京都コンサートホールでは、ストラヴィンスキーの没後50年に際し、彼が残した傑作のひとつ《兵士の物語》を上演します(10/16)。今回、演奏をつとめるのは、関西の音楽・芸術大学7校から集結した学生たち。各楽器の聴きどころ、公演への意気込みなどをメンバーにインタビューしました。
前編では、弦楽器・木管楽器を演奏する奏者4人をご紹介します。ぜひ最後までご覧ください!
<インタビュー内容>
① 《兵士の物語》の作品紹介と注目ポイントを教えてください。
② 第一線で活躍する指揮者の広上淳一氏・大蔵流狂言師の茂山あきら氏と、各大学から選ばれたメンバーが集結して共演することへの意気込みを教えてください。
③ この作品はいまから約100年前、第一次世界大戦やスペイン風邪のパンデミックで世界が苦境に陥っているなか誕生した作品です。現在わたしたちを取り巻く状況と非常に似通った作品背景を持つ《兵士の物語》ですが、コロナ禍でこの作品を演奏する意義を教えてください。
後編の一人目は、トランペットを担当する大阪芸術大学演奏学科4年生の川本志保さんです。川本さんは、大学で勉強する傍ら、堺市・スクールサポーターで学校の吹奏楽部を指導、地域のコンサートで依頼演奏もするなど幅広く活躍しています。「兵士の物語」で活躍の場が多いトランペット。川本さんの演奏にご注目ください!
① 1918 年に発表された舞台作品で、管弦打楽器のアンサンブルが語り手と合わせて演奏するというような形を取っています。今回は、トランペットとコルネットを両方使い、クラリネットやヴァイオリンが演奏するような細やかなパッセージがあるのも、数ある難所の一部です。また、各楽器による様々なフレーズや変則的なリズムなどが複雑に掛け合わさって物語を彩っているので、そこを聴いていただきたいです。
② 今からすでに緊張しているのですが、プロの音楽家と一緒に仕事ができることは本当に凄い事なので、必死について行きたいです。他大学の学生の方々と共に演奏できる機会も昨年からは少なくなり、この機会は貴重だと思っているのでとても嬉しいです。
③ 未曾有の事態に巻き込まれた昨今、感染症が私達の生活にこんなに影響するとは思いもしませんでした。ですが、この作品あるいは音楽を通して約100 年前の世界の人々と同じく苦境を乗り越えて生きていける、という意義があると思います。
続いて二人目は、トロンボーンを演奏する京都市立芸術大学音楽部3年生の野口瑶介さんです。京都で生まれ、京都堀川音楽高校を卒業し、現在も京都で研鑽を積む野口さん。京都コンサートホールはとても思い入れのあるホールとのこと。これまで、日本クラシック音楽コンクールなどで多数上位入賞を重ね、現在は京都市交響楽団首席トロンボーン奏者の岡本哲氏に師事しています。トロンボーンの聴きどころを語っていただきました。
① 冒頭、トランペットとトロンボーンの軽快な旋律で物語が幕を開けます。トロンボーンの聴きどころは第2部「王の行進曲」。長く病に苦しむ王女を助けるべく、軍医を装って王の元へと向かう兵士ジョゼフの勇ましさが、トロンボーンの力強いメロディーで表現されます。
② 日本が誇るマエストロ、広上淳一さんと共演させていただけますことは大変光栄です。語り手に狂言師の茂山あきらさんといった、普段のクラシック音楽では味わうことのできない、異文化との融合も非常に楽しみにしています。大学の垣根を越えた学生7人によるアンサンブルで、共にこの難曲に挑みます。
③ 長期にわたる緊急事態宣言や外出自粛により、大勢の音楽家が演奏機会を失いました。幸いにも、まだ学生である私は、自身の音楽を見つめ直す機会となり、1ステップ成長することができました。演奏機会があるということ、聞いてくださる方々がいることの幸せを噛み締め、文化芸術に対する理解への感謝を忘れずに、音楽に取り組んでいきたいと思っています。
室内楽アンサンブル、最後のメンバーは、打楽器を担当する大阪教育大学大学院音楽研究コース2年生の清川大地さん。清川さんは、クラシック音楽だけでなく、マルチパーカッション(複数の打楽器のみで楽曲が構成され、ひとり演奏する分野のこと)と呼ばれる演奏も研究されています。独奏やオーケストラ、吹奏楽など様々な分野でも意欲的に活動する清川さん。ストラヴィンスキーの味わい深い音楽をうまく引き出してくれるでしょう。
① この作品には、7種類の打楽器が用いられ、それらを所狭しと並べて、ひとりの奏者で演奏します。それぞれの楽器によって、素材や楽器の大きさ、つくりや奏法も違うため、同じ力で叩いても発せられる音量が異なります。それらをひとつのフレーズに聴こえさせるには、繊細なタッチや、適切な力のコントロールなど、高度な技術が求められるといえます。
② この演奏会に大学を代表して出演させていただけること、大変嬉しく存じております。学生という身分に甘んずることなく、第一線でご活躍されている広上さんや茂山さんと同じ土俵に立つんだという意気込みで、責任と覚悟を持って挑みたいと考えます。また、このプロジェクトを通して、他大学の学生との繋がりを実感しています。ひとつの舞台を作り上げる仲間として、また、同じ職業を志す同志として、この繋がりは大切にしていきたいです。
③ 現在と似た境遇の時代を生きたストラヴィンスキーは、世界をどのように観ていたのか。私はそれを、作品に滲み出た独特で不気味とも言えるテイストから想像します。どこか暗い夢を見ているかのような世界観のこの音楽で、何を伝えたかったのか。夢の中の実在しない奇妙な世界で起きているような、各時代のパンデミック。作曲者自身も、現実とは思い難い、そんな苦悩を感じていたのではないでしょうか。作品の背景を知ったり、それらを学ぼうとする姿勢自体が、大変意味のあることだと私は考えます。
以上、前編と後編にわたり、「京都コンサートホール presents 兵士の物語」に出演する室内楽アンサンブル7名をご紹介しました。関西の音楽・芸術大学7校から選ばれたメンバーが集結し演奏する機会はなかなかありません。10月16日はぜひ、京都コンサートホールまで足をお運びください!