【京響スーパーコンサート特別連載①】スウェーデン放送合唱団の魅力~人間の声の可能性は無限大~

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京都コンサートホール

2019年11月23日(土・祝)開催の「京響スーパーコンサート」では、世界トップクラスの合唱団「スウェーデン放送合唱団」が京都市交響楽団と初共演をいたします。

スウェーデン放送合唱団の京都初公演でもある本公演をよりお楽しみいただくため、本ブログにて特別連載を行います。第1回は、スウェーデン放送合唱団に詳しい音楽評論家の那須田務さんに、合唱団の魅力をたっぷりと語っていただきました。


「スウェーデン放送合唱団の魅力~人間の声の可能性は無限大~」

那須田務(音楽評論)

スウェーデン放送合唱団といえば、オーケストラ・ファンにとってはスウェーデン放送交響楽団のみならず、ヨーロッパ一流オーケストラの合唱付き管弦楽作品のベスト・パートナーとして知られるほか、合唱ファンには古今のスタンダードな合唱曲や北欧や東欧の様々な作品の優れた演奏を通してお馴染みの存在だ。たとえば、アバド、ベルリン・フィルと共演したベートーヴェンの「第9」(CD、DVD)は名盤中の名盤だし、合唱の神様と称されるエリクソンとのブラームスやブルックナー、カリユステと録音したグレツキやシュニトケのアルバムなどは合唱を聴く楽しさを教えてくれると同時に、人間の声の可能性は本当に無限大なのだと実感させてくれる。

(C)Arne Hyckenberg

このような名人芸と高い芸術性を兼ね備えた合唱の最高峰だが、2007年にダイクストラの音楽監督就任が報じられた時には驚いた。古楽から現代音楽まで独自の音楽的センスを持ち、共演者に完璧な表現を要求する鬼才として、オランダの男声合唱団ザ・ジェンツを率いて目覚ましい活動を行なっていたからだ。それから10年余り。期待通りダイクストラはスウェーデン放送合唱団にレパートリーや音楽面で新たな魅力を付け加えることに成功した。

ここ数年の来日公演で特に印象に残っているのは、4年前の東京都交響楽団の定期公演。ダイクストラの指揮でリゲティのア・カペラ混声合唱曲《ルクス・エテルナ》、管弦楽伴奏版シェーンベルクの《地には平和を》、モーツァルトの《レクイエム》(ジュースマイヤー版、ソリストはアマーストレム、ティマンダー等)という、合唱団が主役のようなコンサートだった。東京文化会館大ホールに現れた彼らは北欧の人らしく皆すらりと背が高く、どこか僧侶か修道女を思わせる。リゲティとシェーンベルクもすばらしかったが、やはり白眉は後半の《レクイエム》。〈イントロイトゥス〉の合唱のクレッシェンドが印象的で、キリエのきびきびとしたテンポと合唱の明快なフレージングなど積極的な表現が快く、〈ディエス・イレ〉などは一陣の風が吹き抜けたよう。ラテン語のテキストを歌う際にアーティキュレーションで実に豊かな表情を付けていく。肌理細やかな弱音から天地を揺るがすフォルテまで表現の幅が広く、その上各パートに室内楽的な纏まりがあり、フーガやフガートなど対位法的なフレーズがくっきり浮かび上がる。白眉は〈ラクリモーサ〉。温かな歌声と精妙な表情付けが見事で、最後のアーメンの美しさもまた格別だった。ダイクストラは昨年、音楽監督を退任、その後は音楽監督を置かずに活動しているという。

(C)Kristian Pohl

そんなスウェーデン放送合唱団が11月に来日して、当京都コンサートホールで広上淳一の指揮する京都市交響楽団とモーツァルトの《レクイエム》(ソリストはシュヴァルツ、ラングフォードら)を共演する。ダイクストラが同合唱団に残したものは何か、しなやかで情感豊かな広上の指揮や京都のオーケストラとどのようなパフォーマンスを見せてくれるのかなど興味は尽きない。


那須田務(なすだ・つとむ)音楽評論家 

ドイツ・ケルン大学音楽学科修士修了。著書に『音楽ってすばらしい』『名曲名盤バッハ』、監修著作『河出「夢」ムック バッハ』、共訳書アーノンクール著『音楽は対話である』の他、多数の共著書がある。現在ミュージック・ペンクラブ・ジャパン事務局長。洗足学園音楽大学及び同大学院非常勤講師。『音楽の友』で演奏会評を、『レコード芸術』で新譜月評を担当する他、「古楽夜話」好評連載中。

 


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