クァルテット澪標 東珠子さん&佐藤響さん インタビュー(2021.11.13オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~)

投稿日:
京都コンサートホール

11月13日(土)15時開演「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」では、ドイツの巨匠ピアニストであるゲルハルト・オピッツと京都ゆかりの若手奏者による弦楽四重奏団「クァルテット澪標」が共演します。

公演に向けて、クァルテット澪標の東珠子さん(ヴァイオリン)と佐藤響さん(チェロ)のお二人にお話を伺いました。
クァルテットについて、そして演奏されるピアノ五重奏曲や共演するオピッツさんについてもお話いただきました。

ぜひ最後までご覧ください!


――お忙しい中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございます。クァルテット澪標のヴァイオリンを担当されている東珠子さんとチェロを担当されている佐藤響さんから今日はお話を伺います。
ヴァイオリンの大岡仁さんとヴィオラの牧野葵美さんは、先日それぞれお住まいのオーストリアとイギリスからご帰国されたばかりということで、現在隔離期間に入っていらっしゃいます(※インタビュー時10月末時点)
さて、まずは4人がどのように弦楽四重奏団を組まれたのかというお話を最初に伺いたいです。東さんと佐藤さんは同学年でいらっしゃいましたよね。

東珠子さん(以下、敬称略):はい、そうです。

佐藤響さん(以下、敬称略):同じ高校、大学※を卒業しました。(※現 京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市立芸術大学)

――大岡さんと牧野さんは違う学校だったのですね。

:はい、二人は私たちよりも1学年上で、相愛大学に通っていました。
私たちの出会いは「京都フランス音楽アカデミー」でした。当時私たちは高校2年生で、オーボエクラスの先生が「室内楽をやろう」と言ってくださって。それで、私と佐藤さんで組んだのですが、その時にヴィオラの牧野さんがいて、一緒に室内楽をやったのです。それがすごく楽しくて。そのうちに「カルテットをやろう」ということになったのですが、「そうしたらヴァイオリンがもう1人必要だね」と言ったら牧野さんが「大岡君を誘ったらやってくれると思う」という話になりました。

佐藤:牧野さんと大岡君は同じ師匠※に習っていたのです(※小栗まち絵先生)。高校2年生の時に日本音楽コンクールで2位を獲った大岡君は当時、スーパー有名人で超多忙にしていましたので、僕たちとカルテットを組んでくれるのかな?と思っていたのですが「いいよ」と快諾してくれました。僕たちが高校3年生の春のことでした。

――学校という枠組みから離れて組まれたカルテットだったのですね。

:はい、いつもとは全く異なる環境で、音楽を通して皆、自分自身を見つめていた時期でした。

――なるほど、4人が音楽的な価値観がぴったりと合ったのですね。

佐藤:いえ、それが違うのですよ。最初はとても苦労しました。特に東さんが苦労していたかな。練習の帰り道、泣いていたこともあったね(笑)

――性格も音楽性も異なる4人が集まるわけですから、時に衝突も起きますよね。そういった部分はコンサートに行っても見えてこないので、個人的にはとても興味のある話です(笑)。

:大岡君と牧野さんって、私が今まで出会ったことのない演奏家だったんです。それがすごく刺激的で。年齢も私たちより1歳上だし、キャリアもずっとずっと上でしたし。そういうことも大きな理由の一つでしたが、やっぱり、それまではソロ中心で、室内楽の経験があまりなかったことが原因だったと思います。先生以外の人たちと、一つの曲を皆で一緒に勉強するわけでしょう。音楽を作る時も、先生とは全然違う視点で話をしてきます。
なので、自分でやりたいことがある時は、相手を説得するだけの「自分」を強く持たないといけないのですが、当時はそれがとても難しかったです。

佐藤:自分の考えていることを言語化できなかったんだよね。

:きっと、大岡君もそうでした。黙っちゃう。

――ということは、牧野さんが積極的に発言をしていたのですか?

佐藤:そうです(笑)。牧野さんはとてもロジカルなのです。

:だから、牧野さんを納得させるには、自分がなぜそう思うのかということを、まずは自分自身がよく理解しないといけないということに気付きました。

――そのようなことを高校生で気付けたということは、なかなか大きな経験だと思います。

:そうかもしれないですね。牧野さんには非常に鍛えられました(笑)。本当にストレートで、真面目で、まっすぐな人なのです。

佐藤:僕自身は、ちょっと違う苦しみを抱いていました。当時、僕は全然弾けなかった。それがとてもストレスだったのです。

:おそらく、それぞれが違う理由でとても苦しんでいた時期でした。だからこそ、お互いに興味を抱いたのかもしれないです。4人がそれぞれの相手を通して、自分自身を見つめたり、自分とは全く異なる世界に生きる相手を見ようとしたり。数年間かけて、アンサンブルのみならず人間関係も築いていたのだと思っています。

――その後、皆さんが大学生になった頃、若いカルテットの発掘と育成を目的としたカルテット振興プロジェクトである「プロジェクトQ」に関西代表として参加されたり、若手弦楽四重奏団としてのキャリアを積んでいかれました。
しかし、一旦、活動を休止されましたね。

:そうです。3年の活動を経た後、大岡君と牧野さんが「海外留学をする」ということになりました。
彼らの希望は前から聞いていたので覚悟はできていましたが、さすがに「活動中止」となるとショックでしたね。

――何年間、活動を中止されたのですか。

:9年です。ですが、その間もメンバー同士、連絡を取り合っていました。やっぱり、活動していた期間、とても楽しかったから。

――活動再開のきっかけは何だったのですか?

:私が大阪でリサイタルを開催したのですが、その時に一時帰国していた大岡君が聴きに来てくれたのです。
9年経って、それぞれががむしゃらに勉強する時期を終えて、就職が決まったり進路が決まったりしていました。
やっと、落ち着いて将来を考えることができたタイミングだったのです。
それで「そろそろ澪標、再開したいね」「ちょっと音を出してみようか」という話になりました。

佐藤:そんな流れで、2018年の夏に大阪と京都で自主公演を開催しました。再スタートです。

――9年を経て、一番最初に4人の音を合わされた時の印象は?

佐藤:女性が強くなっていて、びっくりしました!(笑)

――(笑)面白いですね。東さんは9年経って、ちゃんと自己主張ができるようになっていたのですね。

:はい(笑)

佐藤:東さんは4人の中で一番ポジティブで、ムードメーカーです。

――なるほど、それぞれ役割があるのですね。

:そうです。ノリで弾いちゃおう!というのが私。「いやいや冷静になろうよ」というのが残りの3人です(笑)
大岡くんは本番となるとバリバリ演奏するのですが、普段はぽーっとしています(笑)。本当に優しい人です。

佐藤:僕と牧野さんはめちゃくちゃネガティブなんですよね。

:ネガティブというよりも、2人は理論で考えていく人たちなのです。

――リーダーシップを取られるのは誰なのですか?

:その質問は難しいですね!澪標にリーダーはいないかもしれないです。

佐藤:はい、いないですね。それでうまくバランスが取れているカルテットなのです。

――今回、ドイツの巨匠、ゲルハルト・オピッツさんとブラームスのピアノ五重奏曲を演奏してくださいますね。どのような作品であると捉えていらっしゃいますか?

ピアノ五重奏曲を作曲した頃のブラームス(1866)

佐藤とてもブラームスらしい作品だなと思います。
ピアノカルテットと比較すると全然違うんですよね。ピアノカルテットの場合は、ピアニストも弦楽器奏者も1人1人が対等な立場にあると思うのですが、ピアノクインテットは違うのです。ピアノとカルテットが対峙するというか。とてもやりがいのある作品です。

:この作品はブラームスが比較的若い時に書いたもの(1864年作曲)なので、音楽的にはそこまで複雑ではないのですが、ブラームス青年期の瑞々しさ、シンプルさを表現できたらいいなと思います。

――オピッツさんと共演されることについてはいかがですか。

佐藤:僕だけではなく、みなさんにとって、オピッツさんって「本物中の本物」ですよね。日本のオーケストラメンバーの色々な方々が口を揃えて「オピッツさんはすごい」とリスペクトされているのです。

(C)HT/PCM

大岡君が弾いているボン・ベートーヴェン管弦楽団でもソリストとしてオピッツさんが来られたそうなのですが、やっぱり凄かったそうです。こんなに皆が素晴らしいと絶賛するピアニストと共演できる機会はなかなかないことなので、すごく楽しみにしています。

 

:実は、澪標で他の奏者と一緒に演奏するのは今回が初めてなのですよ。そして、初めて演奏する方がオピッツさんという(笑)
こんなすごい話はないと思って、喜んでオファーをお受けしました。
私たちはこれまで、音程について相当緻密に議論を重ね、和声を作ってきました。そこへピアノが入った時にどうなるか、未知数ですし、とても楽しみでもあります。私たちにとって、素晴らしい経験になるだろうと思っています。

佐藤:こうやって、超一流のピアニストと共演する機会を純粋に楽めるというのは、やっぱりこれまでそれぞれに経験を積み、自信をつけてきたからだと思います。それぞれに自分の「引き出し」は増やしてきましたから。今回はその引き出しを試すことができる、とっても良いチャンスだと思います。

――これまで経験を重ねて自信をつけたからこそ、今回のコンサートを楽しめる……本当に素晴らしいことだと思います。
オピッツさんもクァルテット澪標との共演をとても楽しみにされています。
京都コンサートホールでしか聴くことのできない、オール・ブラームス・プログラム。本番まであとわずかですが、私たちも11月13日を今から楽しみにしています!今日は色々なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。

(2021年10月 京都コンサートホール応接室にて
聞き手:高野裕子 京都コンサートホールプロデューサー)

 

《オピッツ・プレイズ・ブラームス with クァルテット澪標》の公演情報はコチラ