きりく・ハンドベルアンサンブル インタビュー(2021.12.04京都コンサートホール クリスマス・コンサート)

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インタビュー

京都コンサートホールがお届けする、特別なコンサートシリーズ「The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~」。シリーズの最終公演である「京都コンサートホール クリスマス・コンサート」では、親しみあるクリスマス・ソングをはじめ、祈りや復活の気持ちが込められた作品の数々を、 京都コンサートホールの国内最大級のパイプオルガンとハンドベルの豊かな響きでお届けします。

公演に向けて、きりく・ハンドベルアンサンブル(以下「きりく」)の代表を務める、世界的なハンドベル奏者の大坪泰子さんにお話を伺いました。
ぜひ最後までご覧ください。

 

——この度は、インタビューにお答えいただきありがとうございます。
まずアンサンブルのメンバーについてお伺いいたします。メンバーの方々は皆さんどのようにハンドベルと出会われたのでしょうか。そしてどのように「きりく」に入られたのでしょうか。

大坪さん(以下敬称略):小中高時代に学校で始めた人がメンバーの約半分ですが、きりくで始めた人もいます。
いま一番若手のメンバーは、小さい頃から頻繁にきりくの公演に通ってくれていました。主に低音域を担当している福田義通は、私がこれまでグループを結成する度に参加してくれています。他のメンバーは、私のブログや打楽器協会の会報などでメンバー募集を知り、きりくに入ってきてくれました。

※きりくのメンバーは現在8名ですが、本公演では7名で演奏予定。

 

——きりくさんのこれまでの演奏活動とコロナ禍での活動について教えていただけますか。

大坪:これまでは毎年1〜2回の自主公演のほかに、国内公演や海外ツアー等を頻繁に行っていました。コロナ禍では、海外ツアーはできなくなった上、自主公演はキャンセルし、その他の公演数も激減しています。
楽器の特性上、集まらないと練習にならないのがコロナ禍での大きなネックとなりました。
昨年は、長年借り歩いていた練習場が一斉にクローズしてしまったため、自前で専用スタジオを作りました。高機能換気システムを入れた安全なスタジオは出来たものの、遠くから電車で通うメンバーも少なくないため、安全を考えるとやはり前ほど自由には集まれなくなりました。昨年以来、全く参加できなくなったメンバーもいます。

ただ、元々私たちは少人数で極度に制限された条件の中で、工夫しながら作品を作ってきました。何かに困れば新しい知恵と方法で動くだけで、むしろそうやって私たちは進歩していくものだと思っています。

——次に、きりくさんが使用されている「ハンドベル」という楽器について教えてください。一般の人がよく見るのは、10本くらいの色がついたハンドベルで、メロディーを奏でるくらいの規模かと思いますが、きりくさんの演奏会では全てのパートをハンドベルで演奏されると思います。どれくらいの本数を使われていて、一人あたりの担当本数はどれくらいなのでしょうか。

大坪:皆さんが「ハンドベル」と呼んだり想像しているものの殆どは、「ミュージックベル」か、ベル型の玩具なのではないでしょうか。
私達が演奏しているのは、「イングリッシュハンドベル」と呼ばれる楽器です。

きりくでは6オクターブ弱の音域を用いており、部分的には3セット使っています。重さは1音あたり500gから5kg位のものもあります。
使う数は曲によって違いますが、大体、1人6〜25個くらいを担当します。多い時には、全員で200個以上使う曲もあります。例えばピアノの鍵盤をバラして持って、自分の音だけ適切に奏でるような状態を想像してみたらわかりやすいと思います。
その他に、音叉型の「クワイアチャイム」という楽器も6オクターブ分使っていて、曲によっては併用しています。

※本公演で使用するベルの数は、約200個の予定です。

——きりくの皆さんが思うハンドベルの魅力はどんなところでしょうか。

大坪:一般とは違う発想や取り組みをしているので、私達の感覚が一般的ではないと思うのですが…倍音が豊かに響いているトランス的な状態が好きです。明るい曲よりは、暗くて深みのある曲が合うと思っています。

あとは、工夫次第で可能性が拡がるところでしょうか。
少人数でやっている事自体もそうですが、こんな事は出来ないだろうと決めつけず、どうやったら出来るかを試行錯誤しながら、新しい何かを発見していくことに喜びがあります。

 

——演奏会でお聴きするのがとても楽しみです。12月4日の「クリスマス・コンサート」で演奏してくださる曲について聴きどころを教えてください。

大坪:テーマが「祈り」だったので、楽器に合っていると思います。
ハンドベルは、時代で言えばバッハがいた頃に、イギリスの教会で生まれた楽器です。当時バッハの曲が演奏されるような事はありませんでしたが、時代を経てこうして出会ってみると、まるでオリジナルのように調和しているのが面白いです。
カッチーニのアヴェマリアとアメイジンググレイスは、今回「クリスマス・キャロルズ」を書いた山岸智秋さんの編曲によるものです。山岸さんは私の好みをよく知っていて、共通項も多いため、若い頃からタッグを組んで作品を作ってきています。

 

——大坪さんがおっしゃってくださったように、山岸智秋さんには、本コンサートのために「クリスマス・キャロルズ」を書いていただきました。山岸さんについてご紹介いただくとともに、今回の新曲に期待することなどをお話いただけますか。

大坪:山岸さんは、私が大学生の頃に教えていた高校のハンドベルクワイアの生徒でした。その後音大に進み、作曲編曲、ピアノ、各種合奏や合唱の指導、大学での教授活動等で活躍しています。
彼は私と音楽的な嗜好が似ているので、信頼してよく編曲を依頼します。私の細かい注文もよく汲んでくれますし、こちらで楽譜に少し手を加えたりする事にも寛容なのは、向こうも信用してくれているからではないかと思っています。
ただ、うちの人数では到底出来そうにない音数を書かれることもあり、毎回悲鳴を上げつつ仕上げながらもまた依頼する、ということをかれこれ30年来続けています。

今回の新作も、作品性の高いアレンジです。大量の音符を前にして、もう少し簡単だったらなと思いつつ、流石だなと思いながら音分けに取り組んでいます。
個性的な音使いをしながらも、素材としては古典的なクリスマスキャロルだけでメドレーになっているところも気に入っています。

 

大木麻理(C)Takashi Fujimoto

——今回共演する大木さんとは、以前(2019年12月)ミューザ川崎で共演されたと聞きました。今回の共演ではどのようなことを楽しみにされていますか?

大坪大木さんとは一度ご一緒しているので安心感があります。オルガンもハンドベルも教会生まれの楽器なので、共に演奏で祈れるのが嬉しいです。
どの曲も楽しみですが、今回はやはり、この公演の為に書かれた新作の「クリスマス・キャロルズ」に特別感があります。信頼できる共演者と編曲者で新しい作品を作れる希少な好機ですから、一回だけで終わらせるのは勿体ないくらいです。

 

——今回のコンサートには、「音楽」を通してコロナで疲れた方々を癒し、コロナに負けず音楽の力を信じて前に進みたい、というメッセージが込められています。「音楽の持つ力」は、ウィズコロナの現在、そしてアフターコロナでどのような役割を果たすと思いますか。

大坪:物理的に孤立しがちなコロナ禍での生活では、心の健康がQOL(クオリティ オブ ライフ)を左右します。音楽は直接心に刺激を与え、癒しや活力をもたらし、生き方にまで影響を与えると信じています。特に今後は、実演に触れて響きを浴びる体験の価値が見直されることと思います。
なんでもリモートで済むような生活習慣がついてきた今だからこそ、音楽を単なる情報として捉えるか、代替不可の体験として捉えるか、価値観の分かれるところではないでしょうか。
まだ厳しい状況下ではありますが、音楽ホール、実演家、そして聴衆の皆さまも、音楽体験の価値を諦めず、忘れず、共に乗り越えていければ嬉しいです。

 

 

——演奏会を楽しみにしている皆さまへ、一言お願いいたします。

大坪:大海の一滴のように僅かでも、たとえ一音でも響きを投じるからには何かに影響を与えていると信じ、演奏をしています。演奏会を楽しんでくださる皆さまお一人お一人のご安全、ご健康、お幸せを祈るとともに、その場を共有した全員から世界に向けた祈りが生まれることを期待しています。皆さまとご一緒できる事を心より楽しみにしております。

——お忙しい中ご協力いただきまして、誠にありがとうございました。
12月の公演を楽しみにしております!

(2021年9月事業企画課メール・インタビュー)

クァルテット澪標 東珠子さん&佐藤響さん インタビュー(2021.11.13オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~)

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京都コンサートホール

11月13日(土)15時開演「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」では、ドイツの巨匠ピアニストであるゲルハルト・オピッツと京都ゆかりの若手奏者による弦楽四重奏団「クァルテット澪標」が共演します。

公演に向けて、クァルテット澪標の東珠子さん(ヴァイオリン)と佐藤響さん(チェロ)のお二人にお話を伺いました。
クァルテットについて、そして演奏されるピアノ五重奏曲や共演するオピッツさんについてもお話いただきました。

ぜひ最後までご覧ください!


――お忙しい中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございます。クァルテット澪標のヴァイオリンを担当されている東珠子さんとチェロを担当されている佐藤響さんから今日はお話を伺います。
ヴァイオリンの大岡仁さんとヴィオラの牧野葵美さんは、先日それぞれお住まいのオーストリアとイギリスからご帰国されたばかりということで、現在隔離期間に入っていらっしゃいます(※インタビュー時10月末時点)
さて、まずは4人がどのように弦楽四重奏団を組まれたのかというお話を最初に伺いたいです。東さんと佐藤さんは同学年でいらっしゃいましたよね。

東珠子さん(以下、敬称略):はい、そうです。

佐藤響さん(以下、敬称略):同じ高校、大学※を卒業しました。(※現 京都市立京都堀川音楽高等学校、京都市立芸術大学)

――大岡さんと牧野さんは違う学校だったのですね。

:はい、二人は私たちよりも1学年上で、相愛大学に通っていました。
私たちの出会いは「京都フランス音楽アカデミー」でした。当時私たちは高校2年生で、オーボエクラスの先生が「室内楽をやろう」と言ってくださって。それで、私と佐藤さんで組んだのですが、その時にヴィオラの牧野さんがいて、一緒に室内楽をやったのです。それがすごく楽しくて。そのうちに「カルテットをやろう」ということになったのですが、「そうしたらヴァイオリンがもう1人必要だね」と言ったら牧野さんが「大岡君を誘ったらやってくれると思う」という話になりました。

佐藤:牧野さんと大岡君は同じ師匠※に習っていたのです(※小栗まち絵先生)。高校2年生の時に日本音楽コンクールで2位を獲った大岡君は当時、スーパー有名人で超多忙にしていましたので、僕たちとカルテットを組んでくれるのかな?と思っていたのですが「いいよ」と快諾してくれました。僕たちが高校3年生の春のことでした。

――学校という枠組みから離れて組まれたカルテットだったのですね。

:はい、いつもとは全く異なる環境で、音楽を通して皆、自分自身を見つめていた時期でした。

――なるほど、4人が音楽的な価値観がぴったりと合ったのですね。

佐藤:いえ、それが違うのですよ。最初はとても苦労しました。特に東さんが苦労していたかな。練習の帰り道、泣いていたこともあったね(笑)

――性格も音楽性も異なる4人が集まるわけですから、時に衝突も起きますよね。そういった部分はコンサートに行っても見えてこないので、個人的にはとても興味のある話です(笑)。

:大岡君と牧野さんって、私が今まで出会ったことのない演奏家だったんです。それがすごく刺激的で。年齢も私たちより1歳上だし、キャリアもずっとずっと上でしたし。そういうことも大きな理由の一つでしたが、やっぱり、それまではソロ中心で、室内楽の経験があまりなかったことが原因だったと思います。先生以外の人たちと、一つの曲を皆で一緒に勉強するわけでしょう。音楽を作る時も、先生とは全然違う視点で話をしてきます。
なので、自分でやりたいことがある時は、相手を説得するだけの「自分」を強く持たないといけないのですが、当時はそれがとても難しかったです。

佐藤:自分の考えていることを言語化できなかったんだよね。

:きっと、大岡君もそうでした。黙っちゃう。

――ということは、牧野さんが積極的に発言をしていたのですか?

佐藤:そうです(笑)。牧野さんはとてもロジカルなのです。

:だから、牧野さんを納得させるには、自分がなぜそう思うのかということを、まずは自分自身がよく理解しないといけないということに気付きました。

――そのようなことを高校生で気付けたということは、なかなか大きな経験だと思います。

:そうかもしれないですね。牧野さんには非常に鍛えられました(笑)。本当にストレートで、真面目で、まっすぐな人なのです。

佐藤:僕自身は、ちょっと違う苦しみを抱いていました。当時、僕は全然弾けなかった。それがとてもストレスだったのです。

:おそらく、それぞれが違う理由でとても苦しんでいた時期でした。だからこそ、お互いに興味を抱いたのかもしれないです。4人がそれぞれの相手を通して、自分自身を見つめたり、自分とは全く異なる世界に生きる相手を見ようとしたり。数年間かけて、アンサンブルのみならず人間関係も築いていたのだと思っています。

――その後、皆さんが大学生になった頃、若いカルテットの発掘と育成を目的としたカルテット振興プロジェクトである「プロジェクトQ」に関西代表として参加されたり、若手弦楽四重奏団としてのキャリアを積んでいかれました。
しかし、一旦、活動を休止されましたね。

:そうです。3年の活動を経た後、大岡君と牧野さんが「海外留学をする」ということになりました。
彼らの希望は前から聞いていたので覚悟はできていましたが、さすがに「活動中止」となるとショックでしたね。

――何年間、活動を中止されたのですか。

:9年です。ですが、その間もメンバー同士、連絡を取り合っていました。やっぱり、活動していた期間、とても楽しかったから。

――活動再開のきっかけは何だったのですか?

:私が大阪でリサイタルを開催したのですが、その時に一時帰国していた大岡君が聴きに来てくれたのです。
9年経って、それぞれががむしゃらに勉強する時期を終えて、就職が決まったり進路が決まったりしていました。
やっと、落ち着いて将来を考えることができたタイミングだったのです。
それで「そろそろ澪標、再開したいね」「ちょっと音を出してみようか」という話になりました。

佐藤:そんな流れで、2018年の夏に大阪と京都で自主公演を開催しました。再スタートです。

――9年を経て、一番最初に4人の音を合わされた時の印象は?

佐藤:女性が強くなっていて、びっくりしました!(笑)

――(笑)面白いですね。東さんは9年経って、ちゃんと自己主張ができるようになっていたのですね。

:はい(笑)

佐藤:東さんは4人の中で一番ポジティブで、ムードメーカーです。

――なるほど、それぞれ役割があるのですね。

:そうです。ノリで弾いちゃおう!というのが私。「いやいや冷静になろうよ」というのが残りの3人です(笑)
大岡くんは本番となるとバリバリ演奏するのですが、普段はぽーっとしています(笑)。本当に優しい人です。

佐藤:僕と牧野さんはめちゃくちゃネガティブなんですよね。

:ネガティブというよりも、2人は理論で考えていく人たちなのです。

――リーダーシップを取られるのは誰なのですか?

:その質問は難しいですね!澪標にリーダーはいないかもしれないです。

佐藤:はい、いないですね。それでうまくバランスが取れているカルテットなのです。

――今回、ドイツの巨匠、ゲルハルト・オピッツさんとブラームスのピアノ五重奏曲を演奏してくださいますね。どのような作品であると捉えていらっしゃいますか?

ピアノ五重奏曲を作曲した頃のブラームス(1866)

佐藤とてもブラームスらしい作品だなと思います。
ピアノカルテットと比較すると全然違うんですよね。ピアノカルテットの場合は、ピアニストも弦楽器奏者も1人1人が対等な立場にあると思うのですが、ピアノクインテットは違うのです。ピアノとカルテットが対峙するというか。とてもやりがいのある作品です。

:この作品はブラームスが比較的若い時に書いたもの(1864年作曲)なので、音楽的にはそこまで複雑ではないのですが、ブラームス青年期の瑞々しさ、シンプルさを表現できたらいいなと思います。

――オピッツさんと共演されることについてはいかがですか。

佐藤:僕だけではなく、みなさんにとって、オピッツさんって「本物中の本物」ですよね。日本のオーケストラメンバーの色々な方々が口を揃えて「オピッツさんはすごい」とリスペクトされているのです。

(C)HT/PCM

大岡君が弾いているボン・ベートーヴェン管弦楽団でもソリストとしてオピッツさんが来られたそうなのですが、やっぱり凄かったそうです。こんなに皆が素晴らしいと絶賛するピアニストと共演できる機会はなかなかないことなので、すごく楽しみにしています。

 

:実は、澪標で他の奏者と一緒に演奏するのは今回が初めてなのですよ。そして、初めて演奏する方がオピッツさんという(笑)
こんなすごい話はないと思って、喜んでオファーをお受けしました。
私たちはこれまで、音程について相当緻密に議論を重ね、和声を作ってきました。そこへピアノが入った時にどうなるか、未知数ですし、とても楽しみでもあります。私たちにとって、素晴らしい経験になるだろうと思っています。

佐藤:こうやって、超一流のピアニストと共演する機会を純粋に楽めるというのは、やっぱりこれまでそれぞれに経験を積み、自信をつけてきたからだと思います。それぞれに自分の「引き出し」は増やしてきましたから。今回はその引き出しを試すことができる、とっても良いチャンスだと思います。

――これまで経験を重ねて自信をつけたからこそ、今回のコンサートを楽しめる……本当に素晴らしいことだと思います。
オピッツさんもクァルテット澪標との共演をとても楽しみにされています。
京都コンサートホールでしか聴くことのできない、オール・ブラームス・プログラム。本番まであとわずかですが、私たちも11月13日を今から楽しみにしています!今日は色々なお話をお聞かせくださり、ありがとうございました。

(2021年10月 京都コンサートホール応接室にて
聞き手:高野裕子 京都コンサートホールプロデューサー)

 

《オピッツ・プレイズ・ブラームス with クァルテット澪標》の公演情報はコチラ

 

ピアニスト ゲルハルト・オピッツ 特別インタビュー(2021.11.13オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~)

投稿日:
京都コンサートホール

京都コンサートホールの特別シリーズ『The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~』の第3弾「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」(11/13)では、ドイツ・ピアニズムを受け継ぐ巨匠ピアニストのゲルハルト・オピッツ氏が、オール・ブラームス・プログラムを披露します。

オピッツ氏は、2020年に開催した特別シリーズ「ベートーヴェンの知られざる世界」にご出演いただく予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で出演は叶いませんでした。

今回、待望の京都公演に向けて、オピッツ氏へメールインタビューを行いました。
演奏していただくブラームスの作品や、特別な憧れがあるという京都についてお聞きしました。ぜひ最後までご覧ください。

(C)Concerto Winderstein

——この度はインタビューをお引き受けいただき、ありがとうございます。
昨年はご出演がかなわず大変残念でしたが、
今回改めてオピッツさんをお迎えできますこと、心より嬉しく思います。
さて、オピッツさんはこれまで日本各地で演奏されていらっしゃいますが、京都コンサートホールは3回目のご出演になるかと思います。1回目は2002年にヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮のNHK交響楽団と、2回目は2019年のマルク・アンドレーエ指揮の京都市交響楽団との共演でした。
京都コンサートホールの印象や過去の2回の演奏会での印象的なエピソードがあれば教えてください。

オピッツ氏:京都コンサートホールは、聴衆だけでなく演奏する側にとっても理想的なホールだと思います。ホールの持つ建築のコンセプトと優れた音響のおかげで、この場所で演奏することが本当に楽しいのです。
以前ベートーヴェンの協奏曲第3番とブラームスの協奏曲第1番を演奏しましたが、どちらも素晴らしい思い出です。ヴォルフガング・サヴァリッシュとマルク・アンドレーエという二人の偉大な指揮者とは80年代からのよき仲間、よき友人であり、私たちは何十年も多くの舞台を共にし、信頼し合うことができました。幸いなことにアンドレーエ氏は今も健在で音楽仲間や聴衆を魅了し続けていますが、サヴァリッシュ氏はもうここにはいません。本当に残念でなりません。

2019年1月 マルク・アンドレーエ指揮、京都市交響楽団との共演の様子(C)京都市交響楽団

★2019年のアンドレーエ氏&京都市交響楽団との共演の様子はこちら↓
京都市交響楽団 公式ブログ「公演終了!アンドレーエ&オピッツ「第630回定期演奏会」」

 

——今回の演奏会では、オール・ブラームス・プログラムを演奏していただきます。プログラム前半では、ブラームスの作曲人生において実り多き時期から晩年にかけてのソロ作品を選んでいただきました。選曲の意図と各曲の魅力を教えていただけますでしょうか。

オピッツ氏:1864年にブラームスが作曲した作品34の五重奏曲は若かりし頃のスタイルを踏襲しており、四楽章構成という大規模な作品です。これに呼応するものとして、ピアノの小品に集中して作曲を行った後期の成熟した作品を選びました。
2つのラプソディーは、古典的形式とラプソディーの自由さが統合された作品です。
続いて、ブラームスが“Klavierstücke”(ピアノ小品)と呼んだ最晩年の小品集の持つ魔法のような世界観へと歩みを進め(作品119)、“Fantasien”(幻想曲)と名付けた作品を演奏します(作品116)。
これらの作品の中にはドラマチックで煽情的なものもありますが、そのほとんどは熟考され詩的な美しさが強調された作品です。これこそがブラームスの絶頂期だと思います。

(C)HT/PCM

——後半プログラムの「ピアノ五重奏曲」では、京都ゆかりの若手音楽家による「クァルテット澪標」と共演なさいます。クァルテットのメンバーは現在それぞれ、ドイツ・ベルギー・イギリス・日本で活躍しています。共演する上で楽しみにされていることなどがありましたら教えてください。

オピッツ氏:クァルテット澪標の素晴らしい皆さまと、壮大な五重奏曲作品34で共演できることを楽しみにしています。彼らの演奏への熱烈な評判を耳にし、今回初めてご一緒できることになり、大変嬉しく思います。
この五重奏曲は室内楽曲の中でも特に重要な作品ですし、この曲を演奏することは5人の演奏家同士での知的で深い会話のように思っています。私たち5人は、ともに楽しい演奏を究極の目標として、この素晴らしい作品の魅力を聴衆の皆さまにお届けします。

クァルテット澪標

——オピッツさんは親日家でいらっしゃって、あるインタビュー記事で「とりわけ京都にはある種の憧れを感じています」と話されているのを目にしました。よろしければそのお話を聞かせていただけますでしょうか。

オピッツ氏:私にとっての京都は、日本だけでなく世界中のどの都市と比べても唯一無二の都市です。初めて訪れた1976年以来、いつもその街並みの美しさに感動し、魅了されています。一方に町があり、もう一方に広がるお寺や神社などの歴史的な風景、そして山や森、川などが驚くほど見事に調和しており、まるで完全な芸術作品のようです。千年以上の歴史に根差した伝統の美しさが、現代の生活に見事に溶け込んでいます。

 

——さて、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックは、世界を大きく変化させました。今回のコンサートを含む4つのコンサートシリーズ「The Power of Music~いまこそ、音楽の力~」は、「コロナに屈せず、“音楽の力”を信じて前に進もう」という思いで企画いたしました。「音楽の力」は、ウィズコロナそしてアフターコロナの状況で、どのような役割を果たす(果たしている)とオピッツさんは思いますか。

オピッツ氏:現在のパンデミックの状況によって、私たちが以前のように生活を楽しむことが難しくなっています。音楽はウイルスの脅威による影響や、それに付随する問題を解決することはできませんが、私たちの魂を勇気づけてくれるものです。辛い状況にある私たちの感情や思考を和らげてくれるもの、それが音楽だと思います。

(C)HT/PCM

——最後に、1年越しの演奏会を楽しみにしている皆さまへメッセージをお願いいたします。

オピッツ氏:クァルテット澪標と私は、ヨハネス・ブラームスの芸術的なメッセージに対する私たちの情熱を皆さまにお届けしたいと思います。ブラームスのファンが増えることを願っていますし、音楽愛好家の皆さまにもブラームスの新たな一面を見つけていただけたら幸いです。彼の精神が私たちを啓蒙し、導いてくれますように。

——お忙しい中ありがとうございました。京都でお会いできますことを楽しみにしております。

(2021年10月事業企画課メール・インタビュー)

「オピッツ・プレイズ・ブラームス~withクァルテット澪標~」(11/13)公演情報・チケットの購入はこちら