特別寄稿「オピッツのブラームス」(「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」11月13日)

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アンサンブルホールムラタ

11月13日(土)、ドイツ・ピアニズムを脈々と受け継ぐ巨匠オピッツが、京都コンサートホールでオール・ブラームス・プログラムを披露します。

公演に寄せて、音楽学者でドイツ音楽がご専門の西原稔氏(桐朋学園大学名誉教授)より、ブラームスと巨匠オピッツについて特別に寄稿いただきました。ぜひ、ご覧ください。


オピッツのブラームス/西原稔

ゲルハルト・オピッツは今日、まちがいなく世界でもっとも権威あるブラームス演奏家である。彼のリリースしたブラームスのピアノ作品全集はその卓越した作品解釈で知られ、オピッツの指から生み出される燦然と輝くその音質と音色はドイツの伝統を深く実感させる。

©HT/PCM

彼のメインはドイツ音楽で、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全曲やピアノ協奏曲全曲も彼の記念すべき業績である。ブラームスの演奏ではまず揺るぎない演奏技術が求められ、その技術によってしか表現できない要素が多いが、オピッツがベートーヴェン演奏で培った堅牢で構築的な演奏は彼のブラームスの土台となっている。また、ブラームスの作品にはベートーヴェンだけではなくシューベルトやシューマン、メンデルスゾーンなどの影響も流れ込んでいるが、オピッツの幅広いドイツ音楽の演奏で得た経験が彼のブラームス演奏に反映されている。

ブラームスの作品は非常に輻輳(ふくそう)的である。その旋律には彼の愛した民謡の旋律だけではなく、彼の内面世界を映し出したメランコリックなモノローグが融合している。オピッツのブラームスは、この複雑に屈折した世界を細やかに描き出す。オピッツの演奏が素晴らしいのは、ブラームスの内面のこの輻輳した世界に耳を傾け、それを自身の音楽として語るからである。

オピッツが日本の現代音楽にも深い関心を持っているのは、あまり知られていない。彼は、藤家渓子の「水辺の組曲」や武満徹の「雨の樹素描」、池辺晋一郎の「大地は蒼い一個のオレンジのような」、そして諸井三郎の「ピアノ・ソナタ第2番」の録音を手掛け、とくに諸井の作品には深い共鳴を示しているという。また日本人の演奏家にもオピッツに師事した方は多い。

オピッツが中期の2曲の「ラプソディ」と後期のピアノ小品集、そしてブラームスが大変な精力を傾けて完成した「ピアノ五重奏曲」の演奏で、ブラームスのどのような世界を示してくれるのか、大いに期待がもてる。


西原 稔(音楽学者・桐朋学園大学名誉教授)

山形県生まれ。東京藝術大学大学院博士課程満期修了。桐朋学園大学音楽学部教授を経て、現在、桐朋学園大学名誉教授。18,19世紀を主対象に音楽社会史や音楽思想史を専攻。「音楽家の社会史」、「聖なるイメージの音楽」「音楽史ほんとうの話」、「ブラームス」、「シューマン 全ピアノ作品の研究 上・下」(以上、音楽之友社、ミュージック・ペン・クラブ賞受賞)、「ドイツ・レクイエムへの道、ブラームスと神の声・人の声」(音楽之友社)、「ブラームスの協奏曲とドイツ・ロマン派の音楽」(芸術現代社)、「ピアノの誕生」(講談社)、「楽聖ベートーヴェンの誕生」(平凡社)、「クラシック 名曲を生んだ恋物語」(講談社)、「クラシックでわかる世界史」、「ピアノ大陸ヨーロッパ」(以上、アルテスパブリッシング)、「世界史でたどる名作オペラ」(東京堂)などの著書のほかに、共著・共編で「ベートーヴェン事典」(東京書籍)、翻訳で「魔笛とウィーン」(平凡社)、監訳・共訳で「ルル」、「金色のソナタ」(以上、音楽之友社)「オペラ事典」、「ベートーヴェン事典」(以上、平凡社)などがある。


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