管打楽器コンクール第3位。JILA音楽コンクール室内楽部門第1位。松方ホール音楽賞受賞。NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」に出演。京都市交響楽団ファゴット奏者。

【公演情報】
プーランク没後60年
パスカル・ロジェ×ウインドクインテット・ソノリテ
「プーランクの横顔」
2023年10月21日(土)15:00開演(14:30開場)
ピアノ:パスカル・ロジェ
木管五重奏:ウインドクインテット・ソノリテ
(フルート:上野博昭、オーボエ:須貝絵里、クラリネット:吉田悠人、ファゴット:村中宏、ホルン:深江和音)
プログラム:オール・プーランク・プログラム
クラリネット・ソナタ、3つのノヴェレッテ、《15の即興曲》より第13番・第15番・第6番、フルート・ソナタ、六重奏曲 ほか
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