【ベートーヴェンの知られざる世界 特別連載②】村上明美 インタビュー<後編>

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京都コンサートホール

京都コンサートホール開館25周年とベートーヴェンの生誕250周年を記念して開催する、特別シリーズ《ベートーヴェンの知られざる世界》。

本ブログでは、インタビューなどを通して公演の魅力をお伝えする特別連載を行っております。連載の第2回は、ピアニストの村上明美さんのインタビューの後編です(インタビュー前編はこちら)。
自らが芸術監督を務めるミュンヘンの宮殿での歌曲シリーズや今回のコンサートについて、お話いただきました。

―――前編では、歌曲との出会いや歌曲ピアニストの奥深さなどについてお伺いしました。少し話を前に戻しますが、大学を出られた後はどのような活動をされてきたのでしょうか?

歌曲ピアニストというのはドイツではエージェントもつかないですし、フリーランスとして全て自分でやっていく世界でした。オペラ劇場のコレペティというような枠があるわけではないですし。歌手との演奏会の他、マスタークラスや国際コンクールの公式伴奏の仕事をしていました。

 

―――コレペティと歌曲ピアニストはどう違うのですか?

よく間違えられてしまうのですが、別物ですね。コレペティのお仕事はオペラ劇場で、ピアノを弾きながら音楽稽古をつけるコーチのような役割が多いです。コレペティはオーケストラ譜を稽古で演奏しますが、舞台に出るわけではないのも違いの一つです。歌曲ピアニストは、場合によってはコーチをすることもありますが、基本的に歌手と対等な立場で舞台に立つので、アンサンブルメンバーとして互いに能動的な関係性が理想です。

 

―――勉強になります!ところで、村上さんはミュンヘンで歌曲演奏会シリーズの芸術監督をなさっているんですよね。どういうきっかけで始めたのですか?

フライブルクに留学しているときから、歌曲を勉強するためにドイツの文化に触れていきたいと思うけれど、国で見ると歌曲文化が育っていく環境が少ないなという気付きがあったんですね。卒業後もその状況に疑問を抱くようになっていきました。「歌曲が好きだけど演奏できる場がない」と悩んでいる仲間も多い中、悩んでいるだけでは何も変わらないなと。30歳くらいの時、私自身で具体的に形にすべきだと思い、歌曲会をシリーズとして立ち上げていこうと決めました。そうして、ミュンヘン宮殿で芸術監督としてシリーズを始めました。

 

―――そのシリーズはなんというタイトルですか?

LIEDERLEBEN(リート エアレーベン)というタイトルです。読み方は二通りあって、そのまま「LIED  ERLEBEN(リート・エアレーベン)」と読むと「歌曲を体験する、味わう」というような意味になり、「LIED(リート・歌曲)」で切らないで「LIEDER(リーダー)LEBEN(レーベン)」と読むと「歌曲は生きている」という意味になるんです。自分の思いがプロジェクトの名前になっています。

 

―――タイトルにも思いがこもっているのですね。それは年に何回くらい開催しているのですか?また、どんなアーティストが来てくださるのですか?

年4回です。これまでは、ユリアン・プレガルディエン(Julian Prégardien)さんや、ダニエル・ベーレ(Daniel Behle)さん、バイエルン国立歌劇場専属歌手のオッカー・フォン・デア・ダメラウ(Okka von der Damerau)さん、ウィーン国立歌劇場専属歌手のマヌエル・ヴァルザー(Manuel Walser)さんなど、素晴らしい歌手の方々がたくさん来てくださいました。

 

―――アーティストの人選も村上さんが自らされているのですか?

そうですね。私から素晴らしいと思った方にお声がけさせていただいて、企画の内容をお話して作っています。プログラムも歌手の方によって具体的に提案させてもらっていますし、忙しい方はスケジュールのことをお話しながら計画しています。

―――10月に京都コンサートホールの演奏会に来てくださいますが、一緒に来て下さる大西宇宙さんとはどんなご関係なのですか?

中嶋彰子さんが総監督を務められている群馬オペラアカデミー「農楽塾」で私が歌曲クラスの講師を務めていた際、大西さんがアカデミーの発表会にご来場くださり知り合いました。発表会の最後に、講師とゲスト演奏ということで、中嶋さん、大西さん、私とで一曲共演しましたが、正式に一緒に演奏会で共演するのは今回が初めてです。

 

―――なぜ彼を推薦してくださったのですか?

彼は、力強い深みと柔らかさを兼ね備えた素晴らしい声の持ち主で、このベートーヴェンプログラムを、是非一緒に共演したいと思いました。同世代で、世界を舞台に活躍する大西さんとの歌曲演奏、皆様にも楽しみにしていただければ幸いです。

大西宇宙©Dario Acosta

―――ベートーヴェンの生誕250周年の公演ですが演奏されるプログラムについて教えてください。

ベートーヴェンの3つの歌曲と、有名な「遥かなる恋人に」という作品を演奏します。また、なかなか聴く機会のないベートーヴェンのピアノトリオと歌の編成でスコットランド民謡も演奏します。当時民謡に関心が高まる中、ある英国の楽譜商人が人気作曲家であるベートーヴェンに民謡の編曲を依頼し、書かれた作品です。ベートーヴェンの多面的な魅力を楽しんでいただけるプログラムだと思います。

 

―――ベートーヴェンは歌曲の世界でいうと、どういう位置づけにいる作曲家なのですか?

歌曲の世界ではシューベルトが注目されることが多くて、ベートーヴェンは歌曲のイメージが少ないと思いますが、ベートーヴェンが音楽史上初めて書いたという「遥かなる恋人に」は歌曲としての出来がすばらしいと思います。シューベルトも同じ詩に曲をつけているのですが、ベートーヴェンの作品を見てから嫉妬心で自信を無くしてしまったくらいだそうです(笑)。
この曲は6曲でひとつの連作歌曲になっているのですけど、感情とリンクする素晴らしい作品だと感じますね。作品を通して、ベートーヴェンが自然を愛していたこと、また彼の人間的な温さも感じられます。クラシック時代の伴奏というと、わりと簡単なピアノ伴奏で歌と対等でないだとか、詩とそんなに溶け合ってないようなイメージを持たれることが多い中、この作品においては芸術レベルに達している作品だと思います。

 

―――そのほかに京響のメンバーやチェリストと共演もしますよね。歌曲以外でも楽しんでいただけるかなと思います。すごく大忙しの一日になりそうですね。

ずっと歌曲の世界に浸っていましたが、最近では少しずつ室内楽の活動も増えました。さらに室内楽で演奏の幅を広げていきたいと思っているときに、こんなプログラムで声をかけていただいたので、すごく楽しみにしています。本当に素晴らしい機会をいただいたと思います。

 

―――私たちもドイツで大活躍していらっしゃるピアニストが来て下さるので、これを機にもっと日本の人たちにドイツ歌曲の魅力を知ってもらえたらと楽しみにしています。どうぞよろしくお願いいたします!本日はありがとうございました。

(2019年9月事業企画課インタビュー@大ホール・ホワイエにて、
2020年8月事業企画課メール・インタビュー(大西さん部分))


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