オルガニスト 福本茉莉 インタビュー(2023.09.30 オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.72)

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京都コンサートホール

京都コンサートホールの人気シリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」の72回目(9/30)は、世界の名だたるコンクールを制覇した福本茉莉さんをお迎えします。

福本さんにとって京都初リサイタルとなる本コンサートに向けて、Zoomでインタビューを行いました。
留学先としてドイツを選んだ経緯や、ドイツを中心とした演奏活動について、そして今回演奏してくださるプログラムなど、様々なお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください!

――ご無沙汰しております!前回は2020年9月に「第24回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート」にソリストでご出演いただきましたので、今回の公演は3年ぶりのご登場となります。前回のメールインタビューではオルガンを始めたきっかけを伺いました。その後東京藝術大学でオルガンを学ばれて、ドイツのハンブルク音楽演劇大学へ留学されましたが、なぜ留学先にドイツを選ばれたのでしょうか?

ヴォルフガング・ツェラー先生と

福本茉莉さん(以下敬称略):大学入学直後から、やりたいことや自分に合うことが何かをずっと考えていました。レパートリーを考えた時に、バッハが遠い存在になるのが嫌だったので、バッハが得意な先生を探し始めたんです。

20歳の時、ハンブルク音楽演劇大学のヴォルフガング・ツェラー先生の講習会を受けに行きました。その後、様々なバッハのCDを聴きましたが、1音目から心を持っていかれたのがやはりツェラー先生だったので、先生に就くことに決めました。

また同時期に、歴史的なオルガンを見にドイツを半年ほど1人旅をした際、ハンブルク近くのシュターデという町にある「聖コスメ教会」に、北ドイツで有名なオルガン製作者アルプ・シュニットガーが作った楽器があり、どうしても弾いてみたくて当教会のオルガニスト マルティン・ベーカー氏にコンタクトを取りました。
そして初めて弾いた時に「こんなにも綺麗な音が出る楽器が世の中にあるのか!」と衝撃を受けたのです。まるで宝石箱をぶちまけたかのような、キラキラと輝く音でした。
この楽器との出会いもハンブルクに行こうと思った理由の一つです。

ちなみに、今年念願叶ってこの楽器でCDの録音(発売は来年予定)をしたところです!

――そんな運命的な出会いがあったのですね。留学後はどのように進路を決めたのでしょうか?

福本さん:もともとは2年で日本へ帰る予定でしたが、留学1年目が終わった時に受けた「第7回武蔵野国際オルガンコンクール」で優勝したことにより、状況が変わりました。
ドイツでは、留学した頃から定期的に仕事をいただいていたので、ドイツに残った方が仕事があると考えました。そして、ドイツでオルガンの仕事をするためには、教会音楽家の資格を持っている方が有利なので、演奏の博士課程と並行して、教会音楽を勉強し直し、演奏活動をしながら計8年間の学生生活を送りました。
最後の学期中に、ヴァイマール・フランツ・リスト音楽大学の常勤講師の公募があったので応募したところ、採用していただくことになりました。

――そうだったのですね!大学の常勤講師というのはきっと狭き門なのでしょうね。

福本さん:そうですね、大学のポストは公募されること自体が少ないので、なかなか難しいと言われています。

――その後、ポーランドのヴロツワフ国立音楽フォーラム(NFM)でアーティスト・イン・レジデンスを務めていらっしゃいましたね。

福本さん:はい、オファーをいただき、2020/2021シーズンのアーティストを務めました。ただ1公演を終えたところでコロナ禍になってしまい、子どものためのプロジェクトなど様々な企画があったのですが、残念ながら実現できませんでした。
ですが、演奏会だけでもやろうということで、残りのコンサートを昨年から今年にかけて実施しました。またその一環で、パスカル・ロフェ氏指揮のNFMヴロツワフ・フィルハーモニー管弦楽団とレコーディングも行いました。なお、そのCD(エルジュビエタ・シコラ:協奏曲集)は、今年『レコード芸術』の特選盤に選ばれました!

バロック・オーケストラとヘンデルのオルガン協奏曲を演奏

パスカル・ロフェ氏とシコラのオルガン協奏曲を演奏

――そうだったのですね。そのほかにドレスデンの聖母教会でも定期的にに演奏されているとSNSで拝見しました。これはどのような経緯だったのでしょうか

ドレスデン聖母教会にて

福本さん:突然メールでオファーをいただきまして(笑)、去年の12月からオルガニストの主任代理を務めています。
この聖母教会は、第二次世界大戦中に爆撃を受け崩壊し、その後約45年間瓦礫のまま放置されていました。ドイツの東西統一の時に資金を募って再建されたため、ドイツ人にとって再統一や再び立ち上がったという想いを象徴する、歴史的な建物なんです。
教会と密接に関わる仕事は初めてで、ありとあらゆる経験をさせていただいています。具体的には礼拝と演奏会、そして来年度のオルガン・シリーズのキュレーターも任されています。

――すごいですね!演奏活動と大学の常勤講師の仕事を並行されている今の生活はいかがですか?

福本さん:今のところ、やりたいことが全部できているなと感じています。
アクティブに演奏活動をしながら、自分が経験したものを生徒たちに教えられるのは、とてもいい環境だと思います。

――生徒さんたちがとても羨ましいです。多忙な生活を送られているかと思いますが、練習は大学でなさっているのでしょうか。

福本さん:実は大学の楽器では練習できないので、練習楽器の無い状態が4年半続いています。鍵を貸してくれる知り合いの教会や、別の演奏会のリハーサルの空き時間を見つけて練習をしています。

 ――そうだったのですね。ちなみにプロフィール写真(本記事一番最初の写真)はどちらの教会で撮影されたのでしょうか。

クライス社長と

福本さん:オルガン・ビルダーのクライス社の社長に紹介していただいた、ドイツのボンにある教会です。この教会は、京都コンサートホールと同じクライス社のオルガンなんですよ。ちなみにポーランドのヴロツワフ国立音楽フォーラム(NFM)の楽器もクライス社の楽器でした。

――なんだかご縁を感じます。クライス社長は今年の5月に当ホールにもいらっしゃいました。今年はどこの国で演奏を予定されていますか?

福本さん:ドイツがメインですが、日本も少し、あとはオーストリアやポーランドでも演奏を予定しています。

――今回の京都公演ではオール・ドイツ音楽・プログラムを披露してくださいますね。

福本さん:メインにレーガーを置きたかったので、レーガーにつなげることを考えつつ、皆さんに馴染みのある作曲家で揃えて、聴きやすいプログラムを組みました。
ベートーヴェンの〈アレグレット〉は可愛らしい曲ですし、リストの《神は我がやぐら》はオーケストラが祝祭的に演奏するために書かれた曲なので、気負わずにお聴きいただけると思います。

――メインのレーガーは大曲ですね。

福本さん:レーガー《序奏、パッサカリアとフーガ ホ短調》は重量級の曲ではありますが、音色の変化がはっきりしており、色んな音を楽しんでいただけると思います。レーガーの中でも聴きやすい作品で、3部に分かれています。最後の「パッサカリア」は、同じテーマが変奏していくので、初めて聴く方でもわかりやすいと思います。
またレーガーを例えると水戸黄門なんです(笑)。何があったとしても最後はハッピーエンドで、そこまでの道筋もわかりやすいんです。
ぜひ音のシャワーを浴びに、遊びに来ていただけたら嬉しいです。

――まさか水戸黄門が例えに出て来るとは思いませんでした(笑)。この作品はよく弾かれていますか。

福本さん:東京藝術大学の修士リサイタルで初めて弾いた後は、ニュルンベルクのコンクール決勝やハンブルクの修了試験、スイスのリサイタル、今年のウィーン・デビューとなったリサイタルでも演奏しました。日本の演奏会でこの作品を弾くのは初めてだと思います。

レーガーを弾いたウィーン・デビュー(イエズス会教会)

――大事な節目で演奏されてきた曲なのですね!福本さんにとってドイツ音楽の魅力は何でしょうか?

福本さん:ドイツ音楽と一番比較しやすいフランス音楽は、1オクターブ以上の音域で作られる「開離和声」が多く、透明感があって開かれた印象があります。
対してドイツ音楽は、1オクターブの中に音を詰め込んだものが多く、旨味がぎっしり詰まっている感じがします。その極みがレーガーだと思っています。

――それでは最後に、京都のお客様にメッセージをお願いいたします。

福本:3年ぶりに京都コンサートホールに帰ってくることができ、そして関西圏では初めてのリサイタルを弾かせていただけること、とても嬉しく思っています。日本でリサイタルという形で、私が大好きな作曲家であるレーガーを取り上げるのが実は今回が初めてなので、生誕150年を記念するレーガーイヤーにこのような機会をいただけて感謝しております。
今回はこのレーガーの大作をメインに、またドイツのオルガン音楽の歴史には欠かせないバッハやメンデルスゾーン、リストらの作品と共に、多彩なオルガンの音色をお楽しみいただきます。
ライブでしか味わえない、全身が震えるようなオルガンの醍醐味をぜひ、当日会場で満喫しに遊びにいらしてください!

リンツのブルックナーハウスにて(C)Floris Fortin Fotografie

――色々とお話を聞かせてくださってありがとうございました。9月30日を楽しみにしております!

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