9月17日、無事に21回目となる「京都の秋 音楽祭」が開幕しました。
――なぜ「無事に」を強調したか・・・?それは開会記念コンサート当日に台風18号が日本列島を横断したからです!
直前までヒヤヒヤしましたが、幸運なことに雨にも風にも遭わず、たくさんのお客さまと一緒に音楽祭開幕を祝うことが出来ました。
ご来場くださったお客さま、誠にありがとうございました。
前置きはさておき、今日は開会記念コンサートの様子をみなさまにお届けします。
まずは当日のプログラムから!
(演奏は京都市交響楽団、指揮は同楽団常任指揮者の広上淳一。ピアノ独奏はルーカス・ゲニューシャス)
すぎやまこういち:序奏MIYAKO (2016)
ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 op.21
ラフマニノフ:交響曲第2番 ホ短調 op.27
開幕に先立ち、門川大作京都市長が開会宣言を行いました。
これからおよそ2ヶ月間続く音楽祭のオープニングとあって、門川市長の挨拶にも熱が入ります。
市長の開会宣言後、間髪入れずに始まった曲は、すぎやまこういちの《序奏MIYAKO》。
この曲は、2016年に20周年を迎えた「京都の秋 音楽祭」のために書かれたものです。
昨年の開会記念コンサートの際にもこの曲が演奏されたのですが、今年は「21回」という新たな局面に入った音楽祭の未来を意識して演奏されました。
冒頭の力強いファンファーレは、「京都の秋 音楽祭」の幕開けにぴったり。
次に演奏された作品は、ショパンの《ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調》です。
この曲はショパン20歳の時のもの。その瑞々しい曲調や切なくも美しいメロディからは「青春の輝き」を思い起こさせます。ショパンの甘い初恋や心の葛藤が目に浮かぶような作品です。
舞台へ颯爽と現れたゲニューシャスは、ピアノの椅子に腰掛けたあと、独奏パートが現れるまで天を仰ぎました。長い序奏のあいだ、おそらく作品に身も心も沈めていたのでしょう。
そして始まるピアノ独奏。フォルティッシモでDes(変ニ音)を高らかに鳴らしたあと、ユニゾンで一気に下降していきます。この劇的な瞬間を経て第1主題が出現するのですが、ゲニューシャスは一気に力を抜き、言葉では言い表せないほどの美しい音色でテーマを奏でたのでした。それはまるで、ショパンの「感情の襞」をピアノで描いたかのよう。あまりにも美しい彼のレガートに、思わず感嘆のため息をついてしまいました。
変イ長調で始まる第2楽章は、「愛の調べ」そのものでした。
作曲当時、ショパンは同じワルシャワ音楽院の声楽科に通うソプラノ歌手のコンスタンツィア・グラドコフスカに恋をしていたものの、最後までその想いを告げることが出来なかった――という逸話が残されています。
ゲニューシャスは、そういったショパンの心に秘めた想いを、繊細なタッチで描いていきました。ときに耳をそばだてなければ聞こえないほどのピアニッシモで(しかし不思議なことに、ゲニューシャスのピアニッシモは、どれだけ小さくても会場の隅々まで届くのです)決してその想いを全面に出すことなく、丁寧に奏でていました。
第2楽章のしっとりとした雰囲気を残したまま始まった第3楽章。耳に残る付点リズムは、祖国ポーランドの民族舞踊であるマズルカを彷彿とさせます。
この楽章はピアノの華やかな演奏技巧がふんだんに用いられているのですが、ゲニューシャスの完璧な指先のコントロールがきらりと光っていました。
ホルンの合図で始まるコーダでは、マエストロとオーケストラがゲニューシャスの軽妙なピアノ・タッチを支えつつ、終盤に待ち構えるクライマックスまで共に盛り上げていく様子が印象的でした。
休憩を挟んで最後に演奏された作品は、マエストロ十八番のラフマニノフ《交響曲第2番》です。1906年から07年にかけて作曲され、翌年に作曲者自らがタクトを取り初演を行ったこの交響曲は、ラフマニノフ作品の中でも最高傑作のひとつに数えられています。
この曲の特徴は、全体に漂う濃厚なロマンティシズムとロシア特有の土臭さ。マエストロは、指揮台をめいっぱい使って、体全体で表現していました。
目の前で繰り広げられる熱演に、時間を忘れて集中したお客さまも多かったのではないかと思います。
この曲はこれまで「歴史的名演」がいくつか残されてきましたが、この日のマエストロ&京響も間違いなく「名演」を残したといっても過言ではないでしょう。
最後は拍手喝采を浴びて、何度も指揮台へと上る広上氏。「京都の秋 音楽祭」のオープニングは大成功だったようです。
開会記念コンサートから早くも1ヶ月が経とうとしていますが、「京都の秋 音楽祭」はまだまだこれから。オーケストラや室内楽、リサイタルに邦楽など、バラエティに富んだ公演が目白押しです。
深まりゆく京都の秋を「京都コンサートホール」で味わうのはいかがでしょうか?お客さまのご来場を心からお待ちしております!(た)(写真はすべて佐々木卓男氏撮影)