【ストラヴィンスキー没後50年記念】音楽学者 岡田暁生インタビュー<前編>

投稿日:
京都コンサートホール

京都コンサートホールでは、ストラヴィンスキーの没後50年に際し、彼が残した傑作のひとつである《兵士の物語》(10/16)を上演します。また、関連講座として「ストラヴィンスキー没後50年記念レクチャー」も開催します。
レクチャーに先がけ、講師をしていただく京都大学人文学研究所教授の音楽学者 岡田暁生氏にインタビューを実施しました。
ぜひ最後までご覧ください!(聞き手:高野 裕子 京都コンサートホール プロデューサー)

―――この度は、インタビューの機会をいただき、ありがとうございます。まずは、今年没後50年を迎える「ストラヴィンスキー」という作曲家について教えていただけますか。

ストラヴィンスキーは、美術の分野で言えばピカソに匹敵する人だと思っています。音楽史において20世紀を決定的に開いた人ですね。一般的に、ストラヴィンスキーあるいはシェーンベルクのふたりが20世紀音楽の扉を開いたと言われていますが、私の目から見ると、シェーンベルクははるかに19世紀、ロマン派寄りです。
間違いなく、ストラヴィンスキーは20世紀最大の作曲家ですね。

イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)

―――「20世紀最大の作曲家」と考えられる所以を教えてください。

ストラヴィンスキーは、音楽の「スタンダード」を変えてしまった作曲家です。
まず、ストラヴィンスキーは、19世紀において三流ジャンルであったバレエをモダン・ダンスにしました。それまでのクラシック・バレエと決定的に縁を切った20世紀的モダン・ダンスは、ストラヴィンスキーの精神から生まれています。彼は「リズムの解放」を行いました。それまでの西洋音楽は「音の高さ」を重要とする音楽であり続けてきましたから、「リズム」の要素は弱いものでした。それに対して20世紀の音楽というのは、クラシックに限らず、ジャズやロックも含めて、「音の高さ」の音楽ではなくなり、リズムの精神が求められました。つまり、20世紀はリズムが解放された世紀。ストラヴィンスキーはその先駆者だったのです。
さらに、ストラヴィンスキーは「新古典主義」という点でも先鞭をつけた人物でありました。彼は三大バレエ(火の鳥[1910]・ペトルーシュカ[1911]・春の祭典[1913])で新しい世界を決定的に開いたのですが、第一次大戦後、古典派時代への回帰を見せたいわゆる「新古典主義」へと作風をスライドしました。それはなぜか?ストラヴィンスキーは「音楽の歴史はもう終わった」と感じていたからです。つまり、「ポストモダン」の発想を持っていたということなのです。1920年代の段階で、ストラヴィンスキーはポストモダンの感性を先取りしていた。ストラヴィンスキーは過去の色々な作品をカタログのように使ってコラージュ的なことを行い、なんとか新しいことができないかと試みていますが、これは「音楽語法の発展はもう余地がない」という、ある意味では現代的ニヒリズムをはるか遠く先取りしていたとも言えます。
「リズムの解放」と「ポストモダン的感性」。ストラヴィンスキーは音楽の歴史の発展というものを、根本的に否定した人物なのです。

アルノルト・シェーンベルク(1874-1951)

―――初期のストラヴィンスキーは、シェーンベルクが考案した十二音技法を避けていましたが、晩年になって取り入れるようになりました。なぜでしょうか?

「新古典主義」の一種ですね。色々なスタイルが掲載されているカタログを使って、パッチワークやコラージュのようなことをやったのです。材料さえあればなんでも良い。ストラヴィンスキーにとっては、シェーンベルクだって材料のひとつ。ちょっと乱暴な言い方をすれば、“ギャグる”材料のひとつ。つまり、非常に高度なパロディです。当時ストラヴィンスキーは、もう「パロディとしてしか芸術は存在しえない」、「音楽の発展はもう終わっている」と思っていたのです。

―――ストラヴィンスキーは、音楽の未来を見抜いていたということですね。

そう、見抜いていた。こうなったら、今までみんなが知っている、過去の色んなスタイルのパッチワークをやるしかないと思ったのです。現代の音楽家たちも同じようなことをやっていますが、発想自体は何も新しいことはない。だって、20世紀初頭にはストラヴィンスキーがすでにやっていたのですから。

―――ストラヴィンスキーの同時代人で、同じような手法を試みた作曲家はいますか?

たくさんいましたが、ストラヴィンスキーのようなラディカルさはなかった。「歴史はこれ以上、先に進まない」という、ある種の絶望感がその背景にあったかどうか、です。

―――ストラヴィンスキーのそういったキャラクターは、当時の時代背景と大きく結びついていますよね。

そう、絶対に忘れてはいけないのは、彼が亡命者であったということ、つまり生まれ育った国から切り離されていたということですね。今回、京都コンサートホールが上演する《兵士の物語》にも通じる話ですが。
シェーンベルクの場合、ウィーンもしくはウィーン古典派に深く根を下ろしているという意識があったので、先祖から受け継いだものをさらに発展させなければならないという義務感がありました。
しかし一方、ストラヴィンスキーの場合は、故郷から放逐されてしまって「どこにも所属していない人」です。《兵士の物語》を創作した1917年にロシア革命が起き、印税を得ることができた三大バレエのスコアはすべて新しいソ連政府に没収されたので、経済的にも非常に困窮していました。《兵士の物語》のストーリーである「戦時休暇で里に帰るけど、里はどこにもない」という内容は、実はストラヴィンスキー自身の話なのです。どこにも帰る場所がない。

―――なるほど、ストラヴィンスキーは《兵士の物語》に自分自身を投影したのですね。ちなみに、ストラヴィンスキーは死ぬまで特定の場所に定住しなかった人です。祖国に戻れなくなったあと、スイス、フランス、アメリカと転々とした。作風が“カメレオン”と称されている理由は、そういった背景にも関係しているのかもしれません。

「本物なんてどこにもない」という感覚を持っていたのでしょう。「本物」・「偽物」という感覚は、自分が根を下ろしている土地があるという人間が持つものです。しかし、故郷から追い出されたストラヴィンスキーにとっては、「これが本物だ」という感覚がない。全てがフェイク、ゴージャスだけど表層的で、内面的には何にもないという感じじゃないかな。

―――晩年のストラヴィンスキーはソ連に一度戻っています。

あれは文化政策の一環ですね。スターリンの独裁体制が崩れ、アメリカ人ピアニストのヴァン・クライバーンがチャイコフスキー国際コンクールで優勝、グレン・グールドが北米のピアニストとして初めてソ連に招待され、ストラヴィンスキーはお里帰りするなど、ロシアの雪解けの一環として帰ったのです。
しかし、本人は故郷に戻ったなんて感覚はなかったでしょう。ストラヴィンスキーはロシアが嫌いだった。彼の有名な言葉で、「ロシアには規律のない自由か、自由のない規律しかない」というものがあるくらいだから、ロシアに対して「故郷」という感覚はなかったでしょうね。

―――なるほど。ストラヴィンスキーについてお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

<後編に続く>

▶【ストラヴィンスキー没後50年記念レクチャー】詳細はコチラ

https://www.kyotoconcerthall.org/powerofmusic2021/#lecture

▶【京都コンサートホール presents 兵士の物語】公演詳細はコチラ

https://www.kyotoconcerthall.org/powerofmusic2021/#soldat

 

「北山クラシック倶楽部2021」後半セット券のご案内

投稿日:
京都コンサートホール

「北山クラシック倶楽部」は、海外トップアーティストによる世界水準の演奏を、京都コンサートホールの室内楽専用ホール「アンサンブルホールムラタ」で体感していただくコンサート・シリーズです。

この度、2021年度のシリーズ後半4公演(9月~2022年2月)のラインアップが出揃いました!ギター、ホルン、弦楽四重奏、ヴァイオリンとピアノのデュオと多彩な4組が登場します!

アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホールではこれらの公演をお得にお聴きいただけるセット券(限定100セット・約15%割引)を販売いたします。

ご予約・ご購入時にお好きな座席をお選びいただく、全公演共通座席「マイシート」制のチケットです。

演奏者の息遣いまで聞こえてくる濃密な音空間で、世界レベルの演奏をご堪能ください。

 


「世界一」とギター界絶賛!カリスマ中のカリスマ
マルツィン・ディラ ギター・リサイタル

マルツィン・ディラ(C)Matthew McAlister

ワシントン・ポスト紙が「地上で最も才能あるギタリストの一人」と激賞。数多くの音楽評論家、愛好家、ファンたちも間違いなく世界のトッププレイヤーであると認める、ギター史に名を刻む天才中の天才。世界最難関と言われるGFA国際を含む19もの国際ギターコンクールで優勝。カーネギーホール、ウィーン楽友協会、アムステルダム・コンセルトヘボウなど世界屈指のホールや世界最高のギター音楽祭に度々招かれ演奏している。

 

◆公演詳細◆
[日時]2021年9月3日(金)19:00開演(18:30開場)

[プログラム]
ミヨー:セゴビアーナ
ポンセ:フォリアの主題による変奏曲とフーガ ほか

[一回券]
全席指定 一般:4,000円 *会員:3,600円
*会員先行発売:5月16日(日)/一般発売:5月22日(土)

[主催]MCSヤング・アーティスツ


極上のホルンによる、比類なき天上の響き
ラデク・バボラーク&バボラーク・アンサンブル

ラデク・バボラーク(C)Lucie Cermakova

世界トップ・クラスのホルン奏者。これまでにチェコ・フィル、ミュンヘン・フィル、バンベルク響、ベルリン・フィルのソロ・ホルン奏者を歴任。小澤征爾、バレンボイム、ラトル、レヴァインなどの指揮者からの信頼が厚く、世界的なオーケストラと共演。日本では、サイトウ・キネン・オーケストラ、水戸室内管弦楽団やパシフィック・ミュージック・フェスティバルにソリストとしてだけでなく指揮者としても客演している。2018年から山形交響楽団首席客演指揮者も務める。

◆公演詳細◆
[日時]2021年10月8日(金)19:00開演(18:30開場)

[共演]
バボラーク・アンサンブル(弦楽アンサンブル)

[プログラム]
モーツァルト:ホルン協奏曲より(室内楽版)
モーツァルト:「ラルゲット」~クラリネット五重奏より  ほか

[一回券]
全席指定 一般:5,000円 *会員:4,500円
*会員先行発売:6月12日(土)/一般発売:6月19日(土)

[主催]AMATI

 


パリに磨かれた、クァルテットの輝石
ヴォーチェ弦楽四重奏団

ヴォーチェ弦楽四重奏団©Sophie Pawlak

結成17年目を迎えたヴォーチェ弦楽四重奏団は、多岐に渡るクラシック音楽シーンで常に冒険的な弦楽四重奏団のひとつとして認知されている。ジュネーヴ、ボルドー等、数々の著名なコンクールで入賞以来、パリを拠点に世界中で演奏活動を繰り広げている。アルファ・クラシックスからCDを多数リリース。その中には、ジャズやワールド・ミュージックも含まれる。近年は後進の指導にも力を注いでおり2017年に“Quatuor à Vendôme”を設立。今回の公演は、波多野睦美との初共演による特別プログラム。

◆公演詳細◆
[日時]2021年11月5日(金)19:00開演(18:30開場)

[共演]
波多野睦美(メゾソプラノ)

波多野睦美©HAL KAZUYA

[プログラム]ドビュッシー:弦楽四重奏曲
ドビュッシー/バルメール編曲:抒情的散文より⋆
バルメール:新作(ドビュッシーに献呈)⋆
⋆日本初演

[一回券]
全席指定 一般:4,000円 U25:2,000円 *会員:3,600円
*会員先行発売:7月17日(土)/一般発売:7月24日(土)

[主催]テレビマンユニオン


フランス・ヴァイオリン界の巨匠、最高のデュオ公演開催決定!
ジャン=ジャック・カントロフ&上田晴子 デュオ・リサイタル

ジャン=ジャック・カントロフ

フランスを代表する名ヴァイオリニスト。19歳にてカーネギーホールでのデビューを飾ってからは、世界中でソリスト、室内楽奏者として活躍。ヴァイオリニストとしての活動の他、パリ管弦楽団アンサンブルなど多くのオーケストラの常任指揮者を務める。2012年よりヴァイオリニストとしての活動を休止していたが、2017年春より再開し、2019年にはピアニスト上田晴子とともに日本ツアーを行い、圧巻の演奏で好評を博した。

◆公演詳細◆
[日時]2022年2月4日(金)19:00開演(18:30開場)

上田晴子

[プログラム]
モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第35番 ト長調  K.379
プロコフィエフ:ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ニ長調  作品 94bis
ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ 第10番 ト長調  作品 96  ほか

[一回券]
全席指定 一般:5,000円 *会員:4,500円
*会員先行発売:10月23日(土)/一般発売:10月30日(土)

[主催]オザワ・アート・プランニング合同会社

 


★★お得な4公演セット券(限定100セット!)★★

★セット料金(全席指定)
15,000円 <約15%お得!>

★販売期間
*会員先行期間  2021年4月10日(土)~ 4月16日(金)
一般販売期間  2021年4月17日(土)~ 5月13日(木)

*会員…京都コンサートホール・ロームシアター京都Club(会費1,000円)・京響友の会の会員が対象です。

※出演者や曲目など内容が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

【第1期登録アーティスト】ジョイント・コンサートに向けて④(DUO GRANDE ヴィオラ奏者・朴梨恵)

投稿日:
京都コンサートホール

2019年度よりスタートした「Join us(ジョイ・ナス)! ~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」は、初年度1年間、京都コンサートホール登録アーティストと共にアウトリーチ活動を京都市内小学校にて展開しました。

1年間の活動の締めくくりとして、2020年3月に予定していた「ジョイント・コンサート」は公演中止となりましたが、2021年3月7日に1年越しで開催することとなりました。

本ブログでは、登録アーティストたち3組4名の昨年のコロナ禍での活動について、そして「ジョイント・コンサート」に向けての思いを紹介しております。
最終回は、DUO GRANDE(弦楽デュオ)の朴梨恵さんです。ぜひご覧ください。

* * *

©KOHAN

みなさま、こんにちは。DUO  GRANDEの朴梨恵です。

お元気にしていらっしゃるでしょうか。
去年も、今も・・どなたにとっても気遣い・気苦労の絶えない時間となっていると思います。
本当に、大変な1年です。

アウトリーチ活動が昨年一年間中止になりました。京都市民のみなさまの中で、登録アーティストのメンバーのことを心配してくださっているという声が届いています。
感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございます。

昨年、多くの活動が中止となり、国の助成金をはじめ、京都府や京都市、文化を支えようとされる企業様・個人様の援助等により、文化活動を続けることができました。

もちろん常日頃から思うことですが、このような事態になって改めて、文化や芸術、音楽というのは助けがなくては生き残ることが難しい分野で、いかに多くの方の力によってこの長い歴史は支えられているかということを痛感しました。
自分たちの力ではどうしようもない状況でした。

特に、京都は次から次へと『今何が必要か』と時期毎に支援策を考えてくださり、そのときその時必要な分をたくさんの方々に分配されていたと思います。
実際にどこよりも早く、5月に京都市が「京都市文化芸術活動緊急奨励金」を立ち上げてくださったことには、とても安堵し励まされました。アーティストのモチベーションをとにかく下げないように、という素早いご支援とお計らいがあったのでは、と思っております。
京都のみなさまの文化への理解に対して、尊敬するとともに、深く感謝しております。

多大なご協力をいただき、歴史ある分野に自分が携わっているという自覚を持つことができた昨年1年。これから私も何かその助力となるように、背筋が伸びる思いでおります。どのような形で返していけるのか、手探りではありますが引き続き活動していきます。

さて、京都コンサートホールのアウトリーチ活動に参加させていただいていることも、そして私がそもそも音楽活動をしている動機も、どちらも『クラシック音楽の魅力を知らない人にその魅力を知ってほしい』という思いからです。
私は、クラシック音楽は「とてもわかりやすいもの」ではないと思っています。4才からヴァイオリンを始め、楽器を練習することを好きになったのが10才頃・・・音楽の本当の魅力にたどりつけたのは、もっともっと後のことです。その魅力は私を助けてくれて、今では励ましてくれる存在となりました。そして音楽は、ありがたいことに底なき世界です。無限の世界があります。
多くの方々にとって、そういう存在のものがあればいいだろうなと、思っています。

とはいうものの、クラシック音楽を知らない人にとって、いま演奏会に出かけることは、感染症の心配など、きっと恐怖でしかなく、混雑のなか出かけ、よくわからない世界の扉を開くことは難しいだろうなと、正直思っています。

一方でこの状況下でも、コンサートに足を運ぶなど、どうしても音楽が必要と感じて、音楽を聴くことを精神の糧としている方が、思った以上にたくさんいらっしゃるということがわかりました。アンケートやブログなどから、その気持ちを伝えてくださった方がたくさんいらっしゃいました。

音楽を本当に必要としている方にとって、癒しの時間となり、心がワクワクする時間となるならば、それはとても嬉しいことではないかという気持ちで、今は仲間と音楽を作りあげています。これは、きっと一生音楽と携わっていくであろう私の中で音楽をする大きな動機となりました。

この一年、中止になったアウトリーチ活動。今年一年、子どもたちはどれだけ多くのことを我慢しなければいけなかったのだろうと心を痛めていました。
私が経験することのできたこと、そして人と関わってきたからこそ素晴らしいと思える「学生時代特有の思い出」を、過ごすことができなかったと思います。せっかくの機会に子どもたちと音楽を共有できなかったことも残念でした。給食、休み時間の雑談、移動教室、特別なイベント‥
きっと、子どもたちは大人たちの心配をすり抜けて、何食わぬ顔で、面白いことを見つけて明るく過ごしている!!!と信じてはいるのですが、やはり経験させてあげたいことをさせてあげられないというこの状況は、とてももどかしいものです。

そして、3月7日に開催する「ジョイントコンサート」は、DUO  GRANDEにとってもとても久しぶりの公演となります。

2019年度、アウトリーチ先の小学校で大人気だった『魔法の笛』のコーナーを、一般のみなさまにも見ていただけることがとても楽しみです。小学生たちはとても大きな反応を見せてくれました。ホールでのみなさまの反応を想像すると、こちらはなんだか笑えて来ちゃいます。みなさま大人でしょうし・・笑!よろしければ、子供心を思い出して聴いていただければと思います。

ヴァイオリンの上敷領さんとたくさんのリハーサルを重ねて作りあげたプログラムです。信頼しあえる2人だからこその「音楽の会話」や「音の重なり」・・・たった2台の旋律楽器ですが、存分にその良さを楽しんでいただけるように準備しています。

会場でみなさまにお会いできること、心より楽しみにしております。

* * *

★ジョイント・コンサートに向けて
①ピアニスト・田中咲絵
②ヴァイオリニスト・石上真由子
③DUO GRANDE ヴァイオリニスト・上敷領藍子

「Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

 

【第1期登録アーティスト】ジョイント・コンサートに向けて③(DUO GRANDE ヴァイオリニスト・上敷領藍子)

投稿日:
京都コンサートホール

2019年度よりスタートした、「Join us(ジョイ・ナス)! ~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
2019年度、1年間、京都コンサートホール登録アーティストと共にアウトリーチ活動を実施し、その締めくくりとして2020年3月に「ジョイント・コンサート」を予定しておりました。コンサートは、新型コロナウイルス感染症の影響により公演中止となりましたが、2021年3月7日に1年越しで開催することとなりました。

本ブログでは、登録アーティストたち3組4名の「ジョイント・コンサート」に向けての思いや、昨年の活動について紹介しております。
第3回は、DUO GRANDE(弦楽デュオ)の上敷領藍子さんです。ぜひ最後までご覧ください。

* * *

2020年という年は、毎日繰り返し流れるTVのニュースを眺めながら過ごしているうちに一瞬で過ぎ去ってしまいました。音楽業界も予定されていた公演が次々と中止となり、見たことのない状況に気持ちが落ち込みましたが、公演が再開となると、それはそれで人を集めて「密」を作るきっかけになっているのではと、演奏する喜びの反面、人々の健康への不安と葛藤する日々が続いております。

私自身はコンサートが無くなり静かにしている間、何か自分にできる事はないかと考えました。そこで思いついたのは、自分と同い年の音楽家を多くの方々に紹介すること。それに伴い「あいこの音楽友だち部屋」という番組をYouTubeで立ち上げました。同世代には素晴らしい音楽家が沢山いて、小学生の頃から多くの刺激を受けてきました。今日も自分がヴァイオリンを弾き続けていられるのは、いつも音楽と真摯に向き合って演奏している同級生からの影響がとても大きいと日々感じています。番組内では彼らが日頃どのような想いで演奏家として生きているのか等のお話をとても正直に話してくれています。

実は第1回のゲストにはDUO GRANDEの朴梨恵さんが登場してくれています。とてもユニークでチャーミングな朴さんの素顔が沢山見られます!是非、「あいこの音楽友だち部屋」を見てくださいね。

さて、私と朴梨恵さんのデュオグループ、DUO GRANDEですが、去年の春からは一度も活動出来ませんでした。このジョイント・コンサートがとても久しぶりの私たちの舞台になります。舞台に立ってどんな事を思ったり感じたりするのか想像もつきませんが、ワクワクしたり、ドキドキしたり、ホールの響きを感じたり(舞台の真ん中に行くまでの自分の足音の響きなども)、マスクに隠れて目しか見えないお客様からの表情を読み取ったり、これから演奏する曲の事を考えたりときっと頭の中は忙しくて、一つ一つ認識する前に次の事を考えながら、その一瞬一瞬を感じているのだろうと思います。

お客様のいる「本番」でしか叶わない事、私と朴さんの二人の舞台がお客様と一体になることで大きな空間に生まれ変わるその瞬間が、待ち遠しいです。

2019年度のアウトリーチ演奏の様子

コンサートまであと少し時間がありますが、感染が拡大している今、無事コンサートが開催され、安心してご来場いただける事を願っております。

まずは皆様のご健康を心からお祈りしております。そして会場で元気にお目にかかりましょう!

 

上敷領 藍子

★ジョイント・コンサートに向けて
①ピアニスト・田中咲絵
②ヴァイオリニスト・石上真由子

「Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

【第1期登録アーティスト】ジョイント・コンサートに向けて②(ヴァイオリニスト・石上真由子)

投稿日:
京都コンサートホール

「Join us(ジョイ・ナス)! ~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」は2019年度よりスタートし、京都コンサートホール登録アーティストの3組と共に、初年度1年間、京都市内の小学校にてアウトリーチ活動を展開してまいりました。
その締めくくりとして2020年3月に予定していた「ジョイント・コンサート」は、新型コロナウイルス感染症の影響により公演中止となりましたが、2021年3月7日に1年越しで開催することとなりました。

本ブログでは、登録アーティストたち3組4名の昨年2020年の取組やコンサートに向けての思いを紹介しています。
第2回は、ヴァイオリニスト・石上真由子さんです。ぜひ最後までご覧ください。

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(C)Shuzo Ogushi

◇2020年について

これまで時間に追われる生活だったので、実は少しほっとしました。京都で2年半ほど続けている月1〜3回の自主公演(Ensemble Amoibeシリーズ)を、中止する決断をしないといけなくなった時は流石に気落ちしましたが、活動再開後や来年度やりたい企画などを温める時間だ!と割り切って、意外とポジティブに過ごすことができました。

思い切ってジム通いを始めてみたり、夜型の生活を朝型に切り替えてみたり、プールに行ったり、忙しくてしていなかったパンやケーキ作り、茶道のお稽古を再開したり。音楽面では、レパートリーの開拓や、これまでやりたくてもできていなかった細々とした練習をじっくりできました。

また、環境面については、思い切って東京に住居を構え、新生活を楽しんでいます。

2019年度のアウトリーチ演奏の様子

◇ジョイント・コンサートに向けて

Ensemble Amoibe公演や、ほか出演予定公演の中止を公表した時、ファンの方々から沢山のメッセージをいただきました。「公演の再開を心待ちにしています」「音楽家にとっては苦しい時だと思いますが、石上さんの演奏を生で再び聴けるのを楽しみに私も頑張ります」など、私のことを待ってくれている人がこんなに沢山いらっしゃるのだ と実感しました。またその温かいメッセージに励まされて、ここで留まってはいけない、これからの時代に沿った音楽家のあり方を模索しよう と勇気をいただきました。

活動自粛を経験して、 何事もなく公演が開催できる、お客さんの前で演奏できることの有難さを再認識しました。そして芸術はやはり生活に必要である ということも。

みなさまとの時間を大切に、そして今回のステージをしっかり楽しみたいと思います。みなさまにお目にかかれますのを心待ちにしております!

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ジョイント・コンサートに向けて①(ピアニスト・田中咲絵)

「Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

 

 

【第1期登録アーティスト】ジョイントコンサートに向けて①(ピアニスト・田中咲絵)

投稿日:
アンサンブルホールムラタ

2019年度よりスタートした「Join us(ジョイ・ナス)! ~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。

初年度の2019年度は1年にわたり、京都コンサートホール登録アーティストの3組(石上真由子さん、DUO GRANDE[上敷領藍子さん・朴梨恵さん]、田中咲絵さん)と共に京都市内の小学校をまわり、たくさんの子どもたちに生演奏を届けることができました。その締めくくりとして2020年3月1日に「ジョイント・コンサート」を開催する予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により直前に公演中止となりました。
2020年4月からの2年目のアウトリーチ活動も中止を余儀なくされましたが、2021年3月7日に、1年越しでジョイント・コンサートを開催いたします(※チケットは完売)。

登録アーティストたち3組4名はこの1年間、自分の内面を見つめなおす時間として前向きに捉え、ネガティヴな感情とも向き合いながらも、新たな曲に取り組んだり、インターネットでの配信を試みたり、改めて楽譜を深く読み返したり、感染対策を施して自主演奏会を行ったりと、今できる音楽活動を精一杯重ねてきました。

そんなアーティストたちがコロナ禍で取り組んだことやコンサートに向けての思いを本ブログにて順番に紹介していきます。
まず1回目は、ピアニスト・田中咲絵さんからのメッセージです。ぜひ最後までご覧ください。

* * *

2020年は世界中の誰もが、思い描いていた未来とは全く異なる1年を過ごされたのではないでしょうか。

私も、当初2020年3月に予定されていたこのジョイント・コンサートが中止になるなんて、去年の今頃は夢にも思っていませんでした。出演予定だったコンサートが中止になるということ自体が初めての経験でしたし、周りの音楽家の皆さんのコンサートも軒並み中止になっていく光景をSNSを通して目の当たりにし、胸が痛みました。

しかし、個人的にはコロナ以前は常に何かに追われるようにスケジュールをこなしていたので、「これは一旦立ち止まって自分自身を充電するチャンス」と捉え、前向きな気持ちで自粛期間を過ごすことができました。

自粛期間には、この時にしかできないことをしようと思い、ピアノに関して言えば、これまでに取り組んだことのない作曲家の作品や、ずっと弾いてみたかった曲にいくつか挑戦しました。(7月に京都コンサートホールのYouTubeにアップされたメッセージ動画内で演奏しているシューマン=リストの献呈も新しく取り組んだ曲です。)

本番のステージで皆さんに演奏を聴いていただけることはとても幸せなことですが、じっくりと自分のためだけにピアノと向き合えた時間もとても尊く感じました。この期間が少しでも自分の肥やしとなっていればいいなと思います。

夏以降は、他の楽器の方の伴奏として動画収録にご一緒させていただく機会や、感染症対策を施した上でのコンサートや試演会など、これまでにない形での演奏の機会が徐々に戻ってきました。お客さんの立場としても、いくつかのコンサートを聴きにホールへ足を運びました。

今までの普通が普通でなくなってしまった今、このようなご時世でも音楽を聴きに会場へ足を運んでくださる方々、感染症対策を始め、コンサート開催までにあらゆる面でサポートをしてくださるスタッフの皆さんのおかげで、コンサートが成り立っているということを改めて実感しています。

そして何よりも、「生の音楽を演奏者とお客さんが同じ空気の中で共有できることの喜び」をとても強く感じました。

ジョイント・コンサートの開催が1年越しに決定し、チケット発売後すぐに売り切れ状態になったことからも、多くの方々がこのコンサートを楽しみにしてくださっているんだなと、とても嬉しく思っています。このコンサートが今度こそ無事に開催され、皆さまと楽しいひと時を過ごすことができますよう、私も心から願っています。

★「 Join us !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページはこちら

「北山クラシック倶楽部2021」前半セット券のご案内

投稿日:
京都コンサートホール

「北山クラシック倶楽部」は、海外トップアーティストによる世界水準の演奏を、京都コンサートホールの室内楽専用ホール「アンサンブルホールムラタ」で体感していただくコンサート・シリーズです。

アンサンブルホールムラタ

この度、2021年のシリーズ前半3公演(4月~7月)のラインアップが出揃いました!今回の来日に合わせて組まれたトリオや、いま注目のトリオなど、3組の「トリオ(三重奏)」が登場します!

京都コンサートホールではこれらの公演をお得に聴いていただけるセット券(限定100セット・約15%割引)を販売いたします。

ご予約・ご購入時にお好きな座席をお選びいただく、全公演共通座席「マイシート」制のチケットです。

演奏者の息遣いまで聞こえてくる濃密な音空間で、世界レベルの演奏をご堪能ください。


国際的チェリストと極上のトリオ
ミハル・カニュカ(チェロ)ピアノトリオ・プロジェクト
伊藤恵(ピアノ) 漆原朝子(ヴァイオリン) ミハル・カニュカ(チェロ)

ミハル・カニュカ
伊藤恵©大杉隼平
漆原朝子©Naoya Yamaguchi, Studio Diva

プラハの春 国際音楽コンクール会長でプラハの春 国際音楽祭の芸術委員でもあるチェコが誇る名チェリスト、ミハル・カニュカ。数々の国際コンクールで入賞を果たし、世界各地でオーケストラのソリストや、ソロリサイタル、室内楽など幅広く活躍しています。
そのカニュカが東京藝術大学教授でもある日本を代表する2人の国際的名手たちと展開するピアノ・トリオの世界をお楽しみください。ベートーヴェン、シューマン、ブラームスとクラシックの王道ともいえる作曲家たちの作品を取り上げます。

◆公演詳細◆

[日時]2021年4月12日(月)19:00開演(18:30開場)

[出演]
伊藤恵(ピアノ)
漆原朝子(ヴァイオリン)
ミハル・カニュカ(チェロ)

[プログラム]
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第5番 ニ長調 作品 70-1「幽霊」
シューマン:ピアノ三重奏曲 第3番 ト短調 作品 110
ブラームス:ピアノ三重奏曲 第2番 ハ長調 作品 87

[一回券]
全席指定 一般:6,500円 *会員:5,800円
*会員先行発売:1月22日(金)/一般発売:1月29日(金)

[主催]コジマ・コンサートマネジメント


アンサンブルの愉しみ
シェレンベルガーと仲間たち

ハンスイェルク・シェレンベルガー©Gerhard Winkler
赤坂智子
津田裕也©Christine Fiedler

オーボエ、ヴィオラ、ピアノそれぞれの楽器の魅力に触れていただけるプログラムです。
アメリカでヴァイオリニストとしても活躍したレフラーと、ドイツで指揮者としても活躍したクルークハルトによる隠れたロマン派の名作を取り上げます。
元ベルリン
フィルハーモニー管弦楽団首席オーボエ奏者で、京都市立芸術大学の客員教授を務める名手シェレンベルガーが共演者として選んだのは、国際的活躍を重ねる日本人奏者2名。ヴィオラ奏者の赤坂智子とピアニスト津田裕也が加わり、珠玉のアンサンブルをお届けします。

 

◆公演詳細◆

[日時]2021年5月18日(火)19:00開演(18:30開場)

[出演]
ハンスイェルク・シェレンベルガー(オーボエ)
赤坂智子(ヴィオラ)津田裕也(ピアノ)

[プログラム]
レフラー:2つの狂詩曲
シューマン:民謡風の5つの小品 作品 102より
クルークハルト:葦の歌 作品 28       ほか

[一回券]
全席指定 一般:4,000円 U25:2,000円 *会員:3,600円
*会員先行発売:2月6日(土)/一般発売:2月13日(土)

[主催]ヒラサ・オフィス


アンサンブルの極みを追求し続ける新世代のピアノトリオ
オリヴァー・シュニーダー・トリオ

オリヴァー・シュニーダー・トリオ©Raphael Zubler

スイスの実力派ピアニスト、オリヴァーシュニーダー。チューリッヒトーンハレ管弦楽団の第一コンサートマスターのアンドレアスヤンケと首席チェリストのベンヤミンニッフェネガーと共に気鋭のピアノトリオを結成しました。
2012年のデビュー以降、世界各地の音楽祭や著名なホールへ出演するほか、録音にも力を入れており、2017年にリリースされたベートーヴェンのピアノ三重奏曲全集も高い評価を得ています。アンサンブルの極みを追求し続ける彼らの演奏をお楽しみください。

◆公演詳細◆

[日時]2021年7月13日(火)19:00開演(18:30開場)

[プログラム]
ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲 第4番 変ロ長調 作品 11「街の歌」
ブラームス:ピアノ三重奏曲 第1番 ロ長調 作品 8(1891年改訂版) ほか

[一回券]
全席指定 一般:4,000円 *会員:3,600円
*会員先行発売:3月20日(土・祝)/一般発売:3月27日(土)

[主催]日本アーティスト


★★お得な3公演セット券(限定100セット!)★★

★セット料金(全席指定)
12,000円 <約15%お得!>

★販売期間
*会員先行期間  2020年12月12日(土)~12月18日(金)
一般販売期間  2020年12月19日(土)~2021年1月15日(金)

*会員…京都コンサートホール・ロームシアター京都Club(会費1,000円)・京響友の会の会員が対象です。

※出演者や曲目など内容が変更になる場合がございます。予めご了承ください。

【3つの時代を巡る楽器物語 第2章】小倉貴久子インタビュー(後編)

投稿日:
京都コンサートホール

10月25日の『3つの時代を巡る楽器物語』第2章の公演開催まで、あと残りわずかとなりました。ご出演いただくフォルテピアノ奏者の小倉貴久子さんのインタビュー後編をお届けします。今回は、公演の聴きどころをお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください!

――今回の演奏会では、小倉さんが所有されているフォルテピアノ(1845年製 J.B.シュトライヒャー)を使用させていただきます。ベートーヴェンと「ゆかりがある楽器」ということですが、詳しく教えていただけませんか。

シュトライヒャーは当時のウィーンで最も人気実力を誇った老舗メーカーです。ウィーン式アクションというドイツ系列の作曲家たちに支持された発音メカニズム(*1)は、シュタイン(*2)が発明して、その楽器をベートーヴェンも若い頃演奏していました。シュタインの娘ナネッテも素晴らしい女流ピアノ製作家になり、アンドレアス・シュトライヒャーと結婚して姓がシュトライヒャーになりました。ベートーヴェンとはプライヴェートでも大変親しかった女性です。ナネッテの息子ヨハン・バプティスト・シュトライヒャー(以下J.B.シュトライヒャー)もピアノ製作家になり、ベートーヴェンもJ.B.シュトライヒャーの製作するフォルテピアノに大きな興味をもっていました。この演奏会で使うフォルテピアノは、晩年のベートーヴェンが欲した6オクターブ半の音域をもち、ダイナミックな音響と歌うことを得意とする音色、皮巻きのハンマーによる繊細なイントネーションが可能な楽器です。この楽器は、ベートーヴェンの死後18年経過後に製作された楽器ですが、1824年にJ.B.シュトライヒャーのピアノを弾いたベートーヴェンが、将来を予見し望んだ楽器に近いのではないかと想像しています。

(*1) 跳ね上げ式と呼ばれる、軽いハンマーを梃子の原理で跳ね上げ打弦するというシンプルな構造。シュタインのフォルテピアノの音域は5オクターブで、タッチは浅く俊敏で、軽やかで華やかな音楽が奏でられる。

(*2) ヨハン・アンドレアスシュタイン:1728年~1792年、ドイツ生まれのピアノ製作家。ピアノ製作史における重要な人物として知られる。

今回使用する1845年製J.B.シュトライヒャー(製造番号3927)
1835年と1839年、オーストリア皇室から金メダルを受賞したことが鍵盤表面板に描かれている

――今回はベートーヴェン後期のソナタ第30番~32番を演奏していただきます。これらの曲の聴きどころを教えてください。

ベートーヴェンのピアノソナタはピアニストにとって、とても大切な作品です。ベートーヴェンはピアノの名手だったので、ボン時代の《選帝侯ソナタ》(*3)ですら既に超絶的な技巧が満載です。初期、中期では波乱の人生が投影された、常に前人未到の世界が描かれた革命的な一曲一曲は、どれもが個性豊かな作風となっています。そんな超人的なベートーヴェンですが、プライヴェートな事件やさまざまな要因が重なり、スランプ期に襲われます。しかし、その時期を経た後に到達した後期の世界では、追随する作曲家のいない孤高の世界が描かれます。それは現代の私たちにとっても大きな慰めとなり勇気を与えられ、人生の讃歌と思えるような素晴らしいメッセージに溢れているのです。

(*3) ベートーヴェンが少年期時代の1782年から翌年にかけて作曲した3曲からなるピアノ・ソナタ。作品番号はつけられていない。

――ナビゲーターにはベートーヴェン研究で著名な平野昭氏をお迎えします。平野さんとは最近も共演されていましたが、どのようなことを楽しみになさっていますか?

平野先生とは今までにもレクチャーコンサートや講座などでご一緒させていただいています。私もお話に参加して、ステージでピアニストの勝手な妄想をぶつけて盛り上がる場面も。平野先生の幅広い知識とベートーヴェン愛が、コンサートの楽しみを倍増させてくださること請け合いです。どうぞお楽しみに!

――京都コンサートホールは感染症防止対策を徹底し、万全の体制でお客様をお迎えします。最後に、当日ご来場のお客様に向けてメッセージをお願いいたします。

このような不安を感じられる状況の中、演奏会にお越しいただけるみなさまには感謝いたします。京都コンサートホールでは感染症防止対策を徹底していますので、演奏会中はゆったりとくつろぎながらお楽しみください。親密さはフォルテピアノの特色です。かたや宇宙的でもあるベートーヴェン後期の作品。特別な時間が共有できることを願っています。

みなさまと会場でお会いできますことを楽しみにしています。

***チケットは残りわずかとなってきました。公演の詳細はこちら♪

https://kyotoconcerthall.org/calendar/?y=2020&m=10#key20554

 

【3つの時代を巡る楽器物語 第2章 】小倉貴久子インタビュー(前編)

投稿日:
京都コンサートホール

10月25日の『3つの時代を巡る楽器物語』第2章の公演開催まで、残すところ1ヶ月となりました。そこで、ご出演いただくフォルテピアノ奏者の小倉貴久子さんにメール・インタビューを行いました。前編、後編に分けてお届けします。ぜひ最後までご覧ください!

――この度はメール・インタビューの機会をいただき、ありがとうございます。小倉さんは日本を代表するフォルテピアノ奏者として活躍されておられますが、大学在学中に留学されたオランダで古楽器に出会い、それがきっかけで独習されたとお伺いしました。その時のお話を詳しく教えていただけますか。

小倉貴久子さん(以下、敬称略):東京藝術大学ピアノ科を卒業して大学院在学中に留学したオランダで、運命の出会いがありました。ピリオド楽器と呼ばれる、作曲家が演奏していた当時の楽器によるコンサートに行き、目から鱗の落ちるような大きなショックを受けたのです。バロックチェロのビルスマ(*1)、チェンバロのレオンハルト(*2)など、当時のオランダは古楽が盛んで、まさに最も刺激的な世界でした。その演奏は「今、生まれたばかりの音楽」という瑞々しさに溢れ、一体この世界はどうなっているのだろう?とその魅力にはまってしまいました。たくさんの古楽のコンサートに通い、チェンバロをプライベートで習い始め、フォルテピアノの製作家の工房に足繁く通いました。当時の演奏スタイルは、たくさんの古楽の友達との共演などを通して、実地で学んでいったという感じです。

(*1) アンナ―・ビルスマ:1934年~2019年、オランダ生まれ、バロックチェロの先駆者かつ世界的な名手として知られる。

(*2) グスタフ・レオンハルト:1928年~2012年、オランダ生まれ。 ピリオド楽器による古楽演奏の先駆者として知られる。

――なぜ留学先にオランダを選ばれたのですか?

小倉:オランダを留学先に選んだ直接の動機は、すばらしい指導者でありピアニストのヴィレム・ブロンズ先生に師事するためでした。藝大の学部2年のときにレッスンを受けてから毎年のように藝大に招聘教授として来日されていらして、留学はブロンズ先生のところ!とずっと決めていました。実はその時には、オランダが古楽演奏の先進地である、ということすらも知らなかったのです。留学してすぐにストラヴィンスキーのピアノ協奏曲のソリストに選ばれて音楽院の定期演奏会で演奏しました。オランダは現代音楽のメッカでもあったので、現代音楽のスペシャリストのレッスンを受ける機会もありました。

――小倉さんは1993年古楽界の最高峰と言われるブルージュ国際古楽コンクールのアンサンブル部門で優勝(ピンチヒッターで出場され、短期間で猛特訓されたとか!)、さらに1995年にはフォルテピアノ部門を制されています。コンクールの時のお話を聞かせてくださいますか。

小倉:藝大大学院を休学しての留学でしたので、2年間というリミットの最後に同級生の留学地であったフランス、ドイツ、オーストリアなどに旅行するという企画を立てていましたところ、急遽ブルージュ国際古楽コンクールアンサンブル部門のフォルテピアノ奏者のピンチヒッターを頼まれました。1ヶ月しか準備期間がなかったのですが、留学最後の楽しそうなお誘いに「私でいいならやりま〜す!」とふたつ返事で引き受け特訓しました。まさかの第1位をいただき夢のようでした。受賞後、古楽関係の友人から、「これは最も権威あるコンクールなのだから、これからしっかりね!」などと言われ、私自身も驚きました。その2年後のソロ部門への挑戦の時は、事前にリサイタルをするなど綿密に準備を重ねました。コンクールは8月だったのですが、その時実は妊娠中で10月に娘を出産しました。本選会場に向かっているとき、お腹が張ってきたりして、「リラックスしないと〜」と思い、かえって柔らかい気持ちで本番に臨めて良かったのかもしれません。

――フォルテピアノでの演奏を聴くことにより、現代のピアノにはない音色や表現を味わえ、作曲者の思いをより深く感じることができます。小倉さんの感じるフォルテピアノの魅力は何でしょうか?

小倉:現代のピアノは、大ホールで多くの聴衆に大きな音で提供できるように、また楽器が温度湿度などから破損したりすることのないように、という目的で徐々に変化していき一般化した形になりました。安定した音質、管理の容易さなどが手に入りましたが、かたや18世紀、19世紀に大切にしていたことを失ってしまったという面があります。作曲家が作品に託したメッセージというのは、時を隔てて継承できると思うのですが、その道具となる楽器によって実際に創造される世界は大きく異なっていきます。ちょっと乱暴な例えですが、「ショーウインドウに入った本物そっくりの完璧な腐らないケーキ」と、「1日の賞味期限しかない手作りのケーキ」のような違いです。具体的には、鋳型金属製フレームをもたず、木製のケースに平行に弦が張られ(*3)、皮巻きのハンマーが使用されています(*4)。言葉と密接な関係にあった音楽の発音方法、多声部の扱い、音響的効果など、作曲家がイメージして楽譜に書いた音符や表情記号を表現できます。

(*3)  作曲家や演奏家たちが鍵盤楽器の音域の拡大を要求し始めたことにより、木製のフレームでは弦の強い張力を耐えることができなくなったため、現代のピアノでは金属製フレームを使用されるようになった。

(*4) 現代のピアノではハンマーを包む素材としてフェルトが使用されている。

――小倉さんは古楽器の様々な演奏会の企画や、フォルテピアノのアカデミーにも力を入れてらっしゃいます。このシリーズの第1章にご出演いただいた川口成彦さんも、小倉さんに師事しなければ古楽にのめりこむことはなかったと仰っていました。

日本にはまだまだフォルテピアノの台数も少なく、ピアノと言えば、現代のピアノを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、シューマン、ラヴェルでさえも、ピアノと言えば、フォルテピアノだったのです。つまりピアノ曲の重要なレパートリーのほとんどが、現代のピアノ以前の楽器で作曲されていました。私自身、知らなかったときには何も疑問を感じずに現代ピアノを弾いていましたが、オランダで生の音を聴き、体験してこの素晴らしい世界に足を踏み入れました。ぜひ、コンサートにお越しいただき生の音を体験していただきたいと願っています。

――小倉さん、ありがとうございました。後編では、今回の演奏会についてのお話を伺う予定です。

***

チケットは好評発売中です。公演の詳細はこちら♪

https://kyotoconcerthall.org/calendar/?y=2020&m=10#key20554

【ベートーヴェンの知られざる世界 特別連載③】バリトン歌手 大西宇宙 インタビュー

投稿日:
京都コンサートホール

京都コンサートホールの開館25周年とベートーヴェンの生誕250周年を記念して開催する、コンサート・シリーズ「ベートーヴェンの知られざる世界」。

公式ブログでは、シリーズの魅力をお伝えする特別連載を行っております。
第3回は、Vol.1「楽聖の愛した歌曲・室内楽」(10/10開催)に出演していただく、バリトン歌手の大西宇宙さんにメール・インタビューを行いました。

今回歌っていただくベートーヴェンの歌曲についてや、コロナにおける大西さんの取組についてなど、興味深いお話を聞かせてくださいました。ぜひ最後までお読みください。

©Simon Pauly

――この度はお忙しい中、メールインタビューを引き受けてくださり、ありがとうございます。まず大西さんご自身のことについてお伺いいたします。
大西さんはシカゴ・リリック・オペラの所属歌手として、幅広くご活躍なさっています。アメリカを活動の拠点とされたきっかけは何だったのでしょうか。また新型コロナウイルス感染症拡大前の主な活動について教えてください。

アメリカへはまず、ニューヨークのジュリアード音楽院に留学するため渡米しました。世界各地から優秀な指導者と音楽家が集うこの芸術大学で、リーダーアーベント(※「Liederabent(歌曲の夕べ)」)やオペラ公演に出演するのはとても刺激になりました。そんな中、シカゴの歌劇場でオーディションの機会を得ることができ、その後もアメリカの劇場で歌わせていただく機会を頂いています。

新型コロナウイルス感染症拡大前は、ヨーロッパとアメリカ、日本を往復していました。フィラデルフィア歌劇場のリハーサルのためにアメリカに戻った瞬間に、次々と公演がキャンセルになってしまい、これからどうなってしまうのだろうと、恐怖を感じたのを覚えています。

シカゴ・リリック・オペラ「Rising Stars Concert」

――新型コロナウイルス感染症の猛威は計り知りませんね…。
次に、コロナ禍における大西さんの活動についてお伺いします。
感染拡大により、多くのアーティストたちが活動中止を余儀なくされ、アメリカのオーケストラや歌劇場など年内のコンサートが多くキャンセルされたニュースも見ました。
そんな中、大西さんは「宇宙と歌おうプロジェクト」でこれからの音楽家たちを支援されたり、オンラインコンサートに出演されたり、インスタグラムでゲストを招いてライブトーク配信をするなど、様々な活動をされているかと思います。
プロジェクトを始められたきっかけや思いなどをお聞かせいただけませんか。

2月ごろ、アジアやヨーロッパで感染が広がる中、アメリカはまだ楽観的でした。しかし現在は、最も厳しい状況に置かれている国の一つとなってしまいました。私もアメリカでの活動の多くが延期、中止を余儀なくされました。

私のいくつかのオンラインのプロジェクトは、そんな中で音楽家同士の横の繋がりを強めたい、という思いから始めました。
1人で自分だけのためのリモート演奏をすることもできますが、音楽はできるだけ人と楽しみたい。なのでライブトークなどを通じて、音楽について、あるいはコロナ禍をいかに乗り切るか、これからどんな可能性があるか語り合う場を作ることができれば、と思いました。

またロックダウン中は配信だけでなく、世界の同僚たちとなるべく会話し、情報・意見交換するよう努めました。それぞれの国の対策や、状況によって対応の仕方が様々で、芸術家からはどの様なアクションが求められているかを知る、良い機会になりました。

そして「宇宙と歌おうプロジェクト」を始めた背景として、表現の場を失った音楽家たちがたくさんいて、この先も自由に演奏ができるかわからない…特に音大生を含む若い音楽家は、これからまさにという時に、大変な時代になったと思います。音楽の楽しみ方は聞くだけではないと思ったので、なるべくメジャーな曲を、むしろ学生やアマチュアの方にも一緒に歌って楽しんでもらえるような企画を作りたく、このプロジェクトを始めました。今後も継続していければと思っています。

リモート収録風景

――素晴らしい試みですね!ところで大西さんの主な活動は、オペラやオーケストラのソリストとしてのご活躍が多いと思いますが、歌曲の演奏活動をどのようにとらえていますか。またオペラや宗教曲などの独唱と比べて、歌曲の魅力はどういうところにあると思いますか。

何より自由さ、でしょうか。オペラは筋立てや、物語の構成や役が予め決まっていますが、歌曲は自分の解釈と想像力次第で、詩の中の登場人物を自由に旅させることができます。また、プログラミングにも個性が出ます。今回は1人の作曲家というテーマがありますが、私は曲同士を物語のように繋げていくのが好きで、音楽の対話によって、その物語をお客さまと一緒に旅していくように演奏できたらと思っています。

 

――今回歌っていただくベートーヴェンの歌曲は、歌曲やリートの中でもなかなか歌われる機会が少ないかと思います。聴きどころを教えてください。

今回は、私にとっても初挑戦の曲が多い演奏会となります。ベートーヴェンの歌曲は、音楽史の面から見ても特異な存在で、モーツァルトやシューベルトの歌曲とも違います。古典的なきっちりとした形式でありながら、ロマン派的な情熱を含んでいて———まじめでありながら奇抜というか、高貴でありながら人間らしいというか…ベートーヴェン自身のような、複雑な人間性が溢れているユニークな作品ばかりだと思います。
私が歌で一番大事にしているのは言葉、つまり詩のテキストなのですが、ベートーヴェンはその詩に非常に、実直に音楽を付けているという印象があります。なのでとても表現をするのが楽しいですね。

また歌曲を歌っていると、驚かされるのは伴奏の雄弁さです。ピアノや器楽のパートが歌の表現を先導していて、シンプルでありながら詩の内容にぴったりと寄り添うような伴奏が展開されています。その絶妙な掛け合いにも注目していただきたいですね。

浜離宮朝日ホールでのリサイタルにて

――当日お聞きできるのがとても楽しみです!
ベートーヴェンといえば、純オーケストラ音楽である「交響曲」というジャンルに初めて声楽を入れた(第九交響曲)だけでなく、オペラ(フィデリオ)や宗教曲(ミサ・ソレムニスなど)、歌曲など、声楽作品も幅広く作品を残しました。ベートーヴェンの作品における声楽作品の位置づけはどのように思われますか。

ベートーヴェンはソナタや交響曲などの器楽曲により、その名声が現在にも残っていますが、彼の声楽曲、特に歌曲がいかに彼の音楽人生において重要な位置を占めていたかはあまり知られていません。ベートーヴェンの創作人生を紐解くと、彼が常に声楽曲の創造を模索し、いかに人間の声に興味を持っていたかがわかります。またベートーヴェンはしばしば、歌曲を自らの個人的な深い感情を表現する媒体として使っていたと言われていますが、それはまさに先述した、詩があるからできることだとも言えます。ドイツ歌曲というとどうしてもシューベルトやシューマンが注目されてしまいがちですが、ベートーヴェンはその先駆者であり、その後の音楽家たちに大きな影響を残していると言えると思います。

 

――今回共演するピアニストの村上明美さんとは、群馬オペラアカデミー「農楽塾」の発表会で一度共演されたと聞きました。村上さんの印象を教えてください。

アカデミーの最後に講師演奏のような形で、総監督の中嶋彰子さんと一緒にメリーウィドウのワルツを歌いました。歌にぴったり寄り添ってくれる伴奏であると同時に、色彩豊かなピアノで、今回の演奏会は本当に楽しみにしています。あと本人にもお伝えしましたが、素敵なスーツをエレガントに着こなしていらっしゃったのがとても印象的でした。

共演するピアニストの村上明美(C)Shirley Suarez

――これまで京都では、京都市交響楽団の演奏会などにご出演されているかと思いますが、京都で思い出深いことがあれば教えてください。

京都市交響楽団の「戦争レクイエム」に出演させて頂きました(※2018年8月26日「京都市交響楽団 第626回定期演奏会@京都コンサートホール」)。終演後にお客さま方と一緒にホワイエでレセプションをする機会があったのですが、クラシック音楽にとても理解がある熱心なお客様が多く、感動した覚えがあります。
また、「オラトリオ・ソサイエティ・オブ・ニューヨーク」の来日公演(メサイア)でも京都コンサートホールで歌いました(※2019年6月7日公演)。ニューヨークでよく共演する団体の来日公演でしたが、当日は凄まじい盛り上がりようで、アメリカから来たメンバーたちは本当に感激していました。今回も思い出深い演奏会になればと思っています。

 

――最後にお客様へのメッセージをお願い致します。

私にとってはコロナでの活動自粛から、日本での初めての演奏会になります。久しぶりの舞台ということで様々な思いがありますが、これまで温めていたものを皆さんにお届けできればと思います。ホールでお会いできるのを楽しみにしています!

©Dario Acosta

――ありがとうございました!演奏会をとても楽しみにしております。

(2020年9月事業企画課メール・インタビュー)

☆特別連載
①村上明美 インタビュー<前編>
②村上明美 インタビュー<後編>

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