指揮者 高関健 インタビュー(2020.09.20第24回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート)

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京都コンサートホール

毎年秋に開催する人気のコンサート「京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート」が、今年で24回目を迎えます。

公演に向けて、指揮を務める高関健さんにメールインタビューを行いました。
今回のプログラムやコロナ禍におけるクラシック音楽についてなど、色々と興味深いお話を伺いました。

ぜひ最後までお読みください。

(C)堀田力丸

——この度はお忙しい中、インタビューをお引き受けいただきありがとうございます。
2014年から昨年度まで京都市交響楽団常任首席客演指揮者でいらっしゃったので、京響については熟知されていると思います。今回のコンサートは退任されてから初めての京響との演奏になりますが、お気持ちに変化はありますか。

それぞれのコンサートに対する気持ちは特に変わることはありません。常に最善の演奏を目指すよう心がけています。
京響との初共演は1987年9月の第297回定期演奏会でしたが、33年も前のことなので、オーケストラは今ではすっかり世代交代しています。しかし時間をかけてでも良い音楽を作っていこう、という京響の伝統は少しも変わっていないと思います。さらに長年にわたる広上淳一さんの情熱を持ったご指導によって、楽員の皆さんの高い意識が実を結び、素晴らしいオーケストラになってきていると思います。

 

——「京都の秋 音楽祭 開会記念コンサート」でタクトをとられるのは2015年以来5年ぶりになります。京響の定期演奏会とは雰囲気は異なりますか?

同じお客様に続けて聴いていただく定期演奏会とはもちろん雰囲気も異なりますが、初めて京響をお聴きになるお客様もいらっしゃるはずですから、音楽の素晴らしさ、オーケストラの楽しさをすぐに実感していただけるよう、気を引き締めて演奏していかなければなりません。

2015年9月13日 第19回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサートより(撮影:佐々木卓男)

——今回、京都コンサートホール開館25周年ということで、ホールの顔ともいえるパイプオルガンにフィーチャーしたプログラムをお願いしました。
新型コロナウイルス感染症の影響でプログラムを変更せざるを得ませんでしたが、変更後のプログラムもとても素敵です。ジョンゲンとレスピーギのそれぞれの曲の聴きどころを教えてください。

京都コンサートホールのクライス社製のオルガンは音色も多彩で、機能性にも優れた素晴らしい楽器です。
これまでにもオーケストラにオルガンが組み込まれている作品では、京響の定期演奏会をはじめ何度も一緒に演奏し、その音色を確かめてきました。この度のコンサートでは、オルガンの響きを中心に据えたプログラムを、ということでジョンゲンの「協奏交響曲」の提示をいただきました。

アメリカ・ペンシルヴァニア州、フィラデルフィアにある「ワナメイカー百貨店」…現在は「メイシーズ」に名前が変わりました…に世界最大のオルガンが設置されています。お買い物を楽しみながら、オルガンの演奏が始まると、建物の壁をはじめ、あちこちに配置されたパイプが鳴り響きます。特に1階の大きな吹き抜けでは、建物全体から降り注ぐ壮大なオルガンの響きに囲まれてしまいます。

この大オルガンの機能を最大限に生かすための作品が、ベルギーの作曲家ジョンゲンに委嘱され、1926年に「協奏交響曲」ができあがりました。
従って、この作品を正しく演奏するためには、オーケストラがコンサートホールから百貨店に出張して演奏することになります (実際には様々な事情でなかなか演奏に至りませんでしたが、ようやく2008年、フィラデルフィア管弦楽団が「ワナメイカー百貨店」に赴き、正しい形での演奏が実現しました) 。

オルガンを主人公に、という目的にこれほど適った作品はありません。文字通りオルガンとオーケストラとの「競演」…「共演」ではありません…どちらに軍配が上がるか?内容も充実した「協奏交響曲」をお聴きになりながら、その勝負をお楽しみいただければ、これに勝る喜びはありません。

予定では、その後にサン=サーンスの第3交響曲を演奏することになっていましたが、事情によりプログラムが短縮されることになり、レスピーギの「ローマの松」に変更されます。

空気が乾いたローマの青空の下で遊ぶ陽気な子供たち、地下墓地で執り行われる厳かな儀式、澄み渡った夜空に明るく輝く満月と鳥の鳴き声(実際に聴こえてきます)、そしてはるか遠くからアッピア街道の石畳を踏みしめながら勝利の凱旋をするローマ軍と迎える人々の大歓声、そのすべての情景の周りに高くそびえ立つ松。聴いているだけで、見事に情景が脳裏に浮かびます。第2曲と第4曲にオルガンが参加して、オーケストラと共にコンサートホール全体を包み込む雄大な響きを作り上げていきます。

京都コンサートホールのパイプオルガン

——今回オルガン独奏は福本茉莉さんですが、福本さんとは以前、京響の「オーケストラ・ディスカバリー(ジョンゲンの《協奏交響曲》から第3, 4楽章)」で共演なさったことがありますね。

私が指揮を指導する東京藝術大学では、藝大フィルハーモニア管弦楽団が演奏し、在籍する学生がソリストを務める「モーニングコンサート」が毎年13回程度行われますが、私が指揮者として当時大学院生だった福本さんと初共演、その時の曲目がジョンゲン「協奏交響曲」でした。

練習時から技術はもちろん、音楽の構成、確固とした人格、溢れるアイディアの面白さに圧倒されたことを良く覚えています。京響「オーケストラ・ディスカバリー」で共演した時、福本さんはまだハンブルクに留学中でした。
近年は演奏の機会も拡がり、予感していたとおり、日本の若い世代を代表するオルガニストの一人として大活躍されていらっしゃいます。
今回もさらにパワー・アップして、ヴァイタリティーに富んだダイナミックなジョンゲンを聴かせてくださると確信しています。
京響と私も福本さんに負けないように心して演奏に取り組む所存です。

 

—— 先ほどの質問でも話題に出ましたが、今回のコンサートでは、新型コロナウイルス感染症の影響でプログラムを変更せざるを得ませんでした。また、最近、ふたたび感染拡大するなど、まだまだ予断を許さない状況が続いていますが、高関さんは現在のコロナ禍におけるクラシック音楽界(またはオーケストラ界)の現状について、どのようにお考えですか?

流動的な現時点で今後のことを予想することは、私にはできません。ただ、今年前半のいわゆる自粛の期間では、ほとんどすべての音楽家、しかも私たちだけでなく音楽を含めた芸術に携わるすべての皆さんが活動の停止を余儀なくされました。不要不急の議論どころか、私たちは生活の糧を失いかねない状況に置かれ、これほどの不安を味わうことになろうとは、想像もできませんでした。

夏に入って、少しずつ演奏が再開されていますが、特に若い世代の音楽家の皆さん、フリーランスの皆さんにとって状況は改善されていません。
私たちはできるところでは声を上げて、音楽の魅力やライヴのパフォーマンスの素晴らしさを皆さんにアピールしようと心掛けていますが、やはり実際に音楽する機会をいただかなければ、本来の力を発揮することができません。そのあたりのジレンマをものすごく感じています。
ですから、今回のような機会をいただいた時には、いかに生の演奏が素晴らしいか、音楽が自分たちのためだけでなく、皆さんにとって必要不可欠なものなのかを実感していただけるよう、精一杯演奏に表していかなければならない、と考えています。

 

——京都コンサートホールは感染拡大防止策を徹底的に行い、万全の体制でお客様をお迎えする予定です。
当日お越しくださるお客様にメッセージをお願いいたします。

オーケストラおよびクラシック音楽界は、慎重に議論を重ねた上で公演実施のためのガイドラインを作成し、徹底遵守しながら、6月後半より演奏を再開しました。その後もさらに演奏実験を重ねて、より精密で安全な開催を心掛けております。私たち演奏家は毎日の生活を含めて、感染しないよう十分に心掛け、また練習を含めた演奏活動の中では決して感染が拡がらないよう最大の注意を払っています。
お客様に置かれましても、設定させていただいた感染防止のためのガイドラインにご理解とご協力をいただきまして、会場でたっぷりと演奏をお楽しみいただければ幸いに思います。
ご来場を心よりお待ちしております。

2015年9月13日 第19回京都の秋 音楽祭 開会記念コンサートより(撮影:佐々木卓男)

(2020年8月事業企画課メール・インタビュー)

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