特別寄稿「フレデリック・ショパン、愛と青春の譜を歌うとき」(「ショパン!ショパン!!ショパン!!!」11月20日)

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京都コンサートホール

京都コンサートホール×京都市交響楽団プロジェクトVol.2「ショパン!ショパン!!ショパン!!!」(11/20)。
音楽専門誌などで執筆されている青澤隆明氏に公演の魅力についてご寄稿いただきました。ぜひご覧ください!


フレデリック・ショパン、愛と青春の譜を歌うとき
青澤隆明(音楽評論)

 ショパン・コンクールの年がめぐってきた。昨年の予定がCovid-19の全世界的影響下で1年延期されたが、ショパンの命日をはさんで本選が行われる。そろそろ一世紀にも近づくワルシャワの大舞台で、古今東西の若者たちの青春もさまざまに輝いてきたことだろう。

 育ち盛りの若者にとって1年という時間はとても大きい。フレデリック・ショパンならば、1年のうちに2曲のピアノ協奏曲ほかを書き上げ、もう1曲 「華麗なるポロネーズ」に着手するだけの時間だ。20歳そこそこの青年だった1830年前後、ポーランドでの最後の時節の出来事である。

 ワルシャワでの告別演奏会で、ショパンは作曲したばかりのホ短調協奏曲を披露した。万感の思いだったろう。そこには、若者の希望や理想があり、純粋さがあり、恋慕も憧憬も、憂鬱も焦燥もあった。そして、なにより、未来があった。

 ショパンのオーケストラを用いた作品は6曲が完成されたが、いずれもピアノが主役で、作曲家自らが演奏した。ピアノはショパンの魂であった。鍵盤で織りなすポーランドの種々の民族舞曲は、愛する人々との絆でもあり、純化された愛国の精神でもある。それから、時を超え、世界中の人々の手で奏でられるようになった。

 そのうち今日までもっとも愛される3つの名品が、ひとつのコンサートで味わえる。しかも3人の若いピアニストの手による競演のかたちで。贅沢な話である。幅広く活躍する実力派デリック・イノウエが指揮をする。 京都コンサートホールと京都市交響楽団の意欲的な企画だ。

實川 風(c)Yuki Ohara
福間洸太朗(c)Marc Bouhiron
ニュウニュウ(c)Chris Lee

 

 

 

 

 

 

 三者三様のピアニストは、まさに男盛りともいうべき年頃の、それぞれに主張をもつ青年たちである。實川風が「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」、福間洸太朗がピアノ協奏曲第2番ヘ短調を、ニュウニュウは第1番ホ短調を弾く。つまり、ピアニストはそれぞれ若く個性豊かで、しかし作曲当時のショパンの年代は過ぎている。もし青春のさなかだとしても、時を振り返るだけの余裕が、心理的にも技術的にもあるはず。そして、音楽は見果てぬ愛だ。

 革命前夜のワルシャワを離れても、ショパンの心は愛するポーランドの人々とともにあった。協奏曲は故国で未来への展望を託した夢でもあり、生来リアリストのシビアな性格をもつショパンにして、そこではきわめて甘美な心情がナイーヴに語られている。そして、ポロネーズは言うまでもなくポーランドの誇りであり力である、しかも“ブリランテ”だ。“輝かしい”青春は、未来へと手を伸ばすピアニストの演奏でこそ、清く鮮やかに生きられるべきもの。

 こうして、ショパンの青春の譜を3曲続けて訪ねることは、聴き手にとっても、失われた、いや、決して失われるはずのない、若き愛と青春の旅立ちを謳うひとときとなるだろう。


青澤隆明(音楽評論)
1970年東京生まれ、鎌倉に育つ。東京外国語大学英米語学科卒。高校在学中からクラシックを中心に音楽専門誌などで執筆。新聞、一般誌、演奏会プログラムやCDへの寄稿、放送番組の構成・出演のほか、コンサートの企画制作も広く手がける。主な著書に『現代のピアニスト30-アリアと変奏』(ちくま新書)、ヴァレリー・アファナシエフとの『ピアニストは語る』(講談社現代新書)、『ピアニストを生きる―清水和音の思想』(音楽之友社)。


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