フォーレに捧ぐ特別インタビュー 北村朋幹さん×山根一仁さん①

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京都コンサートホール

11月10日開催の「フォーレに捧ぐ――北村朋幹×エール弦楽四重奏団」(京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ)

いま旬の若き日本のトップ・プレイヤーたちが一堂に会し、京都でフォーレの名曲ピアノ五重奏に挑むコンサート。本公演の開催に向けて、出演者の北村朋幹さん(ピアノ)と山根一仁さん(エール弦楽四重奏団/ヴァイオリン)にインタビューを行い、今回の公演に対する意気込みや作曲家フォーレについて語っていただきました。前編・後編の2回に分けてお送りいたします。


―――北村さん、山根さんこんにちは。今日はお忙しい中、インタビューを受けていただき、ありがとうございます。おふたりは今回11月10日(日)開催の「フォーレに捧ぐ」にご出演されますが、はじめに、京都コンサートホールからフォーレの《ピアノ五重奏曲》全曲演奏のオファーが来た時、どう思われたか教えてくださいますか。

山根一仁さん(以下、敬称略):僕はフォーレのピアノ五重奏曲を全曲演奏することに対して、ピアニストの大変さを知らなかったのですが、僕自身「これはいい機会だな」と思いました。

北村朋幹さん(以下、敬称略):僕はこんな機会は絶対ないから、やりたいと思っていました。ただ、プログラムについてエール弦楽四重奏団のメンバーと話し合った時、僕は「もし、ちゃんとリハーサルが取れないのであったら、フォーレはどちらか一曲だけにして、2曲目はもっと簡単な曲にしよう」と強調して伝えました。
それくらい本気で挑まないといけない作品だからです。

山根:これから先に演奏する機会があるかどうかを考えたときに、このメンバーで今回これらの作品に挑戦することはとても勉強になるだろうなと思いました。
実際に演奏活動をしている中で、いま自分の周りにいる音楽の仲間で一番心から信頼している人はだれかと質問されたとしたら、今回のメンバーは一番に名前が挙がる人たちなのです。
このような機会を与えてくださり、とても感謝しています。

―――私たちも、皆さんに演奏していただくことが叶い、とても嬉しく思います。特に今は全員が海外在住でいらっしゃるので、タイミングよく京都にお越しいただけることになったことは非常に幸運なことです。
ところで、フォーレのピアノ五重奏全曲を演奏することは早々と決まりましたが、もう一曲、どのような作品をプログラミングするかという話になった時、色々な意見が出ましたよね。

北村:そうですね。確かフランクとか・・・・

―――そうでした。でも、最終的にはシェーンベルク(ウェーベルン編曲)の室内交響曲第1番になりました。なぜこの作品にしようと思いましたか?

北村:まず、演奏会をする上で、演奏家は聴き手のことも考えないといけないですよね。本当は、フォーレのピアノ五重奏曲を連続して演奏した方がプログラムとしてはまとまりが良いのかもしれませんが、それだと合計1時間強も連続で音楽を聴くことになります。それはお客様にとってあまりよくないだろうと考えました。

フォーレのピアノ五重奏曲2曲とシェーンベルクのプログラム順についても色々と考えていたのですが、フォーレの《ピアノ五重奏曲第1番》は冒頭の流れるようなアルペジオが美しいということと、個人的にフォーレの《ピアノ五重奏曲第2番》の後には何も弾きたくないということから、必然的に間に何かを入れようという案になりました。
そこで、何がいいかなってずっと考えていたのですが、「ピアノ五重奏」、そして「20世紀」という時代のことを考えたとき、シェーンベルクが挙がったんです。

シェーンベルクという作曲家は12音技法を駆使した人物ですが、彼は新しいことにたくさんチャレンジした、時代の最先端を行く作曲家でした。同時に、「ロマン派時代を崩壊させた作曲家」というイメージをどうしても皆さんお持ちなんですよね。
でも、“時代の最先端にいる”ということは、“前の時代の一番あと”でもあるんです。
だから、僕自身はシェーンベルクのことを究極のロマン派だと思っていて、特にOp.9はロマンティックな作品だと思います。
その直後に書かれたOp.11のピアノ作品で、彼は新たなステップを踏み出したのですが、その前に作曲されたOp.9は、まさに「究極のロマン派」。これ以上は行けないんだろうなって作品が、この室内交響曲なんです。
一方でフォーレという作曲家は、シェーンベルクとは全く違うベクトルの音楽を書いた人でした。二人とも全く違う方法で、「ロマン派」という逃げられない場所から新しいものを生み出していった作曲家だと思っています。
こういったことが、このコンサートのテーマになるんではないかな?と思いました。

―――ロマン派という逃れられない場所から、新しいものを生み出した……。それが二人の共通点なのですね。

北村:多少無理やりですが、そうだと思います。
二人とも新しいものを生み出しつつも、前の時代を捨てることはしなかった。それが僕自身にとって重要なことなんです。もっと後の時代の曲だと、まるで点描画のような作品もありますよね。でも僕はそういう音楽よりも、エモーショナルでメロディックな曲のほうが好きですね。
このシェーンベルクは、聴けばすぐに分かりますが、リヒャルト・シュトラウス (1864-1949) とかワーグナー (1813-1883) 、ブルックナー (1824-1896) の影響がいたる所に感じられて、破裂寸前の風船みたいな印象を受けるのです。
その風船には「ロマン派」がいっぱい詰まっていて、もう「バン!」と爆発しちゃうくらいにエモーショナルな曲です。そして、とてもクレバーに書かれていて、完璧な作品の一つだと僕は思っています。そういった作品を、シェーンベルクの一番の理解者であったウェーベルン (1883-1945) が編曲しています。

フォーレとシェーンベルク、この2人の作曲家はどちらも完璧ですが、2人を比べてみるとその「完璧さ」が違うことに気付かされます。
フォーレは5人が一つの流れで弾いていかなくてはいけませんが、シェーンベルンは全員が全員のパートを理解して、全員が指揮者のようにやっていかなくてはならない。そういった挑戦をこのメンバーと一緒にしてみたかったのです。

―――なるほど。このメンバーだからこそ、演奏したいという気持ちが強くなったのですね。おそらく、なにも知らない方からすると、あのプログラムを見たら、真ん中にシェーンベルクが入っていることにものすごく違和感を感じる人もいるかもしれないと思ったのですが、それは聴いていただくと納得していただけるということでしょうか。

北村:「納得していただける」とは言い切れないかもしれませんが、一つの「20世紀の音楽の在り方」が見えるだろうとは自負しています。

―――山根さんはシェーンベルクの《室内交響曲》をプログラミングしたことに対してはどうお考えですか。

山根:実は僕、シェーンベルクの作品ってコンチェルトとファンタジーくらいしか演奏したことがないのです。だから、リハーサル時間が物を言う作品だろうなぁとは思っています。身を引き締めてと思っております。
フォーレとシェーンベルクということで、どちらも大きな挑戦になるでしょうから、一番の仲間たちとこういった作品にチャレンジ出来ることを今から楽しみにしています。

 

▶フォーレに捧ぐ特別インタビュー 北村朋幹さん×山根一仁さん②へ続く…
(2019年2月28日京都コンサートホール事業企画課インタビュー@京都市内のカフェ「CLOVER」にて)
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【フィラデルフィア管弦楽団 特別連載③】フィラデルフィア・サウンドの魅力

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京都コンサートホール

アメリカ“ビッグ5”の一つである「フィラデルフィア管弦楽団」の魅力を様々な視点からお伝えする「特別連載」。第3回は、往年のフィラデルフィア・サウンドを知る音楽学者の岡田暁生氏に、フィラデルフィアの管弦楽団の魅力を語っていただきました。

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随分昔のことだ。アメリカの友人に「フィラデルフィア管弦楽団ってどんなオーケストラなの?」と尋ねたことがある。当時わたしはまだこのオーケストラを聴いたことがなかったのだが、この友人は「音楽家だった僕の父が『あそこのオーケストラの弦パートにはストラディバリウスを持っている奏者がうじゃうじゃいる、世界で一番ストラディバリウスがあるオーケストラさ』と言ってたことがある - ほんとかどうか知らないけど」と言ってにやりと笑った。それから数年後、初めてこのオーケストラを聴いて(当時音楽監督をやっていたリッカルド・ムーティの指揮だった)、これが都市伝説ではなく実話に違いないと確信した。オーケストラのサウンドが一体どこまで「ゴージャス」になることが出来るか ―― フィラデルフィア管弦楽団を聴くとはそれを体感することだ。

The Philadelphia Orchestra performs on New Years Eve, Thursday, Dec. 31, 2015, in Philadelphia. (Photo by Jessica Griffin)

このオーケストラの響きは「フィラデルフィア・サウンド」としてあまりに名高い。もちろんアメリカのオーケストラはどこも豪華な響きを出す。だが「ニューヨーク・フィル・サウンド」とか「ボストン・サウンド」などといった言い方はない。そもそもオーケストラで「・・・サウンド」といった表現がされるのは、黄金期のカラヤン/ベルリン・フィルの「カラヤン・サウンド」、そしてこの「フィラデルフィア・サウンド」くらいのものだろう。

嘘か誠か「世界で一番ストラディバリウスがある」という響きを体感するには、このオーケストラの名声を世界にとどろかせたかつての音楽監督ユージン・オーマンディの指揮による『ロンドンデリーの歌』の古い録音を聴くことを勧める。この贅を尽くした艶、このうねり、このすすり泣き、この陰影!そしてそこはかとないノスタルジー!これぞアメリカンドリーム・サウンド!管楽器もすさまじい。これまたオーマンディ指揮のシベリウス『フィンランディア』の古い録音(このオーケストラがシベリウス自身によって絶賛されたことは有名である)では、どのパートも思いきり「どうだ!」と見栄を切る。それがことごとく「決まる」。しかも個人がスタンドプレーしているのではなく、全体のチームワークがすごい。翳りや深さにもことかかない。

フィラデルフィア管弦楽団はリーマン・ショックのせいで2011年に破産したりして、あのかつての「ゴージャス・アメリカンドリーム・サウンド」をどれくらいまだ維持しているか、懸念がなくはなかった。しかしネゼ=セガン指揮による最近の録音をいくつか聴いてみて(その中には京都公演の演目であるラフマニノフのピアノ協奏曲第二番も含まれる)、それが杞憂であったと大いに安心した。恐らくセガンが意識的に伝統のサウンドを維持することを目標にしているのだろう。この響きはほとんど世界無形文化遺産だ!

(C)Jessica Griffin

岡田暁生(おかだ・あけお)

1960年京都生まれ。大阪大学文学部博士課程単位取得退学。ミュンヘン大学およびフライブルク大学で音楽学を学ぶ。現在京都大学人文科学研究所教授。文学博士。著書『音楽の聴き方』(中公新書、2009年、吉田秀和賞受賞、2009年度新書大賞第三位)、『ピアニストになりたい - 19世紀 もう一つの音楽史』(春秋社、2008年、芸術選奨新人賞)、『恋愛 哲学者モーツァルト』(新潮選書、2008年)、『西洋音楽史 - クラシックの黄昏』(中公新書、2005年/韓国版、2009年)、『オペラの運命』(中公新書、2001年、サントリー学芸賞受賞)など。『スコラ 坂本龍一 音楽の学校』(NHK)や『名曲探偵アマデウス』(NHK・BS)など、テレビ出演多数。朝日新聞の演奏会評のレギュラーで、日経新聞の書評欄もしばしば執筆している。近刊に『リヒャルト・シュトラウス』(音楽之友社)、『すごいジャズには理由がある』(アルテス)など。

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★特別連載
【第1回】受け継がれる伝統とフィラデルフィア・サウンド
【第2回】アメリカ在住ライターが語るフィラデルフィア管弦楽団の現在(いま)

【京響スーパーコンサート特別連載①】スウェーデン放送合唱団の魅力~人間の声の可能性は無限大~

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京都コンサートホール

2019年11月23日(土・祝)開催の「京響スーパーコンサート」では、世界トップクラスの合唱団「スウェーデン放送合唱団」が京都市交響楽団と初共演をいたします。

スウェーデン放送合唱団の京都初公演でもある本公演をよりお楽しみいただくため、本ブログにて特別連載を行います。第1回は、スウェーデン放送合唱団に詳しい音楽評論家の那須田務さんに、合唱団の魅力をたっぷりと語っていただきました。


「スウェーデン放送合唱団の魅力~人間の声の可能性は無限大~」

那須田務(音楽評論)

スウェーデン放送合唱団といえば、オーケストラ・ファンにとってはスウェーデン放送交響楽団のみならず、ヨーロッパ一流オーケストラの合唱付き管弦楽作品のベスト・パートナーとして知られるほか、合唱ファンには古今のスタンダードな合唱曲や北欧や東欧の様々な作品の優れた演奏を通してお馴染みの存在だ。たとえば、アバド、ベルリン・フィルと共演したベートーヴェンの「第9」(CD、DVD)は名盤中の名盤だし、合唱の神様と称されるエリクソンとのブラームスやブルックナー、カリユステと録音したグレツキやシュニトケのアルバムなどは合唱を聴く楽しさを教えてくれると同時に、人間の声の可能性は本当に無限大なのだと実感させてくれる。

(C)Arne Hyckenberg

このような名人芸と高い芸術性を兼ね備えた合唱の最高峰だが、2007年にダイクストラの音楽監督就任が報じられた時には驚いた。古楽から現代音楽まで独自の音楽的センスを持ち、共演者に完璧な表現を要求する鬼才として、オランダの男声合唱団ザ・ジェンツを率いて目覚ましい活動を行なっていたからだ。それから10年余り。期待通りダイクストラはスウェーデン放送合唱団にレパートリーや音楽面で新たな魅力を付け加えることに成功した。

ここ数年の来日公演で特に印象に残っているのは、4年前の東京都交響楽団の定期公演。ダイクストラの指揮でリゲティのア・カペラ混声合唱曲《ルクス・エテルナ》、管弦楽伴奏版シェーンベルクの《地には平和を》、モーツァルトの《レクイエム》(ジュースマイヤー版、ソリストはアマーストレム、ティマンダー等)という、合唱団が主役のようなコンサートだった。東京文化会館大ホールに現れた彼らは北欧の人らしく皆すらりと背が高く、どこか僧侶か修道女を思わせる。リゲティとシェーンベルクもすばらしかったが、やはり白眉は後半の《レクイエム》。〈イントロイトゥス〉の合唱のクレッシェンドが印象的で、キリエのきびきびとしたテンポと合唱の明快なフレージングなど積極的な表現が快く、〈ディエス・イレ〉などは一陣の風が吹き抜けたよう。ラテン語のテキストを歌う際にアーティキュレーションで実に豊かな表情を付けていく。肌理細やかな弱音から天地を揺るがすフォルテまで表現の幅が広く、その上各パートに室内楽的な纏まりがあり、フーガやフガートなど対位法的なフレーズがくっきり浮かび上がる。白眉は〈ラクリモーサ〉。温かな歌声と精妙な表情付けが見事で、最後のアーメンの美しさもまた格別だった。ダイクストラは昨年、音楽監督を退任、その後は音楽監督を置かずに活動しているという。

(C)Kristian Pohl

そんなスウェーデン放送合唱団が11月に来日して、当京都コンサートホールで広上淳一の指揮する京都市交響楽団とモーツァルトの《レクイエム》(ソリストはシュヴァルツ、ラングフォードら)を共演する。ダイクストラが同合唱団に残したものは何か、しなやかで情感豊かな広上の指揮や京都のオーケストラとどのようなパフォーマンスを見せてくれるのかなど興味は尽きない。


那須田務(なすだ・つとむ)音楽評論家 

ドイツ・ケルン大学音楽学科修士修了。著書に『音楽ってすばらしい』『名曲名盤バッハ』、監修著作『河出「夢」ムック バッハ』、共訳書アーノンクール著『音楽は対話である』の他、多数の共著書がある。現在ミュージック・ペンクラブ・ジャパン事務局長。洗足学園音楽大学及び同大学院非常勤講師。『音楽の友』で演奏会評を、『レコード芸術』で新譜月評を担当する他、「古楽夜話」好評連載中。

 


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クアルトナル特別メールインタビュー

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京都コンサートホール

12月21日(土)午後2時開催の「クアルトナル クリスマス・コンサート」。
出演者の「QUARTONAL(クアルトナル)」は全員がドイツ生まれのア・カペラ男声ユニットです。これまでに、出身地のドイツのみならずヨーロッパからアジアにいたるまで、ワールドワイドに演奏活動を繰り広げている彼らが、2019年ついに日本初上陸いたします。

今回は、日本初上陸そして京都初公演を記念して、特別にメールインタビューを行いました。クールでロマンティックな大人の雰囲気漂う彼らの魅力、そしてア・カペラ音楽について語っていただきました。どうぞお楽しみください。

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(C)Mssophie

―――この度は、インタビューを引き受けていただきありがとうございます。はじめに、歌を始めたきっかけについて教えていただけますか?

クアルトナル:クアルトナルの4人は少年合唱団の団員として歌を始めました。ドイツにおける少年合唱団の位置はとても伝統的で、小学校でオーディションを受けるほか、両親や家族がリハーサル会場へ子どもを連れて行き、オーディションの情報を得たりします。
私たち4人は、はじめて少年合唱団で歌った時からこれまで、合唱を愛し続けています。

―――クアルトナルは4名からなるア・カペラユニットですが、メンバーはどのように出会ったのでしょうか?

クアルトナル:私たちは、北ドイツのユーテルゼン少年合唱団で25年前に出会い、クアルトナルを2006年に結成しました。その間、2度のメンバー変更がありましたが、ミルコとクリストフは結成当時のメンバーで、ゼンケは2012年に、ジョーは2019年にメンバーへ加わりました。ゼンケは、ハンブルクの少年合唱団出身で、ジョーはシュトゥットガルトの少年合唱団の出身です。

―――クアルトナルを結成したきっかけは何だったのでしょうか?

クアルトナル:私たちは、少年合唱団で歌う事がとても好きでした!それを続けるために有名な混声合唱団の団員として歌を続けていましたが、4人のア・カペラでどれくらいのことが出来るのか挑戦してみたいと思い、クアルトナルを結成しました。それは、大変な挑戦だと思っています。

―――大きな挑戦ですね。ところで、クアルトナルという名前の由来を教えてください。

クアルトナル:グループ名はひらめきから生まれました!4声(Quartet)の音色(Tonal)を合わせてクアルトナル(Quartonal)としました。もちろん、無調性のものや不協和音の作品も演奏します。しかし、それさえも完全なるバランスや音程で演奏したらとても美しい音楽へと変わるのです。

―――ア・カペラで演奏する魅力や、クアルトナルが目指すア・カペラとはどういったものですか?

クアルトナル:ア・カペラの魅力はなんと言っても「人間の声」から生まれるものですし、そこからは多くの音が聴こえてきます。私たちのスローガンは「4つの声を1つに」です。私たちはつねに4人の違った歌手の声がまるで1人が歌っているかのように演奏する事を心がけています。

―――初来日となる今回のクリスマス・コンサートのプログラムでは、様々な時代・ジャンルの曲が選ばれていますが、このプログラムにはどのような想いが込められていますか?

クアルトナル:まず、ア・カペラの素晴らしさや、クアルトナルの演奏を皆さんに楽しんでいただくために、第1部では、幅広い時代の作品をレパートリーの中から選曲しました。
そして第2部では、クリスマスの訪れを感じていただきたいと思っています。もちろん、皆さんご存知のクリスマス・ソングはもとより、100年前のクリスマス・ソングの素晴らしさも皆さんに聴いていただきたいと思います。最後には私たちの国、ドイツの伝統的なクリスマス・ソングを聴いていただきます。この曲は17世紀に作曲された作品ですが、今もなお、歌い継がれている重要なクリスマス・ソングです。

クアルトナル画像2
(C)Mssophie

―――盛りだくさんのプログラムで、とても楽しみです。今回のプログラムで特に思い入れのある曲はありますか?その曲についてのエピソードがあれば教えてください。

クアルトナル:やはり、一つ前の質問でお話ししたドイツのクリスマス・ソングです。この作品はもっとも有名なドイツのクリスマス・ソングで、イエス・キリストの誕生を大喜びでお祝いするのではなく、イエス・キリストの誕生を厳かに敬虔(けいけん)にそして、静かに暖かく語るクリスマス・ソングです。この歌を歌ったり、聴いたりすると自分たちの幼少期を思い出させます。

―――最後に、京都コンサートホールへ聴きに来てくださる観客の皆様にメッセージをお願いします!

クアルトナル:私たちクアルトナルの初めての日本ツアーで、京都の皆さんにお会い出来るのはとても光栄で興奮しています!
私たち4人は、バラエティに富んだプログラムと、様々な音色でア・カペラの世界を皆さんに楽しんでいただきたいと思っています。そして、コンサートのあとわくわくしながら素敵なクリスマスを迎えていただけたらうれしいです!お会い出来るのを楽しみにしています!

―――お忙しい中、ありがとうございました。

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(C)Mssophie

メンバー自身の思い入れある曲でお贈りする「クアルトナル クリスマス・コンサート」(12/21(土)午後2時開演)。ドイツで培った圧倒的な歌唱力、そして完璧なハーモニーがアンサンブルホールムラタに響きます。気になった方は公演情報をご覧ください。

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【フィラデルフィア管弦楽団 特別連載②】アメリカ在住ライターが語るフィラデルフィア管弦楽団の現在(いま)

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京都コンサートホール

2019年11月3日(日)に「第23回京都の秋 音楽祭」のメイン公演の一つとして14年ぶりの京都公演を行う、アメリカの名門「フィラデルフィア管弦楽団」(以下「フィラデルフィア管」)。

本公演やアーティストの魅力をお伝えすべく、当ブログにて「特別連載」を行っております。第2回はアメリカ在住のライター小林伸太郎さんに、ニューヨーク公演でのレポートも含め、フィラデルフィア管の現在(いま)と音楽監督ヤニック・ネゼ=セガン氏について語っていただきました。

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2015年10月13日カーネギーホールでフィラデルフィア管弦楽団を指揮するヤニック・ネゼ=セガン(C)Chris Lee

6月7日に、フィラデルフィア管弦楽団のコンサートをニューヨークのカーネギー・ホールで聴いた。フィラデルフィア管は毎シーズン、カーネギーで少なくとも3回は演奏会を行うが、そのほとんどを音楽監督のヤニック・ネゼ=セガンが指揮する。彼は昨年秋からメトロポリタン・オペラの音楽監督にも就任し、40代前半の若さにして米国で最も重要なアンサンブルを2つも同時に掌握することになった。この6月は、フィラデルフィア管のコンサート前後にMET管弦楽団(メトロポリタン・オペラの専属管弦楽団)もカーネギー定期を立て続けに2回行ったが、これらももちろんネゼ=セガンが振った。まるでネゼ=セガン特集ウィークを組んだかのような6月初旬のカーネギー・ホールは、彼が現在、北アメリカのみならず全世界の音楽会の頂点の一つにあることを如実に示した感があった。

しかしながらネゼ=セガン、これほどの重責にありながら、その出で立ちはいつも衒い(てらい)がない。7日のコンサートでも、黒いスラックスに白いジャケット・シャツのような上着の、お洒落ながらどこかインフォーマルな装いで颯爽と登場した。フィラデルフィア管のメンバーが通常の黒の上下で固めている中、満面の笑顔で登場したネゼ=セガンの白い上衣は、ひときわ眩しかった。

2019年6月7日カーネギーホールでの公演の様子(C) Caitlin Ochs
(C)Chris Lee

満面の笑顔といえば、ネゼ=セガンの最近の写真は、ポートレートだけでなく演奏中の写真であっても、微笑みをたたえている写真が多い。地元フィラデルフィアの演奏会後に行われたイベントで、作品について語るネゼ=セガンを見かけたことがあるが、この時もマイク片手に聴衆に気楽に語りかける伸び伸びとした姿が印象的だった。

フィラデルフィア管第8代音楽監督に就任してから7年が経ち、40歳代半ばにさしかかろうとするネゼ=セガン。パーソナル・トレーナーを付けて鍛えているという強靭な体躯は、柔らかな指揮ぶりからも感じられ、未だにボーイッシュな青年の印象だ。リハーサルにおけるミュージシャンとのコミュニケーションでも、ポジティブでリラックスしたネゼ=セガンの若いエネルギーが支配するという。創立百周年を優に超えるフィラデルフィア管の歴史は、20世紀の巨匠指揮者の歴史でもあったわけだが、彼のカジュアルなアプローチは、独裁者的権威を振るったひと昔の指揮者のそれとは隔世の感がある。

(C)Jan Regan

しかしネゼ=セガンには、この伝統を新たな世紀に繋げようとする強烈な意思がある。伝統のフィラデルフィア・サウンドは、実はかつて本拠地としていたホールの音響の不備をミュージシャンが演奏で乗り越えようとした結果生まれた、という説がある。そのため、2001年から楽に音が響く現在の本拠地に移ったことで、フィラデルフィア・サウンドは徐々に失われるのではないかと、懸念する向きが一部にあった。しかし7日のストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ラフマニノフのオール・ロシアンのプロでは、とりわけ弦のうねる響きにある、よい意味での一体感が観客を熱狂させていた。フィラデルフィア・サウンドはネゼ=セガンの下、保たれながらも、さらに伸びのある柔軟性を獲得し、確実に進化しているのではないだろうか。

2012年、不景気に端を発した倒産の危機から辛うじて脱出したばかりという、フィラデルフィア管史上かつてない難しい時期に音楽監督となったネゼ=セガン。彼のポジティブなエネルギーは、次々に新しいイニシアチブを生み出し、例えば昨年は、様々なバックグラウンドを持つ複数の女性作曲家への多様な新作委嘱をまとめて発表、注目された。現在彼の音楽監督契約は、2026年まで延長されている。腰を落ち着けたネゼ=セガンとフィラデルフィア管の将来に、大いに期待したい。

(C)Jessica Griffin

小林伸太郎(こばやし・しんたろう)

ニューヨークのクラシック音楽エージェント、エンタテインメント会社勤務を経て、クラシ ック音楽を中心としたパフォーミング・アーツ全般について執筆。現在は、「音楽の友」「レコード芸術」「モーストリー・クラシック」などにレギュラーで寄稿している。早稲田大学第一文学部フランス文学専修卒。カーネギー・メロン大学で演劇を学んだ後、アートマネージメントで修士号取得。ニューヨーク在住。

 

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6月7日カーネギーホール公演のライヴ録音が以下よりお聞きいただけます。

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★特別連載
【第1回】受け継がれる伝統とフィラデルフィア・サウンド