ヴァイオリン奏者 藤江扶紀さんインタビュー(10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

投稿日:
アンサンブルホールムラタ

京都コンサートホールでは、セザール・フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を10月22日(土)に開催いたします。

プログラム後半に予定している《ピアノ五重奏曲》では、フランス出身の世界的ピアニスト、エリック・ル・サージュと、国内外の第一線で活躍する日本の若手奏者たちが共演します。
今回は当日ヴァイオリンを担当する、トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の首席奏者 藤江扶紀さんにお話を伺うことができました。
フランスでのご活動についてや、フランク《ピアノ五重奏曲》の魅力、そして今回の共演者についてなど、色々とお話いただきました。
ぜひ最後までご覧ください。

◆藤江さんについて

――この度はインタビューのお時間をありがとうございます。藤江さんは大阪出身ということですが、過去に京都市交響楽団と共演されたことがあるそうですね。

藤江扶紀さん(以下敬称略):私の先生であった工藤千博さんが、京都市交響楽団のコンサートマスターをされていたこともあり、中学校1年生の時に、京都コンサートホールで演奏しました。人生で2回目のオーケストラとの共演で、サラサーテの「ツィゴイネルワイゼン」を弾いた覚えがあります(2003年10月19日「こどものためのコンサート」)。

――その後、京都に来られる機会はありましたか?

藤江:そうですね、演奏会を聴きに来たり、ローム ミュージック ファンデーションの奨学生として演奏しに来たりしていました。ただ、アンサンブルホールムラタで演奏するのは今回が初めてです。

――それは楽しみですね。大学(東京藝術大学)を卒業後は、すぐにパリに留学されたのですか?

藤江:卒業直前に、「京都フランス音楽アカデミー」でオリヴィエ・シャルリエ先生に出会ったんです。先生がいらっしゃるパリ国立高等音楽院を受けるために、半年間先生のお宅や私立の音楽院でレッスンを受けながら語学を勉強した後、パリ国立高等音楽院の大学院に入学しました。
そして大学院を卒業して約半年後、2018年1月に「トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団」へ入団しました。

ちなみにオーケストラに入団するまでは、毎年「宮崎国際音楽祭」に参加していて、そこで今回共演する横島くんや上村さんと何度か一緒に弾きました。二人と共演するのはその時以来で、約5年ぶりになります。

――そうだったのですね。トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団では、“co-soliste”という肩書でいらっしゃいますよね。日本では聞き慣れない名前ですが、具体的にはどういった役割なのでしょうか?

藤江:コンサートによってポジションが変わるのですが、日本で言う「コンサートマスター」「アシスタント・コンサートマスター」(コンサートマスターの隣の席)「第2ヴァイオリンの首席奏者」「第2ヴァイオリンの副首席奏者」(首席奏者の隣の席)のいずれかを担います。なので、ほぼすべてのコンサートに出演していて、なかなか日本に帰ってこられません(笑)。
今回の公演には何が何でも出演したかったので、早めに休みを取りました!

本拠地のホールの外壁にお写真掲載中!

 

** トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団のヴァイオリン奏者の肩書について教えていただきました **
・super soliste:特別コンサートマスター
・violon solo:第一コンサートマスター
・violon chef d’attaque:第二ヴァイオリン首席奏者
・violon co-soliste:上記3つの席いずれかを担うポスト

 

――そういうことだったのですね、ありがとうございます。
フランスでは、室内楽やソロを演奏することも結構ありますか?

藤江:オーケストラのメンバーで組んでいるカルテット(弦楽四重奏)で演奏したり、ソリストとしてメンバーが指揮を振る室内オーケストラや他のオーケストラに呼んでいただいたりしています。時間があればもっとやりたいなと思っています。

オーケストラメンバーによる弦楽四重奏「Quatuor Agôn」 オーケストラとの共演コンサートの大きな看板が街中に ソリストとして演奏中のお写真
(2021年7月)

 

◆今回のコンサートについて

――では話を10月の公演に移したいと思います。今回は弓さんとつながりのあるメンバーが揃いましたよね。

藤江:はい、公演がすごく楽しみです。特に弓くんは、自分が持っていないアイデアや知識を持っていて、彼と話していると面白い発見が多いです。また、音楽に対して求めていることが似ているように感じるときがあります。
私はフランクの曲の中でも《ピアノ五重奏曲》が特に好きで、数年前に弓くんにちらっと言ったことがあるんです。弓くんはそのことを覚えていてくれていて嬉しかったです。

――そうだったんですね!ちなみにフランクの《ピアノ五重奏曲》を演奏したことはありますか?

藤江:一度だけフランスの音楽祭で弾いたことがあって、今回は久しぶりの演奏になります。この曲は私がやりたいと言っても、難曲であるためか、ピアニストに断られることが多いんですよ(笑)。

――《ピアノ五重奏曲》のどのようなところがお好きですか?

藤江:煮え切らない感じがある曲ですよね。起伏があって、濃淡があって、感情的なところもたくさんあって、でも、フランスの色彩感やフォーレのようなパステル調の音も垣間見えて…そのバランスが本当に好きなんです。年を重ねてから好きになる人が多い曲だと思うのですが、私は初めて聞いた時から好きでした。
すっきりするわけではないけれど、気持ちに寄り添って、色んな感情を整理してくれるんです。フランクは真面目な性格で、外に出せない内に秘めた感情を表現したのではないかなと思います。
そして何と言いますか、救われない感じに救われます。ハマる人にはハマるという曲だと思うので、この沼に皆さんを引きずり込みたいです(笑)。

――今回共演されるメンバーについて、また公演の聴きどころを教えてください。

藤江:ル・サージュさんはお会いしたことはありませんが、パリで2回ほど演奏会に行ったことがあります。もともとル・サージュさんのフランクやフォーレの「ピアノ五重奏曲」をCDやYouTubeでよく聞いていて、まさか一緒に演奏できるとは思いもしませんでした。
そして弦楽器のメンバーは、この4人で一緒に弾くのは初めてですが、今までで知っている彼らのパーソナリティから想像すると、人間的にも、音楽の面でも絶対に楽しいものになると思います。それぞれの考え方を持ち寄ったときに、どういう音楽が生まれるのかをぜひ期待していただきたいです。

――いろんなお話を聴かせてくださり、ありがとうございました。また10月にお待ちにしております!

(2022年8月京都市内某所 事業企画課インタビュー)


★出演者インタビュー
ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー
横島礼理さん(ヴィオラ)&上村文乃さん(チェロ)インタビュー

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

秋山和慶 特別インタビュー(2022.09.19 第11回 関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル) 

投稿日:
京都コンサートホール

2011年にスタートした「関西の音楽大学オーケストラ・フェスティバル IN 京都コンサートホール」。今年で11回目を迎えます。そのほとんどの公演で指揮いただいている秋山和慶さんにインタビューを行いました。

――秋山先生にはこれまで、本フェスティバルの11回開催のうち、第5回をのぞく計10回にご出演いただきました。特に印象に残っている演奏会(プログラム)はありますか。

(オンラインインタビューより)

秋山和慶さん(以下敬称略):これまで学生たちが真剣に取り組んでくれたので全て印象に残っています。特に大編成の曲は、普段それぞれの学校だけでは人数が足りず演奏ができなかったり、楽器によっては技術的に難しすぎるので、学生たちはみんなで演奏できたことを本当に喜んでくれました。演奏会が終わったときに、上手くいって涙している子どもたちを見ると、「やっていて良かったな」と毎回思います。

――やはりすべての公演がそれぞれ印象に残っていらっしゃるのですね。この公演では、関西の8つの大学から集まる合同オーケストラを束ねてくださっています。合同オーケストラならではの苦労した点をお聞かせいただけますか。

秋山:8つの大学が集まるとなると、それぞれ授業の時間が違ったり、集中講義があったりして、学生全員が練習になかなか揃わないのが一番ネックでした。また、台風などの天候が支障をきたしたこともありましたね。京都で練習と本番を行いますが、大阪・兵庫など遠くから参加している学生もいますから、学生がきちんと家まで帰れるか心配でした。

――そんな練習の苦労も乗り越え、この合同オーケストラでしか味わえない醍醐味もありますよね。

秋山:普段一緒に演奏することのない他大学のメンバー同士が、気持ちをそろえて一緒に演奏するためには、個人的な好き嫌い(気が合う合わないなど)を乗り越えて音楽に対峙しないといけません。今後、プロの世界に進む人や、多種多様な人たちと舞台を作っていくであろう彼らが、「一緒にひとつのものを作り上げる作業」を経験できるという意味で、とても意義のある公演だといつも感じています。

第10回公演より

――参加する学生達も、とても良い経験ができていると思います。
そんな中、2年前に起きたコロナのパンデミックにより、それまでとは本当にいろいろな事が変わってしまいました。秋山先生ご自身は、コロナの前後で、学生に対する教え方について変化はありましたか。

秋山:教え方に変化はありませんが、これまでほとんどなかった「オンラインで教える」機会が増えました。オンラインは確かに便利なのですが、機器を通して聴く音は実際の生の音とは違うため、指導の仕方が難しいですね。実際指導を受ける側の学生たちも同じように感じているようです。分奏もやってみましたが、電気的な時差が生じて、指揮者に合わせるのはほとんど不可能でした(苦笑)。

――これまでとは違ったご苦労もあるでしょうね。
さて、ちょうど2年前、ベートーヴェンの生誕250年と公演開催から10年を迎えたこともあり、ベートーヴェンの交響曲第九番を取り上げる予定でしたが、コロナによって、公演が中止になってしまいました。昨年は、まだ合唱曲を取り上げるのが難しかったため、第九ではなくオーケストラ曲2曲をプログラミングし、なんとか開催に至りました。実際に開催できた時のお気持ちをお聞かせいただけますでしょうか。

秋山:中止は仕方がありませんでしたが、大事な10回という記念の回に合唱が演奏できないばかりか、公演自体を中止せざるをえなかったというのは非常に残念でした。翌年は、合唱がなく、かつ大編成ではない曲の中から選曲し、感染症対策を講じながらの練習は大変でしたが、無事実施ができて本当によかったです。

第10回公演より

――今年のプログラムも、昨年に引き続きオーケストラのためのクラシック音楽の王道と言える名作2曲(ベートーヴェン:交響曲第5番、チャイコフスキー:交響曲第5番)を取り上げますが、演奏を通して、秋山先生が今音楽を学ぶ学生たちにあらためて伝えたい事を教えていただけますか。

(オンラインインタビューより)

秋山:学生たちに技術的な面できちんと勉強できるチャンスを作ってあげられたらという意図で、実行委員会の皆さんと一緒に選んだ2曲です。学生たちにとって聴き慣れた、馴染みのある曲でもあります。特に、ベートーヴェンの交響曲はオーケストラ奏者にとっては基本中の基本の曲です。一方のチャイコフスキーの交響曲は、思い切り活発に演奏できる曲ですし、ロマンティックなロシア流の表情のつけ方も学んでほしいですね。限られた練習時間で、周りのメンバーに合わせて演奏するという大切なところをこの機会に経験してほしいと思います。

――今から公演が楽しみです。コンサートにお越しになるお客様にメッセージをお願いします。

秋山:若々しいエネルギーをつぎ込んで、真剣に、音楽を大事にしっかりと表現しようとしている姿勢を見て、聴いていただきたいです。ベートーヴェンでは彼らしい力強さを感じられるでしょうし、チャイコフスキーでは、きれいなメロディーがたくさん出てくるので、音楽の流れに身を浸してリラックスして楽しんでください。

――それでは最後に参加する学生たちにもメッセージをお願いいたします。

秋山:音楽をやっていてよかったと思える瞬間がきっとあるはずです。音楽で辛いことや悲しいことを乗り越えられるかもしれないし、いい音楽をみんなと一緒に作れたときの喜びは何にも代えがたいものがあると思います。音楽そのものに奉仕する経験をしてみるのも大事かもしれませんね。

――お忙しい中、インタビューにお答えいただきありがとうございました。演奏会を楽しみにしております!

公演は2022年9月19日(月・祝)京都コンサートホール 大ホールで15時開演です。
公演情報

 

ピアニスト エリック・ル・サージュ氏 特別インタビュー(2022.10.22神に愛された作曲家 セザール・フランク)

投稿日:
京都コンサートホール
19世紀に活躍したベルギー出身の音楽家セザール・フランク (1822-1890)。
京都コンサートホールでは、フランクの生誕200周年を記念して、特別公演「神に愛された作曲家 セザール・フランク」を開催いたします。本公演ではフランクが遺したピアノと室内楽のための傑作をお届けします。
 
出演者のピアニスト、エリック・ル・サージュさんに、フランクの魅力や本公演の聞きどころについてインタビューすることができました。ぜひ最後までご覧ください。

 

 

――この度はインタビューのお時間をいただき、ありがとうございます。
京都コンサートホールには、2019年5月のリサイタル以来、3年ぶりの登場となります。京都コンサートホールにどのような印象を抱かれましたか?

エリック・ル・サージュさん(以下敬称略):2019年に私が演奏したのはアンサンブルホールムラタでしたが、ピアノや室内楽にとって恵まれた音響を持つホールで、とても自然な響きだったことを覚えています。

 

――今回ご出演いただくのは、セザール・フランクの生誕200周年を記念した特別公演です。ル・サージュさんが思うフランクの魅力を教えてください。

ル・サージュ:フランクの作品を演奏するのは大好きです。彼の曲には音域の広い和音がたくさん出てくるのですが、私の手は大きいですから、演奏するのにぴったりなのです。
フランクの音楽を一言で言うと「独特で表現力豊か」。荘厳な和音やたっぷりとした息の長いフレーズ、そして深慮に満ちた色彩感が特徴です。
また、フランク作品の大きな特徴の一つとも言えるのが、循環形式(同じテーマを別の楽章で繰り返し使う技法)ですね。同じフレーズを同じ曲の中で何度も使うのですが、そのたびに様々な方法で変奏しながら旋律を引き立たたせ、聴き手を惹きつけます。
特に今回演奏する《ピアノ五重奏曲》では、そのような技法がたくさん出てきます。まるで、物語がどんどん展開していくアクション映画やサスペンス映画を観ているようですよ。
フランクの音楽が時代を超えて人々に愛されている理由は、きっとこのようなところではないでしょうか。

 

――今回は室内楽作品だけでなくピアノ独奏曲もご披露いただきます。フランクのピアノ作品はどのような特徴がみられますか。

ル・サージュ:フランクのピアノ音楽はとても内向的です。対位法が使われていたり、オルガン作品で使われるような書法がピアノでも使われていたり、フランクならではの特徴がたくさん出てきます。
また、彼はベルギー出身ということもあり、フランスとドイツの要素がバランスよく取り入れられていることも特徴的ですね。

今回は《前奏曲、フーガと変奏曲》から〈前奏曲〉を抜粋して演奏します。
今シーズン、オリヴィエ・ラトリー(フランスのオルガン奏者)が演奏するオルガンやハーモニウムと一緒に、この曲を何度か演奏しましたが、思慮深く、レトリックに満ちた非常に美しい作品だなと思います。

またこの〈前奏曲〉を含めた、20世紀初頭のフランスの作曲家たち24人の小品を集めたアルバムを今秋にリリースする予定です。

――日本では他の作曲家と比べるとフランクはあまり知られていませんが、フランスではどうでしょうか。

ル・サージュ:フランスでも状況はあまり変わりませんよ。「ヴァイオリン・ソナタ」や「交響曲」「ピアノ五重奏曲」「前奏曲、フーガと変奏曲」といった有名な作品しか演奏されていません。いずれも傑作だから、何度も繰り返し演奏されるのです。他にも美しい曲はありますが、傑作とまではいえないので、あまり演奏されないのだと思います。

 

――フランスも似たような状況なのですね。ちなみにフランクの生誕200周年を記念したイベントは、フランスで行われていますか?

ル・サージュ:具体的に「フランク・フェスティバル」といったものはないと思いますが、演奏される機会は例年よりも確実に増えていると思います。私も先月(6月)、《ヴァイオリン・ソナタ》と《ピアノ五重奏曲》を2回演奏しました。

 

――ル・サージュさんにとってフランクはどのような存在でしょうか。

ル・サージュ:フランクの作品を勉強したことで、フォーレやシューマンの作品を弾く際の参考になり、レパートリーの幅が広がりました。
また、フランクの《ヴァイオリン・ソナタ》は、おそらく私が初めて勉強した室内楽の大作で、パリ音楽院の室内楽クラスにいた15歳の時に弾きました。
私の音楽院時代の先生であるピアニスト ジャン・ユボー先生による赤字と青字の注意書きがたくさん書かれた楽譜を今でも持っています。その楽譜がボロボロになってきたので、大好きな日本の“金継ぎ”のやり方で、修復してみたいと思っています。

――今回の演奏会ではフランクの3曲に加え、フォーレの夜想曲を選曲されましたが、なぜフォーレを選ばれたのですか。

ル・サージュ:フォーレはフランクの対位法に影響を受けています。フランクに対する「オマージュ」ということで、フォーレの作品を選びました。
また、《ヴァイオリン・ソナタ》と《ピアノ五重奏曲》という動きのある大曲に対してバランスを取るため、静かで短めの作品である、フォーレの《夜想曲》2曲とフランクの〈前奏曲〉を選びました。

 

――では最後に公演を楽しみにしてくださっているお客さまへメッセージをお願いいたします。

 

――お忙しい中インタビューにお答えいただき、ありがとうございました。10月の公演を今からとても楽しみに京都でお待ちしております。

(2022年6月都内某所 事業企画課インタビュー)

 

★「神に愛された作曲家 セザール・フランク——フランク生誕200周年記念公演——」の公演情報はこちら

東京六人組 インタビュー(2022.7.23『KCH的クラシック音楽のススメ』第3回「東京六人組」)

投稿日:
京都コンサートホール

『KCH的クラシック音楽のススメ』は、クラシック音楽を幅広い世代の皆様にお楽しみいただけるコンサート・シリーズです。今回ご出演いただく「東京六人組」のメンバーにメールインタビューを行いましたので、是非お読みください!

©Ayane Shindo

――「東京六人組」グループ名の由来を教えてください。

我々は主に東京で活動している六人ということで、20世紀前半にフランスで活躍した「フランス六人組」(デュレ、オネゲル、ミヨー、タイユフェール、プーランク、オーリック)に掛けました。
グループ名を決めていた時に、終電間近までなかなか決めることができず困っていたのですが、別れ際に東京駅の改札口で、みんなで「東京は?」「六人組は?」という意見が奇跡的に一致して「東京六人組」になりました。

――クラシック音楽をまだあまり聞いたことのない学生さんやお客様に、「東京六人組」の魅力や、各楽器の注目のポイントを教えていただけますか?

私たち「東京六人組」は、5つの管楽器(フルート、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット)とピアノという6人で編成したグループです。弦楽器のアンサンブルと違って、それぞれが違う原理で音を出すのが特徴です。空気、リード、唇、打弦などによって生まれた各音色が合わさると、無限のパレットに…!そんな音色感や、まるで会話をしているようなアンサンブルの魅力を感じていただければと思います。
繊細な表現から迫力あるサウンドまで、京都コンサートホールの素晴らしい音響の中で、皆様に存分にお楽しみいただけることを願っています。

――各メンバーの紹介をリレー方式でしていただけますか。

福川伸陽(ホルン)©Ayane Shindo

 

①上野由恵さん(フルート)から見た「福川伸陽さん(ホルン)」

「ホルン奏者」という枠を超えて、真の音楽家であり続ける人。絶対的なカリスマ性と共に、彼の人柄や音楽には嘘や取り繕ったところが全くなく、仲間たちから絶大な信頼を集めています。クールっぽく見えて、楽しいときは少年のような笑顔で大笑いするところも魅力的です。

金子平(クラリネット)©Ayane Shindo

 

②福川伸陽さん(ホルン)から見た「金子平さん(クラリネット)」 

芸術家とは彼のような人のことを言うのだろうなと言うくらい、楽器で演奏した方が自身の言葉より人になんでも伝えられる、隣で演奏してて最高な人。

 

荒絵理子(オーボエ)©Ayane Shindo

 

③金子平さん(クラリネット)からみた「荒絵理子さん(オーボエ)」

CDでは、オーボエの他に打楽器を担当するマルチな才能の持ち主で、演奏はとても情熱的です。新しいことにどんどんチャレンジする前向きな性格だと思います。

 

福士マリ子(ファゴット)©Ayane Shindo

 

④荒絵理子さん(オーボエ)からみた「福士マリ子さん(ファゴット)」

とにかく品格があります。おしとやかに見えて、真面目に見えると思いますがその通りで、育ちの良さに溢れています。どんな時も1歩下がって状況を判断しながら、相手に嫌な思いをさせない話し方、行動をされています。ファゴット演奏もそうであり、でもいざというときにファゴットという楽器の良さを全面的にアピールできる方です。このような方はこの音楽業界であまり見かけません。

三浦友理枝(ピアノ)©Ayane Shindo

 

⑤福士マリ子さん(ファゴット)から見た「三浦友理枝さん(ピアノ)」 

アンサンブルではいつも冷静&的確にバランスを取って下さいます。知的な演奏をされますがお話しすると気さくで面白くて、ギャップが素敵だなぁと思います。

 

上野由恵(フルート)©Ayane Shindo

 

⑥三浦友理枝さん(ピアノ)からみた「上野由恵さん(フルート)」 

何事にも全力で取り組む努力家であると同時に、ダジャレをこよなく愛し、常に新ネタ開拓に余念がないオモロい一面も持ち合わせています。

 

 

――今回の京都公演のプログラムはどのように決まったのですか?また今回のプログラムの聴きどころを教えてください。

 今回、京都(関西)へは初めて六人組として伺いますので、私たちの名刺がわりになるようなプログラムにしようと考えました。
まず、この編成のオリジナル曲として最も重要なレパートリーであるプーランクの六重奏曲。
そして、私たちの活動の特徴である、フルオーケストラの曲を6人で演奏するというチャレンジをしました。「魔法使いの弟子」や、「ラ・ヴァルス」は、私たちのために新たに編曲して頂いたものです。
また、磯部周平さんの「きらきら星変装曲」は、この編成のオリジナル曲です。おなじみのきらきら星のメロディーが、古今様々な作曲家の様式に「変装」して次々に現れます。是非、どの作曲家風なのか推理しながらお聴きいただければと思います。

――お忙しい中、メンバーの皆様、インタビューにお答えいただきありがとうございました。

公演は7月23日(土)アンサンブルホールムラタで14時開演です。

「東京六人組」の素敵な演奏とトークをご期待ください。

VOX POETICAインタビュー(2022.06.28京都北山マチネ・シリーズVol.9「ドラマティックに甦る、古(いにしえ)の名歌」)

投稿日:
京都コンサートホール

京都コンサートホール主催のランチタイム・コンサート「京都北山マチネ・シリーズ」。国内外で活躍する音楽家たちが、トークと演奏で素敵なマチネのひとときをお届けします。9回目は、ソプラノとリュートのデュオ、VOX POETICA(ヴォクス・ポエティカ)が登場。ソプラノ歌手の佐藤裕希恵さん、リュート奏者の瀧井レオナルドさんにお話を伺いました。ぜひ最後までご覧ください!

――この度はインタビューの機会をいただき、ありがとうございます。本日は、おふたりそれぞれとデュオについて、そして今回のコンサートについてお伺いさせてください。
まず佐藤さんですが、もともと声楽を始められたきっかけがミュージカルだったのですよね。東京藝術大学の声楽科へ入学された後、さらに古楽の道へ進まれたきっかけをお聞かせください。

ミュージカルをしていた頃の佐藤さん

佐藤裕希恵さん(以下敬称略):最初は古楽が好きで声楽を始めたわけではありませんでした。大学へ進学すると周りは“オペラ歌手になりたい”など、夢がはっきりしている方が多かったのですが、私の場合はただミュージカルが好きで入学したところがあったので、自分の将来を模索していました。興味のあるもの、自分の声に合うもの、向いているものを探しているうちに、先生からヘンデルなどの古い時代の曲を勧められるようになり、その魅力に惹き付けられるようになりました。歌ったり、CDを聴いたりしているうちに、どんどん沼にハマっていき、大学院は古楽科に進学しました。

――大学院で古楽科に進まれた後は、スイス留学にされましたね。
佐藤:大学院に進んでからも、実は外部団体でミュージカルを続けていました。古楽の道へ進むのか、ミュージカルの道へ進むのかで悩んでいた時、バッハ・コレギウム・ジャパンなどでも歌っていらっしゃったバーゼル音楽院のゲルト・テュルクさんというドイツ人の先生が、古楽科の招聘教授として大学に来てくださったのです。そのレッスンがとても面白く、これまでに体験したことのない知らない世界がたくさん見えました。先生が帰られる時、「もっと先生と勉強したかったです」とお伝えすると(当時は言える英語力もなく、友達に通訳してもらって。笑)、「バーゼル音楽院に来たら教えてあげるよ」と言ってくださいました。それまで留学は全く考えていなかったのですが、とにかく先生と勉強したいという思いで、他の国や大学の下調べもせずに、ただただゲルト先生のもとで学ぶためにスイスのバーゼル音楽院を受験しました。

スイスでバロックオペラに出演した際の写真© Susanna Drescher

――ゲルト先生との強いご縁を感じるようなエピソードですね。バーゼル音楽院で古楽の勉強をされ、いまはルネサンスからバロックまでさまざまな古い時代の歌を歌ってらっしゃいますが、それぞれの時代で歌い方に違いはありますか?
佐藤: そうですね、まずどんな響きの場所で、誰に向かって、どんな環境で演奏される音楽かによって求められる歌い方が違いますね。極端な例ですが、マイクを使うミュージカルと使わないオペラでは響かせ方が違いますし、劇場でヘンデルのバロックオペラを歌う時と、残響が10秒もあるような大聖堂でグレゴリオ聖歌を歌うのだと、歌い方は違います。身体を支えている芯の部分は同じなのですが、どれほど身体を開くか、どのくらい多くエネルギーを放出するか、流す息の絞り具合などで歌い方を変えています。

――古楽独特の歌い方はあるのですか?
佐藤:ヴィブラートをかけるかどうか聞かれたりしますが、いわゆるオペラ的なベルカントの歌唱法はヘンデルの時代に確立していったものです。それ以前の17世紀初期のバロック時代が始まった頃の歌唱法は、例えばイタリアの場合、一種の装飾音として隣の音をヴィブラートのように揺らす方法がありました。また、「トリッロ」と呼ばれたいわゆるトリルは、音程を変えずに同音の音を連続して演奏します。このように、現代では馴染みのない歌唱法が登場するのです。こういった装飾音が装飾として際立つように歌うためには、ヴィブラートを控えめにしたほうが美しくなる箇所もあります。また当時の文献を読んで、当時の歌い方がどう描かれているか、という研究もしています。実際に当時の様子を見ていないので、分からないところもありますが。

――文献には、発声方法等について詳しく書かれているのですか?
佐藤:そうですね。とても有名なものですと、ジュリオ・カッチーニという作曲家の曲集の序文に、「こうやって歌わねばならん」ということが書かれています。ただ音声学的に声帯をこうして、というアプローチではなく「喉を打ち鳴らす」というような表現で書かれているので、解釈は人それぞれです。また譜例もたくさんあり、「こういう音の時はこういう即興の装飾をつけなさい」などと書いてあるのも面白いです。当時の歌手がどのように歌っていたか分からないので、結局のところ確信をもって「絶対こうだった」と言えないところが古楽の魅力だと思います。

――佐藤さんは、まるで語るように歌ってらっしゃる姿がとても印象的ですが、もともとミュージカルをやっていたことが活きているのでしょうか。
佐藤:そうですね。バロックの声楽作品は言葉を重視する音楽なので、単に朗々といい声を聴かせるというよりは、言葉に色々な重きを置いて曲が書かれています。語るように歌ったり、ドラマティックに明暗をはっきりつける表現をよく使うのですが、自分の感情をそのままセリフにのせるお芝居と繋がっていると思います。私が古楽に惹かれたのも、私の大好きな芝居に通ずるところが少し見出せたからです。自分なりの色付けができるといいますか、演奏者に委ねられている余白がたくさんあるのです。即興演奏をするにしても、楽譜に書かれていないことが求められる音楽なので、自分が感じたままに表現していいという、芝居的な要素が好きですね。

――これまで苦労された点はありますか。
佐藤:私の声が軽くて細い方だったので、オペラの方々と混じって勉強していた時に、一時期コンプレックスを感じていたことはありました。例えばヴェルディのように、重めで声量の必要な役など大きなアリアは歌えないなどと思っていたことがありましたが、古楽は自分の声が活かせる場所なので、居心地がよいです。声のトレーニングとしてオペラは勉強していますが、やはり古楽が私の進むべき道だと思っています。

――ありがとうございました。次は、瀧井さんにお話を伺います。瀧井さんは故郷がブラジルなのですよね。クラシックギターを学ばれた後、リュートを始められたきっかけを教えてください。
瀧井レオナルドさん(以下敬称略):サンパウロの大学でクラシックギターを学んでいる時、リコーダー奏者の友人に、ギターで通奏低音を弾いてくれないかといつも頼まれていました。リコーダーのレパートリーはバロック時代がメインなので、通奏低音に触れる機会となりました。そして大学2年の時、サンパウロ州立音楽学院に新しく古楽科ができて、その友人に「これからリュートの勉強できるよ!」と勧められたのがきっかけです。当時はギタリストになりたいと思っていたのですが、リュートにも興味があったので、せっかくだから行ってみようと思い、リュートの勉強を始めました。

――今回の公演では、リュートとテオルボをご披露いただきますが、あらためてそれぞれの楽器の魅力について教えてください。
瀧井:まずテオルボは、見た目がすごく目立つ楽器ですよね。サイズも大きいですし、音も大きいです。リュートは、見た目も小さいですし、音も小さく、とても繊細な音がします。クラシックギターは弾く時に爪を使って演奏しますが、リュートやテオルボは爪でなく指の腹で弾きますので、自分で音を創り出している感じがとても好きですね。大学を卒業した時に、リュートの道を選び、ギターのために伸ばしていた爪を切りました。

リュートの弦(D majorの和音を押さえているところ)

――クラシックギターとリュートでは、タッチの感覚も全く異なりますか?
瀧井:全然違いますね。ギターは1本ずつ弦が張られていますが、リュートは2本ずつです。ギターのタッチは固いですが、リュートの場合は柔らかいです。
佐藤:複弦といって、リュートは1コースに同じ音の弦が2本張られていて、それを2本同時に指の腹で押さえるのです。実は興味本位で1年ほど彼にリュートを教えてもらったことがあるのですが、なかなか2本同時に押さえられませんでした。それでみなさん速弾きされているので、本当にすごいなと思います。

――とても難しそうですね。クラシックギターとは違うリュートの音色の魅力はどのようなところでしょうか。
瀧井:ギターとは楽器の形も弦の張り方も違うので、全く違う音が出ます。僕自身リュートの音は本当に好きなのですが、どうやって説明すればよいのか…難しいです(笑)。 大きな音ではないですが、とても豊かで繊細な音がリュートの魅力だと思います。

留学後、ブラジルでのソロリサイタル

――瀧井さんも大学卒業後、スイスに留学されたのですよね。
瀧井:大学を卒業した後、将来についてリュートの先生に相談すると、古楽を続けたいのであればバーゼルに素晴らしい先生がいると教えてもらいました。その時、全く留学を考えていなかったので迷ったのですが、ブラジルの先生が「一緒に頑張ろう!」と仰ってくださったので、留学を決意しました。やはり先生の存在が本当に大きく、ありがたかったです。

――その後、留学先のスイスでお2人は出会われたのですよね。VOX POETICA結成と音楽活動を続けるに至った経緯を教えてください。
佐藤:バーゼルでは、アンサンブルを立ち上げるぞ!という意気込みでメンバーを集める人が多かったのですが、私たちの場合は、瀧井さんの学内試験でたまたまデュオを組んだのが結成のきっかけです。その後、何度か演奏機会をいただくことがあり、細々と活動していました。最初の数年は、演奏の機会があれば…と全く気負わず続けていたので、その時は後々CDを出すことになるとは思ってもいませんでした。でもそれが、逆に良かったのかもしれません。だんだん演奏機会が増え、レパートリーも増やし、日本に来てからは、本腰を入れてデュオ活動をするようになりました。

2015年ごろ、VOX POETICA結成初期

――「VOX POETICA」=“詩的な声”とはとても素敵な名前ですが、どのように決められたのですか?
佐藤:最初は特にデュオ名を決めていなかったのですが、 6、7年前に名前をつけようとなりました。私たちは言葉を使うので、それに関係するキーワードがいいなあと考えていました。たまたまアリストテレスの「詩学」という本を読んでいた時、そのなかに出てきた古代ギリシャ語の“ポエーティケー”という単語にすごく惹かれたのです。歌詞を扱うので、文学としての「詩」、「詩的」な表現へのイメージから、この単語を使いたいと考えました。「ポエーティケー」は「作ること」を意味する語幹から生まれた単語だそうで、私たちの表現の創作活動のアイデンティティに据えたいと思い、ラテン語の“POETICA”に「声」という意味の“VOX”を付けました。英語やイタリア語にすると、その国のレパートリーに限られてしまう気がして、ラテン語にしました。VOX POETICAはリュートと声、どちらの声部も詩的に独立し、互いに息づいているものが混ざり合って、ふたりでひとつの音楽を創ることをいつも目標にしています。悩みに悩み抜いて、この名前となりました。

――素敵ですね。日本での活動を始められてから、コンサートだけでなく「フェルメール展」や「ほぼ日手帳」とのコラボなど他分野でご活動なさっていますが、今後の展望などはありますか?
佐藤:リュートと歌のレパートリーはたくさんあるのですが、日本にリュート奏者や指導者が少ないので、リュートに触れて一緒に歌うワークショップ等もしていきたいと思っています。また、録音で、その時その時にできるものを残していきたいなという思いがあります。「今後こんなCDを録りたい」という作品が、もう紙からはみでるくらいたくさんあるので、死ぬまでにやりたいと思います(笑)!

VOX POETICA 日本での演奏写真

――たくさんの曲がリリースされるのをいまから心待ちにしています!では最後に、今回のコンサートのプログラムについてお聞かせください。
佐藤:今回は、リュートとテオルボの2台を使います。普段は、どちらか1台しか使わないことが多いのですが、せっかくなので聴き比べができるような内容にしました。前半のプログラムではリュートとソプラノで、エリザベス女王時代のイギリスにフィーチャーしました。その中でも特に、シェイクスピアとダウランドの2大巨匠にフォーカスを当て、その時代の英語の歌とリュートのソロを聴いていただく予定です。リュートの繊細な音とそれに寄り添うソプラノにご注目ください。後半のプログラムではイタリアとフランスをテーマに、テオルボとソプラノのデュオでお聴きいただく予定です。
瀧井:前半にお聴きいただくシェイクスピアの時代、リュートは大変人気のある楽器で、シェイクスピアの作品が上演された時も劇音楽で活躍したようです。ダウランドのリュートソングに代表されるような、イギリスの美しい作品をお聴きいただきます。後半では、大きなテオルボに持ち替えて演奏しますが、ドラマティックなデュオに加えて、テオルボのソロではロベール・ド・ヴィゼーの《シャコンヌ》という大曲を演奏します。ちなみにド・ヴィゼーは、太陽王ルイ14世のギター教師でもあった人です。
佐藤:また、前半では、シェイクスピア『オテロ』から、セリフと歌を続けてやってみようかなと考えています。デスデモーナというヒロインの女性が無実の浮気を疑われるのですが、夫であるオテロに殺される前に胸騒ぎがして、ひとりで独白をしながら歌を歌うシーンです。リュートが入ってもいいのですけれど、今回はアカペラでやろうかなと考えています。シェイクスピアが生きていた時代のイギリスのお芝居の要素も垣間見ていただけるかもしれません!
後半は、表情がコロコロ変わるドラマティックな音楽を演奏しますので、古い時代の音楽だからとあまり難しく捉えずに聴いていただきたいです。現代の私たちが感じている喜怒哀楽と同じようなものが曲に表れているので、それを感じていただければ嬉しいなと思います。

――この度は、貴重なお時間ありがとうございました!演奏会をとても楽しみにしています。
(聞き手:京都コンサートホール 事業企画課 陶器美帆)

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公演カレンダー | 京都コンサートホール (kyotoconcerthall.org)

オルガニスト 大平健介&長田真実 インタビュー<後編>(2022.2.26オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69)

投稿日:
京都コンサートホール

国内最大級のパイプオルガンを気軽に楽しんでいただくシリーズ「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」。Vol.69では、いま注目のオルガニストである、大平健介と長田真実を迎え、それぞれのソロからオルガン・デュオまで、2人のこだわりが詰まったプログラムをお届けします。

公演へ向けてお二人にインタビューを行い、本ブログにて2回に分けてお届けしております。後編では、パイプオルガンの魅力と今回のコンサートについてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。

オンライン取材の様子

◆パイプオルガンの魅力

――前編では、お二人のオルガンとの出会いや、ドイツでのオルガン事情についてお話いただきました。次は、お二人が思うオルガンの魅力についてお伺いできますでしょうか。

大平:パイプオルガンは一つとして同じ楽器がなく、個性を非常に感じます。新しい楽器と出会うたび、対話をしながら音色を作って演奏をするのですが、楽器によってキャラクターが全然違いますので、それぞれに名前をつけたくなるほどです。その場所にあるオルガンと出会ってどう対話を繰り広げるか――そんな一期一会の出会いをお客さまにもぜひ楽しんでいただきたいと思います。

長田:日本のオルガンのほとんどはコンサートホールに入っていて、その大きさゆえに建物や空間の一部として色んな装飾がなされていることが多いです。ですので、建物と空間、そして音が一体となって、視覚的にも聴覚的にも楽しめる楽器だと思うんです。オペラやバレエのように「総合芸術」といいますか、見て楽しんで、聴いて楽しんで、そして空間全体から自分に降り注いでくる音に包まれて・・・普段そんな大きな音にずっと包まれるという時間はなかなかないと思います。耳を澄まさないと聞こえないくらい小さい音もあるんですが、スケールの大きな音を非日常的な空間で体感できるというのは、コンサートホールという大きな空間で聴くオルガンの魅力だと思います。

あとオルガンは、何十年もずっとその場所に佇んで、ホールの歴史を見ています。私はオルガンが設置されている会場に入ると、そういった歴史を感じると共に、それまで企画されてきたコンサートや演奏されてきたアーティストなどによく思いを馳せています。同じ空間に来てくださったお客さまも、そこにしかない楽器が今まで大切に愛されてきた歴史を一緒に感じながら、音楽を聴いていただければと思います。

――私たちの「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」は、京都コンサートホールが開館した翌年から始まったシリーズで、市民の方をはじめ、いろんな方の支えがあって、今年度で25年を迎えることができました。楽器や歴史を大事に考えてくださっているお二人にこのシリーズにご出演いただけることをとても嬉しく思います。

 

◆今回のコンサートについて

――さて次は、今回の演奏会についてお伺いしたいと思います。まずコンサート前半はそれぞれ長田さんと大平さんのソロを、休憩後は連弾と再びお二人のソロを演奏していただきますが、今回のコンサートの聴きどころをお話いただけますでしょうか。

大平:今回のコンサートでは、オルガンの新しい魅力を伝えたいと思っています。
例えばメンデルスゾーンのオルガン作品といえば、「オルガン・ソナタ」や「前奏曲とフーガ」がよく知られていますが、彼自身がオルガニストだったこともあり、オルガン以外の作品でもオルガンに合うんです。実際に僕の先生でもあるクリストフ・ボッサートさんが、メンデルスゾーンのピアノ曲を全曲オルガンに編曲されたのですが、聴いていてとても自然で素晴らしい編曲なので、是非とも紹介したいと思い、今回プログラムに入れました(前奏曲とフーガ 作品35-6)。
同じような考え方で、今回演奏するメンデルスゾーンの《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の楽譜を見ると、オーケストラ作品なのにまるでオルガン曲のようで、レジストレーション(オルガンの音の組み合わせ)がすぐに浮かんでくるんですよね。今回は、私自身の編曲でお届けします。

また今回のプログラムは、他の楽器のために書かれた曲からの編曲が多いので、オルガンファン以外の方にも楽しんでいただけると思っています。例えばサン=サーンスの《動物の謝肉祭》や《死の舞踏》など、親しみのある曲だけでなく、ピアノファンやオーケストラファンの皆さまにはお馴染みの曲など、スパイスをちょっと加えています。
もちろんオルガンファンの方々にも楽しんでいただけるように、サン=サーンスやレーガーなどによるオルガンのオリジナル作品もプログラミングしています。

いずれもオルガンがよく鳴るような曲をチョイスしていることが今回のポイントです。


大平さん編曲による《交響曲第5番「宗教改革」より第4楽章》の演奏動画

――ちなみに今おっしゃったメンデルスゾーンの「宗教改革」について、音色を組まれる時(レジストレーション)はオーケストラの原曲のイメージに近づけるようにされますか?それとも、編曲された楽譜からオルガンのオリジナル作品と考えて音色を作られますか?

大平:両方ですね。例えば曲の冒頭はフルートソロから始まって、段々と管楽器が増えて、チェロやコントラバスが入ってきますので、それぞれの楽器のイメージで音を足していこうと思っています。もしかしたら原曲のイメージで音を作れるのは、90もの多くの音色を持つ京都コンサートホールのオルガンだからこそできるのかもしれません。また、京都コンサートホールにしかない邦楽器の音色を使うのもいいかもしれませんし、弾くオルガンによって音色を変えます。
ただこの曲の中間部では、オルガンをしっかりと鳴らしたいので、原曲のオーケストレーションも大事なのですが、実際に弾くオルガンが一番のびのびと歌えることを大事にしたいと思っています。
なので、原曲と弾くオルガンの個性を見て、それぞれから良いところを取りながら音を作っていこうと思います。

京都コンサートホールのパイプオルガン(ドイツのヨハネス・クライス社製)

――ありがとうございます。今回のプログラムを見ていると、前半はドイツ音楽で、後半はサン=サーンスの作品が並んでいますね。

長田:京都コンサートホールのような大きな空間で演奏するので、色んな音をオルガンから引き出してホール全体を鳴らしたいと思い、私たちが好きなバロック音楽からロマン派の作品をプログラミングしました。

 

――冒頭に演奏していただく作品ですが、バッハのオルガンのためのオリジナル作品ではなく、敢えて《平均律クラヴィーア曲集》の編曲を選ばれたのは、オルガンの新しい魅力を知ってもらいたいということでしょうか。

大平:そうですね。今回冒頭に演奏する《平均律クラヴィーア曲集第2集》より〈前奏曲 ニ長調〉は、同曲集の中でもオルガンで弾いたらとてもカッコいい作品の一つです。そもそも「クラヴィーア」というのは、鍵盤楽器全般を指しているので、チェンバロでなくてもいいですし、オルガンで弾くとオーケストラで弾いているようにも聴こえるんです。そういうオーソドックスに見えて、実は面白い作品を僕たちはご紹介していきたいと思っています。

 

――前半には、ヴァメスというあまり耳にしない作曲家の作品もありますね。

大平:はい、そうなんです。先ほどお話したように、僕たちはどの演奏会でも、少しでも新しいオルガンの魅力を伝えたいという思いがベースにあります。
例えば、日本では、バッハのオルガン作品全曲演奏会や《トッカータとフーガ ニ短調》、〈主よ、人の望みの喜びよ〉が好まれ、よく演奏されますよね。本格的に大きなパイプオルガンが設置され始めた1970年代くらいから、そういった状況はあまり変わっていません。でも世界に目を向けると、実に様々な作品が演奏されています。それは、オルガンのための新しい作品が今も絶えず誕生しているからです
今回は1曲だけですが、オランダのアド・ヴァメスさんが1989年に作曲した《鏡》という、鏡に写る光の反射の美しさを描いたような作品を入れました。

長田:あとは、私たちのオルガンに対する理想の響きを、今回のプログラムで実現したいと思っています。いろんなところを回って弾いて聴いてきた私たちが、今やりたい曲を詰めこんだプログラムとなっています。

 

――私たちもこのプログラムを頂いた時、今まで見たことのないプログラムだと思いましたし、お話を聞いて納得しました。ピアノやオーケストラのための作品をオルガンで聴いていただいて、お客さまにオルガンの新しい魅力を知っていただけるチャンスになればいいなと思います。
プログラム後半でご
披露いただくオルガンの連弾は、あまり聴く機会がないので新鮮で楽しみです。

長田:オルガンには音色を使い分けるためにたくさん鍵盤があります。一人では3段以上を一度に弾くことができませんが、二人いることで色んなパートを弾けますので、演奏の幅が広がります。

大平:最近では、パリ・ノートルダム大聖堂のオルガニスト オリヴィエ・ラトリーさんや、パリ国立高等音楽院で教授を務めていたミシェル・ブヴァールさんなどが、奥さまと一緒に連弾をされています。夫婦くらいの近い関係でないと、連弾は難しいのかもしれません。
また、連弾をする際は、楽器も重要になってきます。二人でパイプオルガンを演奏する時は、一人で演奏する時よりもオルガンに送る風量が必要になるのですが、そういった風量を補える楽器で演奏すると、連弾の可能性がぐっと拡がります。その上で、お互いの音楽的な感覚が一致すると、さらにその可能性は拡がっていきます。今後、連弾の面白さをどんどん開拓していきたいと思っています。お客さまには連弾の可能性を楽しんでいただけましたら嬉しいです。

長田:あとはエンターテインメント的な要素を感じますね。二人で弾いていると、一人で演奏している時よりも楽しめていると感じます。お客さまからしても、二人で弾いている様子は、見ていても楽しいのではないかなと思います。

オンライン配信もされた公演での連弾の様子(2021年12月、サントリーホールにて)

――たしかに以前お二人の連弾の様子がオンライン配信されているのを拝見して、すごく楽しそうだなと思いました。
色々とお話してくださってありがとうございました。コンサートを楽しみにしております!

 2021年12月事業企画課インタビュー(Zoomにて)


★インタビュー記事の前編はこちら

★オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール“大平健介&長田真実」(2/26)の公演情報はこちら

オルガニスト 大平健介&長田真実 インタビュー<前編>(2022.2.26オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69)

投稿日:
京都コンサートホール

「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズ」は、国内最大級のパイプオルガンを気軽に楽しんでいただくシリーズとして1997年にスタートし、今年度で開催から25年を迎えました。

69回目は「オルガニスト・エトワール」と題し、いま注目のオルガニストの二人、大平健介と長田真実をゲストに迎えます。

ドイツでの演奏活動を経て、帰国してからも様々な演奏活動を行うお二人に、公演に向けてお話を伺いました。2回に分けて、インタビュー記事をお届けします。
前編ではお二人のオルガンとの出会い、そしてドイツのオルガン事情についてお話いただきました。ぜひ最後までご覧ください。


◆オルガンとの出会い

――本日はお忙しいなかインタビューのお時間をいただきありがとうございます。
まずお二人のことについてお聞きします。オルガンとの出会いや、オルガンをご専門とされたきっかけを教えていただけますか。

長田真実さん(以下敬称略):元々幼稚園の時からエレクトーンを習っていまして、小学生に入ってから毎年一曲、オーケストラ作品を編曲して弾いていました。オーケストラを一人で演奏できることが嬉しくて、いつも楽しんでやっていたのを覚えています。その中で小学3年生の時に、ヘンデルの《オルガン協奏曲「カッコウとナイチンゲール」》という曲に出会いました。かわいい鳥のさえずりをオルガンで表現する様子が印象的で、その曲を弾いて以来、ずっとオルガンに憧れを抱いていました。
中学生になってから、姫路市の姉妹都市があるフランスやベルギーに市からの派遣生として訪れた際、初めて大聖堂の空間やそこにそびえたつオルガン、そしてその響きに触れて、圧倒されたのを今でも覚えています。そして高校生になって、ようやくパルナソスホールのオルガン講座を受講し始めることになったんです。
なので、オルガンを始めたのは遅い方だと思うのですが、始めるまでずっと長い間憧れを持っていました。

 

――高校生でオルガン始めるのって遅い方なのですね。小さい頃からオルガンに触る機会はなかなか無いと思うので、皆さん高校生くらいからなのかなと思っていました。

長田:中高がミッション系の学校であれば、多分学校の教会にオルガンがあって、触れる機会があると思うんですけど、私は普通の公立の学校でしたので、なかなか機会がありませんでした。

大平健介さん(以下敬称略):僕の場合はとてもラッキーで、日本全国数あるミッション系の中学校の中でも珍しい「オルガンクラブ」で、部活動の一環として自由にオルガンを学べたのです。そしてミッション系の学校出身の方がよくおっしゃるのですが、僕の行っていたところも毎日礼拝があって、中学生の頃からオルガンの前奏や後奏、賛美歌の前奏が楽しみでしょうがなかったのです。そのうち奏楽者のレパートリーまで把握してしまって、後奏でどの部分を弾いているのかもわかっていました(笑)。

当時のオルガンクラブには電子オルガンしかなかったので、初めてパイプオルガンを弾くことができたのは、たしか中学2,3年生の頃、夏休みに大学の礼拝堂へ皆で行った時だったと思います。その時バッハの《幻想曲 ト長調 BWV572》を弾いて、上から降り注いでくる音や、楽器が礼拝堂全体に鳴り響いている様子に衝撃を受けました。あれは本当に漫画で描くような「ビビビッ!」と、天からの命を受けたような感じでした。

当時の僕は思春期で、自分は将来どこを目指したらいいんだろうかと悩みを抱えていました。自分の中で行先は音楽だということはわかっていたのですが、あれでもないこれでもない…と迷っている時にオルガンと巡り会い、絶対にオルガニストになりたいと思うようになったのです。

そういう明確な出会いがあって嬉しかったですね。東京藝術大学に入ってから、オルガン科の先輩や後輩、同学年の人の話を聞いてみても、やっぱりみんな同じようにオルガンとの出会いで衝撃を受けたと聞きました。バックグラウンドは皆それぞれで、例えばミッション系の学校から来た人や礼拝の先生に個人的に習っていた人、大学でオルガンと出会った人、他の楽器専攻で卒業してからオルガン科に来た人、プライベートで習ってきた人などがいました。

長田:私も東京藝術大学オルガン科の出身で、いろんなバックグラウンドを持った方と会いましたが、その中で感じたこととして、東京と関西とでは、オルガンを取り巻く環境は全然違うんですよね。私はずっと姫路にいたので、東京の先生を知らなかったですし、東京藝術大学に出入りしたこともないという状況で大学を受験しました。東京ではオルガンがある会場もたくさんありますし、オルガンの演奏会もすごく多いです。それに比べると地元ではオルガンのある場所は限られていて、演奏会も年に数回しかなかったので、私はオルガンに触れる機会が少ない状態で大学に入りました。

大平:たしかに遠くから県をまたいで、オルガンと出会ってレッスンを受けている人の話も聞くので、地域によって環境は全然違うなと思います。

学生時代に行ったアルンシュタットのバッハ教会での演奏会の様子

――関西や地方ではパイプオルガンの演奏会はたしかに多くないように思います。その影響もあってか、ありがたいことに、私たちのオルガンコンサートでも、関西だけでなく全国から聴きに来てくださっています。

大平:お客さまが県をまたいで聴きに来てくださるのは理想的だなと思います。
同じプログラムで演奏家が国内を回るコンサートツアーというのはよくありますよね。でもオルガニストの場合は、それは基本的には起こりえないんですよね。なぜなら会場が変わると楽器も違うので、プログラムが変わってしまうことが多いからです。例えば京都コンサートホールのオルガンは、この京都コンサートホールにしかない楽器なのです。「あのオルガニストの演奏は前にあの会場で聴いたよ」ということはあっても、その会場の楽器に合ったプログラムが組まれるので、そこでしか聴けない響きや音色になるのです。

ありがたいことに、最近僕たちが出演するコンサートでも複数の会場に来てくださったり、遠方から姫路まで来てくださったりするお客様がいらっしゃいます。珍しいことのように思われるかもしれませんが、ヨーロッパではよくあります。と言いますのも、単純に「オルガンの演奏会を聴きに行く」というよりは、そのオルガンを聴きに行くことと、その場所の風景や文化を見に行くことがセットになっているからなんです。
日本でもオルガンを聴きに行く時にそう思ってくださる方が増えたらいいなと思っています。

――私も以前、同じオルガニストの演奏会で、追っかけのように複数の会場を回って聴き比べをしたことがあります。楽器が変われば違う音、そして同じ奏者でも色んなプログラムを聴けるのは、オルガンを聴く醍醐味だなと感じました。

 

◆ドイツのオルガン事情について

――先ほどドイツでのお話が出ましたが、お二人ともドイツで勉強されていらっしゃいましたよね。大平さんは2021年までドイツの教会でオルガニストとしてご活躍されていたかと思います。ヨーロッパでは、小さな町や村など地域の方々でもオルガンを聴きに行かれる方が多いイメージがあるのですが、やはり日本とはオルガンとの関わり方が違うのでしょうか。

大平:そうですね…そのことについて2点お話したいと思います。
まずドイツでは、教会(オルガン)と文化、ビジネスがとても上手く綺麗につながっているように思います。
オルガンの演奏会のおよそ9割は教会で行われています。と言いますのも、教会の方が良い楽器が入っていて、響きも良いからです。また面白いことに、教会には「コンサートホール」としての役割もあるんです。ホールのように事務所が教会に入っていて、例えば僕がオルガニストを務めていたシュティフツ教会では、10人くらいのスタッフが事務所にいました。総監督みたいな人とプログラムを作る人、あとは経理や助成金担当の人などがいました。大きな教会や大聖堂くらいの規模になると、毎週の演奏会のプログラムやポスター作り、そして演奏家とのやりとりのための専属スタッフがいて、本当にホールと同じようなことをやっています。もちろん規模はホールとは全然違いますけどね。
お客さんはというと、イースターやクリスマスなどの教会暦に沿ったプログラムをすごく楽しみにされています。教会としてもクリスマスマーケットなどを目当てに来た人をコンサートに呼び込もうという感じで、コンサートの内容をクリスマスなどとリンクさせたりしています。

シュティフツ教会で礼拝奏楽をしていた時の様子

そしてもう1点は、僕がいつか日本で作りたいと思っていることなのですが、フランス、スイス、ドイツではそれぞれ夏のオルガンフェスティバルがあります。日本の夏休みはとても暑くて向いてないかもしれませんが、ヨーロッパだと7月から9月末まで休暇を取る人が多いので、その間に音楽家たちがヨーロッパ中で演奏旅行を行うんです。プログラムにはドイツやイギリス、日本、韓国、ロシアなど、いろんな国の演奏者が並んでいて、「インターナショナルなオルガン・フェスティバル」とでもいう感じです。ちなみに私たちは、「日本から来た、いま旬のオルガニスト」というような紹介をされましたね。

スイスのヴィンタートゥアーでのコンサートのポスター

僕たちもヨーロッパでの夏休みというと色んな思い出があります。
電車で現地へ向かって、ホテルに着いた後すぐにリハーサルと本番で3日間…そして休む間もなくすぐ電車に乗って次の町へ行って…バンベルク、ハンブルク、パリと行って、帰ってきて次はロンドンへ…。そういうのがヨーロッパのオルガニストの夏休みの過ごし方として当たり前になっていて、夏は大変な稼ぎ時でもあるんですよ。

このようにドイツにいた時は、教会内のイベントを行う教会オルガニストと、国際的なソリストという2つの顔を持って活動している感覚がありました。日本でもそれぞれの顔で活動していきたいと思っています。

サン=サーンスがオルガニストを務めていたパリのマドレーヌ寺院にて

――ドイツでは教会がホールの役目も担っているのですね。とても貴重なお話をありがとうございます!長田さんはドイツで留学された後、2018年春からパルナソスホールのオルガニストとして、リサイタルだけでなく色々なオルガンの企画をご担当されていると思いますが、ドイツと日本のオルガンを取り巻く環境に違いを感じることはありますか。

長田:私は2017年まで6年間ドイツにいましたが、ドイツの演奏会ではドキドキするような貴重な体験が多かったです。
すごく小さな村を周っていた時がありまして、電車で駅を降りた後にバスで45分、林や森の中を進んで・・・一体私はどこに連れて行かれるんだろうかと思うような旅が多かったですね。自転車を借りて、菜の花畑をバーッと走って教会に着いたということもありました。あとは行き方を検索すると、目的地のバス停が「Schule(シューレ:学校)」という名前だったんです。私たち外国人からすると「学校」というバス停で降りるのもドキドキしました。実際に降りてみると、人があまりいない小さな村に教会がポツンとあって、そこに本当に歴史的な楽器があったりするんですよね。

そういったドキドキハラハラな一人旅が多かったですが、地元の人々がすごく暖かかったんです。お家に泊めてもらって、村の生活にどっぷり浸りながら演奏会に向けて準備をしたりして、地域の人の気質や文化、伝統を感じながら、演奏会を周っていたなと思い出します。そういう生活をしてみて、地方って良いなとドイツで初めて思いました。

東京はあらゆるものが全国から集中しているので、レベルが高くて情報もすごく多いです。でもふと地方の暖かい人々の中で育まれてきた芸術や文化に触れた時にいいなと思いますし、日本でも地元のものを大切にしながら演奏会が出来たらいいなと思っています。
元々姫路に帰る予定はなかったのですが、たまたま自分の生まれた町にオルガンがあって、戻ってくることができたというのは、なんという偶然で幸せなことなんだろうと思っています。
そこで自分ができることを考えるのも楽しいですし、地元の人たちとオルガンを囲みながら文化を作っていくようなことを、少しずつですが出来たらいいなと思っています。
これはドイツにいたからこそ思えるようになったことだと思います。

オーストリア・ザルツブルクの大聖堂にて(2枚とも)

――素敵なお話ですね。そういう地方の小さな教会でも他の国のオルガニストを呼んで演奏会をするのはすごいですよね。とても貴重なお話が聴けました。ありがとうございます。
後編では、お二人が思うオルガンの魅力や今回のコンサートのプログラムについて伺います。

 2021年12月事業企画課インタビュー(Zoomにて)

** 後編に続く **


★オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.69「オルガニスト・エトワール“大平健介&長田真実」(2/26)の公演情報はこちら

【Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/21)】第1期登録アーティスト*DUO・GRANDEインタビュー

投稿日:
京都コンサートホール

2019年度からスタートした「Join us(ジョイ・ナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
オーディションで選ばれた、京都にゆかりのある若手音楽家3組が、「京都コンサートホール 第1期登録アーティスト」として、2019年度と2021年度の2年にわたり、市内の小中学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。

さて、京都コンサートホール 第1期登録アーティストとしての活動もいよいよ終盤に入りました。
ヴァイオリン(上敷領藍子)とヴィオラ(朴梨恵)のデュオ DUO・GRANDE(デュオ・グランデ)は、3月21日に最終年度リサイタルを開催します。
2年間の集大成を皆さまにご披露するべく、リサイタルに向けていつも以上に気合が入る2人。

そんなDUO・GRANDEから、京都コンサートホール登録アーティストとして活動した日々や今後の夢など、様々なお話を聞いてみました。
ぜひご覧ください!

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【Join us(ジョイナス)!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~最終年度リサイタル (3/6)】第1期登録アーティスト*田中咲絵(ピアノ)インタビュー

投稿日:
京都コンサートホール

2019年度からスタートした「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」。
京都コンサートホールの第1期登録アーティストが、これまで市内の小学校や福祉施設等に生演奏を届けてきました。聴き手の心に寄り添うお話とプログラムを披露してきたピアニストの田中咲絵さん。これまでのアウトリーチ活動で感じたこと、また最終年度リサイタルへの意気込みを伺いました。ぜひ最後までご覧ください!


――この度はインタビューの機会をいただきありがとうございます。
まずはご自身についてお伺いしたいのですが、ピアノを始めたきっかけは何だったのですか?
5歳ごろから習いごとの一つとして始めました。とにかくピアノを弾くことが大好きで、これまで辞めたいと思ったことは一度もないですね。小さいころからピアニストになりたいと思っていたわけではなく、弾くのが楽しくて続けていたら現在に至るという感じです。

――田中さんは京都堀川音楽高校出身ですが、中学生のころには将来音楽の道に進みたいと決めていたのですか?
周りの友達は小さいころから音楽高校を受ける準備をしていたのですが、私はそんなことはなく…。中学3年生の時に、京都堀川音楽高校のスクールガイダンスのポスターをたまたま見かけたので参加したら、すごく楽しくて!ピアニストになりたいというよりは、音楽の勉強が楽しそうだったから受験しました。それだけで受かるようなものではないのですけれど、当時師事していた先生がソルフェージュなど試験に必要なことを教えてくれていたおかげで、無事合格しました。

――高校卒業後は、京都市立芸術大学に進学されたのですよね。
芸大に進学した時もソロでバリバリ弾きたい!とは考えていませんでした。ピアノを弾きながら音楽を教えたりするような仕事に就きたいと思っていたので、ちょうど今やっている活動に繋がっていますね。

2022年1月 京都コンサートホールにて

――次はアウトリーチについてお聞きしたいのですが、そもそも「Join us!~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」のことはどのように知られたのですか?
ホームページで見かけ、気になっていました。その時、京都コンサートホールの方からもこのお話を聞いて、まずは説明会に参加してみました。

――これまで小学校にアウトリーチ活動などに行った経験はあったのですか?
全くありませんでした。病院などは伴奏として訪問したことはありますが、小学校は初めてだったので、本当に未知の世界でした。また、アンサンブルやデュオではなく、ピアノひとりでやっている現場は見たことがなかったので、私にとっては冒険でした。

――ピアニストはひとりで現場を仕切らなければならないですもんね。
アウトリーチはホールでの演奏会と違って、音楽が好きな人だけが集まっているわけではないので、聴き手の心をもみほぐして音楽の楽しみをひも解いていけるようなプログラミングがとても大切ですよね。田中さんはどのようにプログラムを組み立てたのですか?
めちゃくちゃ大変でした…!まず研修会があったのですが、はじめは自分が何を伝えたいのか、またどのように組み立てていけばよいかも分からずで、スタッフの皆さんの助けがあって、ゼロの状態からなんとか創り上げることができました。出てきた曲の中からこういう道筋が立てられるのではないか、という進め方をしたと思います。
最初は視覚的にピアノの楽器自体に興味を持たせて、次は耳を使って音の特徴を最後まで聴いてもらう。五感を使って音に触れてもらった後、入ってきた音から風景を描いて想像を膨らませ、最後は作曲家の気持ちに寄り添って曲を聴いてもらう――色々な感じ方をしてほしいなと思って、プログラムを組み立てました。同じように聴いているけれど、人によって感じ方が違うということがアウトリーチで一番伝えたかったことです。

――田中さんのプログラムは、とても練り上げられた内容だなといつも思っています。アウトリーチではトークも大切ですが、いままでお客さんの前で話す機会などはあったのですか?
演奏会で曲の説明を簡単にすることはありましたが、話の道筋を意識してトークをすることは初めてでした。聴き手の人たちとコミュニケーションを取って、こう返答がきたらそれを生かしてこういう声かけをしようとか意識をする必要がこれまでなかったので、初めは苦労しました。言葉選びも難しく、私の一言で聴き手が傷ついたりしないかな、など気を遣いましたね。

――2019年度と2021年度の2年間(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響により活動休止)で合計20か所、アウトリーチ活動で学校や福祉施設を訪問しましたが、そのなかで一番印象に残っているシーンを教えてください。
最初に訪問させていただいた京都女子大学附属小学校ですね。ピアノの周りに集まって内部を覗いてもらうコーナーで、弾き終わった後にバアッと拍手が沸き上がったのが印象に残っています。私も、人が弾いているピアノの中を覗き込むことってないですし、アウトリーチならではの経験をしてもらえたかなと思います。
また、私のプログラムには、いわゆる「名曲」を入れていないので、みんなが知っているような曲は少ないと思うのですが、それでも自然と体を動かして聴いてくれることに驚きました。小学校へアウトリーチに行くので、聴き馴染みのある《子犬のワルツ》とか《キラキラ星》などを入れた方がよいのかなと思っていましたが、内容と道筋さえきちんと考えていれば、どんな曲でも楽しんでもらえるのだな、という発見がありました。この経験がなければ、今後小学校などに訪問するような機会があっても、名曲づくしのプログラムにしていたかもしれません。

2019年 京都女子大学附属小学校にて

――小学校で演奏されているプログラムのなかで一番反応が印象的だった曲は何ですか?
ドビュッシーの《花火》ですね。曲を聴く前と聴いた後、それぞれが思い描いた花火のイメージをみんなに質問するのですが、打ち上げ花火!と思っていたのが全然違うイメージの花火だったなど、子どもたちに意外性があるみたいです。あのような曲調でも集中して聴いて、曲から連想するイメージを一生懸命考えてくれるのは嬉しかったです。
あと小学生からいただくお手紙で、隠れファンが多いのがベートーヴェン。私が小学校で演奏しているピアノソナタ第18番では、ベートーヴェンの耳が聴こえなくなり始めた時期に作られた曲なのに、とても明るく前向きな曲になっているというトークをいつもしています。その内容をお手紙に書いてくれる子どもたちが多く、よく覚えていてくれているなあとびっくりでした。

――たしかに、子どもたちからのお手紙を読んでいたら、こんなに鮮明に内容を覚えてくれているのだと驚きますよね。
この2年間、登録アーティストの活動を振り返っていかがでしたか。田中さんは今後も京都を拠点に活動されていく予定ですか?
そうですね、関西圏で活動を続けていきたいです。もし登録アーティストに採用されていなかったら、京都で活動できていなかったと思います。自分でプロデュースして企画しないとなかなか演奏会はできないですし、そういう意味で演奏できる場所を提供してもらったというのはありがたかったですね。また、普段は関西圏でピアノを教える活動もしているので、午前中はアウトリーチに行って、午後は自分の方の活動も平行できるのも魅力でした。京都に根付いたアウトリーチ活動ならではだと思います。この経験を糧に、今後も自分の活動を継続しつつ、ピアノを弾き続けていきたいと思います。

 

――では最後に、最終年度リサイタルについてお伺いします。
今回披露される4曲は、これまで田中さんの心の栄養となった曲を選ばれたと聞きました。それぞれの曲への想いを教えてください。
はじめにベートーヴェンのピアノソナタ第17番「テンペスト」をお届けします。実はこの曲、昔はあまり弾きたいと思ったことがなかったのですが、ちょうどコロナが一旦収まった時期に出かけた演奏会で聴き、こんな良い曲だったのかとあらためて気が付いて急に弾きたい!!と思うようになったのです。私自身久しぶりに演奏を聴いて感じ方が変わったのか、そのインスピレーションを大切にしたいなと思って選びました。自分なりに解釈をもっと深めて、リサイタルに向けて準備を進めたいと思います。

――そしてドビュッシーの《版画》、ショパンのポロネーズ第6番「英雄」と時代の違う作品が続きますよね。
ドビュッシーは子どものころからずっと好きで、折にふれて演奏してきた作曲家です。なぜこの《版画》かというと、最近、曲のはじまりの音色使いに惹かれることが多く、「テンペスト」からいい感じに繋がるかなと思って選びました。昔から弾きたいと思っていたのでどうしても入れたかったというのもあります。ショパンの「英雄ポロネーズ」はもちろん大好きな曲なのですが、前半のアンコール要素として選曲しました。全体的にしっとりした曲が続くので、アクセントとして聴いてほしいです。

――そして最後はリストのピアノソナタという大曲で締めくくりですね。
この曲は昔から憧れの1曲です。リストは、「超絶技巧!華やか!聴いている人が失神した!」など伝説的なエピソードがありますが、晩年は聖職者となり、宗教的な道に進んでいきます。なにか一つを信仰するというのは人間的だなと思うのですが、このソナタは、一見華やかなリストとは異なる、生身の彼自身が垣間見える気がしました。それを自分なりに挑戦して表現したいと思います。中高生のころまでは、作曲家って歴史上の人物のように感じていたのですが、最近なぜか身近に感じられるようになってきました。それぞれの人たちがどういう風に過ごして、どういう想いで曲を書いたかということに寄り添いながら自分も演奏できたらいいなと思います。

――リサイタルには、アウトリーチで訪問した小学生たちも来てくださると思います。どのようにコンサートを聴いてほしいですか?
まずベートーヴェンはアウトリーチで届けた曲(第18番)と同じ時期に作られた曲です。耳が聴こえなくなる時期でも、こんなに曲調が違うのだということも感じ取ってもらえたらなと思いますね。ドビュッシーは、小学校では1曲しか弾いていませんが、今回のリサイタルでは3曲続く曲なので、それぞれ題名をみて想像を膨らませてほしいなと思います。ショパンは単純にカッコ良さを感じてほしいです!最後のリストは難しいかもしれませんが、長編映画を観るような気持ちで見てもらえたら嬉しいです。

――では最後に、来てくださるお客さまに向けてメッセージをお願いします。
いま私が最もお客様に聴いていただきたい作品が並んだプログラムになりました。前半後半でそれぞれのカラーを楽しみつつ、私の想いを聴き手の皆さんと共有できる演奏会にしたいと思います。

――お忙しいなか、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。登録アーティストの活動もあと1カ月となりました。最終年度リサイタルを楽しみにしています!

 

2022年1月、京都コンサートホール事業企画課インタビュー
アウトリーチ担当:陶器


★第2期登録アーティストは、2022年1月25日(火)から3月1日(火)(当日消印有効)で応募を受け付けております。詳細は以下のページをご覧ください。
「Join us ジョイ ナス !~キョウト・ミュージック・アウトリーチ~」特設ページ

2022年3月6日開催『最終年度リサイタル』Vol.2「田中咲絵 ピアノリサイタル」の詳細はこちら

オルガニスト 大木麻理 インタビュー(2021.12.04京都コンサートホール クリスマス・コンサート)

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インタビュー

コロナ禍だからこそ聴いていただきたいコンサートシリーズ『The Power of Music~いまこそ、音楽の力を~』の最終回「京都コンサートホール クリスマスコンサート」。12月4日(土)15時より、京都コンサートホール 大ホールで開催します。

いよいよ冬本番ということで、めっきり寒くなってきた今日この頃。パイプオルガンとハンドベルアンサンブルのハーモニーで一足先にクリスマスの雰囲気をたっぷりとお楽しみいただけるコンサートです。

今回は、クリスマスコンサートにご出演くださるオルガニストの大木麻理さんに色々なお話を伺いました。


大木麻理(オルガニスト)

――2018年に「オムロン パイプオルガン コンサートシリーズVol.62」にご出演くださった折、和太鼓とのコラボレーションで鮮烈な印象を与えた大木麻理さん。以降、全国各地でパイプオルガンを使った様々な試みに取り組んでいらっしゃいます。今回の演奏会はハンドベルとの共演ですね。クリスマスシーズンにぴったりの組み合わせです。

大木麻理さん(以下、敬称略):そうですね、共演する「きりく・ハンドベルアンサンブル」の皆さんと相談しながら、「クリスマスだから聴きたいよね」という曲をたくさんプログラミングしました。もちろんクリスマスというテーマも大事なのですが、今回の公演のコンセプトは「音楽の力」でしたよね。

――はい、そうです。「クリスマス・コンサート」は、コロナ禍で奔走してくださる医療従事者の方々や、心が疲れてしまっている方、世界中の皆さんにパイプオルガンとハンドベルのハーモニーを京都から届けて、アフターコロナに向けて元気になっていただきたいという思いから企画された公演です。

大木:当初、京都コンサートホールのスタッフの皆さんとお話した時に出たキーワード「祈り」と「復活」はプログラミングの時にすごく意識しました。だからといって畏(かしこ)まるのではなく、演奏を聴いた後に「日常を忘れる特別な時間」「いいクリスマスを迎えられるね」といった想いをお客様に持ち帰っていただきたいです。あたたかな空間を作ることができたらいいなと思っていて、コンサートの最後には「希望の光」が見えるようなプログラミングにしています。

――大木さんは、以前にも「きりく・ハンドベルアンサンブル」と共演なさったことがあるそうで、2年ぶりとのこと。今回共演なさる際に楽しみにされていることはありますか?

大木:きりく・ハンドベルアンサンブルの演奏って、本当に「千手観音」のようなのです。色んな場所から手が綺麗に出てきて、圧巻のフォーメーションで演奏なさるのです。まるで美しいダンスを見ているかのよう。1人につきたった2本の手しか持っていないのに、こんなことができるのかと驚きます。お客様は、耳でも目でも楽しんでいただけることでしょう。わたしもお客さんとして聴きたいくらい(笑)。

「耳でも目でも楽しむことができる」というのは、パイプオルガンにも共通することですね。オルガニストは手と足を駆使して演奏するので、「アクロバットなことをしているね」とよく言われます。

――確かにそうですね。

大木:あとは、「楽器の発音の仕組み」という視点から捉えると、パイプオルガンとベルは正反対の性質を持つ楽器と言えるでしょう。ベルは打楽器の一種ですよね。オルガンが持ち合わせていない要素を持っています。逆も然りです。そういう意味で、お互いにない要素を補い合っているので、音楽的にさらに一つ高みにいくことのできる組み合わせなのではないかと思っています。

――なるほど!そう考えると素晴らしい組み合わせですよね。

大木:そうですね。聴いてくださるお客様は絶対に楽しいと思います。演奏する側の私たちも楽しいですから。

きりく・ハンドベルアンサンブル

――大木さんが京都コンサートホールのパイプオルガンを演奏してくださるのは、今回で2度目になります。

 大木:はい、とても楽しみです。京都コンサートホールのパイプオルガンは一見すると、大きくて厳かな楽器に見えるのですが、実際に音を出してみるとすごく暖かな響きがするのです。ちゃんと奏者と対話しながら鳴ってくれる楽器です。色々なストップがあるので、色々なことにチャレンジできます。個性豊かな、良い音がするストップがたくさんあるのです。もちろんそれらのストップを活かしながら、音を作っていく過程が重要になってくるのですが、古いものから新しいものまで、魅力的に弾くことのできる楽器です。

――いま「音作り」のお話をしてくださいましたが、実際にはどのように音色を選んでいかれるのですか?

オルガンを弾く大木さん

大木:方法は色々とありますが、まずはその楽器の特性を活かせる選曲をするように心がけています。次に、実際に楽器を演奏しながらレジストレーション(ストップを選択し、組み合わせることにより音色を作っている作業のこと)を行う際には、その楽器が持つ音色は全部使おうと思っています。これは、私のポリシーですね。どのようなストップでも、その存在価値を発揮させたいなと思っています。

あとは、その曲が書かれた背景を意識するようにしています。例えば、今回演奏するリスト作曲の《バッハのカンタータ「泣き、嘆き、悲しみ、おののき」による変奏曲》に関して言うと、リストがイメージしたであろう音色や、当時のリストが耳にしたであろう楽器の音色を想像します。そして、私が演奏する楽器からそういったものを引き出すためにはどのようにすれば良いか、非常にこだわって音作りを行います。

――当ホールのパイプオルガンには本当にたくさんの種類のストップがあるので、大木さんがそれらをどのような組み合わせで使ってくださるのか、今からとても楽しみです

大木:ありがとうございます。

――さて、最後の質問をさせてください。インタビュー冒頭で本公演のコンセプトである「音楽の力」について少し触れました。このコロナ禍において、大木さんと「音楽」の関係性に変化はありましたでしょうか。

大木:そうですね、「音楽はやっぱり必要なんじゃないか」と思うようになりました。

2020年の最初のパンデミックの時、予定していたコンサートが全てキャンセルされたんですよね。その時は「自分の存在価値はないのだろうか」と思ったりもしました。でも、人間って生まれてから死ぬまで、どこかで必ず「音楽を聴いている」でしょう。そう考えると、私にとっても、その他の人にとっても「音楽は絶対に必要なものだ」と思うようになりました。コロナ禍において、それを初めて確信できたというか。音楽は当たり前に存在していますが、「ただ存在する」のではなく「人生にとって必要なものである」と皆さんが考えてくださったら嬉しいなと思っています。

――私もそう思います。特に我々は「ライブ演奏」を生業としている者ですから、このような時期ではありますが、お客様にはコンサート会場にお越しいただき、ぜひとも生演奏を聴いていただきたいと思っています。

(C)Takashi Fujimoto

大木:そうですよね。特に、パイプオルガンやハンドベルは生演奏で聴いていただくのがベストであると思います。コロナ禍でコンサート配信も増えましたが、パイプオルガンって配信には向かない楽器なのですよ。もちろん、配信にも良い点はありました。例えば、普段は客席から見えないオルガニストの手や足の動きを画面越しに見ていただいたり。そういった面白い機会を作ることはできましたが、やっぱりパイプオルガンの醍醐味ってホール中に鳴り響く音を身体で感じていただくことだと思うのです。その体験は配信やCDでは味わえないものです。ぜひとも、生演奏を聴きにご来場いただけたらと思います。

――本当にその通りです。実際にホールでパイプオルガンの音を聴くと、足元から頭の先までパイプオルガンと身体が“共鳴する”感覚を味わうことができます。今回は、パイプオルガンに加えてハンドベルの美しいハーモニーをも堪能することができる貴重な機会です。コンサート当日を楽しみにしています。
今日はたくさんのお話をお聞かせくださり、ありがとうございました!

(2021年9月 Zoomにて)

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