18世紀オーケストラメンバー 山縣さゆりさん(Vn.)特別インタビュー(2024.03.09 The Real Chopin×18世紀オーケストラ 京都公演)

投稿日:
京都コンサートホール

2024年3月9日(土)に29年ぶりに京都公演を行う「18世紀オーケストラ」。同オーケストラのヴァイオリンのメンバーとして長年ご活躍されている山縣さゆりさんにインタビューを行いました。古楽との出会いや、18世紀オーケストラ創設者ブリュッヘンとの思い出、古楽オーケストラの魅力などを教えていただきました。
ぜひ最後までお読みください。

――山縣さんは、18世紀オーケストラに長年参加されているとお聞きしましたが、古楽との出会いや古楽の魅力について教えてください。

山縣さゆりさん(以下敬称略):私が古楽と出会ったのは、日本でまだモダンヴァイオリンの学生をしていた頃でした。その当時、数人の管楽器奏者の方々がオランダから帰国し、桐朋学園大学音楽部古楽器科を創設したのです。そして、何かのきっかけでその方たちと出会うことになり、あっという間に、その古楽器の魅力の虜になっていました。何がそんなに魅力的だったのかは明確ではありませんが、とにかく私にとって、その考え方や奏法(作曲された時のスピリットを尊重する)があまりにもしっくりきて、ほかの方法など在りえないと感じました。

その当時、日本にはまだバロックヴァイオリンを専攻できる大学が存在しなかったので、モダンヴァイオリンを日本で学んだ後、オランダに留学しました。

――18世紀オーケストラには、いつ頃から参加しておられますか?

山縣:18世紀オーケストラに初めて参加したのは、私がオランダに留学した翌年(1985年)で、それ以来ずっとメンバーです。

――メンバーとして長年参加されてきた18世紀オーケストラですが、現在のオーケストラの状況についてお聞かせいただけますか。

18世紀オーケストラ ©Simon Van Boxtel 写真中央が山縣さん

山縣:実はここ2、3年の間に、最初から参加していたメンバーがほとんどリタイアしてしまったので、現在リニューアルの真っただ中です。今後どのようにしたら、今まで育んできたスピリットを継承しつつ未来へと繋げ、そして広げてゆけるのか、模索しているところです。

最近の若いバロック演奏家たちは、皆さん本当に素晴らしいので、まずはこの才能豊かな人たちとオリジナル楽器の素晴らしさを分かち合いたいと考えています。そして、ブリュッヘンとの思い出を押し付けるのではなく、彼の意図した⾳楽の本質を、後世にうまく語り継いでいくことができれば素晴らしいなと思います。

――今回のプログラムにもあるモーツァルトの交響曲は、18世紀オーケストラの創設者ブリュッヘンが得意とし、数多くの名演を残したレパートリーですが、ブリュッヘンとの思い出などをお聞かせいただけますか。

山縣:確か初めて参加したツアーで、今回演奏する「ハフナー」のシンフォニーを演奏したように覚えています。ブリュッヘンは、第1ヴァイオリンのメロディーの持って行き方に物凄く神経質で、リハーサルでは、弾き方を一音一音指示され、大変な緊張感があったことを思い出します。
オリジナル楽器でのモーツァルトの演奏は、それはそれは新鮮で、それまでに演奏し尽くされた有名な交響曲が、あたかも新作で、これが初演ではないかと勘違いするほど耳に新しく斬新で、鳥肌が立つことはしょっちゅうでした。

――よく演奏されるモーツァルトが、オリジナル楽器で弾くと毎回新作と感じるほど新鮮な演奏だったのですね!ますます公演が楽しみになってきました!!
使用されるオリジナル楽器についてお尋ねしたいのですが、今回はモーツァルトとショパンを演奏されますが、同じ楽器を使用されますか?

山縣:本来でしたら2つの楽器で弾き分けるのですが、今回のようなツアーの場合、二つの楽器を持ち歩く事はとても大変なので、基本的に一台の楽器で演奏します。管楽器の方たちも恐らく同じだと思います。私は、弓は二本持って行く予定です。一つはモーツァルト用、もう一つはショパン用です。

(上から順にバロック、初期クラシック、後期クラシックのヴァイオリンの弓)

――2種類の弓で弾き分けられるのですね!ピッチについては、いわゆるバロックよりも後のクラシックピッチ*(A=430Hz)で演奏されますか?

山縣:今までほとんどの場合、モーツァルト以降は430Hzで演奏してきました。今回も同様となります。

*注:バロックピッチの種類も沢山あるが、(A(ラの音)=415Hz)、現在のオーケストラでは(A(ラの音)=440Hz~442Hz)が主流。クラシックピッチは、現在のオーケストラの音よりほんの少し低くチューニングされている。

――とても興味深いお話をありがとうございました。ちなみに、今回共演する2人のソリスト(アヴデーエワさんとリッテルさん)とは、すでに共演されていますね。

山縣:アヴデーエワさんとは、ワルシャワの音楽祭で何度かご一緒しました。確か、レコーディング(ブリュッヘン指揮)もあったと思います。去年(2023年)の夏も、ブレーメンの音楽祭で、ショパンの両方のコンチェルトを一緒に演奏しました。

またリッテルさんは、2018年に第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールに出場された時に、私たちがコンチェルトの伴奏を務めました。

トマシュ・リッテル&18世紀オーケストラ ©The Fryderyk Chopin Institute                                           (第1回ショパン国際ピリオド楽器コンクールより)

 

 

――すでに共演されているソリストお二人という事で、今回の公演ではさらにどのような音楽になるか楽しみですね。また今回は指揮者がいませんが、指揮者なしの本番もよくありますか?その場合はやはりコンサートマスターが中心となって音楽を創っていくのですか?

山縣:最近は、指揮者なしの本番も少しずつ増えていますね。ハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンの初期の作品あたりまででしょうか。
交響曲の場合は、コンサートマスターが中心となります。協奏曲の場合は、その曲にもよりますが、コンマスとソリストの両方が中心的存在となります。

指揮者のいない演奏は、やはり普段とはかなり違った雰囲気になります。交響曲の場合は、団員一人ひとりが室内楽に参加するようなイメージです。そして、協奏曲の場合は、団員全員がソリストに耳を傾け、一音でも逃すまいと頑張ります。
やはり指揮者がいない分、それぞれ一人ひとりの責任が重くなり、緊張感がより高くなるといって良いかもしれません。

――指揮者がいない公演も多く演奏されているのですね。貴重なお話をたくさんありがとうございました。京都コンサートホールの過去の公演プログラムを見ていると、前回の18世紀オーケストラの京都公演(1995年)のプログラムには、山縣さんのお名前がありました!
最後に29年ぶりとなる京都公演に向けてのメッセージをお願いいたします。

山縣:実は今回のツアーには、このオーケストラの創設者であるブリュッヘンを知らない団員がたくさんいます。でも皆、オリジナル楽器の魅力に取りつかれてこの道を選び、そのスピリットを受け継いでいる人たちばかりです。ブリュッヘンがオーケストラの前に立つことはもうありませんし、当時と全く同じ音を作り出すことも出来ません。でも、いま私たちが持ち合わせる、出来る限りの力と情熱をもって精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。

――山縣さん、いろいろと質問にお答えいただきありがとうございました!3月9日の公演で18世紀オーケストラの皆様にお会いできるのを楽しみにしております。もちろん演奏もとっても楽しみです!

The Real Chopin × 18世紀オーケストラ 京都公演」(2024/3/9)特設ページはこちら