「京都コンサートホール」について

京都コンサートホール( Kyoto Concert Hall ) は、「世界文化自由都市宣言」の理念のもと、平安建都1200年記念事業の一環として、京都市が建設した音楽専用ホールです。設計は世界的建築家 磯崎新氏であり、1995年10月に開館しました。日本唯一の自治体直営オーケストラとして1956年に創立した京都市交響楽団の本拠地でもあります。
京都コンサートホール開館当初の運営理念のテーマ「伝統と創生」は5つの柱からなります。
「一,世界・日本珠玉の演奏」「二,今日の響き」「三,東洋の音 伝承と発展」「四,国際交流 姉妹都市の響き」「五,今日の音楽教育の成果」と、京都コンサートホールの20年余りは、このテーマから展開して歩んでまいりました。
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建物について
このホールの設計者である磯崎新氏には、京都という街に、西欧起源のクラシック音楽を演奏する空間をつくるという矛盾・対立する構想が課せられました。磯崎氏は対立のまま統合する“困難な統合”というべき視点から設計を行い、この建物物を完成。しかしながら、その“統合”は、音楽が奏される瞬間にのみ顕現する─ それを知る磯崎氏は、「いい音が響いてほしい」「いい音楽が響いてほしい」と、祈りにも似た文章を開館にあたり寄せられました。──
平安京の真北の中心軸を定めた船岡山と下鴨神社・上賀茂神社の3点がつくり出す古代的正三角形の斜辺の中央に位置し、敷地西方の賀茂川は、この斜辺(亥の方位)と平行に流れ、敷地北側の北山通りは古代の都市軸からわずかに磁北に偏位しています。京都の都市構造に内在するこれら三つの軸線(真北・亥・磁北)を抽出し、これに沿って三つの幾何学的基本形(直方体・円筒形・立方体格子)を配列したのが建物の配置計画の基本です。黒い円筒形の上部にはアンサンブルホールムラタ(小ホール)が収まり外壁には信楽の大型陶板が、立方体格子のホワイエ部分外壁には京都市の姉妹都市であるフィレンツェでルネサンスに用いられたピエトラ・セレーナ石が用いられています。ホールへのアプローチは社寺の参道のように長く、プロムナードにはさび御影石のブリッジ、ベンチ、モニュメントが清楚にレイアウトされ、透明な水をたたえた池には近代建築を映し込み、現在の枯山水庭園を連想させます。
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エントランスホール
床面中央の羅盤と十二支の描かれた12本の空調ポールは、隠された風水に従って配置されたこの建物の配置計画のキーとなる方位の概念を表象します。その配置のリズム性が音楽的陶酔を連想させ、これから始まる感動の世界を予感させるでしょう。
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スロープ
螺旋状のゆるやかなスロープは、日常性を離脱して音楽への期待感を高揚させ、純粋に音楽にひたるオーディエンスへと心を整えていくための助走路。「クラシック音楽の殿堂」にふさわしい荘重さで大ホール・小ホールへと導いていきます。
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コンサートホール(大ホール)
19世紀的“シューボックス型”という古典的な形式をベースにしながら、今世紀に出現した“ヴィ二ヤード型”のスタイルが重ね合わされています。ドイツ製パイプオルガンと一部の客席は非対称に配置されており、これは強い中心性をやわらげるということと、オーケストラの音源の非対称性に関連します。天の川のように煌めく照明が内蔵された天井の凹凸と壁の竪リブの突起物は、高中音域の反射・拡散の役割を担い、天井と床の重量バランスは音が着実に下に戻るよう考慮されています。舞台の床材には試聴実験の結果、厚さ40mmのヒノキの縁甲板(一部を除き捨張なし)が用いられています。ホール全体が歌いだしたかのように響きだす。まさに「ホールは楽器である」という意味を体感できることでしょう。
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アンサンブルホールムラタ(小ホール)
星座の描かれた天井、UFOを思わせる舞台照明、磁北を知らせる光のラインなど独特のインテリアに包まれながら、心地よく音楽と対話するためにしつらえられた小宇宙。ホールの壁面を上に向かって開かれたように傾斜させることにより、天井を高くしたのと同じような初期反射音分布の効果を得ました。傾いた壁面の主材料のアルミパンチングメタルは開口率50%で音響的には“透明”、実際の反射面はその背後に隠されています。舞台後方の壁面内には電動式カーテンが仕込まれており、初期に集中しすぎる反射音を間引いています。
──コンサートホールは巨大な楽器であるということです。すべての楽器がそうであるように,良い音楽で弾き込めば弾き込むほどに熟した響きになっていきます。──初代館長 故・岩淵龍太郎